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―煽動編―
雪音お姉さんと秘密の部屋
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幾何学的楽園から帰還した僕ら3人は、軽く小休止を取った後に漫画喫茶を出て、雪音さんの住むマンションの一室へと招かれていた。
雪音さんの部屋は、5階建てマンションの最上階なのだが、エレベーター完備のおかげで入り口から部屋まではあっという間だ。
雪音さんの部屋に案内され、僕、藍里、ミィコの3人は丸テーブルを囲むようにして座る。
「さて、コーヒー、紅茶、緑茶、ミルク、飲みたいものをどうぞ」
雪音さんの部屋で丸テーブルを囲みながら緊張して座っている僕らの……いや、緊張しているのは僕だけだ。雪音さんは、希望の飲み物があるかどうかを僕たちに聞いている。
「僕はコーヒーで」
「私は紅茶をお願いします!」
「ミコは抹茶ミルクにします」
「ちょっとミィコ、緑茶とミルクじゃ抹茶ミルクは出来ませんけど――」
雪音さんはミィコの無理な注文を問答無用で却下した。
「知っています。言ってみただけです。緑茶でいいです」
「はいはい、承知いたしましたー」
雪音さんは、ミィコの発言にちょっと呆れ気味な感じでキッチンへと移動した。
ミィコは部屋の中をぐるりと見渡し――
「ユキネは、ぬいぐるみの一つも持っていないんですね……」
「そうみたいだね」
雪音さんの部屋は綺麗に片付いていて、無駄な物も置かれていないせいなのか、なんだか殺風景にすら見える。だが、見方を変えれば、モダンなオフィス風の部屋にも見えてくる。
「でも、めちゃくちゃすごそうなパソコンはありますよね!」
藍里は、雪音さんのめちゃくちゃハイスペックに見えるパソコンに興味津々だ。僕も興味津々にそのパソコンを眺める。
「――確かに」
一見、サーバー機と見間違えるような大きなフルタワーのパソコン。PCケースの材質はスチールが一般的なのだが、どうやらこのPCケースはアルミ製のようだ。見た感じ、周辺機器から何から何まで、高価なものがずらりと並んでいる。
「ユキネは重度のオタクらしいです。親からはたいそう可愛がられているらしく、学費も生活費も全部出してもらっているのに、アルバイトで得たお金は、こうして趣味につぎ込んでしまうのだとか。だから、おしゃれな服もバッグも、美容室に行くお金すらも惜しくて、今時の大学生とは思えないようなファッションを――」
後ろで、”ガタッ”という音が聞こえた。
「ミィコ! そのくらいにしておきなさい!」
お盆に飲み物を乗せてキッチンから戻ってきた雪音さんは、ミィコの話を遮るようにしてその話にストップをかけた。さすがの雪音さんも、こういう内情を暴露されるのはよろしくないようだ。
「でも、ミィコと雪音さんって仲がいいですよね。元から知り合いだったりするんですか?」
「え? ううん……なぜだろう、ずっと前からこんな風に接してきていたような、そんな気はするんだけど」
「なんだか、ユキネと一緒に居ると安心するんです。頼りないお母さん、みたいな感じで」
「ミィコ、そんな言い方しないの!」
しかし、そういう雪音さんの表情は明らかに嬉しそうな感じだ。雪音さんもまんざらではないらしい。
「でも、本当に不思議なんですよね……私も、ミコちゃんや雪音さんのこと、知らない人には思えなくて――」
「ミコもアイリのこと、ずっと前から知っているような、そんな感じがします」
見つめ合う藍里、ミィコ、雪音さん。その3人の中で、唯一空気な僕はなんだかいたたまれない気持ちになっていた。
「――さとりくんのことも」
藍里が僕の方をじっと見てからそう言った。いたたまれない気持ちになっていた僕の気持ちを察してくれたのだろうか。それとも……?
「実はね、そのことについて、私も少し気になっていることがあるの」
メメント・デブリ――記憶の欠片。繰り返す時間の中で失われたはずの記憶……その断片。雪音さんに僕の最期を伝えよう。藍里とミィコにもちゃんと聞いてもらおう。
――部屋に“ピンポーン”という玄関チャイムの呼び出し音が響く。
「あ、着いたみたいね」
雪音さんのその言葉に、僕は少しだけ不安を覚えた。
いったい、誰が来たというのだろうか? 突然のことだったので、心なしか藍里もミィコも少し不安そうな顔をしている。
雪音さんは、来訪者の確認もせずにドアを開けた。
「いらっしゃ~い!」
「いきなり呼び出すとはどういうことだ!? 私も仕事があるのだぞ! あぁ……山ほどある書類仕事を明日に回して定時上がりをしてしまった。布津さんに怒られてしまう。憂鬱だ」
玄関の入り口でしょんぼりとした顔をしながら佇む、三ケ田さん。雪音さんが三ケ田さんを強引に誘っていたらしい。
三ケ田さんは、職場から雪音さん宅に直行した様子。
「寒かったでしょ? ささ、入って、入って」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私の話を――」
雪音さんは三ケ田さんの話を遮って、そのまま部屋の中に招き入れた。
三ケ田さんは僕たちと一緒に、ちょこんとテーブルを囲むようにして座った。
「皆さん、はじめまして。私は、『三ケ田 六花』と申します。異能超人対策課に所属している政府直属の職員です」
「え、あ、はじめまして……三ケ田さん」
藍里は若干挙動不審だ。
「僕は鳳城 さとりです。よろしくお願いします」
「ミコは天野 神子です」
僕とミィコは三ケ田さんに軽く挨拶をした。しかし、政府の職員を招いて大丈夫なのだろうか? 雪音さんのことだから、三ケ田さんを味方につければ百人力、とか考えていそうだけど。
「さ、三ケ田さん、コーヒーどうぞ。みんなもお茶が冷めないうちに飲んでね」
雪音さんは三ケ田さんのコーヒーを用意してからミィコの隣に座った。
「水戸 雪音、私を呼び出してどういうつもりだ」
「ちょっとまって、私のことをフルネームで呼ばないで」
「そ、そうか、すまない……雪音」
「え、まさかの名前呼びですか!? 別に私はそれでも構わないけど。私も六花って呼ぶけど」
雪音さんはそう指摘しながら笑っていた。三ケ田さんは少し赤くなっている。そして――
「あの、リッカさんって呼んでもいいでしょうか?」
唐突にミィコが三ケ田さんに聞いていた。
「あ、ああ、構わないよ。雪音も、別にそう呼びたいなら、好きに呼べばいい」
「それでは、リッカさん――それは、ネコミミですね」
ミィコが、三ケ田さんの頭に生えてきた猫耳について指摘した。
僕はその瞬間、冷静に三ケ田さんの感情を分析した!
なるほど、これは……雪音さんのことをつい名前呼びしてしまい、それを指摘されて恥ずかしい気持ちになった三ケ田さん。
ほんのりと赤面するとともに、その感情が猫耳として表れたのだ! ――多分。
雪音さんの部屋は、5階建てマンションの最上階なのだが、エレベーター完備のおかげで入り口から部屋まではあっという間だ。
雪音さんの部屋に案内され、僕、藍里、ミィコの3人は丸テーブルを囲むようにして座る。
「さて、コーヒー、紅茶、緑茶、ミルク、飲みたいものをどうぞ」
雪音さんの部屋で丸テーブルを囲みながら緊張して座っている僕らの……いや、緊張しているのは僕だけだ。雪音さんは、希望の飲み物があるかどうかを僕たちに聞いている。
「僕はコーヒーで」
「私は紅茶をお願いします!」
「ミコは抹茶ミルクにします」
「ちょっとミィコ、緑茶とミルクじゃ抹茶ミルクは出来ませんけど――」
雪音さんはミィコの無理な注文を問答無用で却下した。
「知っています。言ってみただけです。緑茶でいいです」
「はいはい、承知いたしましたー」
雪音さんは、ミィコの発言にちょっと呆れ気味な感じでキッチンへと移動した。
ミィコは部屋の中をぐるりと見渡し――
「ユキネは、ぬいぐるみの一つも持っていないんですね……」
「そうみたいだね」
雪音さんの部屋は綺麗に片付いていて、無駄な物も置かれていないせいなのか、なんだか殺風景にすら見える。だが、見方を変えれば、モダンなオフィス風の部屋にも見えてくる。
「でも、めちゃくちゃすごそうなパソコンはありますよね!」
藍里は、雪音さんのめちゃくちゃハイスペックに見えるパソコンに興味津々だ。僕も興味津々にそのパソコンを眺める。
「――確かに」
一見、サーバー機と見間違えるような大きなフルタワーのパソコン。PCケースの材質はスチールが一般的なのだが、どうやらこのPCケースはアルミ製のようだ。見た感じ、周辺機器から何から何まで、高価なものがずらりと並んでいる。
