23 / 53
第一章
第23話 白雪姫様の毒林檎の正体は?
しおりを挟む
「久しぶりのお肉もお魚もミルクも、本当に美味しかったですわ!クラリスさん、明日も来てくださいませね!」
ご機嫌なフィーリアとのランチを終えたクラリスは、城の廊下を足早に進んでいた。
向かう先は――ルスカの執務室だ。
しかし。
「本日は診療所にいらっしゃいますが……」
扉の前に立つ兵士の言葉に、クラリスはがっくりとうなだれた。
(ここから診療所まで行って、戻ってたら……今日中に王に会えるかな……)
踵を返しかけたそのとき。
「なにをしているんですか?」
不意に背後から声がかかる。
振り向いた先――腕を組み、訝しげにこちらを見下ろすのは、カレルだった。
「……どうしても王様かお妃様にお会いしたいんです。それで、ルスカ…様に頼みに来たんです」
小さく息を吐く。
本音を言えば、焦っていた。
早く治療を開始したい。
けれど、王族に直訴なんて、どう考えても無謀な試み。
(……でもやるしかない。これまでだって、なんとかできた)
クラリスはふ、と息を吐く。
「フィーリア様の件ですね?」
クラリスが静かに頷くと、後ろの兵に一瞬視線を送り――
それに気づいたカレルが、ほんの少しだけ目を細めた。
クラリスは言葉を続けなかった。
兵に聞かせたくないのだろう。
その意図を察したカレルは、わずかに顎を引いて応じた。
「こちらへ」
そう言ってカレルはくるりと背を向け、足音も高く歩き出す。
クラリスは慌ててその後を追った。
カレルにそう言われて通された小部屋には、左右の壁にやたら大きな王家の肖像画がずらりと掛けられていた。
(いや怖いわ……)
視線をずらすたび、どのご先祖様とも目が合う。
真ん中にある真っ赤なソファに腰を下ろすと、想像以上のふかふか感にお尻が沈みこむ。
(まさか……王様を呼びに行ったとかじゃないよね?……あ、ルスカかな?そっちなら私が行くよりカレルの方が早いかも……?)
クラリスは落ち着かない様子で部屋の隅々に目を走らせていた。
その時――
ドアががちゃりと開く音。
クラリスがびくっとして振り向いた先には――
にこやかに微笑む、真紅のマントの王子様が立っていた。
(そ、そっちーーー!?!?)
瞬間、顔が熱くなるのがわかる。
脳裏によみがえるのは、あの“おでこへの感触”。
シュヴァンはクラリスの混乱をまるで気にも留めず、すっと近づいてくる。
「やあ。今日も会ったね。昨日はよく眠れたかな。……大事な話があるんだって?」
優しい笑み。
ふわりと香る、石鹸のような清潔な香り。
そして、そっと取られる手。
クラリスの脳内は、完全に真っ白だった。
(なにか言わなきゃ……!なにか……!!)
ごくりと唾を飲み、小さく息を吸って……
口が動いた。
「……き、今日もかっこいいです……!!良い匂いもして最高です……!!」
シュヴァンは、ほんの一瞬だけ目を見開き——
すぐに、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……ふふ、そうでしょう?」
シュヴァンはそっとクラリスの手を握ったまま、柔らかく微笑む。
その背後から、冷え冷えとした咳払いがひとつ。
「フィーリア様の件でしょう。さっさと話しなさい。王子も、あちらにおかけください。……お戯れはほどほどに」
カレルの冷たい視線に、クラリスは首がもげるほど頷いて、真っ赤な顔のままソファへ沈み込んだ。
そうしてあれよあれよと話が進み……
気づけば、フィーリアの部屋に――
王、王妃、フィーリア、シュヴァン、そしてクラリスが揃っていた。
クラリスの正面には、どっしりと座る王と王妃。
右隣にはフィーリア、左隣にはシュヴァン。
(いや明らかに異分子が混入してる……コンタミ……)
そう心の中で突っ込みながらも、ちらりと右を見ると、フィーリアでさえ少し緊張しているように見えた。
(しっかりしないと。大丈夫。あの人たちだって、ただの父親と母親のはず……たぶん)
随分と圧が強い目の前の夫婦に、クラリスの握った指先は真っ白になっていた。
(それに、この場に全員を集めたのは意味がある。フィーリアに、自分で決めさせてあげたいから。なら、わたしががんばらないと)
クラリスは、ごくりと唾を飲んだ。
「……昨晩は、なかなか面白いものを見せてもらいました。ケガはありませんでしたか」
最初に口を開いたのは妃だった。
扇を仰ぎながら、冷ややかながらもどこか楽しげな声音で言う。
「は、はいっ……!」
クラリスはこくこくと頷いた。
「面白い、とな?」
ずっと顎のあたりで髭を撫でていた王が、興味深そうにクラリスを見やる。
「ええ。この娘は昨晩の舞踏会で――
公衆の面前でマリアンヌ夫人を罵倒し、つかみ合いの喧嘩を始め、そしてこのわたくしを、言葉で説得してみせたのです」
妃の言葉に、王は目を丸くし、次の瞬間――
「……真か!それは豪快な!」
高らかな笑い声を上げた。
(あらためて聞くと……なんてことを……わたしは……!)
