23 / 38
同床異夢
第三者
しおりを挟む
階段を降り、リビングの扉を開く。
テレビも点けず、薄暗い部屋の中。ソファーに座っていたその背中に向かって「サダ」と声をかければ、ゆっくりとサダはこちらを振り返った。
「……美甘、どうした?」
「あのさ……サダと話したくて」
そう切り出せば、サダの表情が僅かに固くなる。
「サダ、そっち座っていいか」
「良いに決まってるだろ。……座らせてもらってるのは俺の方だ」
そう、ソファーの脇に寄るサダの隣に腰をかける。
「それで、話ってなんだ?」
「んと……その、色々考えたんだ。……あいつらとのこととか、サダとのこと、とか」
「…………そうか」
「俺、これからもサダと一緒にいたい。……ちゃんと、その、恋人……として」
階段で降りてリビングに来るまでにあんなに頭の中でシミュレーションしたのに、いざ口にすると上手く喋られないのだから不思議だ。
それでも、サダは俺を急かすことも笑うことなく、ただじっとこちらを見詰め、次の言葉を待ってくれた。
「だから、ちゃんとあいつらと『こういう関係』やめる。あいつらも説得する」
「……どうやって?」
「ど、どうやってって……えと、話し合って……とか……」
言いながら、あいつらが話し合いどうこうで大人しくなりそうなやつとは思えなかった。今の燕斗はともかく、宋都は大人しく『はい』というタイプではない。
「美甘、悪い……俺は責めてるわけじゃないんだ。お前があいつらとの関係を真剣に考えてくれたのは嬉しいし、伝わってる。…… けど、話し合いは無理だ。対面で顔を合わせた時点で何されるか分かったもんじゃない」
「さ、サダ……」
「なあ、俺の話を聞いてくれないか。……美甘」
肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。こんな真剣な顔をしたサダを断ることなど出来なかった。
サダは「ありがとう」と頷く。
「お前は今日はあそこに帰ったらだめだ。……それと、そのこともあいつらに連絡なんてしなくていい」
「……っ、え」
「俺が話す」
「さ、サダが……?」
「こういうのは第三者を挟めた方がいい。……お前とあいつらだけじゃ、言い包められて終わりだろうからな。それで話しつけて、もしそれでも何か言ってきたりここに押しかけてくるんなら警察呼ぶってあいつらにも伝えておく」
サダの目は本気だった。
正直、サダの言い分は分かるし、一対一であいつらと話しても毎回流されて有耶無耶になってしまうのも事実だ。だからこそ、本気であいつらとの関係を終わらせるためにはサダの介入が必要だというのも分かった。
これは、俺には必要なことだった。その結果がどうなろうとも、停滞していた俺達の関係に『大きな変化』が起きることには間違いないだろう。
「明後日、美甘のご両親も帰ってくるんだよな」
「あ、ああ」
「……ご両親にも伝えておいた方がいい。少なくとも、またあいつらの家に預けられないようにするくらいハッキリな」
「そ、れは……そうなるのか」
「できそうか? ……難しいようなら、俺が言うけど」
「そ、それくらい大丈夫だ! ……うん」
オバサンにはお世話になったし、気まずくなるかもしれないが、元々燕斗のことはあったから多少なりとも納得はしてくれるだろう。
「……美甘、今夜は俺も傍にいるから」
「え……」
「い、いや、あいつらが来ないか見張っておくって意味だから。悪い……その、気は遣わないでくれ」
驚く俺に、サダはばつが悪そうにする。やはり押し掛けてるという意識があるのだろう。だとしてもだ。
「気くらい遣わせてくれ。……初めてなんだ、あいつら以外が俺んち来てくれて、泊まってくれるの」
「……っ、美甘……いいのか?」
「い、嫌なわけない。てか、俺だってサダんち泊まったんだからオアイコだろ? ……い、いや、俺のはそれこそ押し掛けだったけども」
ごにょごにょと口篭れば、サダは「ありがとう」と呟く。その顔は照れてるような、複雑な表情だった。
「……こんなことならもっもちゃんと準備とかしとくんだったな。……俺も手ぶらだし」
「お、俺の服、着るか?」
