それぞれの愛のカタチ

ひとみん

文字の大きさ
22 / 30

22

しおりを挟む
「ほら、来ましたでしょ?」

ユスティアの言葉に、少し驚いたように目を見開くユージン。
声のする方へと目を向ければ、ドレスを持ち上げ走る女性がみえた。

焦げ茶色の癖毛を揺らし、緑色の瞳は期待と必死さが滲み出ている、が・・・ユージンから見ても令嬢らしからぬその姿に、秘かに眉を眇めた。
だがライラにはそうは映らなかったらしく、わざとらしく立ち止まり髪とドレスを直し静々とテーブルへと寄ってきた。

「お姉さまにお客様がみえていらっしゃると聞いて、ご挨拶に伺いましたわ」
ユージンとエドワルドを交互に見る眼差しは、よく見る媚びたもの。

そこら辺に転がっている令嬢と同じじゃないか。一体、何が楽しめるんだか・・・

どちらかといえば嫌悪感が勝る、ライラへの第一印象。
表情には出さないが、かなり引き気味なのが見て取れるが、ユスティアはちらりとユージンに視線を送りそしてライラへと顔を向けた。
「ライラ、お行儀が悪いわ。お客様に失礼よ」
ユスティアの注意は、至極真っ当なもの。なのに、ライラは突然「酷いっ!」と叫んだかと思うと、器用にも一瞬で目に涙を溜めてみせた。
「またそうやって、私をいじめるの!?お姉さまと仲良くしたいだけなのに・・・・」
またも突然始まる、三文芝居。
ポロポロと涙を流しながら、エドワルドとユージンに助けを求めるようにチラチラと見ている。
ユージンは、これが巷で噂の「悲劇のヒロイン」か・・・と、感心したように眺め、エドワルドに至っては完全に無視。
エドワルドは基本、ユスティア以外には興味がないのだから、いくら媚びても意味がない。

ライラお得意の三文芝居「悲劇のヒロインごっこ」は有名だが、わかっていてもその愛らしい容姿から騙される男が未だにいるのだという。
正直、この手の女をたくさん見ているユージンには、あまりに幼稚な芝居につい笑いそうになってしまう。
「ライラ・・・この間も言ったけれど、今ここで泣く必要があるのかしら?」
「またそうやって私を悪者にしようとする・・・酷いわ・・・」
「あら、自分でわかっているんじゃない」
「え?」
「大切なお客様がいらっしゃっているのにも関わらず、無作法にも乱入しこの場を台無しにしたんですもの。悪人以外に何と呼べばいいのかしら?」

―――辛辣だ・・・・

ユージンは凛と言い返すユスティアに感心しつつも、ライラを注意深く観察した。
初めはユージンとエドワルド二人に色目を使っていたが、今では涙目を向けるのはエドワルドにのみ。
無反応なエドワルドに、必死に訴える様に視線を送るが、その表情はピクリとも動く気配がない。
徹底しているな・・・・と、ユージンは感心する。
茶番だとわかっていても、多少は感情が動くものである。
だが彼は、全くの無関心を貫いたのだった。
それでも続く、茶番劇。
言葉はユスティアに向けられ、その目はエドワルドに。
そして、その視線の熱量にどこか懐かしさを覚え、ユージンはぞくりと背を震わせた。

恍惚と焦がれる様な嫉妬と、何故振り向いてくれないのかという焦燥。
必死さと無様さと哀れさと・・・なんとも言えない表情。

そしてユージンは理解した。
これを言っていたのか、と。
ユージンが傍にいても、決してこれと同じ熱を向けられる事はないだろう。
一緒に居ればきっとユージンをも好きになるはずだ。だがそれは、綺麗な物を見せびらかし自慢したい心理と同じで、決して愛ではない。

この人は俺を愛さない・・・・
永遠に実る事のない気持ちを燻ぶらせ、俺の隣に立ち続ける。
そして俺も、手の届かない光を見つめ続けるんだ。

あぁ・・・最高じゃないか・・・・

快感に打ち震えながらユスティアを見れば「どう?楽しめそうでしょ?」と満面の笑みを浮かべた。

そして、その笑顔を向けられたユージンは、手に入らないエステルを深く胸の奥に刻み込むのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

声を取り戻した金糸雀は空の青を知る

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「大切なご令嬢なので、心して接するように」 7年ぶりに王宮へ呼ばれ、近衛隊長からそう耳打ちされた私、エスファニア。 国王陛下が自ら王宮に招いたご令嬢リュエンシーナ様との日々が始まりました。 ですが、それは私に思ってもみなかった変化を起こすのです。 こちらのお話には同じ主人公の作品 「恋だの愛だのそんなものは幻だよ〜やさぐれ女騎士の結婚※一話追加」があります。 (本作より数年前のお話になります) もちろん両方お読みいただければ嬉しいですが、話はそれぞれ完結しておりますので、 本作のみでもお読みいただけます。 ※この小説は小説家になろうさんでも公開中です。 初投稿です。拙い作品ですが、空よりも広い心でお読みいただけると幸いです。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

処理中です...