クラリスの顔がみるみる赤くなっていき、椅子の上で縮こまっていく。
「そ、それは真ですか!? お母さま……つか、つかみ合いって……!」
クラリスの隣で、フィーリアが悲壮な声をあげる。
妃はじっと娘を見つめてから、ゆっくりと頷いた。
「ええ。あなたは、良い“主治医”に恵まれましたね。……まだ医者ではないようですが」
ばさりと扇を広げながら言う妃の言葉に、クラリスの肩がびくりと揺れる。
(……バレてる!!)
「ですが、母上」
柔らかな声で場をつないだのはシュヴァンだった。
「この者が持つ医学の知識は、眼を見張るものがあります。
本日、お呼び立てしたのもそのためです。……ね、クラリス嬢」
シュヴァンは、すぐ隣から優しい笑みでクラリスに視線を向ける。
クラリスは、深く息を吸った。
「フィーリア様の御病状の原因。それは、"くる病"によるものの可能性が高いです」
「くる病?」
右隣から、鈴が鳴るような声が響く。
クラリスは小さく頷いた。
「くる病とは、簡単に言うと栄養素の不足からなる骨の形成不全……骨が作られないことによります。骨を作るにはカルシウム、リンという栄養素が必要です。現状のほぼ野菜のみのお食事では取ることができません」
「昨晩申していた、"血が作られない"とは別問題ということか?」
妃が問うと、クラリスは深く頷いた。
「はい。そのことも、今同時に起きている問題の一つです。ですが、根本の"歩けない"ことの原因は"くる病"によるものです」
クラリスの答えに、妃はぱちんと扇を閉じた。
「だが、そなたには食事を改善するよう命じたろう。それでよいのではないか?」
「いいえお妃様。それではダメなのです。骨を作るカルシウムを吸収するためには、ビタミンDという栄養素が必要です」
クラリスは大きく息を吸うと、まっすぐ妃を見つめた。
「そして、ビタミンDは、紫外線によって作られます。――つまり、日光浴が必要です」
部屋に、ひりつくような沈黙が落ちた。
「……くる病の中には、生まれつき吸収障害のある方や、代謝に問題がある方もいます。でも、フィーリア様は少し前まで歩けていたこと、そして過度な日除けと栄養制限があることを踏まえると――適切な食事と日光浴で、改善する可能性が高いと思います」
「確実か」
王の低い声がびりびりとクラリスを刺す。
クラリスはぐっと拳を握った。
(医療に絶対はない。この世界では採血検査すらできない)
それでも。
(嘘はつきたくない)
クラリスはまっすぐに王を見つめた。
「可能性が高いです」
「ふむ……しかし……俗に、"日に焼けた女子は価値が下がる"というからな……」
王の一言に、びくりとフィーリアの肩が揺れる。
クラリスはそれを横目に捉え、そして口を開いた。
「フィーリア様はこの数ヶ月、貧血によるふらつきや嘔気と闘っておられたはずです。歩けなくなってからは、大好きなダンスもできず、今後一生歩けないのかもしれないという不安と、人知れず戦っておいでだったと思います。……とても、辛かったと思います」
クラリスの言葉に、王は短く呻いた。
「それでも、誰にも気づかれないよう笑顔を浮かべて、誰にでも優しく、わたしの様な庶民を心配までしてくださいます」
そういうと、クラリスはにこりと隣のフィーリアに微笑んだ。
「フィーリア様は頑張り屋さんで優しくて、健気で、強くて気高くて、人の気持ちを察するのがとても上手で――それにとても聡明です」
その瞳が、再び王へと向けられる。
「日に焼けたからと言って、価値が下がるでしょうか?」
フィーリアは眼を大きく開き――そして、涙を浮かべた。
(こんなふうに認めてもらえたの、きっと初めて……)
フィーリアの背を、クラリスの向こう側からシュヴァンがそっと叩いた。
「フィーリア。其方は、どう思う?」
妃の問いに、部屋が静まり返る。
皆の視線が、フィーリアに注がれた。
「……わたくし、治したいです。日に、焼けたとしても」
真っ直ぐに、顔を上げていた。
その瞳は、静かに、でも確かに覚悟を宿していた。
妃はわずかに目を細めると、ゆっくりと立ち上がり、扇を広げた。
そして、ちらりと王に一瞥をくれた。
「よろしい。覚えておきなさい、フィーリア。
あなたの価値を美しさだけに頼れば、他人の評価に縛られることになる。
あなたは――あなた自身が誇れる価値を、磨きなさい」
そして、扇の上からクラリスを見下ろす。
「娘。ルスカから、あなたの話は聞いています。……任せましたよ」
「……はいっ!!」
クラリスは勢いよく立ち上がり、深く一礼した。
「ふはは。わしはただ、失言して終わったようだな!」
王も立ち上がり、にやりと笑うと、クラリスに小さくウインクをした。
クラリスはくすりと笑い、首を横に振る。
「……そなたとは、またどこかで会いそうだな」
どこか愉快そうにそう言い残すと、王もまた堂々と部屋をあとにした。
ご機嫌なフィーリアとのランチを終えたクラリスは、城の廊下を足早に進んでいた。
向かう先は――ルスカの執務室だ。
しかし。
「本日は診療所にいらっしゃいますが……」
扉の前に立つ兵士の言葉に、クラリスはがっくりとうなだれた。
(ここから診療所まで行って、戻ってたら……今日中に王に会えるかな……)
踵を返しかけたそのとき。
「なにをしているんですか?」
不意に背後から声がかかる。
振り向いた先――腕を組み、訝しげにこちらを見下ろすのは、カレルだった。
「……どうしても王様かお妃様にお会いしたいんです。それで、ルスカ…様に頼みに来たんです」
小さく息を吐く。
本音を言えば、焦っていた。
早く治療を開始したい。
けれど、王族に直訴なんて、どう考えても無謀な試み。
(……でもやるしかない。これまでだって、なんとかできた)
クラリスはふ、と息を吐く。
「フィーリア様の件ですね?」
クラリスが静かに頷くと、後ろの兵に一瞬視線を送り――
それに気づいたカレルが、ほんの少しだけ目を細めた。
クラリスは言葉を続けなかった。
兵に聞かせたくないのだろう。
その意図を察したカレルは、わずかに顎を引いて応じた。
「こちらへ」
そう言ってカレルはくるりと背を向け、足音も高く歩き出す。
クラリスは慌ててその後を追った。
カレルにそう言われて通された小部屋には、左右の壁にやたら大きな王家の肖像画がずらりと掛けられていた。
(いや怖いわ……)
視線をずらすたび、どのご先祖様とも目が合う。
真ん中にある真っ赤なソファに腰を下ろすと、想像以上のふかふか感にお尻が沈みこむ。
(まさか……王様を呼びに行ったとかじゃないよね?……あ、ルスカかな?そっちなら私が行くよりカレルの方が早いかも……?)
クラリスは落ち着かない様子で部屋の隅々に目を走らせていた。
その時――
ドアががちゃりと開く音。
クラリスがびくっとして振り向いた先には――
にこやかに微笑む、真紅のマントの王子様が立っていた。
(そ、そっちーーー!?!?)
瞬間、顔が熱くなるのがわかる。
脳裏によみがえるのは、あの“おでこへの感触”。
シュヴァンはクラリスの混乱をまるで気にも留めず、すっと近づいてくる。
「やあ。今日も会ったね。昨日はよく眠れたかな。……大事な話があるんだって?」
優しい笑み。
ふわりと香る、石鹸のような清潔な香り。
そして、そっと取られる手。
クラリスの脳内は、完全に真っ白だった。
(なにか言わなきゃ……!なにか……!!)
