26 / 37
15歳 その3
しおりを挟む
そこからはまるで坂を転げ落ちるかのようだった。
何が二人をそこまで引き合わせるというのか、マリアからはリチャード様の話を、リチャード様からはマリアの話をたびたび聞くことになる。
私に話して聞かせるくらいだ。二人にはやましい気持ちなどないのだろうとわかっている。
多分二人にとっては共通の話題のうちの一つだとか、その程度の意味合いしかないのだと思う。
それでも、話を聞かされるたびに二人の仲が進展していくように思えて胸が痛んでいた。
そんな二人の話をなるべく笑顔で聞くようにしていたけれど、限界があった。
それはマリアがリチャード様と中庭で偶然会ったという話を聞いていた時のことだった。
また一つイベントが進んだのかと思うと気が重く、胃がキリリと痛んだ。
「ねぇ、リチャード殿下と何かあった?」
よっぽどひどい顔をしていたのかもしれない。マリアが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「……何もないわ」
「本当に? なんなら私がリチャード殿下に言ってきましょうか」
「やめて!」
思わず強い口調になってしまった。
私の事を出しにして二人の仲がまた深まってしまう。そんな想像をしてゾッとなる。
二人の仲を疑って、どこまでも卑屈になれる自分が恐ろしかった。
「本当に何もないのよ。マリアが心配する事なんてこれっぽっちも」
そうだ。今はまだリチャード様とマリアの間に何かがあった訳ではない。
それに、私に対するリチャード様の対応だって何かが変わってしまった訳でもない。
ただリチャード様が好きで。傍に居たくて。でもそれが許されない日が遠からず来てしまう気がして、私の心が悲鳴を上げているだけ。
耐え忍ぶことがこんなに苦しいだなんて思ってもいなかった。覚悟なんてこれっぽっちも決まってなかった。
「……エイミー」
「ごめんなさいマリア。少し具合が悪いみたい。ちょっと失礼するわ」
なんとか取り繕ってそれだけを言うと席を立った。
つい教室から出てきてしまったものの行く当てなどなかった。本当に具合が悪い訳でもないのに保健室に行くのも違うだろう。
けれどすぐに教室に戻る訳にもいかない。いっそ今日はもう帰ってしまおうかと考えながら校舎をふらふらと歩く。
ふと中庭に目が留まった。リチャード様とマリアが偶然会ったというその場所に視線が引き寄せられる。
偶然、でこの広い校舎の中、そう何度も出会うものなのだろうか。
不意に『ゲーム補正』という言葉が頭の中をよぎった。見えない何かが二人を結び付けようとしている。そんな気がしてただただ恐ろしかった。
「どうして……」
どうしてリチャード様の婚約者になど生まれ変わってしまったのだろう。
前世から大好きなリチャード様。これまでに沢山の優しさを貰った。婚約者としてずいぶんよくしてもらった。
それなのに、いずれはその居場所を手放さなければいけないなんてあまりにもひどい。
みっともなくても、情けなくても、このポジションにしがみついていられたらどんなにいいか。
けれど、それだけは駄目だと、私の中のエイミーの記憶が叫ぶ。
大好きだけど、大好きだからこそ間違えてはいけないのだと。その時が来たらリチャード様の幸せを祈らなければいけないと。
「エミィ!」
ふと私を呼ぶ声が聞こえた。顔を向けるとそこにはリチャード様の姿があって。
「……リチャード様」
「マリア嬢から聞いた。エミィが体調を崩してると」
何故ここにと聞く必要もなかった。マリアがリチャード様に私のことを話に告げたらしい。
こうやって逃げても、結局二人は繋がってしまうのだから質が悪い。
「ずいぶん顔色が悪い。送っていくから家に帰ろう」
本当は体調を崩している訳ではないと反論する気力さえなかった。
こくりと頷くと、リチャード様は私の体を抱き上げた。
「っ!? リチャード様っ?」
ふわりと宙に浮く体。所謂お姫様抱っこというやつに驚いて息をのむ。
「馬車までは私が連れて行くから」
「そこまでしていただかなくても、自分で歩けますわ」
「いいから、大人しく捕まっていて」
有無を言わせぬ口調だっだ。抱き上げられていてはろくな抵抗もできず、なすがままになるほかない。
そっとリチャード様の首元に腕を回してしがみつく。近すぎる距離感に心臓がドキドキと跳ねていた。
「エミィ……大丈夫かい?」
馬車に着いて、リチャード様は正面ではなく隣に座り、私の顔を覗き込む。同時にきゅと手を握りこまれた。
「……ええ、大丈夫です」
先程のお姫様だっこといい、今日はずいぶんリチャード様との距離が近い。