「気持ちは嬉しいけど、多分美甘の服はキツイな」
「……そ、そうか……そうだよな」
お互いの服着るなんて恋人らしいのではないのか、とドキドキしたのだけど、現実的な問題があった。
……というか、そうか。あのときはまさか俺とサダがこんな関係になるなんて露ほども思わなかったんだよな。
「まあその、今晩はお邪魔させてもらうけど……もう一度聞くけど、俺の家に来る気はないのか?」
「……やっぱり、サダんちに迷惑かけそうだし、それならここのがいい、と思った」
「そうか。……分かった」
そう携帯端末を取り出し、どこかにメッセージを送るサダ。
何してるのかと思ってみてると「今日友達の家泊まるって伝えてきた」とサダは呟く。
「ともだち……」
「いや、その……恋人って言ったら、多分うるさそうだから」
「うるさい? ……あ」
聞き返したあと、なんだか顔を赤くしたサダにハッとした。
そうか、世間一般的に恋人同士が泊まるとあーだこーだがあれやこれしてると思われてしまうってことなのか。サダがそんなやつではないと分かってても、サダの表情から察してしまった俺はつられて顔に熱が集まるのを感じた。
「美甘、俺は美甘が嫌がることはしないから」
「お、おう……」
そんな俺に慌てて念押しするサダに、余計ドキドキしてしまった。
今夜はサダと二人きりになるのか。こんなことを考えるのは不謹慎なのかもしれないが、それでもやはり、こんな形でもサダが泊まってくれるのは嬉しく感じた。
――これからのことを考えなければ、本当は今夜はサダと何して遊ぶかとか、オールしようとか、そんなことだけを考えたかった。
けども、現実はそう上手くはいかない。
「……それじゃ、美甘。スマホ借りていいか?」
サダが泊まってくれるのは『万が一』のためで、これから俺がするのは幼馴染たちとの絶縁だ。けれど、これが上手く行った先にある未来のことを考えれば、乗り越えなければならない壁でもある。
俺は「ああ」と端末をサダに手渡した。
ここはもうサダに任せるしかないのだ。
テレビも点けず、薄暗い部屋の中。ソファーに座っていたその背中に向かって「サダ」と声をかければ、ゆっくりとサダはこちらを振り返った。
「……美甘、どうした?」
「あのさ……サダと話したくて」
そう切り出せば、サダの表情が僅かに固くなる。
「サダ、そっち座っていいか」
「良いに決まってるだろ。……座らせてもらってるのは俺の方だ」
そう、ソファーの脇に寄るサダの隣に腰をかける。
「それで、話ってなんだ?」
「んと……その、色々考えたんだ。……あいつらとのこととか、サダとのこと、とか」
「…………そうか」
「俺、これからもサダと一緒にいたい。……ちゃんと、その、恋人……として」
階段で降りてリビングに来るまでにあんなに頭の中でシミュレーションしたのに、いざ口にすると上手く喋られないのだから不思議だ。
それでも、サダは俺を急かすことも笑うことなく、ただじっとこちらを見詰め、次の言葉を待ってくれた。
「だから、ちゃんとあいつらと『こういう関係』やめる。あいつらも説得する」
「……どうやって?」
「ど、どうやってって……えと、話し合って……とか……」
言いながら、あいつらが話し合いどうこうで大人しくなりそうなやつとは思えなかった。今の燕斗はともかく、宋都は大人しく『はい』というタイプではない。
「美甘、悪い……俺は責めてるわけじゃないんだ。お前があいつらとの関係を真剣に考えてくれたのは嬉しいし、伝わってる。…… けど、話し合いは無理だ。対面で顔を合わせた時点で何されるか分かったもんじゃない」
「さ、サダ……」
「なあ、俺の話を聞いてくれないか。……美甘」
肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。こんな真剣な顔をしたサダを断ることなど出来なかった。
サダは「ありがとう」と頷く。
「お前は今日はあそこに帰ったらだめだ。……それと、そのこともあいつらに連絡なんてしなくていい」
「……っ、え」
「俺が話す」
「さ、サダが……?」
