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不気味な雰囲気で満たされた森の中。
耳に届くのは風に揺られさわさわと葉がこすれる音と、規則正しい兵士達の足音だけ。
遠くから獣の遠吠えが聞こえるが、彼等は乱れることなく目的地へと歩を進める。
百人ほどの軍隊の中央部にリージェ国、新国王ガルドがいた。
その日の早朝、ガルドは新国王に就いた。戴冠式などという無駄な事に時間は掛けない。
王冠や王笏などは、宝物庫に放り投げられている。
今必要なのは、自分が国王になったという事実だけなのだから。
ガルドの容姿は金髪碧眼の、第一印象は優しい理想的な王子様と言っても過言ではないほど、美しく物腰柔らかな雰囲気を醸し出してた。
その容姿に惹かれ群がる女性は多い。
だがその本性は、自分以外の人の命など虫けら以下だと思っている暴虐王。
彼に粛清された貴族大臣は数知れず、今では誰も彼に逆らうものはいない。父王ですら息子であるガルドを信用する事は無く、常に警戒していたのだから。
ガルドの父である前国王は好色王とも呼ばれ、後宮は常に満室で入れ替わりも激しかった。
王妃もいたが夫婦仲は冷え切っており、子供を一人作ってからは夫婦の営みは全くない。
だが、それぞれ愛人を作り好き放題しているのだから、お互いさまである。
そんな冷え切った夫婦間に生まれたのが、ガルドだった。
彼は唯一正妃の子であり、生まれながらの王太子。
だが、周りの貴族はそれに納得せず、後宮に入れた自分の娘の子供を次の王にと欲をかきはじめたのだ。
実際、ガルド以外に腹違いの兄弟は沢山いた。
だが、彼と血のつながった兄弟は今はアドラのみ。ガルドが手を回し、子供どころか側室愛人すら始末してしまったからだ。
数年前より、次期国王の座を狙った貴族たちの動きが活発化してきたのを機に、ガルドが暗躍し始めたのだ。
というのも、国王が病の床に伏すことが多くなり、国王代理でガルドが執務をしていたのだが、見た目が美しくも優しい王子然としていた為、要は舐められていたのだ。
そんな状況をガルドは楽しむかのように、後宮の女子供を次々始末していく。
時には毒を盛り、時には噂を流し女同士対立させ、自分の手は汚さず始末させるなど、気付けばアドラしか残っていなかった。
何故アドラだけ生き残ったのかというと、単純にガルドに懐いていたから。ただそれだけの理由だった。
ガルドと対立する貴族はもういない。後宮は既にガルドが所有し、半分以上が黒髪青目を持つ側室や愛人で満室。父王に至っては魔薬の末期症状である。
時間をかけ地盤を固め国王となったガルド。
国王となり一番初めにする事は、正妃を迎えに行くこと。
つまりは、帝国を落としクロエを正妃として攫う為に今、魔の森を歩いているのだ。
ガルドがクロエを初めて見たのは、フルール国での『花祭り』でだった。
今から十年前の、彼が十五才の時。懇意にしている行商人がたまたまフルール国で行なわれる祭りの話をした事が発端だった。
その話の中心はほとんど王妃であるルナティアと孫のクロエの事。
はじめは聞き流していたガルドだったが、噂の賢妃と幼いながら既に『氷の姫』と呼ばれているクロエに徐々に興味を持ち始め、その商人の息子としてフルール国を訪れたのだ。
噂通りの人間なのか確かめたかった事もあったが、国内で反王太子派とのいざこざに疲れていたというのが大きな理由。
単に気分転換をしたかっただけだったのだが、後に彼に転機をもたらした旅でもあった。
まだこの時のガルドは、内に秘める残忍さはあれど、行動に移す事は無く見た目通りの人物だった。
そのおかげで、立ち寄る国々で商品は飛ぶように売れた。王子の同行を初めは渋々了承していた行商人だったが、想像以上の売れ行きに、真剣にスカウトしてしまったくらいだ。
振り返れば、フルール国へ旅をしていた頃が、ガルドにとって一番幸せだったのかもしれない。
王子としてではなく行商人の息子として、多くの人と触れ合う事が出来たから。中にはどうしようもない腹の立つ人間もいたが、殆どが優しく楽しい人達だった。
後にガルドはアドラに良く旅の話をしていた。その表情は、残忍さなど欠片もない、笑顔の綺麗な青年にしか見えなかったという。
そんな彼が、フルール国でようやく噂のクロエを見る事が出来た。
それほど期待していなかったのだが、彼女を見た瞬間の衝撃は、言葉では言い表すことが出来ないほどで、自分自身ですら何が起きたのか一瞬分からなかったほどだった。
頭のてっぺんから足のつま先にかけて、何かが駆け抜けていったかの様な衝撃。
正に、一目惚れだった。
自分より五つも年下のはずなのに、凛とした表情で会場を見渡す彼女は、既に女王の風格が備わっており、目が離せない。
艶々と輝く烏の濡れ羽色の様な髪。穢れを知らぬかの様な美しい、サファイアブルーの瞳。
何もかもがガルドの心を揺さぶる。
王家の挨拶が終わると、クロエは早々に退出してしまった。が、ガルドの脳裏に、瞼の裏に、心に、彼女が鮮明に甦る。
自国に戻ってからのガルドは、抱く気持ちのままにすぐに行動を起こした。
まずはフルール国に対し、クロエとの婚姻の申込をした。返事は当然、否。そう返される事は想定済みだった。
何故なら彼女は、未来の女王候補なのだから。
