どうしょういむ

田原摩耶

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昔虐めてきた性悪双子と一週間ひとつ屋根の下で生活する羽目になった。一日目。

子供部屋の悪夢※

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 俺にとってあの部屋は――慈光じこう家の子供部屋は悪夢のような場所だった。
 勿論楽しい思い出もある。それでも、あまり思い出したくもない思い出の方が多かった。

美甘みかも、なにやってんだ? 言ったよな、俺らから逃げたら負けだって」
「罰ゲームだよ、美甘。ほら、うつ伏せになって」

 左右から聞こえてくる二人の声に背筋が凍り付く。
 まだ幼い頃は俺たちの身長差と呼べるものはなかったはずだったのに、気付けば追い抜かれていた。学校でも背丈のある二人に左右で挟まれれば萎縮してしまうのも無理もない。
 元より逃げるな、という方が無理なのだ。だってこいつらは。

「い、いやだ……っ、こんなのおかしいよ、俺たち友達なのに……っ!」

 ただの冗談、ただの悪ふざけ。
 それで片付けるには俺達は子供ではなくなっていた。それなのに、この二人はお互い瓜二つな顔を見合わせて笑うのだ。

「っは、はは! 友達……友達なあ? だってよ、燕斗えんと
「笑うなよ宋都さんと。……美甘、俺たちも美甘のことが大好きなんだ。こうやって遊べるのもいつまで続くかわからないしな」
「そーそー、そゆことそゆこと」

 ガキ大将を体現化したような男が宋都で、同級生たちに比べて大人びているのが燕斗。
 一卵性双生児である二人の顔の造形や声は鏡写しようだが、性格や好み、喋り方は正反対だ。けれども、根底にあるものは同じである。
 ――最悪に、性格が悪かった。

「んじゃ、さっさと脱げよ」

 美甘、と宋都に肩を抱かれる。活発で日頃校庭や体育館を走り回って遊んでる宋都に対し、俺はというと教室の隅っこで一人で読書する方が好きな人間だ。そんな俺が宋都に力で敵うはずなどなかった。
 逃げようとすれば「駄目だよ、美甘」と燕斗に腕を掴まれ、捻りあげられる。カーペットの上、痛みを和らげようと堪らず這いずるような体勢になったのを見て、宋都はそのまま俺の上に馬乗りになって身につけていた衣類を剥ぎ取るのだ。

「っ、い、嫌だっ、宋都……ッ! やめてってば……!」
「お前がちゃんと言うことを聞かないからだろ。相変わらずだせえパンツ履いてんだな」
「み、見ないで……っ!」

 必死に隠そうとするが、宋都に両手首を掴まれそのまま頭上で交差するように捉えられる。鍛えていない貧相な体を二人に見られることが恥ずかしかったし、こんなことをして何が楽しいのかも分からなかった。

「い、嫌だ……っ、宋都、燕斗……ッ」
「美甘、ごめんね。けど負けたお前が悪いよ」
「なあ? 罰ゲームは絶対だよな」

 笑い合う二人の視線が自分の体に向けられるのが分かり、全身が泡立った。
 罰ゲーム、なんてただの横暴だ。最初はお互い笑い合って終わるレベルの軽いものだったのに、明らかにそれがエスカレートしていってることを俺でも流石に分かった。
 それに、頭がよくて要領もいい二人相手だ。いつだって負けるのは俺で、罰ゲームを受けるのも俺。

「も、やめようよ、こんなの……ッ」
「負けたやつが何言ってんだよ。ほら、お前だって乳首立ってんじゃん」
「っ、ん、ぅ……ッ!」

 隠すこともできないまま、ぷっくりと尖った乳首を宋都に摘まれ息を飲む。
 二人に悪戯に触られるようになってから以前よりも明らかに腫れぼったくなっていることが自分でも分かった。

「っは、う……ッ、や、だ……そこ……ッ」
「美甘、胸弱いよね。ビクビクして可愛いな」
「え、燕斗……っ、助けて……ッ」
「駄目だよ美甘、今日の一番は宋都だからね。俺もこいつには逆らえないんだ」

 燕斗は悪びれもなく笑い、そのまま慰めるように俺の手を握り締めてくるのだ。

「とかいいながら、いつも順位関係なく割り込んでくるくせにな」
「逆らえないけど、割り込むなとも言われてないからね。それに、宋都は優しいから許してくれるだろ?」
「まあな」

