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十一月は波乱の季節
58話 なにがあったのか話してくれる?
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「なにがあったのか話してくれる?」
そう言って先輩がジッとこちらを見ている。
あれから大変だった。
私の手首はそれほど酷くなかったけど、心配してくれた先輩は救急箱をお母さんごと連れてきた。
なんとかそれまでにはパジャマの下も履いてたけど、パジャマだった事自体をお母さんに怪しまれて、泣く泣く今日は学校で嫌なことがあって先に帰ってふて寝してたって言い訳して。
「折角勉強を教えに来てくださった斎藤くんをほっぽらかして今まで寝てたなんて信じられない! 斎藤くん、次からはこんな子放って帰ってくれていいですからね!」
結果お母さんにこっぴどく怒られた。
その間に先輩が手際よく私の手首に湿布貼って包帯巻いて三角巾までセットしてくれてた。
プリプリ怒ってたお母さんも、斎藤先輩の手際の良さに驚いてお説教が勢いをなくし、一瞬の沈黙を狙ったかのように先輩が「市川さんと少しお話しさせてもらってもいいですか」と頭を下げたところで、渋々お説教をやめてくれた。
先輩にだけお茶とお菓子を持ってきてくれたお母さんが部屋を出れば、二人っきりの部屋に気まずい沈黙が流れた。
私はベッドの上で正座中。先輩は私の机のところから椅子をベッド横まで引いてきて、私と向かい合わせに座ってる。
「さっき言ってたのは本当? 学校で嫌なことがあったから先に帰ってきたって」
「…………」
やっと口を開いた斎藤先輩の声は平坦で、そこに怒りはなかった。
だけど、平坦過ぎて、先輩がなにを考えているのかもやっぱり分からない。
「それとも、もしかして僕と会いたくなかった?」
「…………」
そうじゃない、って言ったら嘘になっちゃうのかな。
とっても会いたかったけど、どうしても会いたくなかった。
会ってどんな顔をすればいいか分からなかったから……
それを言ってしまうこと自体がもう、すでに先輩を困らせることになりそうで、私はどうしても声が出せなかった。
先輩の顔を真っ直ぐみることも出来なくて、段々と視線が落ちていく。
私が俯くと同時に、先輩の深いため息が部屋に響いた。
「……僕ともう話したくないなら帰るよ」
ズキン、と重い痛みが胸に突き刺さった。
最後の先輩の声からは、間違いなく悲しみが聞き取れたから。
私が話さないことが、先輩を傷つけてしまった。
それは絶対に私が望んでいた結果とは違ってて。
だから立ち上がろうとする先輩を追いかけるように、私の口から閉じ込めていた気持ちが勝手にこぼれだす。
「先輩にこれ以上迷惑かけたくないから……」
言ってはしまったけれど、顔は上げられず、先輩が包帯を巻いてくれた自分の手首を睨んで言葉を切った。
言ってはいけない、言うはずじゃなかった私の言葉で、だけど先輩がピタリと動きを止めた。
「迷惑って? 僕そんなこと言ったっけ?」
「……いいえ」
しっかりとした声でそう尋ねられて、私は否定するしかなくて。
だけどまだそれでも顔の上げられなかった私の頭を、突然先輩の両手がガッチリと掴んだ。
驚く間もなく、先輩が私の顔を仰向かせる。
真っ直ぐ目の前に先輩の顔。
真っ直ぐ先輩の視線が私と交わって。
「なにがあったのか、ちゃんと話してくれる?」
その顔は怖いほど真剣で、その声は嘘を全く許さない厳しさに溢れてた。
そして、私は結局あの日三谷先輩に言われたことを洗いざらい白状させられるのだった。
そう言って先輩がジッとこちらを見ている。
あれから大変だった。
私の手首はそれほど酷くなかったけど、心配してくれた先輩は救急箱をお母さんごと連れてきた。
なんとかそれまでにはパジャマの下も履いてたけど、パジャマだった事自体をお母さんに怪しまれて、泣く泣く今日は学校で嫌なことがあって先に帰ってふて寝してたって言い訳して。
「折角勉強を教えに来てくださった斎藤くんをほっぽらかして今まで寝てたなんて信じられない! 斎藤くん、次からはこんな子放って帰ってくれていいですからね!」
結果お母さんにこっぴどく怒られた。
その間に先輩が手際よく私の手首に湿布貼って包帯巻いて三角巾までセットしてくれてた。
プリプリ怒ってたお母さんも、斎藤先輩の手際の良さに驚いてお説教が勢いをなくし、一瞬の沈黙を狙ったかのように先輩が「市川さんと少しお話しさせてもらってもいいですか」と頭を下げたところで、渋々お説教をやめてくれた。
先輩にだけお茶とお菓子を持ってきてくれたお母さんが部屋を出れば、二人っきりの部屋に気まずい沈黙が流れた。
私はベッドの上で正座中。先輩は私の机のところから椅子をベッド横まで引いてきて、私と向かい合わせに座ってる。
「さっき言ってたのは本当? 学校で嫌なことがあったから先に帰ってきたって」
「…………」
やっと口を開いた斎藤先輩の声は平坦で、そこに怒りはなかった。
だけど、平坦過ぎて、先輩がなにを考えているのかもやっぱり分からない。
「それとも、もしかして僕と会いたくなかった?」
「…………」
そうじゃない、って言ったら嘘になっちゃうのかな。
とっても会いたかったけど、どうしても会いたくなかった。
会ってどんな顔をすればいいか分からなかったから……
それを言ってしまうこと自体がもう、すでに先輩を困らせることになりそうで、私はどうしても声が出せなかった。
先輩の顔を真っ直ぐみることも出来なくて、段々と視線が落ちていく。
私が俯くと同時に、先輩の深いため息が部屋に響いた。
「……僕ともう話したくないなら帰るよ」
ズキン、と重い痛みが胸に突き刺さった。
最後の先輩の声からは、間違いなく悲しみが聞き取れたから。
私が話さないことが、先輩を傷つけてしまった。
それは絶対に私が望んでいた結果とは違ってて。
だから立ち上がろうとする先輩を追いかけるように、私の口から閉じ込めていた気持ちが勝手にこぼれだす。
「先輩にこれ以上迷惑かけたくないから……」
言ってはしまったけれど、顔は上げられず、先輩が包帯を巻いてくれた自分の手首を睨んで言葉を切った。
言ってはいけない、言うはずじゃなかった私の言葉で、だけど先輩がピタリと動きを止めた。
「迷惑って? 僕そんなこと言ったっけ?」
「……いいえ」
しっかりとした声でそう尋ねられて、私は否定するしかなくて。
だけどまだそれでも顔の上げられなかった私の頭を、突然先輩の両手がガッチリと掴んだ。
驚く間もなく、先輩が私の顔を仰向かせる。
真っ直ぐ目の前に先輩の顔。
真っ直ぐ先輩の視線が私と交わって。
「なにがあったのか、ちゃんと話してくれる?」
その顔は怖いほど真剣で、その声は嘘を全く許さない厳しさに溢れてた。
そして、私は結局あの日三谷先輩に言われたことを洗いざらい白状させられるのだった。
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