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第一章
第25話 真実の愛は、光の中に
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あの奇跡的な王族ムンテラ(病状説明)の翌朝。
クラリスの姿は、朝からフィーリアの部屋にあった。
カーテンも窓も開け放たれ、陽の光が差し込む室内。
前日までとは打って変わった明るさに、空気までも軽やかに感じられる。
クラリスはベッドに横たわるフィーリアの横で膝をつき、いつものように脈を取り診察を始めていた。
その背後には、不安げなカレルと、不満げなルスカの姿もある。
「昨日の話、全部聞いたぞ。俺が呼ばれていない“家族会議”について、な」
「だって診療所行ってたんでしょ?急いでたんだって。ごめんごめん」
笑いながらフィーリアに服の下から聴診器を当てるクラリス。
一方で、フィーリアはどこか不満げに、じとりとした目で二人のやり取りを見つめていた。
(お兄様ったら、本当にクラリスさんと親しげですのね……)
しかし、すぐに小さく首を振ると、クラリスの手にそっと自分の手を添える。
「ん?」
顔を上げたクラリスと、フィーリアの視線が重なる。
「クラリスさん、わたくし、がんばりますわ。朝食も、残さずいただきましたの。絶対に、治します」
「その意気だよ。病気を治すのは医者じゃなくて、結局は患者さん自身だから。私たちは、手を添えるだけ。その気持ちがあるなら、きっと治るよ」
満足げに頷いたクラリスは、カルテを手に取り、さらさらとメモを走らせる。
「それで……今日はどうすればよいのでしょう?日に当たるのですよね?窓際に座れば?」
フィーリアがきょとんと首を傾げると、クラリスは笑みを浮かべて首を横に振った。
「それもいいけど、もっといい方法、考えてきたの。ルスカにも手伝ってほしくて呼んだんだ」
そう言うと、カルテを置いて立ち上がり、くるりとフィーリアに背を向けてしゃがみ込んだ。
「散歩に行こう!今日は天気もいいし、気持ちいいよ。さあ、乗って!」
フィーリアは首を傾げ、クラリスの背中を見つめる。
ルスカに視線を向けると、彼も困惑した表情で立ち尽くしていた。
「本気ですかクラリス嬢。まさかおんぶでお外へフィーリア様を?」
眉を寄せたカレルに、クラリスは自信たっぷりに笑った。
「だって男は触れないんでしょ。これしか方法ないじゃないですか」
クラリスの言葉に、カレルは小さく呻き声をあげ、額を抑えた。
クラリスはその様子に満足気に頷くと、後ろを振り返った。
「どうしたの?……おんぶだよ?……まさか、知らない……?」
ぎょっとした顔のクラリスが、フィーリアからルスカへと視線を動かす。
二人は顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
「……もしかして王族っておんぶとかしない?じゃあ、私が教えてあげる。まず両手をこうして――」
三人で悪戦苦闘の末、ようやくフィーリアはクラリスの背にしがみつくように乗った。
その近さに、背中から伝わる温もりに、足元をしっかり支える力強い手に――
フィーリアの胸が、どきどきと高鳴る。
クラリスが足を支える手に力を入れ、ぐい、と立ち上がる。
初めての揺れにフィーリアは思わずぎゅっと目を閉じてしがみついた。
「どう?怖い?」
クラリスの問いに、フィーリアがそっと目を開けると、フィーリアの視界はふわりと高くなっていた。
「わぁ……!」
思わずこぼれたフィーリアの笑顔に、クラリスはルスカと目を合わせ、微笑んだ。
城の中庭には大きな噴水とそれを取り囲むような色とりどりの花壇、綺麗に整えられた芝生と、数々の石像があった。
澄み渡った青空からはぽかぽかと暖かな陽射しが肌を柔らかく刺し、少し冷ややかな風が頬を撫でる。
(こんなにも美しい景色があっただなんて……)
フィーリアは声も出せずにただ視線を動かす。