ごくりと唾を飲み、小さく息を吸って……
口が動いた。
「……き、今日もかっこいいです……!!良い匂いもして最高です……!!」
シュヴァンは、ほんの一瞬だけ目を見開き——
すぐに、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……ふふ、そうでしょう?」
シュヴァンはそっとクラリスの手を握ったまま、柔らかく微笑む。
その背後から、冷え冷えとした咳払いがひとつ。
「フィーリア様の件でしょう。さっさと話しなさい。王子も、あちらにおかけください。……お戯れはほどほどに」
カレルの冷たい視線に、クラリスは首がもげるほど頷いて、真っ赤な顔のままソファへ沈み込んだ。
そうしてあれよあれよと話が進み……
気づけば、フィーリアの部屋に――
王、王妃、フィーリア、シュヴァン、そしてクラリスが揃っていた。
クラリスの正面には、どっしりと座る王と王妃。
右隣にはフィーリア、左隣にはシュヴァン。
(いや明らかに異分子が混入してる……コンタミ……)
そう心の中で突っ込みながらも、ちらりと右を見ると、フィーリアでさえ少し緊張しているように見えた。
(しっかりしないと。大丈夫。あの人たちだって、ただの父親と母親のはず……たぶん)
随分と圧が強い目の前の夫婦に、クラリスの握った指先は真っ白になっていた。
(それに、この場に全員を集めたのは意味がある。フィーリアに、自分で決めさせてあげたいから。なら、わたしががんばらないと)
クラリスは、ごくりと唾を飲んだ。
「……昨晩は、なかなか面白いものを見せてもらいました。ケガはありませんでしたか」
最初に口を開いたのは妃だった。
扇を仰ぎながら、冷ややかながらもどこか楽しげな声音で言う。
「は、はいっ……!」
クラリスはこくこくと頷いた。
「面白い、とな?」
ずっと顎のあたりで髭を撫でていた王が、興味深そうにクラリスを見やる。
「ええ。この娘は昨晩の舞踏会で――
公衆の面前でマリアンヌ夫人を罵倒し、つかみ合いの喧嘩を始め、そしてこのわたくしを、言葉で説得してみせたのです」
妃の言葉に、王は目を丸くし、次の瞬間――
「……真か!それは豪快な!」
高らかな笑い声を上げた。
(あらためて聞くと……なんてことを……わたしは……!)
クラリスの顔がみるみる赤くなっていき、椅子の上で縮こまっていく。
「そ、それは真ですか!? お母さま……つか、つかみ合いって……!」
クラリスの隣で、フィーリアが悲壮な声をあげる。
妃はじっと娘を見つめてから、ゆっくりと頷いた。
「ええ。あなたは、良い“主治医”に恵まれましたね。……まだ医者ではないようですが」
ばさりと扇を広げながら言う妃の言葉に、クラリスの肩がびくりと揺れる。
(……バレてる!!)
「ですが、母上」
柔らかな声で場をつないだのはシュヴァンだった。
「この者が持つ医学の知識は、眼を見張るものがあります。
本日、お呼び立てしたのもそのためです。……ね、クラリス嬢」
シュヴァンは、すぐ隣から優しい笑みでクラリスに視線を向ける。
クラリスは、深く息を吸った。
「フィーリア様の御病状の原因。それは、"くる病"によるものの可能性が高いです」
「くる病?」
右隣から、鈴が鳴るような声が響く。
クラリスは小さく頷いた。
「くる病とは、簡単に言うと栄養素の不足からなる骨の形成不全……骨が作られないことによります。骨を作るにはカルシウム、リンという栄養素が必要です。現状のほぼ野菜のみのお食事では取ることができません」
「昨晩申していた、"血が作られない"とは別問題ということか?」
妃が問うと、クラリスは深く頷いた。
「はい。そのことも、今同時に起きている問題の一つです。ですが、根本の"歩けない"ことの原因は"くる病"によるものです」
クラリスの答えに、妃はぱちんと扇を閉じた。
「だが、そなたには食事を改善するよう命じたろう。それでよいのではないか?」
「いいえお妃様。それではダメなのです。骨を作るカルシウムを吸収するためには、ビタミンDという栄養素が必要です」
クラリスは大きく息を吸うと、まっすぐ妃を見つめた。
「そして、ビタミンDは、紫外線によって作られます。――つまり、日光浴が必要です」
部屋に、ひりつくような沈黙が落ちた。
「……くる病の中には、生まれつき吸収障害のある方や、代謝に問題がある方もいます。でも、フィーリア様は少し前まで歩けていたこと、そして過度な日除けと栄養制限があることを踏まえると――適切な食事と日光浴で、改善する可能性が高いと思います」
「確実か」
王の低い声がびりびりとクラリスを刺す。
クラリスはぐっと拳を握った。
(医療に絶対はない。この世界では採血検査すらできない)
それでも。
(嘘はつきたくない)
クラリスはまっすぐに王を見つめた。
「可能性が高いです」
