【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

思考機械

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135話「神速」(視点・アスカ→ヒロヤ→アスカ)

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(あの青年は……誰だ?あの魔人となったオットーを前にして、不敵に笑う青年は……)

 いや、あのヒロヤである事は間違いない。だが、アタシの目の前にいるヒロヤは、幼く愛らしい姿ではなく──

「来いよ下衆野郎。もう一回地獄に送ってやるよ」

 およそヒロヤとは思えない挑発を繰り返す美しい青年。
 目の前の出来事が信じられず、チラとリズに目をやる。魔人オットーが自分を狙っているというのに、蕩けた表情で青年を見つめている。それどころか馬上で物欲しそうに腰をくねらせるとか、あの凛とした態度で指揮を取るリズとは到底思えない。

(青年がオットーに負けるはずがない。そう信じてるから……か?)

 いや、余計な考えは振り払おう。この魔人となったオットーに対して、自分の力を全て出し切ってでも打ち倒す事はかなわないだろう。
 ヒロヤが──この青年がどこまで魔人オットーと渡り合えるかはアタシにとっては未知数だ。ならば、アタシの全力を以ってリズだけでも逃さなければならない。
 幸い、この魔人はアタシの身体を狙っている。その犠牲にさえなれば、ヒロヤとリズはなんとか逃がせる。アタシも命だけは助かるだろう。

(ゴージュ……すまないね……)

 覚悟を決めたアタシは刀を青眼に構え、オットーを見据える。

「アスカ。肩の力抜きなよ。下がってリズと一緒に見てりゃいい……俺の弟子の女なんだろ?指一本触れさせねぇから安心しな」

 居合の構えは維持しつつも、敵であるオットーから平気で視線を外し、アタシに笑いかける青年ヒロヤ

(あ……)

 なんだこの安心感。中性的な整った顔立ちなのに、全身からオスを感じる力強い雰囲気。それを感じとったアタシの身体は、無意識に股を濡らす。

(なるほどね……リズ達がベタ惚れになる訳だよ)

 アタシは肩の力を抜いて、刀を鞘に納める。
 それを確認した青年ヒロヤは、ニッと笑って、オットーに視線を戻した。

「んじゃ、行くぜ下衆野郎」

 青年ヒロヤが地面を蹴った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 俺はアスカが下がったのを確認し、オットーに向き直る。

「んじゃ、行くぜ下衆野郎」

 地面を蹴り、オットーの懐に飛び込む。

「むうっ!」

 俺の挑発に、言い返しもせずにずっと押し黙ってたのはヤツなりの警戒だったのだろう。一言唸り、俺の抜き撃ちの一閃に手にした長剣を合わせてくる。

(かろうじて見えてやがるか……)

 以前二度相対した時は、俺の速度に全くついてこれなかったどころか、見えてなかった筈だ。

(これが『魔人化』で手に入れた力か)

 しかし圧倒的に優る速度によって、俺のパワーがヤツのパワーを遥かに上回る。
 軽く長剣を撥ね上げ、納刀と同時に側頭部に回し蹴りを放つ。

「グッ!」

 不意の一撃には対応できなかったか、蹴りがこめかみに炸裂する。
 その衝撃からか、オットーが膝を折る。

「魔人になってようやく見えるようになったか……相手になんねぇな」
「ぬかせ!蹴りなんぞでオレは死なんぞ!太刀筋が見切られた事に臆したか!」

 すぐに立ち上がり、吠えるオットー。

「あれ?これが俺の最速だと勘違いしてねぇか?」
「何!?」
「まだ速くできるぜ……」

 俺は腰を低く落とし、目を瞑り集中する。

身体強化フィジカルブーストなら無効化できるぞ!ハッタリもいい加減に──」

 目を見開き、もう一度地面を蹴る。今度は全く反応できないようだ。容易に懐に入り込み、その胴を薙ぎ払う。恐らく、この瞬間ヤツは自分が斬られた事にすら気付いていない。
 魔人オットーの横を駆け抜け『闇斬丸』を納刀する。
 次の瞬間、脇腹からどす黒い血を噴き出しながら倒れるオットー。