頬を撫でる風に髪が揺れた。
「どう?ルスカがね、中庭は綺麗だって教えてくれたからさ」
「……フィーリアも来たことはある。何年も前にな」
石像を見つめながら、ルスカがぽつりと呟いた。
「……そう、でしたか。わたくし、覚えておりませんでした」
景色から目を離せないまま、フィーリアが小さくつぶやく。
「姫様は……お勉強のお時間でお忙しくされていましたからね……」
落ちたトーンのカレルの声に、クラリスは視線を伏せる。
(子どもらしい時間を、過ごせていなかったんだ……)
クラリスはフィーリアを抱え直し、ゆっくりと噴水のほうへと歩き出した。
取り囲む花壇では、小さな蜂が花から花へと忙しなく飛び回っている。
「ほらみて?蜂もいるし、てんとう虫もいる。触らないようにね、刺されると痛いから」
おろおろと心配そうに眺めるカレルを尻目に、クラリスは笑みを浮かべた。
「これが蜂ですのね……なんて愛らしい色なのかしら……」
「愛らしい!?生の蜂にそんなこと言う人初めてみたけど、確かにそうかもね」
クラリスが思わず笑うと、フィーリアもふっと笑い、背中に添えていた手にきゅっと力がこもった。
「ちょっと座ってみる?芝生に座るの気持ちいいよ」
「い、いけません!地べたに姫様を座らせるなど……!」
慌てて声を上げるカレルに、ルスカが深いため息をついた。
「おまえたち家臣は何でも"いけません"とうるさい。地べたがダメならばこれならいいのか」
そういうと、ルスカはマントを留める金具を外し、マントを外すと芝生の上に広げた。
「ル、ルスカ様……!!」
「うるさい。これは兄上に教えていただいたんだ。文句があるならそっちに言え」
そのままクラリスのほうを向き、顎で「下ろせ」と指示する。
「お、王族ムーブ……マントってピクニック用だったんだね」
クラリスは苦笑しながら、そっとフィーリアをマントの上に降ろし、自分は隣の芝生の上に腰掛けた。ルスカもクラリスの隣に続いた。
「カレル。あなたも」
渋い顔をしていたカレルだったが、フィーリアがにこりと微笑むと、フィーリアの斜め後ろに腰を下ろした。
噴水の水が水面に落ちる音がただ響き、柔らかな陽射しが肌を暖めていた。
「おひさまが気持ちいいねー……」
クラリスが呟くと、フィーリアは目を細め、小さく頷いた。
「ねえ、知ってる? フィーリアって“白雪姫”って呼ばれてるんだよ」
空を仰いだまま、クラリスがのんびりと続ける。
「……白雪姫が倒れたって、噂されているのでしょう?」
フィーリアはぽつりと答えた。
その声は、少しだけ寂しげだった。
「そうだね、噂ってやだよね。でもさ、童話の白雪姫は、王子様のキスで目を覚ますでしょ?フィーリアはおひさまの光で目を覚ますんだよ。それって素敵じゃない?」
そう言って、クラリスはフィーリアに微笑みかけた。
「だって、おひさまは毎日自分で行けば必ずそこにいる。雨でも、曇りでも、雲の向こうにはちゃんといる。待たなくていいんだから」
ゆるやかな風がクラリスの髪を撫でていく。
「まああとは、医者としてはキスで目が覚めてれば苦労しないよね」
「途中までいいことを言っていたのに、台無しになったな」
ルスカがはぁ、とため息をつく。
ごめんねと笑うクラリスの隣で、フィーリアは瞬きも忘れ、ただクラリスの横顔を見つめていた。
それからの日々。
クラリスは毎朝、フィーリアをおんぶして中庭へ連れ出すようになった。
蝶やを追い、芝生に座り、風の匂いを吸い込む。
雨の日には図書館や厩舎、城の調理場に行く日もあった。
城の人々は行く先々で、驚きと喜びの笑顔でフィーリアを迎えた。
やがてヴィルが加わり、見張りのカレルはいつの間にかスイーツ選定係も兼ねたお茶係になった。ミュラーやシュヴァンもたまに顔を出すようになった(シュヴァンが来た時にはクラリスは毎度正気を保てなかった)。
水遊びや紅葉狩りや雪遊びも楽しめるようになった。
季節がめぐるうちに、フィーリアの頬には少しずつ赤みが差し、足にも力が戻ってきていた。
