モノマニア

田原摩耶

文字の大きさ
10 / 88
出揃った役者、逃亡する主役。

暴走後の心的バウンド

しおりを挟む
 数分もすれば、全員床に落ちていた。立ち上がる気もないらしく頭を庇ったまま踞る不良の顔面を蹴りあげそのまま馬乗りになって鼻血やら涙やらでぐちゃぐちゃのどろどろになった顔面に何度も何度も何度も何度も何度も拳を叩き込む。途切れる声。歯が欠けたのか口内から溢れる血。前歯全部折ってやろうと思って高く拳を振り上げたときだった。
 不意に何者かに手首を取られる。

「仙道さん」

 純だった。いつの間に部屋に入ったのだろうか。
 それともただ俺が気づかなかっただけか。

「純、邪魔しないでよ」
「風紀が来ます」

 その言葉に、純を見上げた俺は目を見開く。その側には不安で目を濡らした男子生徒が二人。
 なにか化け物を見るような目でこちらを見ていた。

「誰が呼んだの」
「あれだけ暴れたら気付きますよ」

 そう言って笑う純は俺の腕を軽く引っ張り立ち上がらせた。

「これは俺がしたってことにするので仙道さんはその上着脱いで下さい」

 血、ついてますよ。
 そういう純につられシャツの上から羽織っていたカーディガンに目を向ければ、返り血だろう。所々赤黒く滲んでいた。
 うわ、これお気にだったのに。最悪。

「そこの二人も、今のことは内密に。ね?」

 怯える男子生徒二人に向き直った純はまるで子供をあやすような優しい口調で続ける。そのくせその目には優しさは一切なく、自分達の立場の危うさを改めて理解したらしい男子生徒二人はこくこくこくと何度も小さい顎を引き頷いた。

 それから、純の宣言通り風紀委員のやつらが駆け付けてきた。その中にはマコちゃんの姿もあった。

「京」

 目があって、マコちゃん、と呼ぼうと口を開くより先にマコちゃんに名前を呼ばれる。
 怖い顔。
 右腕に風紀の腕章をつけた人たちがいっぱいになった化学準備室の中。純の隣にいた俺を見付け、マコちゃんはずかずかとやってきた。

「なにがあったんだ」
「なにもってぇ、いつも通りだよー?そこの子たちが襲われそうになってたからさぁ」
「なら、なんだこの惨状は」
「俺がしたんですよ」

 血まみれで倒れる不良生徒たちを一瞥し、問い質してくるマコちゃんにそう答えたのは純だった。

「こいつら、注意だけじゃ聞かなかったんすよね。逆ギレして仙道さんに殴り掛かろうとするから慌てて仲裁に入ったんです」
「お前は仲裁の意味をわかっているのか。どう見ても一方的な暴行にしか見えない」
「ですから、色々遭ったんですって」

 純を見るなり眉間のシワをさらに深くさせるマコちゃんに肩を竦める純は呆れたように笑う。

「詳しくはそこの被害者の子に聞いて下さい。どうせ、俺が言っても信憑性ゼロなんでしょうし」

 自虐的な純に訝しげな眼差しを向けるマコちゃんはふんと鼻を鳴らし純から視線を逸らす。

「最初からそのつもりだ」

 吐き捨てるその言葉は冷ややかなもので。なんだか俺まで責められてるみたいで胸が痛んだ。いや、みたいな、じゃないか。そうなんだろう。

「千夏、佐倉純を連れていけ」

 側にいた金髪の不良みたいな男子生徒に声をかけるマコちゃん。
 ――千夏。風紀副委員長・石動千夏。
 ちーちゃんの双子の弟で、不良崩れのくせに風紀に入ってるやつ。因みに俺はこいつが苦手だ。だって、なんか目の敵にされてるし。

「うっす」

 そういって純の腕を掴んだ千夏は擦れ違い様ちらりとこちらを見る。
 短い眉。鋭い目付き。派手な金髪を無造作に弄った千夏はちーちゃんと似ても似つかない。また制服がどーとかいちゃもんつけられるのが嫌で目を逸らした俺は引っ張られる純に目を向けた。

「純、」

 ごめんね。そう続けようとしたとき、こちらを振り返った純はへらりと笑い暢気に手を振り返してきた。
 昔、警察に捕まりそうになったとき適当なやつ引っ張って生け贄にするのはよくやってた。
 だけど、やっぱり、何故だろうか。その相手が自ら望んで濡れ衣被ろうとしても、純だからか、なんとなく息苦しくなる。

 すっかり冷静になった俺は数分前の自分の行動を悔やんだ。俺のバカ、短気、あほ。やはり、我慢するべきだったんだ。
 しかし、なってしまった今なにすることもできず。

「京」

 後になってから酷く後悔していると、マコちゃんに呼ばれた。顔を上げたら目があって、「ちょっと来い」とマコちゃんは化学準備室の外を指差す。
 相変わらずその顔はこわばったまま。……残念ながらデートのお誘いではないらしい。
 化学準備室を出て、騒がしい人垣を抜けて俺とマコちゃんは比較的静かな廊下までやってきた。

「お前、まだ佐倉純とつるんでいるのか」

 立ち止まったかと思えばマコちゃんはそう強い口調で尋ねてくる。うん、予想通りの反応。
 マコちゃんは純が嫌いだ。純だけじゃない、素行が悪く風紀を乱す不良が嫌いなのだ。
 ……例えば、俺みたいな。

「つるんでるっていうか、まあ、たまたま会っただけだってば」
「親衛隊」

 うーやだなー。怒ったマコちゃんやだなー。とか思いながらそっぽ向けば、マコちゃんの口から出たその単語に俺は僅かに目を見開いた。

「出来たそうだな、お前の。隊長は佐倉純と聞いたぞ」
「……うっわ、マコちゃん情報はやーい」
「嫌でも耳に入ってくるんだよ」

 相変わらず苦虫噛み潰したような顔のマコちゃん。
 嬉しい半分、面倒半分。

「あいつとはもう、関わらない方がいい。無傷だから良かったものの、今度巻き込まれたら無事だという保証もない」

 あいつっていうのは純のことだろう。マコちゃんは俺のことを心配してくれているのだろう。本当に。
 きっとマコちゃんの目には俺がか弱くて、女々しくて、ひょろいもやしとして映っているのだろう。
 無理もない。俺がそう、演じてきたのだから。

「うん、わかった」

 いつまでもついてくる純に困っていたのは俺も同じだ。
 だから、少しでもマコちゃんが安心出来るよう俺は頬を綻ばせた。すると、ようやくマコちゃんは頬を弛ませる。

「只でさえお前は目立つんだ。生徒会に入ってさらに変なやつらに絡まれるだろうがなにかあったらすぐに俺を呼べ」
「うん、ありがとうマコちゃん」

 頭をわしわしと撫でられ、顔が熱くなるのがわかった。
 優しくて、大きな手は俺を安心させてくれる。
 マコちゃんがいう大抵の変なやつらの頭が俺だと知ったら、マコちゃんはどう思うのだろうか。
 過去は消えない。今の自分が変わったところで深いギャップを生み出すだけで、それは罪となって付きまとってくる。だから、俺は付きまとう全てを腹の底に押し込め、綺麗な今を作り上げてきた。
 ……そのつもりだったが、やはり、無理があったらしい。
 今、押し込めたそれらはちょっとした衝撃で僅かに溢れだした。
 ――『日桷和馬』という名の衝撃によって。
 これからどんな衝撃を与えられても自分は堪えて過去を圧し殺すことができるのか。それだけがただ心配だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

世話焼き風紀委員長は自分に無頓着

二藤ぽっきぃ
BL
非王道学園BL/美形受け/攻めは1人 都心から離れた山中にある御曹司や権力者の子息が通う全寮制の中高一貫校『都塚学園』 高等部から入学した仲神蛍(なかがみ けい)は高校最後の年に風紀委員長を務める。 生徒会長の京本誠一郎(きょうもと せいいちろう)とは、業務連絡の合間に嫌味を言う仲。 5月の連休明けに怪しい転入生が現れた。 問題ばかりの転入生に関わりたくないと思っていたが、慕ってくれる後輩、風紀書記の蜂須賀流星(はちすか りゅうせい)が巻き込まれる______ 「学園で終わる恋愛なんて、してたまるか。どうせ政略結婚が待っているのに……」 ______________ 「俺は1年の頃にお前に一目惚れした、長期戦のつもりが邪魔が入ったからな。結婚を前提に恋人になれ。」 「俺がするんで、蛍様は身を任せてくれたらいいんすよ。これからもずっと一緒っすよ♡」 ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢ 初投稿作品です。 誤字脱字の報告や、アドバイス、感想などお待ちしております。 毎日20時と23時に投稿予定です。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~

猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。 髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。 そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。 「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」 全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。

【R18】一匹狼は愛とか恋とか面倒くさい

藍生らぱん
BL
一匹狼(仔犬)と前世の記憶持ち生徒会書記(忠犬)が主人公の非王道学園オメガバース Ωの颯は一つ年上の風紀委員長でαの京夜の番。 そして颯の従兄弟で兄弟同然のαの健太は前世の記憶を持っている。 二人のαに溺愛されつつも束縛を嫌う颯は今日も一人で自由に学園を闊歩する。 健太は颯を見守りつつ、前世の記憶と因縁の相手に翻弄される。 風紀委員長と一匹狼の固定cp 書記は本命以外との絡み有り 非王道主人公・面倒くさがり干物系一匹狼(お一人様)Ω ワンコ書記α? 忠犬(番犬・猛犬注意 非王道主人公その2) 俺様生徒会長α 腹黒副会長Ω チャラ男会計α 双子庶務β ホスト系教師α 生徒会OB 王道主人公系転校生α 駄犬 爽やかスポ根同級生α 巻き込まれクラス委員長β 魔王系風紀委員長α 狂犬 ポメ・チワワ系親衛隊 βとΩの群れ アンチ王道主人公? 駄犬 学園理事長α 駄犬 ムーンライトさんと同時連載

司祭様!掘らせてください!!

ミクリ21
BL
司祭が信者に掘られる話。

【完結】僕らの関係─好きな人がいるのに、学園の問題児に目をつけられて─

亜依流.@.@
BL
【あらすじ】 全寮制の男子校私立掟聖学園には、学力向上を目的とした特殊なペア制度が存在した。 ───────────────── 2年の入谷優介は、生徒会長であり学園のカリスマ、3年・中篠翔へ密かに思いを寄せていた。 翔とペアになる事を夢見る優介は、ある事件をきっかけに、同じく3年の超絶問題児、本郷司とペアを組む事になってしまう。傲慢な司に振り回される優介に手を差し伸べたのは、初恋の相手である翔だった。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

処理中です...