「こういうのは第三者を挟めた方がいい。……お前とあいつらだけじゃ、言い包められて終わりだろうからな。それで話しつけて、もしそれでも何か言ってきたりここに押しかけてくるんなら警察呼ぶってあいつらにも伝えておく」
サダの目は本気だった。
正直、サダの言い分は分かるし、一対一であいつらと話しても毎回流されて有耶無耶になってしまうのも事実だ。だからこそ、本気であいつらとの関係を終わらせるためにはサダの介入が必要だというのも分かった。
これは、俺には必要なことだった。その結果がどうなろうとも、停滞していた俺達の関係に『大きな変化』が起きることには間違いないだろう。
「明後日、美甘のご両親も帰ってくるんだよな」
「あ、ああ」
「……ご両親にも伝えておいた方がいい。少なくとも、またあいつらの家に預けられないようにするくらいハッキリな」
「そ、れは……そうなるのか」
「できそうか? ……難しいようなら、俺が言うけど」
「そ、それくらい大丈夫だ! ……うん」
オバサンにはお世話になったし、気まずくなるかもしれないが、元々燕斗のことはあったから多少なりとも納得はしてくれるだろう。
「……美甘、今夜は俺も傍にいるから」
「え……」
「い、いや、あいつらが来ないか見張っておくって意味だから。悪い……その、気は遣わないでくれ」
驚く俺に、サダはばつが悪そうにする。やはり押し掛けてるという意識があるのだろう。だとしてもだ。
「気くらい遣わせてくれ。……初めてなんだ、あいつら以外が俺んち来てくれて、泊まってくれるの」
「……っ、美甘……いいのか?」
「い、嫌なわけない。てか、俺だってサダんち泊まったんだからオアイコだろ? ……い、いや、俺のはそれこそ押し掛けだったけども」
ごにょごにょと口篭れば、サダは「ありがとう」と呟く。その顔は照れてるような、複雑な表情だった。
「……こんなことならもっもちゃんと準備とかしとくんだったな。……俺も手ぶらだし」
「お、俺の服、着るか?」
「気持ちは嬉しいけど、多分美甘の服はキツイな」
「……そ、そうか……そうだよな」
お互いの服着るなんて恋人らしいのではないのか、とドキドキしたのだけど、現実的な問題があった。
……というか、そうか。あのときはまさか俺とサダがこんな関係になるなんて露ほども思わなかったんだよな。
「まあその、今晩はお邪魔させてもらうけど……もう一度聞くけど、俺の家に来る気はないのか?」
「……やっぱり、サダんちに迷惑かけそうだし、それならここのがいい、と思った」
「そうか。……分かった」
そう携帯端末を取り出し、どこかにメッセージを送るサダ。
何してるのかと思ってみてると「今日友達の家泊まるって伝えてきた」とサダは呟く。
「ともだち……」
「いや、その……恋人って言ったら、多分うるさそうだから」
「うるさい? ……あ」
聞き返したあと、なんだか顔を赤くしたサダにハッとした。
そうか、世間一般的に恋人同士が泊まるとあーだこーだがあれやこれしてると思われてしまうってことなのか。サダがそんなやつではないと分かってても、サダの表情から察してしまった俺はつられて顔に熱が集まるのを感じた。
「美甘、俺は美甘が嫌がることはしないから」
「お、おう……」
そんな俺に慌てて念押しするサダに、余計ドキドキしてしまった。
今夜はサダと二人きりになるのか。こんなことを考えるのは不謹慎なのかもしれないが、それでもやはり、こんな形でもサダが泊まってくれるのは嬉しく感じた。
――これからのことを考えなければ、本当は今夜はサダと何して遊ぶかとか、オールしようとか、そんなことだけを考えたかった。
けども、現実はそう上手くはいかない。
「……それじゃ、美甘。スマホ借りていいか?」
サダが泊まってくれるのは『万が一』のためで、これから俺がするのは幼馴染たちとの絶縁だ。けれど、これが上手く行った先にある未来のことを考えれば、乗り越えなければならない壁でもある。
俺は「ああ」と端末をサダに手渡した。
ここはもうサダに任せるしかないのだ。
20
あなたにおすすめの小説
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる