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―楽園編―
もふもふケープに猫耳フード
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――なめし皮が高値で売れて大喜びの僕らは、意気揚々と革工房を後にした。
次に僕らが向かった先は道具屋。
そこで、忍び装束と鍵開け道具一式、それにロープやフックなど、潜入に必要な道具を揃えて――藍里は豪華な装飾が施された杖と戦闘に直接必要のないアクセサリーを買っていた。
それは、藍里が海風博士に貰ったブレスレットになんとなく似ている。
ミィコに至っては、モフモフしたフード付きケープを購入したようで、それを大事そうに抱きかかえている。ご丁寧にも、そのフードには猫耳らしきものが付けられている。この装備も雪音さんのイメージが反映された結果なのだろうか? しかし、そのフードは見た目に反してお高い。いや、この見た目だから高価なのだろう。
僕は『ちょっと無駄遣いなんじゃないかなぁ』なんて思いながらもあえて口にせず、心の奥にそっとしまい込んだ。そして、当たり障りのない対応を心掛けた。
「ミィコ、可愛い服手に入ってよかったね」
「ミコ、少し前からこういうのが欲しいなって思っていたんです。でも、ミコの家ってママが少し厳しくて、子供っぽい服とかダメって――」
「よし、ミィコ、他に欲しいものがあれば買ってもいいんだよ! どの店に行く?」
「バカサトリ、いきなりそういうのはやめてください。ミコ、ブチ切れますよ」
僕の見え透いた同情が、真面目に話をしていたミィコの怒りを買ってしまった。普段から気丈に振る舞っているミィコも家庭環境のことで悩んでいたりするんだな……。
僕に何かできることがあれば、ミィコの力になってあげたいと思った。
「ミコちゃん、私、ゴシックパンクとかもちょっと好きなんだけど、猫耳フード付きパーカーとかあって、ミコちゃんも気に入ってくれるかも。それに、シックなお洋服だから子供っぽくもない……ハズ。戻ったら一緒にお店、行こうね!」
僕がミィコのことを考えている間に、藍里とミィコがなにやら話をしている。
「はい、アイリ! 楽しみにしています」
――それ、あれだよね、フラグってやつだよね。元の世界に戻れなくなっちゃうやつ、だよね……。
「サトリ、アイリ、宿に戻って今夜決行の作戦を練るのです! この作戦、失敗は許されません」
ミィコの言うとおり、失敗すれば間違いなく拘束され、残りの日数を牢獄の中で過ごすことになるのだろう。最悪、現実世界に戻れなくなるかもしれない。
「了解です! 戻って作戦会議ですね!」
藍里は相も変わらずやる気だ。
「サトリは作戦会議に参加せずに部屋にこもって鍵開けの修練をしていてください。そのためのミニ金庫も用意してあります。これをこじ開けられるだけのスキルを身に付けたなら、宝物庫の扉でも問題ないはずです」
ミィコはそう言いながら、手のひらサイズの金庫を重たそうに両手を使って手渡してきた。それを僕は片手で受け取る。見かけとは裏腹にズシリと重たい。
きっと、この金庫は箱というよりは、鍵開け修練の専用道具なのだろう。見た感じ、内部のスペースをロック機構がほぼ占有している様子。何かを収納する用途に使うのは無理そうだ。
「なんだか不安だけど……仕方ない。頑張るよ」
僕は渋々と了承した。
――宿に着くと、藍里とミィコは酒場の隅っこの方で城の見取り図を広げて作戦を練り始めていた。
僕は水とサンドイッチを酒場のカウンターで受け取り、二階に上がった。
部屋に入った僕は、水の入ったグラスとサンドイッチをサイドテーブルの隅に置き、背負っていたバックパックをベッドの脇に置いた。
バックパックから『ピッキングツール』をいくつか取り出して、サイドテーブルに重ねておいた。これだけあれば失敗していくつか壊しても大丈夫だろう。
ミィコから受け取ったズシリと重いミニ金庫をサイドテーブルの真ん中にドンと置く。黒光りしているその金庫は、鍵開け難易度がいかにも高そうといった感じだ。
さあ、始めようか――
失敗……また失敗……。
1つ、2つ、『ピッキングツール』が壊れていく。しかし、案ずることはない、『ピッキングツール』は大量に用意してある!
――どれくらい経ったのだろう? 夢中で作業したせいか、ふと気付くと時刻は既に夕暮れ時のようだ。部屋の中が暗くなりつつある。僕は窓から外を眺める。
黄金色に輝く黄昏の空、その雲の合間から光芒がさす。この世界はとても美しい。きっと、僕のいる世界も美しいものは沢山あるのだろう。だけど、日々の生活にいっぱい、いっぱいでそういった美しいものを見逃してしまっているのだと思う。心を穏やかにして、少し違った視点で世界を見てみれば、そこには美しいものがたくさん見えているのかもしれない。きっと――
僕はランタンの蝋燭に火を灯し、天井中央のフックに掛けた。ミィコが持っているオイル式のランタンとは違い、蝋燭ランタンの光は心許ない。
光子光源<フォトンランプ>を使うことも考えたが、わざわざミィコがランタンを用意していたところを見ると、この能力を街中で使うのはあまりいい考えとは思えない。
異端者扱いされないためにも慎み深い行動を心掛けよう。
もっとも、これから決行する作戦が慎み深さとは全くの無縁なのは言うまでもないのだが――
そんなことを考えながら、暗くなっていく空を眺めていた。
――こんなことしている場合ではなかった! 作戦開始までの時間はあと僅かしか残っていない。
僕はいつの間にか、『ピッキングツール』を通して伝わってくる感覚だけでロック機構の内部構造を頭の中でイメージできるようになっていた。度重なる失敗によって、熟練度が上昇した結果なのだろうか?
そうして、ミニ金庫のロックは解除され、呆気なく開いた。
――成功だ。よし、二人のもとへ報告しに行こう。
次に僕らが向かった先は道具屋。
そこで、忍び装束と鍵開け道具一式、それにロープやフックなど、潜入に必要な道具を揃えて――藍里は豪華な装飾が施された杖と戦闘に直接必要のないアクセサリーを買っていた。
それは、藍里が海風博士に貰ったブレスレットになんとなく似ている。
ミィコに至っては、モフモフしたフード付きケープを購入したようで、それを大事そうに抱きかかえている。ご丁寧にも、そのフードには猫耳らしきものが付けられている。この装備も雪音さんのイメージが反映された結果なのだろうか? しかし、そのフードは見た目に反してお高い。いや、この見た目だから高価なのだろう。
僕は『ちょっと無駄遣いなんじゃないかなぁ』なんて思いながらもあえて口にせず、心の奥にそっとしまい込んだ。そして、当たり障りのない対応を心掛けた。
「ミィコ、可愛い服手に入ってよかったね」
「ミコ、少し前からこういうのが欲しいなって思っていたんです。でも、ミコの家ってママが少し厳しくて、子供っぽい服とかダメって――」
「よし、ミィコ、他に欲しいものがあれば買ってもいいんだよ! どの店に行く?」
「バカサトリ、いきなりそういうのはやめてください。ミコ、ブチ切れますよ」
僕の見え透いた同情が、真面目に話をしていたミィコの怒りを買ってしまった。普段から気丈に振る舞っているミィコも家庭環境のことで悩んでいたりするんだな……。
僕に何かできることがあれば、ミィコの力になってあげたいと思った。
「ミコちゃん、私、ゴシックパンクとかもちょっと好きなんだけど、猫耳フード付きパーカーとかあって、ミコちゃんも気に入ってくれるかも。それに、シックなお洋服だから子供っぽくもない……ハズ。戻ったら一緒にお店、行こうね!」
僕がミィコのことを考えている間に、藍里とミィコがなにやら話をしている。
「はい、アイリ! 楽しみにしています」
――それ、あれだよね、フラグってやつだよね。元の世界に戻れなくなっちゃうやつ、だよね……。
「サトリ、アイリ、宿に戻って今夜決行の作戦を練るのです! この作戦、失敗は許されません」
ミィコの言うとおり、失敗すれば間違いなく拘束され、残りの日数を牢獄の中で過ごすことになるのだろう。最悪、現実世界に戻れなくなるかもしれない。
「了解です! 戻って作戦会議ですね!」
藍里は相も変わらずやる気だ。
「サトリは作戦会議に参加せずに部屋にこもって鍵開けの修練をしていてください。そのためのミニ金庫も用意してあります。これをこじ開けられるだけのスキルを身に付けたなら、宝物庫の扉でも問題ないはずです」
ミィコはそう言いながら、手のひらサイズの金庫を重たそうに両手を使って手渡してきた。それを僕は片手で受け取る。見かけとは裏腹にズシリと重たい。
きっと、この金庫は箱というよりは、鍵開け修練の専用道具なのだろう。見た感じ、内部のスペースをロック機構がほぼ占有している様子。何かを収納する用途に使うのは無理そうだ。
「なんだか不安だけど……仕方ない。頑張るよ」
僕は渋々と了承した。
――宿に着くと、藍里とミィコは酒場の隅っこの方で城の見取り図を広げて作戦を練り始めていた。
僕は水とサンドイッチを酒場のカウンターで受け取り、二階に上がった。
部屋に入った僕は、水の入ったグラスとサンドイッチをサイドテーブルの隅に置き、背負っていたバックパックをベッドの脇に置いた。
バックパックから『ピッキングツール』をいくつか取り出して、サイドテーブルに重ねておいた。これだけあれば失敗していくつか壊しても大丈夫だろう。
ミィコから受け取ったズシリと重いミニ金庫をサイドテーブルの真ん中にドンと置く。黒光りしているその金庫は、鍵開け難易度がいかにも高そうといった感じだ。
さあ、始めようか――
失敗……また失敗……。
1つ、2つ、『ピッキングツール』が壊れていく。しかし、案ずることはない、『ピッキングツール』は大量に用意してある!
――どれくらい経ったのだろう? 夢中で作業したせいか、ふと気付くと時刻は既に夕暮れ時のようだ。部屋の中が暗くなりつつある。僕は窓から外を眺める。
黄金色に輝く黄昏の空、その雲の合間から光芒がさす。この世界はとても美しい。きっと、僕のいる世界も美しいものは沢山あるのだろう。だけど、日々の生活にいっぱい、いっぱいでそういった美しいものを見逃してしまっているのだと思う。心を穏やかにして、少し違った視点で世界を見てみれば、そこには美しいものがたくさん見えているのかもしれない。きっと――
僕はランタンの蝋燭に火を灯し、天井中央のフックに掛けた。ミィコが持っているオイル式のランタンとは違い、蝋燭ランタンの光は心許ない。
光子光源<フォトンランプ>を使うことも考えたが、わざわざミィコがランタンを用意していたところを見ると、この能力を街中で使うのはあまりいい考えとは思えない。
異端者扱いされないためにも慎み深い行動を心掛けよう。
もっとも、これから決行する作戦が慎み深さとは全くの無縁なのは言うまでもないのだが――
そんなことを考えながら、暗くなっていく空を眺めていた。
――こんなことしている場合ではなかった! 作戦開始までの時間はあと僅かしか残っていない。
僕はいつの間にか、『ピッキングツール』を通して伝わってくる感覚だけでロック機構の内部構造を頭の中でイメージできるようになっていた。度重なる失敗によって、熟練度が上昇した結果なのだろうか?
そうして、ミニ金庫のロックは解除され、呆気なく開いた。
――成功だ。よし、二人のもとへ報告しに行こう。
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