「テメェの邪眼なんか効かねぇんだよ。これは精神集中ってやつで、魔術でも何でもねぇ」

 仰向けに倒れ、脇腹を抑えるオットーの顔が驚愕に歪む。

「な……再生……せん……?」
「あ、俺の愛刀『闇斬丸』っていうんだけど……聞いた事ない?」
「『妖魔特効』か……」
「正確には『魔の眷族に対する特効』な。……次は首か?」

 オットーに向かって一歩踏み出したところで、ヤツの影から先程のデーモンが現れてオットーを抱え込む。

「魔人殿、ここは退きましょう」

 デーモンの言葉に、何も答えないオットー。

「ヒロヤ殿と言ったか……またいずれ……」

 軽く頭を下げたデーモンが、一瞬で姿を消した。

「オットー!下衆野郎!俺とリズのラブラブセックス見ていかねぇのか!」

 挑発してみるも、既に辺りに気配は無かった。

(まぁ……浩哉で負けることはない)

 問題は、この後の『反動』なのだ。戦闘後に行動不能になる事を考えると、魔人化したオットーごとき、浩哉の力に頼らずとも斃せるようにならなきゃダメだ。
 今回は、アスカと俺の女であるリズを言葉で辱めた報いを受けさせる意味で、『圧倒的実力差』を見せつけて斃さなきゃならなかったんだ。

(……まぁ逃げられたけどね……)

 今の俺の実力では、ダンジョン主であるアズラデリウスを討伐するなんぞ到底無理だろう。

(まだ──力が足りない……)

 俺は浩哉の力を解放した後に必ず訪れる『情欲の波』を感じながらも、今の身体の俺でもやれる事に思考を巡らせた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

(何だ?アタシは今、何を見てるんだ……?)

 いや、正確には『何も見えてなかった』。
 青年ヒロヤが地面を蹴ったと思ったら、次の瞬間にはこめかみを抑えながら膝をつくオットーの姿があった。いや、途中剣を合せる金属音が一度だけ聴こえたが、オットーのこめかみに刀傷は無い。

「ぬかせ!蹴りなんぞでオレは死なんぞ!太刀筋が見切られた事に臆したか!」

 蹴り……だと?そんな攻撃は一切見えなかった。

 青年ヒロヤが目を瞑り、抜刀の構えを取る。しばらく後、目を開き、再び地面を蹴った。
 そして、次の瞬間には魔人オットーの脇腹から血が噴き出していた。

(神速……)

 圧倒的速度。全く見えない。その速度に加えて青年ヒロヤが得意とする『居合』という抜刀術。完璧な組み合わせだ。

(無敵……じゃないか……)

 魔人と化したオットーが子供扱い。その青年ヒロヤの強さに思わず戦慄する。いや、この身体の震えは恐怖だけではない……恐らくアタシは軽く絶頂した。
 そんな風にアタシが動けないでいる間に、オットーはデーモンに連れ去られてしまった。

「流石はヒロヤだよ♡」

 馬から飛び降りたリズが、青年ヒロヤを抱き締め、頬にキスの嵐を送っている。

「アンタ……ヒロヤなのかい?」

 既にわかっている事だが、アタシは敢えて訊ねてみた。

「アスカに見られちまったんだなぁ……すまん、またちゃんと説明するからさ」

 リズからキスの洗礼を受けながら、照れたように笑う青年ヒロヤ。あぁ……この表情はやっぱりあのヒロヤだ。

「アスカ……馬車の連中と合流して、先にラツィア村に向かっといてくれないか?俺は……その……」
「アタイとヒロヤ、今からちょっと……な?」

(あぁ……さっき言ってたな……)

「オットーに見せつけたかったんだけどな♡ アイツ逃げやがったから」

 リズが恥ずかしそうに微笑む。

「ここでか?……いやまぁ理解できん事はない。あんな圧倒的な力見せつけられたら……メスが刺激されるよな」
「アスカも分かるか!」
「あぁ……アタシも早くゴージュに抱かれたくなった」
「すぐに追っかけるから、心配するなと伝えておいてくれ」

 青年ヒロヤがウインクする。

「わかった。……ほどほどにな。風邪引くぞ……」

 アタシは雪の舞う森の中を駆け出した。



 それから数時間後、村に到着したアタシ達に遅れる事四半刻ほど……リズが、倒れた『小さなヒロヤ』を鞍の前に乗せて村へと帰ってきた。
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