 ここだけ見ていたら仲睦まじい双子なのだろうが、俺からしてみれば冗談ではない。
 伸びてきた手に胸を揉まれ、腿を撫でられる。
 運動でも勉強でもゲームでもなんでもだ、三人の中で一番弱かったやつは罰ゲーム。そんな遊びを最初にしたのはいつだっただろう、最初は荷物持ちなどそんなものだったのに、気付けば二人に性的な意図を持って体を触れられることが多くなった。


 今回の罰ゲームは股で挟める、ということだった。宋都がいうには素股、というらしい。
 俺と違い、二人は性でも早熟だった。女の子にも当たり前のようにモテてたし、女の子にすら話しかけられない俺を笑っていた。

「美甘、腿締めろよ」
「っ、う、うう、やだ……っ、これ……」

 両方の腿を掴み、くっつけたその間に性器を挟める宋都。宋都が動くたびに脚の間でにゅるにゅるとぬめった肉の感触がして気持ち悪かった。

「てか、美甘細すぎ。骨じゃん。かってえし、全然気持ちくねえわこれ」

 泣きそうになる俺を前に、宋都は腰を動かしながらそんな勝手なことを言い出すのだ。

「っそ、そんなこと言うんだったら……」

 やめてよ、と言い終わるよりも先に、下着を捲られ、そのまま開かれた腿の奥、お尻の穴に宋都の指が触れてぎょっとする。
 そのままぐに、と閉じたそこを親指で広げられそうになり、息を飲んだ。

「っ、さ、さんと……ッ?!」
「じゃあ、こっち使っていい?」
「だ、……ッ」
「宋都」

 駄目に決まってるだろ、と答えるよりも先に燕斗が口を挟むほうが早かった。
 燕斗は珍しく怖い顔をしていた。一言で燕斗が言わんとしていたことに気付いたようだ、宋都は「はいはい」と笑って俺の下腹部から手を離す。
 そして腿の間から性器を引き抜き、そのまま膝立ちになり、俺の顔の前へと性器を突きつけるのだ。
 目の前、鼻先に押し付けられる宋都の性器にぎょっとするのも束の間、宋都は俺の鼻の頭を摘む。

「んじゃ、仕方ねーからいつも通り口でやれよ。美甘」

 また、結局この流れなのだ。
 このときの俺はもう、逃げることを諦めていた。二人から逃げ出そうとすればもっと酷いことをされるかもしれない。そんな恐怖が染み付いていたのだ。

 言われるがまま、俺は目の前の宋都の性器に口付けた。

 いつまでこんな関係が続くのだろうか。二人に玩具にされ続けるような関係が。
 そう思っていたが、案外その終わりはあっさりと訪れることとなる。




「……っ、いってぇ……」

 頭がずきずきと痛み、頭痛とともに朝を迎える。
 なんだか酷く懐かしい夢を見た。それも、あまりよくない夢だ。
 起き抜け、ベッド横のサイドボードに用意していた温いミネラルウォーターと常備薬を手に取り、喉奥へと流し込んだ。暫くそのままの体制でいると、ようやくその頭痛も収まっていく。

 美甘とおい、十六歳。
 春を迎え、俺は高校二年に上がった。
 幼い頃からあまり体は強い方ではなかったが、今ではなんとか人並みには動けるようになっていた。
 それにしても、あいつらの夢を見るなんて。
 ――慈光宋都、慈光燕斗。
 保育園と小中が同じという理由で人生の半分以上を一緒に過ごしてきたといっては過言でもない、所謂幼馴染であったが、もうここ暫く二人とは会っていない。というのも高校が別々の高校に通うことになったのが大きいだろう。あいつらは電車通学で、俺は徒歩通学。まず朝は会わないし、夜も俺も俺で避けてきた。
 学校が違うというだけでも結構大きい。ようやくあの双子から逃れることができた俺は伸び伸びと過ごすことが出来ていた。高校に上がった途端『なんかあの双子といつも一緒にいるから絡みづらかったんだよな』と話しかけてきた元同級生たちと仲良くすることもできたお陰で毎日は充実してるし、あの二人にマウント取られ続けて鬱屈していた性格も一年も経てばなんとか改善されてくる。
 あいつらといること自体デバフのようなものだったのではないかとも今なら思える。それでも、風の噂ではやっぱりあの双子は目立っていたし、俺がいなくとも注目を受け続けてるのだと思うとなんだか妙な心地だった。
 けれど、もう今の俺はあいつらとは無関係だ。そう、自由なのだ。あんないじめっ子どものことは忘れよう。そう喝を入れ、俺は一階のリビングへと降りる。

 リビングでは朝食を用意した母と、仕事前の父がいた。いつもの日常、いつもの風景。ああ、これでいい。これがいいのだ、と噛み締め浸ってると「ああ、遠。丁度いいところに」と母に声を掛けられた。

「……え、なに?」
「父さんと母さん、明日から旅行でいないから。一週間くらい」
「ふーん……って、一週間?」

 長くないか?と思ったが、一週間親に早く寝なさいだとか言われずに夜ふかしし放題だと考えると悪くはない。

「けど、あんたは学校もあるでしょ。だから、一週間慈光さんに面倒見てもらうようにお願いしてるから」
「うん、別に一人でも平気……って、え?」

 今、なんて言った?

「一人にしたら夜ふかしするでしょあんた、駄目に決まってるでしょ。ほら、慈光さんって……小中一緒だったじゃない。宋都君と燕斗君のとこ。旅行のこと行ったら一週間あんたの面倒も見てくれるっていうからお願いしたのよ。それに、あの子たちとも長らく会ってないでしょ、良かったじゃない」

 人が思考停止してる間に母のマシンガントークは続く。畳み掛けてくる衝撃的な内容に頭の奥がガンガンと痛みだした。

「い……ッ、いや、いい、てか高校生にもなったんだから一人でも別に平気だし……」
「何言ってんの、もしなにかがあったらどうするのよ」
「そうだぞ、母さんの言うことは聞いておけ」

 ようやく口開いたと思えば母に加勢し出す父親に俺は頭を抱えた。

「……わ、分かったよ」

 本当は1ミリも頷きたくもないが、これ以上の会話は平行線だと分かっていた。とりあえずここは大人しくしておこう。
 行かなければいいのだ。そしておばさんになんか言われたら『忘れていた』と惚ければいい。
 そう軽い気持ちで俺はその場を流した。今思えばそれが悪手だったことがよくわかる。
 あのとき、慈光家は嫌だと強く言っておけば良かったのだ。






 翌日。
 聞いていた通り、両親は朝早くから旅行へ向かった。それを見送り、さあ二度寝でもするかと思った矢先、インターホンが鳴り響く。
 こんな朝から誰だと思いながら部屋へ戻ろうとするが、再び部屋の中にインターホンが響いた。
 渋々インターホンを確認すればそこに映し出された顔を見て血の気が引いた。レンズ越し、こちらに手を振るのは瓜二つの顔をした男二人。
 ――宋都と燕斗だ。
 嘘だろ、なんであいつらがここに。逃げなければ、と固まってる間に玄関の扉が開く音が聞こえてくる。

「な……ッ!」

 やばい、と隠れようとするが遅かった。
 デカい足音とともにバタバタと近付いてくる気配に身が竦む。リビングのソファーの陰に隠れようとしたとき、扉が勢いよく開いた。

「あ、本当だ。ここにいた」
「だから言っただろ。美甘はインターホン確認するけど絶対出ないって」
「ちゃんと出ろよ、美甘」
「……っ、宋都……燕斗……ッ! な、どうやってここに……ッ!」
「どうやってって……さっきそこでオバサンたちと会ったんだよ。『もしかしたら逃げるかもしれないからちゃんと連れて行ってやってくれ』って、鍵もくれたし」

 ほら、と燕斗は俺の眼前に鍵をぶら下げる。
 間違いない。というか、何を考えてるんだうちの母親は。なんでよりによってこいつらに。
 混乱と戸惑い、そして焦りで固まってると「みーかも」と宋都に肩を抱き寄せられる。

「つかさ、久し振りじゃね。少しは背ぇ伸びたか? 縮んだ?」
「ち、縮んでない……っ、ていうか、俺は別に一人でも大丈夫だし。うちの親が勝手に言ってるだけで、オバサンには断っておいて……」
「いやいやいや、そりゃないだろ」
「そうだよ、美甘。俺たち、美甘が泊まりに来るって聞いてずっと楽しみにしてたのに」

 俺はそうじゃない。一緒にするな。そう言い返すことができればいいのに、燕斗に手を握られると背筋が凍りつくのだ。向けられた視線はじっとりと絡みつくようで、その目で見詰められるとぞわぞわと無数の虫が這い上がっていくような嫌な感覚に襲われるのだ。
 最後に話したのは大分前なのに、なに一つ変わらない。いや、昔よりも図体だけでかくなった連中に挟まれ、両腕を掴まれる。
 腕に食い込む指の感触に、記憶の奥底へと押し込めていたものがぶわりと蘇る。咄嗟に「ま、待って」と叫べば、右脇を掴んでいた宋都は笑った。

「待たねえよ。腹減ってんだよ、俺」
「っ、さ……宋都……」

 睫毛が当たりそうなほどの至近距離、顔を寄せてくる宋都に凍り付く。そのまま鼻先を噛まれるのではないか、そんな恐怖で思わずぎゅっと目を瞑ったとき。

「朝飯、美甘もまだだろ? うちのババアが張り切って作ってたから、さっさと帰ろうぜ」

 そう笑う宋都に、俺は思わず目を開けた。
 てっきりなにかの暗喩かと思っていただけに戸惑う。

「美甘の好物ばかり準備して、俺達の好物全部無視してるんだよあの人」
「好物……」
「うん、だから俺たちと一緒に帰ろう?」

 笑う燕斗にそっと頭を撫でられる。
 てっきり、いきなり服剥ぎ取られて全裸で踊らされるのではないかと怯えていたが、以前の、関係がおかしくなる前のように振る舞ってくる燕斗と宋都に俺は狼狽えた。
 本当になにもなかったように優しくしてくれるのだ。もしかしたら反省して俺への対応を改めてくれているのだろうか。分からなかったが、ずっと元のような関係に戻りたい。そう思っていた俺にとってそれは嬉しいことだった。
 だから、俺はうっかり「わかった」と差し出された燕斗の手を取ってしまったのだ。
 そのとき宋都と燕斗が笑ったことなど知らず、「俺もお腹減ってたんだ」なんてアホみたいな顔をして。

 それから念の為家の戸締まりをし、燕斗に言われるがまま必要なものの準備だけして俺は双子に挟まれて家を出る。荷物は燕斗が持ってくれてるし、なんというか至れり尽くせりというやつだ。
 俺んちと慈光家はそう遠くない距離にある。しばらくもしないうちに現れた無駄に広い庭付きの大きな家を前に、頭の奥がずきずきと痛んだ。
 先を歩いていく宋都がこちらを振り返り、「どうした?」と声をかけてきた。

「い、いや……大丈夫」
「また頭痛かよ。薬は?」
「まだ……」
「じゃあ早く部屋で休んだ方がいいかもね」

 行こうか、と背後に立っていた燕斗に背筋を撫でられた瞬間、言葉にし難い感覚が広がった。じんわりと熱を孕んだ痺れるような間隔は不快感にもよく似ていた。
 この家には、一時期毎日のように来ていた。中の内装の場所も鮮明に覚えてるくらいだ。その子供部屋には、いい思い出がない。
 でも、俺達も高校生になったのだ。まだ常識もなにも知らなかった子供の頃とは違う。
 あんな過ち、起きるはずがない。それに、二人だってもう彼女の一人や二人は出来てるだろう。わざわざおかしなことをするはずはない。
 そう自分に言い聞かせ、呼吸を整える。そして、俺は心配そうに見てくる燕斗に「もう大丈夫だ」とだけ答えて足を進めた。

 門を通り抜け、慈光家の敷地に足を踏み入れる。
 オバサンの趣味である可愛らしい置物が置かれた庭先を抜け、やってきたのは玄関前。

「懐かし……」
「ほら、美甘こっち」

 燕斗に腕を掴まれたまま、俺はその後ろについていく。
 他人の家にはその家特有の匂いがあるというが、慈光家の場合は甘くて優しい香りだろう。
 寧ろいい匂いのはずなのに、頭痛は増していく。具合が悪くなっていくのはこの家の雰囲気だけではない、こいつが一緒にいるからだと分かっていた。