純粋に心配されているからこその行為だとわかるけれど、どうにも恥ずかしくてなんとか頷くのが精一杯だった。
「無理をしてはいけないよ」
言いながら、ふわりと抱きしめられた。リチャード様の体温をすぐそばに感じる。
「……申し訳ありません」
今はまだこうやって大好きなリチャード様の傍に居ることが出来る。婚約者として大切にして貰える。それだけで十分に幸せだと思わなければいけない。
情けない顔を見られたくはなくて、おずおずと抱きしめ返すとリチャード様の腕にこもる力が強くなった。
「今日のエミィは随分と素直だね」
くすりと頭の上で笑われる気配。そんな些細なことが泣き出しそうなほど嬉しくて、ぎゅっと目をつむる。
「早く治るようにおまじない」
額にそっと柔らかな感覚が落ちてきて、その幸せを噛みしめるように深くうつむいた。
何が二人をそこまで引き合わせるというのか、マリアからはリチャード様の話を、リチャード様からはマリアの話をたびたび聞くことになる。
私に話して聞かせるくらいだ。二人にはやましい気持ちなどないのだろうとわかっている。
多分二人にとっては共通の話題のうちの一つだとか、その程度の意味合いしかないのだと思う。
それでも、話を聞かされるたびに二人の仲が進展していくように思えて胸が痛んでいた。
そんな二人の話をなるべく笑顔で聞くようにしていたけれど、限界があった。
それはマリアがリチャード様と中庭で偶然会ったという話を聞いていた時のことだった。
また一つイベントが進んだのかと思うと気が重く、胃がキリリと痛んだ。
「ねぇ、リチャード殿下と何かあった?」
よっぽどひどい顔をしていたのかもしれない。マリアが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「……何もないわ」
「本当に? なんなら私がリチャード殿下に言ってきましょうか」
「やめて!」
思わず強い口調になってしまった。
私の事を出しにして二人の仲がまた深まってしまう。そんな想像をしてゾッとなる。
二人の仲を疑って、どこまでも卑屈になれる自分が恐ろしかった。
「本当に何もないのよ。マリアが心配する事なんてこれっぽっちも」
そうだ。今はまだリチャード様とマリアの間に何かがあった訳ではない。
それに、私に対するリチャード様の対応だって何かが変わってしまった訳でもない。
ただリチャード様が好きで。傍に居たくて。でもそれが許されない日が遠からず来てしまう気がして、私の心が悲鳴を上げているだけ。
耐え忍ぶことがこんなに苦しいだなんて思ってもいなかった。覚悟なんてこれっぽっちも決まってなかった。
「……エイミー」
「ごめんなさいマリア。少し具合が悪いみたい。ちょっと失礼するわ」
なんとか取り繕ってそれだけを言うと席を立った。
つい教室から出てきてしまったものの行く当てなどなかった。本当に具合が悪い訳でもないのに保健室に行くのも違うだろう。
けれどすぐに教室に戻る訳にもいかない。いっそ今日はもう帰ってしまおうかと考えながら校舎をふらふらと歩く。
ふと中庭に目が留まった。リチャード様とマリアが偶然会ったというその場所に視線が引き寄せられる。
偶然、でこの広い校舎の中、そう何度も出会うものなのだろうか。
不意に『ゲーム補正』という言葉が頭の中をよぎった。見えない何かが二人を結び付けようとしている。そんな気がしてただただ恐ろしかった。
「どうして……」
どうしてリチャード様の婚約者になど生まれ変わってしまったのだろう。
前世から大好きなリチャード様。これまでに沢山の優しさを貰った。婚約者としてずいぶんよくしてもらった。
それなのに、いずれはその居場所を手放さなければいけないなんてあまりにもひどい。
みっともなくても、情けなくても、このポジションにしがみついていられたらどんなにいいか。
けれど、それだけは駄目だと、私の中のエイミーの記憶が叫ぶ。
大好きだけど、大好きだからこそ間違えてはいけないのだと。その時が来たらリチャード様の幸せを祈らなければいけないと。
「エミィ!」
ふと私を呼ぶ声が聞こえた。顔を向けるとそこにはリチャード様の姿があって。
「……リチャード様」
「マリア嬢から聞いた。エミィが体調を崩してると」
何故ここにと聞く必要もなかった。マリアがリチャード様に私のことを話に告げたらしい。
こうやって逃げても、結局二人は繋がってしまうのだから質が悪い。
「ずいぶん顔色が悪い。送っていくから家に帰ろう」
本当は体調を崩している訳ではないと反論する気力さえなかった。
こくりと頷くと、リチャード様は私の体を抱き上げた。
「っ!? リチャード様っ?」
ふわりと宙に浮く体。所謂お姫様抱っこというやつに驚いて息をのむ。
「馬車までは私が連れて行くから」
「そこまでしていただかなくても、自分で歩けますわ」
「いいから、大人しく捕まっていて」
有無を言わせぬ口調だっだ。抱き上げられていてはろくな抵抗もできず、なすがままになるほかない。
そっとリチャード様の首元に腕を回してしがみつく。近すぎる距離感に心臓がドキドキと跳ねていた。
「エミィ……大丈夫かい?」
馬車に着いて、リチャード様は正面ではなく隣に座り、私の顔を覗き込む。同時にきゅと手を握りこまれた。
「……ええ、大丈夫です」
先程のお姫様だっこといい、今日はずいぶんリチャード様との距離が近い。
純粋に心配されているからこその行為だとわかるけれど、どうにも恥ずかしくてなんとか頷くのが精一杯だった。
「無理をしてはいけないよ」
言いながら、ふわりと抱きしめられた。リチャード様の体温をすぐそばに感じる。
「……申し訳ありません」
今はまだこうやって大好きなリチャード様の傍に居ることが出来る。婚約者として大切にして貰える。それだけで十分に幸せだと思わなければいけない。
情けない顔を見られたくはなくて、おずおずと抱きしめ返すとリチャード様の腕にこもる力が強くなった。
「今日のエミィは随分と素直だね」
くすりと頭の上で笑われる気配。そんな些細なことが泣き出しそうなほど嬉しくて、ぎゅっと目をつむる。
「早く治るようにおまじない」
額にそっと柔らかな感覚が落ちてきて、その幸せを噛みしめるように深くうつむいた。
69
あなたにおすすめの小説
推しの悪役令嬢を幸せにします!
みかん桜
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、自分が大好きだった漫画の世界に転生していることに気付いた。
推しキャラは悪役令嬢!
近くで拝みたい!せっかくなら仲良くなりたい!
そう思ったエレナは行動を開始する。
それに悪役令嬢の婚約者はお兄様。
主人公より絶対推しと義姉妹になりたい!
自分の幸せより推しの幸せが大事。
そんなエレナだったはずが、気付けば兄に溺愛され、推しに溺愛され……知らない間にお兄様の親友と婚約していた。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~
四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!
「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」
これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。
おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。
ヒロインはどこいった!?
私、無事、学園を卒業できるの?!
恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。
乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。
裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。
2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。
2024年3月21日番外編アップしました。
***************
この小説はハーレム系です。
ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。
お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)
*****************
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
転生侍女は完全無欠のばあやを目指す
ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる!
*三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。
(本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる