真夜中の変な人達

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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第5話 変な正樹

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プルルルルル!プルルルルル!

正樹は電話の音で目が覚めた。

スマホの画面には店長と表示されている。

正樹は慌てて電話にでた。

「あ、はい、もしもし」

「お前何やってんだ!?出勤時間過ぎてるぞ?」

「え?」

ふと時計を見ると、7時半を過ぎていた。
出勤時間は7時である。

「あ、すみません!寝てました」

「寝てましたじゃねぇ!お前舐めてんのか?今すぐに来い!!どうなるか分かってんだろうな?」

「はい!すぐに行きます!」

正樹はシャツと半ズボン姿で家を飛び出した。

まだ雨は降っていたが、もう濡れることなどどうでも良かった。

ラーメン屋へは走って10分で着く。

数年前、正樹は寝坊したことがあった。
その時は心臓が飛び出しそうになりながら無我夢中で走り、出勤した。
そして、その日の雑用は全て正樹がやることになったのだった。

その嫌な記憶が蘇り、心臓がストレスで高鳴りだす。

しかし、正樹は笑っていた。

なんだか楽しくなってきたのだ。

店長はどれだけ怒っているだろうか?
雑用を全て押し付けるために、わざと店を汚しているはずだ、その後始末を誰がすると思っているのだろう?
俺はどんな顔をして入店しようか。

正樹は出来るだけ笑顔を隠し、仕事場へと入った。

「すみませんでした!」

正樹は入店と同時に土下座をした。

「お前、分かってんだろうな?今日の雑用全てお前がやれ、あと今日のシフトの全員にラーメン奢れ、あとは~そうだな。また後で伝えるわ」

店長の言葉を聞き、他の従業員は声を殺して笑っている。
「店長最高っす」

誰かの声が薄らと耳に入った。

そして、正樹は声を殺せずに笑い出した。

「あは、はははははは!!店長最高っすね!俺、今日でこの店辞めます!今までありがとうございました!お疲れ様でした!」

正樹がそう言うと、一同はポカンとした表情で正樹を見つめていた。

「では!!次はお客さんとして来店しますんで!」

正樹は満面の笑みで店を出た。

「てめぇなにふざけたこと言ってんだ!」

店長が鬼の形相で正樹を追いかける。

正樹は走って、ある場所を目指していた。

店長はしつこく追いかけてくる。

正樹は交番の前で疲れたフリをして、膝に手をついた。

店長はここぞとばかりに距離を詰め、正樹の肩を掴む。

「はぁ、、はぁ、、てめぇ、、ふざけたこと、、言ってんじゃねぇぞ」

息を切らして怒っている店長に向かって、正樹はスッと見下ろして言い放つ。

「お前みたいな、人の上に立つ資格のない人間の下で働くのはしんどいって。やってらんねぇって。雑用?お前がやれよ。
せいぜい他の連中にも逃げられないように頑張れ。おつかれっした」

その言葉を聞き、店長は拳を振り上げた。

「何してるんだ!!」

そこへ交番の警察がやってきて、店長は押さえつけられた。

「いったい何があったんだ?」

警察は正樹へと質問を投げかける。

「いえ、分かりません。突然この知らないおじさんに絡まれて、、、僕急いでるんで、すみません」

正樹はランニングをしながら自宅マンションへと帰った。

走りながら、正樹は笑いが止まらなかった。

あぁ、こんなことやっちゃって良いんだ。

正樹は人生で初めて、思いっきり自分勝手に行動してみた。

人から褒められることじゃないということは分かっている。
しかし、この小さな復讐が大きな意味を持つことも分かっている。

俺は自由だ、これは俺の人生だ!!

人からどう思われようが知ったこっちゃない!

真夜中の変な人達が教えてくれた。

変でも良い、自分らしさを貫いて良いんだ!!

数時間の睡眠しかとってないはずの不健康なこの身体が、何故だかとびっきり軽かった。

いつの間にか雨はあがっていた。


自宅マンションにつき、自分の部屋に向かって歩いていると、隣人の扉が開いた。

「あ、、、」

「あ、、、」

そこにいたのは、早朝に助けた、変なお姉さんである。

まさかの鉢合わせにお姉さんはキョロキョロとしながら言葉を探しているようだ。

正樹も言葉を探していた、しかし探しても何も出てこないということは経験上分かっている。

何も考えず、言葉にしてみることにした。

「雨上がりましたね。でも飲み過ぎには気をつけてくださいね!」

お姉さんは驚いた様子で正樹を見た。

「、、、ふふ」

そして、静かに鼻で笑って言った。

「お兄さんも、そんな格好じゃ、また誤解されますよ?」

雨の中を疾走していたため、正樹のシャツと短パンはずぶ濡れだった。

パンツが股間に引っ付き、くっきりとメインウェポンが浮き出てしまっている。

「あ、、、」

正樹は急に恥ずかしくなり、慌てて股間を手で隠した。

「傘くらい持ち歩いたらどうですか?」

「あぁ~、、、傘持ち歩かないタイプというか、持ってないんですよ。持っててもどうせ色んなところに置き忘れて、失くしてしまうもので」

「それ、ビニール傘だからじゃない?」

お姉さんは笑いながら正樹に問いかけた。

「ビニール傘ですけど、何か?」

「ちょっと待ってて」

お姉さんは部屋の扉を開け、何やらゴソゴソと物音を立てている。

「これ、あげますよ」

お姉さんの手には水玉模様の折りたたみ傘が握られていた。
まさかのプレゼントに、股間は隠せても驚きは隠せない。

「え、良いんですか?」

正樹はしょうもないメインウェポンから手を離し、折りたたみ傘を受け取った。

「良いですよ、可愛いと思ったらすぐ買っちゃうタイプなので、沢山持ってるんです。折りたたみ傘なら置き忘れることはないと思いますよ~」

「ありがとうございます!」

「えーと、朝はあらぬ疑いをかけてしまってすみませんでした。本当に善意で私を助けてくれたというのに。目が覚めたら知らない人の家の中にいて、裸の男の人が現れたものだから、テンパっちゃって、、、でも外に出たら隣の部屋の人だって分かって、そしたら徐々に記憶が蘇ってきて、、、だから、その傘は今日の朝のお礼ということで」

「ありがたく使わせていただきます」

「風邪ひかないように気をつけてくださいね」

お姉さんはそう言って手を振り、去っていった。

正しい行動とは何か?
実は答えなんてないのかもしれない。
答えは後で知るものなのかもしれない。

正樹は水玉模様の折りたたみ傘を見つめた。

だとしたら、正しい行動は何かを考えて動く必要なんてないのかもしれない。

誰にどう思われようと、自分の心に従って、やりたい行動を実行した方が良いのかもしれない。

良くも悪くも、答え合わせは後で訪れるから。

変な人で良い。

自分の人生を生きようと強く思った。

もう、雨が降っても大丈夫。
だって、折りたたみ傘があるから。
自由に外に出よう!

真夜中の変な人達のように。
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