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―夢幻―
さとり
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彼女は、僕が言い終わるのを待って、その手を一瞬だけ止めてから――
「なるほど……あ、ちょっと痛みますよ」
彼女はその言葉と同時に、僕の後頚部に繋がっていると思われるプラグを、慎重に取り外した。それとともに、言いようのない不快感と激痛が僕の全身を駆け巡る。
「ああ……一瞬、意識が飛んで、E・D・E・Nに舞い戻るかと思ったよ」
僕は彼女に、感じたことを率直に伝えた。
「鳳城さん、どこでそんなユーモアを覚えて……」
伏見さんは僕を不思議そうな顔で見つめていた。
「い、いや、ユーモアだなんて」
「今からプラグを洗浄しますので……少しの間だけ、じっとしていてくださいね」
伏見さんは首のプラグを特殊な液体を使って洗浄し始めた。プラグ洗浄とやらは、そこまで痛くない。だが、なんだかすごく気持ち悪い。
「はい、おしまいです!」
最後はプラグに特殊な素材の封印をしていた。それと同時に、肩の緊張がほぐれた。緊張? おかしい、これを何度も経験しているはずなのに――というか、ここからどうやって外に出るのかも思い出せないぞ。
「伏見さん、ごめん、僕の記憶がこんがらがっていて……ここから、どうやって外に出たらいいんだろう?」
僕は、とてつもなく恥ずかしいであろうことを聞いているような気がする。
「ええ!? ええと、あ、私、案内します。ちょっと待っていてくださいね。リーダーに報告しますので」
伏見さんはそう言ってから、キューブを使ってリーダーに現状報告をした後に、同行の許可をもらっていた。
ふと、周りを見ると、伏見さん以外のメディックも数名、この場に集まってきている。伏見さんは、その場のメディックたちにも事情を説明していた。
――おや、その中に一人、メディックではない、だけど、確かに見覚えのある人物が……?
「さとり、無事に戻ってきてくれて、本当によかった」
そう僕に声をかけてきた人物は、紛れもなく、僕の父親、鳳城 業、その人だった。
「ど、どうしてここに?」
僕は、目の前の光景を理解することができなかった。いや、理解していたんだ。
「どうして? さとり、本当に大丈夫か? いや、こんなことになって、本当にすまない。私の責任だ……渚は、渚は無事なのか?」
父親の言葉で、僕の記憶の糸がはっきりと繋がった。そうだ、E・D・E・Nの内部にいる海風 凪は、鳳城 渚だ。天野も知らなかった真実、世界の理は、このことに気付いている? 母さんは、もしかすると、世界の理の裏をかこうとしているのではないだろうか? だとしたら――
「ああ、うん、みんな無事だよ。だけど、急がないと……そうだ、愛唯を、愛唯を探さないと」
僕はとにかく、現実を受け入れるとかそんなことよりも、一刻も早く、内部の人たちを救いたいという気持ちが優先されていた。
「あの、鳳城部長、私も、鳳城さん――さとりさんの専属メディックとして、さとりさんに同行します」
伏見さんはやる気だ。
「ふむ……そうしてもらった方が良さそうだな。さとり、卯月さんは私たちの方でも探してみよう。だが、事を穏便に済ませるため、我々はあまり目立つ動きができない。もし、今日中に事が収まらなければ……ダイブポッドの生命維持装置が稼働し、この事態が明るみにでるとともに、研究のすべてが水の泡となってしまうだろう。そうなる前に、なんとしてでも――」
鳳城 業、それは保身のための発言なのか、それとも、何か別の意図があるのだろうか?
――でも、彼は、いつもこうだった。いつだって、家族よりも研究を優先していたんだ。だけど、昔は、こんな風じゃなかった気がする。きっと、父親も、何かのきっかけで変わってしまったんだ。そうに、違いない。
「今は、みんなを救うことだけを考えて行動する……ただ、それだけだよ」
僕は当たり障りのない言葉で、自らの感情をごまかす。
「そうだな……頼んだぞ、さとり」
「はい」
僕が返事をすると、父親は少しだけ悩んだ表情を見せた後に――
「――さとり、もう一つだけ。さとりと天野刑事がDiveして間もなく、一人の女性がシンクロ率の大幅な低下から、意識不明の状態となってしまった。その時点で、彼女のE・D・E・Nからのログアウトは確認できていた。一刻を争う状態だと判断した我々は、彼女が正常にログアウトできていると信じ、彼女をダイブポットから急いで引っ張り出すと、そのまま付属の医療センターへと搬送した。幸い、彼女の意識は戻り、今は普通に会話ができるほどに回復しているそうだ。それでも、念のため、明日までは、そのまま入院して様子を見てもらっている。さとり、もし、時間があれば、彼女に事情を聞いてみるのもいいのかもしれない。彼女の名は、舞岡 伊織さんだ」
僕は、父親の言葉に、自分の耳を疑ってしまった。舞岡 伊織――彼女は、確かに、あの時まだ、E・D・E・Nにいた。『だって、キミは……私とは――違うもの』イオのあの言葉、何かあるとは思っていたが……今は時間がないのも事実――だが、父親の方で愛唯の行方を探っている間に面会できれば――
「分かった、会ってみるよ」
一か八か、彼女に会ってみる価値はあると、僕は考えた。
「そうか、向こうにはそう伝えておこう。それと、卯月さんの居場所が分かり次第、君たちに連絡をするよ」
父親はそう言いながら、僕に微笑んだ。
「よろしく……お願いします」
そうして、僕は伏見さんに支えられてポッドを出ると、階段を下り始める。一歩、一歩、確実に。
後ろは、振り返らない――つもり、だったが、大事なことを聞き忘れていた。
「あ、あのさ、父さん、天野刑事の長男がエントランスホールで待機しているって聞いたけど、名前だけ、教えてほしいんだ」
僕は後ろを振り返ると、照れ隠しをしながらも、父親に聞くべきことを聞いた。
「さとり、お前……記憶が――いや、やめよう。天野刑事の長男、だったな。天野 僉彦、彼も電脳捜査課の人間で、今はエントランスホールの警備にあたっている。お前も覚えているとは思うが、彼は、薄い色の髪に日本人離れした顔立ち……だから、すぐに分かるはずだ」
父親は言葉を濁しながらも、彼のことを教えてくれた。
「ありがとう――それじゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」
僕は、父親と、ぞろぞろと集まってきていたメディックや、説得者、施設の職員たちに見守られつつ、僕の体を支えてくれている伏見さんと共に、ゆっくりとその場を後にした。
「なるほど……あ、ちょっと痛みますよ」
彼女はその言葉と同時に、僕の後頚部に繋がっていると思われるプラグを、慎重に取り外した。それとともに、言いようのない不快感と激痛が僕の全身を駆け巡る。
「ああ……一瞬、意識が飛んで、E・D・E・Nに舞い戻るかと思ったよ」
僕は彼女に、感じたことを率直に伝えた。
「鳳城さん、どこでそんなユーモアを覚えて……」
伏見さんは僕を不思議そうな顔で見つめていた。
「い、いや、ユーモアだなんて」
「今からプラグを洗浄しますので……少しの間だけ、じっとしていてくださいね」
伏見さんは首のプラグを特殊な液体を使って洗浄し始めた。プラグ洗浄とやらは、そこまで痛くない。だが、なんだかすごく気持ち悪い。
「はい、おしまいです!」
最後はプラグに特殊な素材の封印をしていた。それと同時に、肩の緊張がほぐれた。緊張? おかしい、これを何度も経験しているはずなのに――というか、ここからどうやって外に出るのかも思い出せないぞ。
「伏見さん、ごめん、僕の記憶がこんがらがっていて……ここから、どうやって外に出たらいいんだろう?」
僕は、とてつもなく恥ずかしいであろうことを聞いているような気がする。
「ええ!? ええと、あ、私、案内します。ちょっと待っていてくださいね。リーダーに報告しますので」
伏見さんはそう言ってから、キューブを使ってリーダーに現状報告をした後に、同行の許可をもらっていた。
ふと、周りを見ると、伏見さん以外のメディックも数名、この場に集まってきている。伏見さんは、その場のメディックたちにも事情を説明していた。
――おや、その中に一人、メディックではない、だけど、確かに見覚えのある人物が……?
「さとり、無事に戻ってきてくれて、本当によかった」
そう僕に声をかけてきた人物は、紛れもなく、僕の父親、鳳城 業、その人だった。
「ど、どうしてここに?」
僕は、目の前の光景を理解することができなかった。いや、理解していたんだ。
「どうして? さとり、本当に大丈夫か? いや、こんなことになって、本当にすまない。私の責任だ……渚は、渚は無事なのか?」
父親の言葉で、僕の記憶の糸がはっきりと繋がった。そうだ、E・D・E・Nの内部にいる海風 凪は、鳳城 渚だ。天野も知らなかった真実、世界の理は、このことに気付いている? 母さんは、もしかすると、世界の理の裏をかこうとしているのではないだろうか? だとしたら――
「ああ、うん、みんな無事だよ。だけど、急がないと……そうだ、愛唯を、愛唯を探さないと」
僕はとにかく、現実を受け入れるとかそんなことよりも、一刻も早く、内部の人たちを救いたいという気持ちが優先されていた。
「あの、鳳城部長、私も、鳳城さん――さとりさんの専属メディックとして、さとりさんに同行します」
伏見さんはやる気だ。
「ふむ……そうしてもらった方が良さそうだな。さとり、卯月さんは私たちの方でも探してみよう。だが、事を穏便に済ませるため、我々はあまり目立つ動きができない。もし、今日中に事が収まらなければ……ダイブポッドの生命維持装置が稼働し、この事態が明るみにでるとともに、研究のすべてが水の泡となってしまうだろう。そうなる前に、なんとしてでも――」
鳳城 業、それは保身のための発言なのか、それとも、何か別の意図があるのだろうか?
――でも、彼は、いつもこうだった。いつだって、家族よりも研究を優先していたんだ。だけど、昔は、こんな風じゃなかった気がする。きっと、父親も、何かのきっかけで変わってしまったんだ。そうに、違いない。
「今は、みんなを救うことだけを考えて行動する……ただ、それだけだよ」
僕は当たり障りのない言葉で、自らの感情をごまかす。
「そうだな……頼んだぞ、さとり」
「はい」
僕が返事をすると、父親は少しだけ悩んだ表情を見せた後に――
「――さとり、もう一つだけ。さとりと天野刑事がDiveして間もなく、一人の女性がシンクロ率の大幅な低下から、意識不明の状態となってしまった。その時点で、彼女のE・D・E・Nからのログアウトは確認できていた。一刻を争う状態だと判断した我々は、彼女が正常にログアウトできていると信じ、彼女をダイブポットから急いで引っ張り出すと、そのまま付属の医療センターへと搬送した。幸い、彼女の意識は戻り、今は普通に会話ができるほどに回復しているそうだ。それでも、念のため、明日までは、そのまま入院して様子を見てもらっている。さとり、もし、時間があれば、彼女に事情を聞いてみるのもいいのかもしれない。彼女の名は、舞岡 伊織さんだ」
僕は、父親の言葉に、自分の耳を疑ってしまった。舞岡 伊織――彼女は、確かに、あの時まだ、E・D・E・Nにいた。『だって、キミは……私とは――違うもの』イオのあの言葉、何かあるとは思っていたが……今は時間がないのも事実――だが、父親の方で愛唯の行方を探っている間に面会できれば――
「分かった、会ってみるよ」
一か八か、彼女に会ってみる価値はあると、僕は考えた。
「そうか、向こうにはそう伝えておこう。それと、卯月さんの居場所が分かり次第、君たちに連絡をするよ」
父親はそう言いながら、僕に微笑んだ。
「よろしく……お願いします」
そうして、僕は伏見さんに支えられてポッドを出ると、階段を下り始める。一歩、一歩、確実に。
後ろは、振り返らない――つもり、だったが、大事なことを聞き忘れていた。
「あ、あのさ、父さん、天野刑事の長男がエントランスホールで待機しているって聞いたけど、名前だけ、教えてほしいんだ」
僕は後ろを振り返ると、照れ隠しをしながらも、父親に聞くべきことを聞いた。
「さとり、お前……記憶が――いや、やめよう。天野刑事の長男、だったな。天野 僉彦、彼も電脳捜査課の人間で、今はエントランスホールの警備にあたっている。お前も覚えているとは思うが、彼は、薄い色の髪に日本人離れした顔立ち……だから、すぐに分かるはずだ」
父親は言葉を濁しながらも、彼のことを教えてくれた。
「ありがとう――それじゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」
僕は、父親と、ぞろぞろと集まってきていたメディックや、説得者、施設の職員たちに見守られつつ、僕の体を支えてくれている伏見さんと共に、ゆっくりとその場を後にした。
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