それでもガルドは諦めることなく、打診し続けた。そして、徐々にクロエに対する愛情が歪み始めていくのだった。
耳に届くのは風に揺られさわさわと葉がこすれる音と、規則正しい兵士達の足音だけ。
遠くから獣の遠吠えが聞こえるが、彼等は乱れることなく目的地へと歩を進める。
百人ほどの軍隊の中央部にリージェ国、新国王ガルドがいた。
その日の早朝、ガルドは新国王に就いた。戴冠式などという無駄な事に時間は掛けない。
王冠や王笏などは、宝物庫に放り投げられている。
今必要なのは、自分が国王になったという事実だけなのだから。
ガルドの容姿は金髪碧眼の、第一印象は優しい理想的な王子様と言っても過言ではないほど、美しく物腰柔らかな雰囲気を醸し出してた。
その容姿に惹かれ群がる女性は多い。
だがその本性は、自分以外の人の命など虫けら以下だと思っている暴虐王。
彼に粛清された貴族大臣は数知れず、今では誰も彼に逆らうものはいない。父王ですら息子であるガルドを信用する事は無く、常に警戒していたのだから。
ガルドの父である前国王は好色王とも呼ばれ、後宮は常に満室で入れ替わりも激しかった。
王妃もいたが夫婦仲は冷え切っており、子供を一人作ってからは夫婦の営みは全くない。
だが、それぞれ愛人を作り好き放題しているのだから、お互いさまである。
そんな冷え切った夫婦間に生まれたのが、ガルドだった。
彼は唯一正妃の子であり、生まれながらの王太子。
だが、周りの貴族はそれに納得せず、後宮に入れた自分の娘の子供を次の王にと欲をかきはじめたのだ。
実際、ガルド以外に腹違いの兄弟は沢山いた。
だが、彼と血のつながった兄弟は今はアドラのみ。ガルドが手を回し、子供どころか側室愛人すら始末してしまったからだ。
数年前より、次期国王の座を狙った貴族たちの動きが活発化してきたのを機に、ガルドが暗躍し始めたのだ。
というのも、国王が病の床に伏すことが多くなり、国王代理でガルドが執務をしていたのだが、見た目が美しくも優しい王子然としていた為、要は舐められていたのだ。
そんな状況をガルドは楽しむかのように、後宮の女子供を次々始末していく。
時には毒を盛り、時には噂を流し女同士対立させ、自分の手は汚さず始末させるなど、気付けばアドラしか残っていなかった。
何故アドラだけ生き残ったのかというと、単純にガルドに懐いていたから。ただそれだけの理由だった。
ガルドと対立する貴族はもういない。後宮は既にガルドが所有し、半分以上が黒髪青目を持つ側室や愛人で満室。父王に至っては魔薬の末期症状である。
時間をかけ地盤を固め国王となったガルド。
国王となり一番初めにする事は、正妃を迎えに行くこと。
つまりは、帝国を落としクロエを正妃として攫う為に今、魔の森を歩いているのだ。
ガルドがクロエを初めて見たのは、フルール国での『花祭り』でだった。
今から十年前の、彼が十五才の時。懇意にしている行商人がたまたまフルール国で行なわれる祭りの話をした事が発端だった。
その話の中心はほとんど王妃であるルナティアと孫のクロエの事。
はじめは聞き流していたガルドだったが、噂の賢妃と幼いながら既に『氷の姫』と呼ばれているクロエに徐々に興味を持ち始め、その商人の息子としてフルール国を訪れたのだ。
噂通りの人間なのか確かめたかった事もあったが、国内で反王太子派とのいざこざに疲れていたというのが大きな理由。
単に気分転換をしたかっただけだったのだが、後に彼に転機をもたらした旅でもあった。
まだこの時のガルドは、内に秘める残忍さはあれど、行動に移す事は無く見た目通りの人物だった。
そのおかげで、立ち寄る国々で商品は飛ぶように売れた。王子の同行を初めは渋々了承していた行商人だったが、想像以上の売れ行きに、真剣にスカウトしてしまったくらいだ。
振り返れば、フルール国へ旅をしていた頃が、ガルドにとって一番幸せだったのかもしれない。
王子としてではなく行商人の息子として、多くの人と触れ合う事が出来たから。中にはどうしようもない腹の立つ人間もいたが、殆どが優しく楽しい人達だった。
後にガルドはアドラに良く旅の話をしていた。その表情は、残忍さなど欠片もない、笑顔の綺麗な青年にしか見えなかったという。
そんな彼が、フルール国でようやく噂のクロエを見る事が出来た。
それほど期待していなかったのだが、彼女を見た瞬間の衝撃は、言葉では言い表すことが出来ないほどで、自分自身ですら何が起きたのか一瞬分からなかったほどだった。
頭のてっぺんから足のつま先にかけて、何かが駆け抜けていったかの様な衝撃。
正に、一目惚れだった。
自分より五つも年下のはずなのに、凛とした表情で会場を見渡す彼女は、既に女王の風格が備わっており、目が離せない。
艶々と輝く烏の濡れ羽色の様な髪。穢れを知らぬかの様な美しい、サファイアブルーの瞳。
何もかもがガルドの心を揺さぶる。
王家の挨拶が終わると、クロエは早々に退出してしまった。が、ガルドの脳裏に、瞼の裏に、心に、彼女が鮮明に甦る。
自国に戻ってからのガルドは、抱く気持ちのままにすぐに行動を起こした。
まずはフルール国に対し、クロエとの婚姻の申込をした。返事は当然、否。そう返される事は想定済みだった。
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