【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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終章 呪いの星に神は集う

360話 合流 其の1

 灰褐色の竜の咆哮が大聖堂を三度震わせる、僅か前。

「カーティスッ!!」

「しつこい!!」

「しつこくて結構ッ!!それに聞いたでしょう?私達が敵対する理由はどこにも無い!!」

「あるッ、時世を読めない奴は死ぬ!!たかが奇跡が起きた程度でなぁ、人間が、神に勝てる訳が無いッ!!」

「だからってッ!!」

「五月蠅い!!どいつもこいつもッ、俺はこうやって生きてきた。だからこれからもこう生きるんだよ!!」

 逃げるカーティスの背中に、セオとアレムが挑発を突き立てた。が、その程度で止まる筈もなく。カーティスが操る量産型の数は僅か2体。大幅に数が減った理由は至極単純、この男に回す戦力さえ惜しい。当人もその程度は理解している。

「そうやって誰かを裏切って、信念が無いのかアンタはッ!!」

「ソレで勝てりゃ苦労しない!!戦いってぇのはそう言うものだ。だから、俺は勝つ側に回るのさ!!」

 交わらない主張の中にカーティスの本音が垣間見え始めた。強い口調はブラフ。その裏にあるのは死の恐怖と、生への執着。カーティスは自分達を排除したら逃げ出す算段を立てていると2人は読んだ。量産型との力関係は今までの戦闘で嫌というほどに痛感している。

 カグツチを強引に取り込む事で戦闘能力を飛躍的に向上させているが、それでも量産型を前にすれば微々たる差。スサノヲの助力が無ければとうに死んでいた。と、いうのに善戦している。生きている理由にセオとアレムは勝機を見出した。

 このまま一方的に勝利すれば、量産型は次にカーティスを標的とする。追撃し、必ず殺し、その後は大聖堂に合流する。だから、戦闘にかこつけてどうにか行動不能に追い込んでもらいたい。その打算が、セオとアレムを動かす。

 絶好の好機。カーティスの思考を読んだ2人は死に物狂いで喰らいつく。が、スサノヲから譲り受けた治療薬を飲み込みながら、絶え間なく襲う痛みを堪えながら引き金を引き続けた結果、身体はとうに限界を迎えていた。適正の無い人間にカグツチは冷酷。疲弊に加え、朦朧とした意識が照準を狂わせる。

「馬鹿がッ、大人しく傍観していれば良かったのになァ!!」

「そんな、恥知らずな真似が出来るかッ!!」

「貴様らには心底ウンザリするッ。そうやってすぐに綺麗事を吐き出す口で俺を非難する!!」

「勝つ為、生きる為に手段を選ばない生き方をしていればそう言われても仕方が無いでしょうに!!」

「黙れッ。じゃあ手段選んで死ねとでもいうのか貴様はッ。その生き方を全員に強制するのか!!世の中全員が貴様らみたいな生き方を出来る訳じゃないんだよ!!」

「アンタは、そうやって理由を付けて逃げてるだけだ!!」

「戦争を知らんガキが偉そうに!!目の前で仲間が馬鹿みたいに無駄死にしていくのを見れば、俺達を戦場に送りだした奴が俺達を部品か道具程度にしか見ていない事実を知れば、誰だってこうなるんだよ!!俺は死なん、絶対に……泥を啜ってでも、石に噛り付いででも、強者に尻尾を振ってでも生き残るんだよ!!」

「その為に他人を犠牲にする生き方を認められないッ!!」

 男の心理が更に明らかとなる。道具として使い捨てられる屈辱が生への執着の根源。その執念が、生きる事こそが勝利という思考に結実した。が、セオとアレムは認めない。納得しても、理解できても、生きる為に己以外の全てを利用する生き様を認めない。故に、躊躇いなく引き金を引き続ける。

「ハハ、虚勢を!!ホラ、頑張れよ。死ん、で……?」

 不意の違和感にカーティスの口が固まった。セオとアレムが、動かない。隙だらけだけで、僅かばかり前の舌戦の勢いもなく、敵意と共に引き金を動かす指は止まり、呆然と己の後方を見つめている。カーティスの視線は2人の視線を追いかけ……

「よぉカーティス、久しぶりだなオイ」

 微かに過った影と、聞いた記憶のある女の声に硬直した。量産型への命令など既に忘却の彼方。

「バ、何時から!?」

 揺らぐ視線が影の正体を捉えると、今度は混乱する。男は戦場で生き延びる為に幾つもの技能を体得、開花させてきた。その才覚の中に並外れた気配察知能力がある。まるで獣のように周囲の生命反応を的確に捉える。そんな能力が、背後の影を微塵も察知できなかった。

「グゥォ!?」

 カーティスは、思い切り殴り飛ばされた。男から回避という思考を奪い、行動を阻害したのは声。声は、男が地球場で最も嫌うとまで言い切る女と同じ声だった。

「馬鹿なッ、なんで貴様がココに居るッ!?」

 量産型に支えられなが起き上がったカーティスが、背後に現れた影に叫ぶ。驚くのも無理はなく。伊佐凪竜一の不法侵入以後、地球との転移には厳しい制限が付けられた。が、実質的には禁止と同義。加えて、宇宙開発関係の技術はマガツヒを理由にツクヨミが研究を禁止していた事情により、地球には真面な有人宇宙船が存在しない。

「「ミルヴァ!!」」

 セオ、アレムがカーティスを殴り飛ばした女の名を呼んだ。地球で伊佐凪竜一の逃走を手助けした魔女、ミルヴァ=ウィチェットの名を。

「どうやってここ!?」

「アンタ達の上司のお陰だよ。直で連絡を取って、無理言って政府専用緊急避難路ってのでココに転移させて貰ったんだよ」

 それだけで十分だと、セオとアレムは受け入れた。2人の上司、関宗太郎は旗艦の新政権で相談役を担う。艦外の人物とは言え、政権に関係する人物という理由で、彼には特別に政府専用緊急避難路の使用が許されていた。

 とは言え無許可で、しかも政府と無関係な人物を侵入させたとなれば厳罰は必至。魔女の言葉にセオとアレムは覚悟を決めた。上司が覚悟を見せたならば、己もそうするべきだと奮い立つ。

「ココでアタシが結果出さなきゃあ、あの人がどうなるか分からん。艦長からの許可ってのはもう当てにならなそうだしな」

 2人の覚悟に、魔女が重ねる。彼女も重々承知の上。それはあの人……関宗太郎だけではない。口に出さないが、彼女自身も罰を受ける覚悟で臨んでいる。全てを承知の上で、彼女は旗艦に来た。

「理由なんぞどうでも良いッ!!ココに来たんなら仕方が無い。貴様も死んで行けよ!!」

「気が合うな、アタシもいい加減お前が生きてるってのにウンザリしてたところだ」

「強がりをッ。貴様は知らないだろう、俺が使うコイツ等の性能をなぁ!!」

 カーティスはそう言うと背後に立つ量産型の胸元を拳で軽く小突いた。量産型はその行動に関心を示さず不気味な位に沈黙を保つ。魔女はそんな両者を小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

「強くて賢い玩具を貰ってご機嫌って訳じゃないよなぁ?らしくないその態度、焦りだろ。この状況、お前の予想とは大分違うんじゃないか?」

「黙れよッ、もういいから死ねッ!!」

 カーティスの顔が憤怒で赤く染まる。図星。しかも、本心をこの世界で最も嫌う人間に心中を見透かされた事への屈辱。しかし、今更増援が1人来たところで、更にそれが地球人ではただ犠牲者が増えるだけ。

 地球では無類の強さを誇る魔女と言えども、それはあくまで地球という範囲内での話。どうやらこの大女は量産型タケミカヅチの性能を全く知らないようだと、やがて魔女を除く3人はそう結論した。そうでなければ量産型を相手にこれほどまでに余裕を維持できる筈が無い。

 だというのに、魔女は不敵な笑みを崩さない。

「無知は弱者の特権だと教えた筈だぞ、ミルヴァよぉ?」

「そうだな、テメェはクソムカつくがよく覚えているよ。だがなぁ、そっくりそのままお前に返すぜ。セオ、アレム!!」

 魔女はカーティスを挟んで向こう側に立つかつての仲間に向け叫び……

「飛び込め!!」

 躊躇いなくカーティスに向けて走り出した。その言葉に、セオとアレムも弾かれる様に動く。疲労と痛みを押しのけ、地を蹴り、魔女と同じ位置を目指す。

「馬鹿が、気でも触れ……何ッ!?」

 行動の意味をカーティスだけが理解できない。何をするのか、しかし迫る3人はもう目の前。カーティスは反射的に量産型に指示を出す。が、その手が揺らいだ。否。揺らいでいるのは自分自身。何も無い平坦な場所で、身体が傾いている。

 苛烈な戦闘による崩落とは違う。その兆候は全く無かった。予測を超えた事態の打開にカーティスの視線は足元へと吸い寄せられ、見た。足元に開いた巨大で真っ黒な穴を。その穴に自身の片足が沈み込んでいる光景を。

「ば!?て、てん」

 足元の違和感にカーティスは即、正体を察した。しかし動揺と混乱に麻痺した思考が行動を阻害、男は黒い穴の向こうに消失した。続けて、残る3人も黒い穴へと飛び込んだ。その正体は、神父が組んだ儀式プログラムと魔女の力によって生み出された転移用の門。且つて地球から伊佐凪竜一を旗艦アマテラスまで転移させた漆黒の門は、予定通り4人と量産型タケミカヅチを分断すると陽光の中に消失した。

 圧倒的な実力差は埋められた。量産型が追い付くまでの話だが、形勢は逆転した。地球で紡がれた奇縁の決着は近い。
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