 ……一週間か。
 我慢しなければならないというのに、いくらこいつらが更生していたとしてもなかなか気が重い。
 腹を括って、俺は二人に招かれるまま慈光家内に足を踏み入れた。



 ――慈光家、リビングルーム。

「あら~! いらっしゃい、遠君。見ないうちに大きくなったわね」
「あ、オバサン……お世話になります」
「いいのよ、そんなに畏まらなくても。自分ちと思って寛いでね。なんなら好きなだけいてくれてもいいんだから」
「あ、あはは……」

 冗談じゃない。オバサンには悪いけど、流石にそれは嫌だ。
 二人に挟まれた俺を見て、オバサンはずっとニコニコしていた。
 昔からこの人は俺に優しくしてくれた。子供の頃から擦れていた息子たちよりも、その間で縮こまっている俺の方が可愛い……らしい。
 そのお陰でたくさんお菓子ももらったが、正直この二人のクセの強さはオバサンから来てるような気もしないでもない。
 そしてうちの母親とそう歳も変わらないはずなのに、一向に歳を取らないのも謎で少し怖い。
 オバサンに捕まり、どうしたものかとしてるといきなり宋都に肩をがしっと抱かれる。

「そうそう、美甘がずっと居てくれんなら俺も結構嬉しいかも」
「な、なんだよ急に……」
「ん~? 正直な気持ちだっての、なに照れてんだよ」
「て、照れてないし……」

 離せよ、とやんわり宋都の腕の中から逃れる。
「ゆっくりしていってね」というオバサンの言葉に甘え、取り敢えず頭痛が収まるまでソファーで休ませてもらおうかと腰を掛ければ、その右隣に燕斗が腰をかけてくる。
 太もも同士がぴたりとくっつきそうなほどの距離に、もう少し離れろよと思いながらも足を閉じれば「美甘」と名前を呼ばれぎくりとした。

「な、なに……」
「本当に母さんは美甘のこと気に入ってるね」
「……お前たちが悪さばかりしてるからじゃないか?」
「おいおい、俺らは良い子だろ? なあ、燕斗」

 言いながら、左隣にどかりと腰を掛けてくる宋都。
 こいつに至っては足を閉じるという気遣いすら見えない。
 というかなんで空いてる向かい側のソファーに座らないのだ。
 ただでさえ狭いのだからデカい二人は向こうにいってくれ。
 ……なんて、口が避けても言えないが。

「美甘、そう言えば頭痛はまだ酷いの?」
「……まあ、少し」
「あら、美甘君体調悪いの? 大変、薬はあるの?」
「あ、はい……いつものことなんで。一応常備薬持ってきてます」
「そう……ご飯は大丈夫そう? 無理そうだったら後からまたお腹に優しいもの用意するわよ」
「す、すみません……その……」

 頭の奥、頭痛は広がっていく。
 正直、この状態で食べてもまともに味わうことはできないだろう。
 それが分かったからこそ、躊躇った。
 そんな俺の顔をじっと覗き込んでいた燕斗は「母さん、美甘のご飯は後でもらうよ」と代わりに答えるのだ。
 そして、そのまま俺の手を掴んだまま立ち上がる。

「美甘具合が悪いみたいだから俺、先にこいつ部屋で休ませてくるよ」
「え、あ……おい……燕斗……っ」

 半ば強引に立たされ、驚く俺。
 それを見ていた宋都は「……あー、はいはい。了解~」とにやにや笑いながら背もたれに背中を預ける。
 対するオバサンは心配顔で。

「あら、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。……そういうことだから、美甘。俺たちの部屋に行こっか」

 ……気を遣ってくれてるのだろうか。
 昔から燕斗は周りによく気付くやつだった。
 そんなところがまたいいらしく、余計女子にキャーキャー言われていたのをよく覚えている。
 あのときの俺は『そいつのそれは猫被りだぞ』ってずっと言ってやりたくて堪らなかった。
 が、今目の前にいる燕斗はどうだろうか。
 あのとき女子相手にしていたときのように肩のラインを撫でられるとぞわりと背筋が震えた。
「歩ける?」と耳元で尋ねられ「大丈夫だ」とだけ応えたが、燕斗は俺の身体から手を離すことはなかった。

 落ち着かないし、不快ではあるが――それよりも休みたかった俺は燕斗の気遣いに素直に甘えることにした。
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