……そして今、フィーリア姫主催の舞踏会が、目前に迫っていた。
クラリスの姿は、朝からフィーリアの部屋にあった。
カーテンも窓も開け放たれ、陽の光が差し込む室内。
前日までとは打って変わった明るさに、空気までも軽やかに感じられる。
クラリスはベッドに横たわるフィーリアの横で膝をつき、いつものように脈を取り診察を始めていた。
その背後には、不安げなカレルと、不満げなルスカの姿もある。
「昨日の話、全部聞いたぞ。俺が呼ばれていない“家族会議”について、な」
「だって診療所行ってたんでしょ?急いでたんだって。ごめんごめん」
笑いながらフィーリアに服の下から聴診器を当てるクラリス。
一方で、フィーリアはどこか不満げに、じとりとした目で二人のやり取りを見つめていた。
(お兄様ったら、本当にクラリスさんと親しげですのね……)
しかし、すぐに小さく首を振ると、クラリスの手にそっと自分の手を添える。
「ん?」
顔を上げたクラリスと、フィーリアの視線が重なる。
「クラリスさん、わたくし、がんばりますわ。朝食も、残さずいただきましたの。絶対に、治します」
「その意気だよ。病気を治すのは医者じゃなくて、結局は患者さん自身だから。私たちは、手を添えるだけ。その気持ちがあるなら、きっと治るよ」
満足げに頷いたクラリスは、カルテを手に取り、さらさらとメモを走らせる。
「それで……今日はどうすればよいのでしょう?日に当たるのですよね?窓際に座れば?」
フィーリアがきょとんと首を傾げると、クラリスは笑みを浮かべて首を横に振った。
「それもいいけど、もっといい方法、考えてきたの。ルスカにも手伝ってほしくて呼んだんだ」
そう言うと、カルテを置いて立ち上がり、くるりとフィーリアに背を向けてしゃがみ込んだ。
「散歩に行こう!今日は天気もいいし、気持ちいいよ。さあ、乗って!」
フィーリアは首を傾げ、クラリスの背中を見つめる。
ルスカに視線を向けると、彼も困惑した表情で立ち尽くしていた。
「本気ですかクラリス嬢。まさかおんぶでお外へフィーリア様を?」
眉を寄せたカレルに、クラリスは自信たっぷりに笑った。
「だって男は触れないんでしょ。これしか方法ないじゃないですか」
クラリスの言葉に、カレルは小さく呻き声をあげ、額を抑えた。
クラリスはその様子に満足気に頷くと、後ろを振り返った。
「どうしたの?……おんぶだよ?……まさか、知らない……?」
ぎょっとした顔のクラリスが、フィーリアからルスカへと視線を動かす。
二人は顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
「……もしかして王族っておんぶとかしない?じゃあ、私が教えてあげる。まず両手をこうして――」
三人で悪戦苦闘の末、ようやくフィーリアはクラリスの背にしがみつくように乗った。
その近さに、背中から伝わる温もりに、足元をしっかり支える力強い手に――
フィーリアの胸が、どきどきと高鳴る。
クラリスが足を支える手に力を入れ、ぐい、と立ち上がる。
初めての揺れにフィーリアは思わずぎゅっと目を閉じてしがみついた。
「どう?怖い?」
クラリスの問いに、フィーリアがそっと目を開けると、フィーリアの視界はふわりと高くなっていた。
「わぁ……!」
思わずこぼれたフィーリアの笑顔に、クラリスはルスカと目を合わせ、微笑んだ。
城の中庭には大きな噴水とそれを取り囲むような色とりどりの花壇、綺麗に整えられた芝生と、数々の石像があった。
澄み渡った青空からはぽかぽかと暖かな陽射しが肌を柔らかく刺し、少し冷ややかな風が頬を撫でる。
(こんなにも美しい景色があっただなんて……)
フィーリアは声も出せずにただ視線を動かす。
頬を撫でる風に髪が揺れた。
「どう?ルスカがね、中庭は綺麗だって教えてくれたからさ」
「……フィーリアも来たことはある。何年も前にな」
石像を見つめながら、ルスカがぽつりと呟いた。
「……そう、でしたか。わたくし、覚えておりませんでした」
景色から目を離せないまま、フィーリアが小さくつぶやく。
「姫様は……お勉強のお時間でお忙しくされていましたからね……」
落ちたトーンのカレルの声に、クラリスは視線を伏せる。
(子どもらしい時間を、過ごせていなかったんだ……)
クラリスはフィーリアを抱え直し、ゆっくりと噴水のほうへと歩き出した。
取り囲む花壇では、小さな蜂が花から花へと忙しなく飛び回っている。
「ほらみて?蜂もいるし、てんとう虫もいる。触らないようにね、刺されると痛いから」
おろおろと心配そうに眺めるカレルを尻目に、クラリスは笑みを浮かべた。
「これが蜂ですのね……なんて愛らしい色なのかしら……」
「愛らしい!?生の蜂にそんなこと言う人初めてみたけど、確かにそうかもね」
クラリスが思わず笑うと、フィーリアもふっと笑い、背中に添えていた手にきゅっと力がこもった。
「ちょっと座ってみる?芝生に座るの気持ちいいよ」
「い、いけません!地べたに姫様を座らせるなど……!」
慌てて声を上げるカレルに、ルスカが深いため息をついた。
「おまえたち家臣は何でも"いけません"とうるさい。地べたがダメならばこれならいいのか」
そういうと、ルスカはマントを留める金具を外し、マントを外すと芝生の上に広げた。
「ル、ルスカ様……!!」
「うるさい。これは兄上に教えていただいたんだ。文句があるならそっちに言え」
そのままクラリスのほうを向き、顎で「下ろせ」と指示する。
「お、王族ムーブ……マントってピクニック用だったんだね」
クラリスは苦笑しながら、そっとフィーリアをマントの上に降ろし、自分は隣の芝生の上に腰掛けた。ルスカもクラリスの隣に続いた。
「カレル。あなたも」
渋い顔をしていたカレルだったが、フィーリアがにこりと微笑むと、フィーリアの斜め後ろに腰を下ろした。
噴水の水が水面に落ちる音がただ響き、柔らかな陽射しが肌を暖めていた。
「おひさまが気持ちいいねー……」
クラリスが呟くと、フィーリアは目を細め、小さく頷いた。
「ねえ、知ってる? フィーリアって“白雪姫”って呼ばれてるんだよ」
空を仰いだまま、クラリスがのんびりと続ける。
「……白雪姫が倒れたって、噂されているのでしょう?」
フィーリアはぽつりと答えた。
その声は、少しだけ寂しげだった。
「そうだね、噂ってやだよね。でもさ、童話の白雪姫は、王子様のキスで目を覚ますでしょ?フィーリアはおひさまの光で目を覚ますんだよ。それって素敵じゃない?」
そう言って、クラリスはフィーリアに微笑みかけた。
「だって、おひさまは毎日自分で行けば必ずそこにいる。雨でも、曇りでも、雲の向こうにはちゃんといる。待たなくていいんだから」
ゆるやかな風がクラリスの髪を撫でていく。
「まああとは、医者としてはキスで目が覚めてれば苦労しないよね」
「途中までいいことを言っていたのに、台無しになったな」
ルスカがはぁ、とため息をつく。
ごめんねと笑うクラリスの隣で、フィーリアは瞬きも忘れ、ただクラリスの横顔を見つめていた。
それからの日々。
クラリスは毎朝、フィーリアをおんぶして中庭へ連れ出すようになった。
蝶やを追い、芝生に座り、風の匂いを吸い込む。
雨の日には図書館や厩舎、城の調理場に行く日もあった。
城の人々は行く先々で、驚きと喜びの笑顔でフィーリアを迎えた。
やがてヴィルが加わり、見張りのカレルはいつの間にかスイーツ選定係も兼ねたお茶係になった。ミュラーやシュヴァンもたまに顔を出すようになった(シュヴァンが来た時にはクラリスは毎度正気を保てなかった)。
水遊びや紅葉狩りや雪遊びも楽しめるようになった。
季節がめぐるうちに、フィーリアの頬には少しずつ赤みが差し、足にも力が戻ってきていた。
……そして今、フィーリア姫主催の舞踏会が、目前に迫っていた。
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