「ユキネは重度のオタクらしいです。親からはたいそう可愛がられているらしく、学費も生活費も全部出してもらっているのに、アルバイトで得たお金は、こうして趣味につぎ込んでしまうのだとか。だから、おしゃれな服もバッグも、美容室に行くお金すらも惜しくて、今時の大学生とは思えないようなファッションを――」
後ろで、”ガタッ”という音が聞こえた。
「ミィコ! そのくらいにしておきなさい!」
お盆に飲み物を乗せてキッチンから戻ってきた雪音さんは、ミィコの話を遮るようにしてその話にストップをかけた。さすがの雪音さんも、こういう内情を暴露されるのはよろしくないようだ。
「でも、ミィコと雪音さんって仲がいいですよね。元から知り合いだったりするんですか?」
「え? ううん……なぜだろう、ずっと前からこんな風に接してきていたような、そんな気はするんだけど」
「なんだか、ユキネと一緒に居ると安心するんです。頼りないお母さん、みたいな感じで」
「ミィコ、そんな言い方しないの!」
しかし、そういう雪音さんの表情は明らかに嬉しそうな感じだ。雪音さんもまんざらではないらしい。
「でも、本当に不思議なんですよね……私も、ミコちゃんや雪音さんのこと、知らない人には思えなくて――」
「ミコもアイリのこと、ずっと前から知っているような、そんな感じがします」
見つめ合う藍里、ミィコ、雪音さん。その3人の中で、唯一空気な僕はなんだかいたたまれない気持ちになっていた。
「――さとりくんのことも」
藍里が僕の方をじっと見てからそう言った。いたたまれない気持ちになっていた僕の気持ちを察してくれたのだろうか。それとも……?
「実はね、そのことについて、私も少し気になっていることがあるの」
メメント・デブリ――記憶の欠片。繰り返す時間の中で失われたはずの記憶……その断片。雪音さんに僕の最期を伝えよう。藍里とミィコにもちゃんと聞いてもらおう。
――部屋に“ピンポーン”という玄関チャイムの呼び出し音が響く。
「あ、着いたみたいね」
雪音さんのその言葉に、僕は少しだけ不安を覚えた。
いったい、誰が来たというのだろうか? 突然のことだったので、心なしか藍里もミィコも少し不安そうな顔をしている。
雪音さんは、来訪者の確認もせずにドアを開けた。
「いらっしゃ~い!」
「いきなり呼び出すとはどういうことだ!? 私も仕事があるのだぞ! あぁ……山ほどある書類仕事を明日に回して定時上がりをしてしまった。布津さんに怒られてしまう。憂鬱だ」
玄関の入り口でしょんぼりとした顔をしながら佇む、三ケ田さん。雪音さんが三ケ田さんを強引に誘っていたらしい。
三ケ田さんは、職場から雪音さん宅に直行した様子。
「寒かったでしょ? ささ、入って、入って」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私の話を――」
雪音さんは三ケ田さんの話を遮って、そのまま部屋の中に招き入れた。
三ケ田さんは僕たちと一緒に、ちょこんとテーブルを囲むようにして座った。
「皆さん、はじめまして。私は、『三ケ田 六花』と申します。異能超人対策課に所属している政府直属の職員です」
「え、あ、はじめまして……三ケ田さん」
藍里は若干挙動不審だ。
「僕は鳳城 さとりです。よろしくお願いします」
「ミコは天野 神子です」
僕とミィコは三ケ田さんに軽く挨拶をした。しかし、政府の職員を招いて大丈夫なのだろうか? 雪音さんのことだから、三ケ田さんを味方につければ百人力、とか考えていそうだけど。
「さ、三ケ田さん、コーヒーどうぞ。みんなもお茶が冷めないうちに飲んでね」
雪音さんは三ケ田さんのコーヒーを用意してからミィコの隣に座った。
「水戸 雪音、私を呼び出してどういうつもりだ」
「ちょっとまって、私のことをフルネームで呼ばないで」
「そ、そうか、すまない……雪音」
「え、まさかの名前呼びですか!? 別に私はそれでも構わないけど。私も六花って呼ぶけど」
雪音さんはそう指摘しながら笑っていた。三ケ田さんは少し赤くなっている。そして――
「あの、リッカさんって呼んでもいいでしょうか?」
唐突にミィコが三ケ田さんに聞いていた。
「あ、ああ、構わないよ。雪音も、別にそう呼びたいなら、好きに呼べばいい」
「それでは、リッカさん――それは、ネコミミですね」
ミィコが、三ケ田さんの頭に生えてきた猫耳について指摘した。
僕はその瞬間、冷静に三ケ田さんの感情を分析した!
なるほど、これは……雪音さんのことをつい名前呼びしてしまい、それを指摘されて恥ずかしい気持ちになった三ケ田さん。
ほんのりと赤面するとともに、その感情が猫耳として表れたのだ! ――多分。
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