「ふむ……しかし……俗に、"日に焼けた女子は価値が下がる"というからな……」
王の一言に、びくりとフィーリアの肩が揺れる。
クラリスはそれを横目に捉え、そして口を開いた。
「フィーリア様はこの数ヶ月、貧血によるふらつきや嘔気と闘っておられたはずです。歩けなくなってからは、大好きなダンスもできず、今後一生歩けないのかもしれないという不安と、人知れず戦っておいでだったと思います。……とても、辛かったと思います」
クラリスの言葉に、王は短く呻いた。
「それでも、誰にも気づかれないよう笑顔を浮かべて、誰にでも優しく、わたしの様な庶民を心配までしてくださいます」
そういうと、クラリスはにこりと隣のフィーリアに微笑んだ。
「フィーリア様は頑張り屋さんで優しくて、健気で、強くて気高くて、人の気持ちを察するのがとても上手で――それにとても聡明です」
その瞳が、再び王へと向けられる。
「日に焼けたからと言って、価値が下がるでしょうか?」
フィーリアは眼を大きく開き――そして、涙を浮かべた。
(こんなふうに認めてもらえたの、きっと初めて……)
フィーリアの背を、クラリスの向こう側からシュヴァンがそっと叩いた。
「フィーリア。其方は、どう思う?」
妃の問いに、部屋が静まり返る。
皆の視線が、フィーリアに注がれた。
「……わたくし、治したいです。日に、焼けたとしても」
真っ直ぐに、顔を上げていた。
その瞳は、静かに、でも確かに覚悟を宿していた。
妃はわずかに目を細めると、ゆっくりと立ち上がり、扇を広げた。
そして、ちらりと王に一瞥をくれた。
「よろしい。覚えておきなさい、フィーリア。
あなたの価値を美しさだけに頼れば、他人の評価に縛られることになる。
あなたは――あなた自身が誇れる価値を、磨きなさい」
そして、扇の上からクラリスを見下ろす。
「娘。ルスカから、あなたの話は聞いています。……任せましたよ」
「……はいっ!!」
クラリスは勢いよく立ち上がり、深く一礼した。
「ふはは。わしはただ、失言して終わったようだな!」
王も立ち上がり、にやりと笑うと、クラリスに小さくウインクをした。
クラリスはくすりと笑い、首を横に振る。
「……そなたとは、またどこかで会いそうだな」
どこか愉快そうにそう言い残すと、王もまた堂々と部屋をあとにした。
189
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
分厚いメガネを外した令嬢は美人?
しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。
学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。
そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。
しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。
会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった?
この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。
一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。
役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜
きみつね
恋愛
「リリアーナ・ベルモンド。地味で陰気な貴様との婚約を破棄する!」
薬草研究以外に取り柄がないと罵られ、妹に婚約者を奪われた公爵令嬢リリアーナ。 彼女は冬の雪山に捨てられ、凍死寸前のところを隣国の氷の王太子アレクシスに拾われる。
「見つけたぞ。俺の聖女」
彼に連れ帰られたリリアーナが、その手でポーションを作ると――なんとそれは、枯れた聖樹を一瞬で蘇らせる伝説級の代物だった!?
「君の才能は素晴らしい。……どうか、俺の国で存分に力を発揮してほしい」
冷酷無比と恐れられていたはずのアレクシスは、実はリリアーナに対して過保護で甘々な溺愛モード全開!
エルフの執事、魔導師団長、獣人将軍……次々と彼女の才能に惚れ込む変わり者たちに囲まれ、地味だったはずのリリアーナは、いつの間にか隣国で一番の至宝として崇められていく。
一方、リリアーナを追放した祖国では、奇病が蔓延し、ポーション不足で国家存亡の危機に陥っていた。
元婚約者たちは必死にリリアーナを探すが――。
これは役立たずと蔑まれた薬草オタクの聖女が、最高の理解者(と変人たち)に囲まれて幸せになるストーリー。
書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる