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ラシア編 Side 空
10日目 グレイシャー
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16:48
夕暮れの太陽が水平線に沈んでいく。
ぼくは箒に乗って、サンクト・トルーツクへ向かっていた。
左手で箒を握り、右手には焼き鳥を持っている。
味付けが塩と胡椒だけのものだ。
香辛料をかけたバージョンもリュックサックには入っていたけれど、それは、次の休憩までのお楽しみに取っておくことにした。
今夜は、一晩中箒に乗って飛んでいたい気分だった。
それには、さっさとサンクト・トルーツクに行って、宿屋でシャワーを浴びたいという理由と、もう一つ、箒に乗りながら、グレイシャーでのシュールな思い出に浸っていたいから、という、2つの理由があった。
グレイシャー。
変な街だった。
ぼくは、あの街に着いたばかりのことを思い出した。
グレイシャーに到着したのは、お昼前のことだった。
数時間前
グレイシャーは、古びた街だった。
村という感じはしない。
街だ。
丸太で作った、鳥居のようなゲートが見え、上には、【グレイシャー】と掘られていた。
ぼくは、そのゲートの前に箒で着地した。
足元は土。
ゲートを潜った先には大通りがあり、両サイドには、背の低い木造建築が並んでいた。
デザインには詳しくないので、それをなんと呼ぶのかはわからなかったが、それらの建物は、どことなく、修学旅行で訪れたロンドンの街を彷彿とさせるものだった。
ロンドンに訪れる数時間前、ぼくはパリにいた。
その前はローマ、ヴェネツィア、ミラノにいた。
その前にも、さまざまなヨーロッパの街を観て周っていたのだけれど、ロンドンは、街並みもそうだが、何よりも建物に個性があって、幼い頃のぼくは、漠然と、イギリスとそれ以外のヨーロッパの国々で、これほどまでに違うなんて面白いなー、と思ったものだった。
大通りは数百メートル先まで伸びていた。
大通りの先からは人々の生み出す喧騒が聴こえてきて、そこには少し大きな噴水が見えた。
ぼくは、両サイドに立ち並ぶ建物を見ながら、大通りを進んだ。
建物には看板などなく、どれもこれも住居という感じだった。
何はともあれ、まずは宿屋を探そう。
そう思いながら、ぼくは、ジェロームくんと並んで、大通りを進んだ。
ーーー
大通りの先にあるのは、広場だった。
円形ではなかったが、無理矢理直径で表すなら、100mほどだろうか。
中央には大きな噴水があり、広場の外周を囲うように、屋台が立ち並んでいる。
人々は皆、フィッシュアンドチップスを摘みながら屋台を見て周ったり、広場のあちらこちらに設置されているテーブルについておしゃべりを楽しみながらそれらを食べたり、グラスに入ったビールを飲んだりしていた。
空には巨大な半透明のモニターが浮かんでおり、画面の中ではタキシードに身を包んだ選手たちによるアメリカン・フットボールが開催されていた。
贔屓のチームがゴールを決めたことにいきり立った紳士たちが、歓声を上げながら立ち上がり、クラッカーを鳴らし、指で口笛を吹いたり、すぐ側のテーブルに腰を落ち着けていた相手チームのファンたちに、指を折り曲げてヘヴィメタ風の形にした手を向けて挑発したりしている。
そんな街の人々は、みんな、スーツやタキシードやドレスを着ていた。
加えて、ステッキを持ったり、立派な帽子を被っていたり、蝶ネクタイをつけたり。
彼らの話す言語はロシア人が無理矢理イギリス訛りの英語を話そうとしているようなイントネーションで、聞き取ること及び解読は困難を極めた。
「なんじゃこりゃ……」ぼくは言った。
『な、ブリタニアかぶれどもの集まりだろ?』
「ヤバいね」
『さっさとこんな街出ようぜ」
「なんで、楽しそうじゃん」
『は?』
「え?」
『冗談だろ?』
キョトンとして、ジェロームくんを見ると、彼は、半笑いだった。『おにーさん、ソラちゃんのここが心配になってきちゃった……』と、ジェロームくんは、自分の頭を、その前足で指し示した。
「ムー」ぼくは、ほっぺを膨らませた。「美味しそうなご飯買ってあげなーい」
『えぇっ、そんなぁ~。ごめんってば~』
ぼくは、情けない声を出すジェロームくんを見て笑いながら、屋台を見て周った。
夕暮れの太陽が水平線に沈んでいく。
ぼくは箒に乗って、サンクト・トルーツクへ向かっていた。
左手で箒を握り、右手には焼き鳥を持っている。
味付けが塩と胡椒だけのものだ。
香辛料をかけたバージョンもリュックサックには入っていたけれど、それは、次の休憩までのお楽しみに取っておくことにした。
今夜は、一晩中箒に乗って飛んでいたい気分だった。
それには、さっさとサンクト・トルーツクに行って、宿屋でシャワーを浴びたいという理由と、もう一つ、箒に乗りながら、グレイシャーでのシュールな思い出に浸っていたいから、という、2つの理由があった。
グレイシャー。
変な街だった。
ぼくは、あの街に着いたばかりのことを思い出した。
グレイシャーに到着したのは、お昼前のことだった。
数時間前
グレイシャーは、古びた街だった。
村という感じはしない。
街だ。
丸太で作った、鳥居のようなゲートが見え、上には、【グレイシャー】と掘られていた。
ぼくは、そのゲートの前に箒で着地した。
足元は土。
ゲートを潜った先には大通りがあり、両サイドには、背の低い木造建築が並んでいた。
デザインには詳しくないので、それをなんと呼ぶのかはわからなかったが、それらの建物は、どことなく、修学旅行で訪れたロンドンの街を彷彿とさせるものだった。
ロンドンに訪れる数時間前、ぼくはパリにいた。
その前はローマ、ヴェネツィア、ミラノにいた。
その前にも、さまざまなヨーロッパの街を観て周っていたのだけれど、ロンドンは、街並みもそうだが、何よりも建物に個性があって、幼い頃のぼくは、漠然と、イギリスとそれ以外のヨーロッパの国々で、これほどまでに違うなんて面白いなー、と思ったものだった。
大通りは数百メートル先まで伸びていた。
大通りの先からは人々の生み出す喧騒が聴こえてきて、そこには少し大きな噴水が見えた。
ぼくは、両サイドに立ち並ぶ建物を見ながら、大通りを進んだ。
建物には看板などなく、どれもこれも住居という感じだった。
何はともあれ、まずは宿屋を探そう。
そう思いながら、ぼくは、ジェロームくんと並んで、大通りを進んだ。
ーーー
大通りの先にあるのは、広場だった。
円形ではなかったが、無理矢理直径で表すなら、100mほどだろうか。
中央には大きな噴水があり、広場の外周を囲うように、屋台が立ち並んでいる。
人々は皆、フィッシュアンドチップスを摘みながら屋台を見て周ったり、広場のあちらこちらに設置されているテーブルについておしゃべりを楽しみながらそれらを食べたり、グラスに入ったビールを飲んだりしていた。
空には巨大な半透明のモニターが浮かんでおり、画面の中ではタキシードに身を包んだ選手たちによるアメリカン・フットボールが開催されていた。
贔屓のチームがゴールを決めたことにいきり立った紳士たちが、歓声を上げながら立ち上がり、クラッカーを鳴らし、指で口笛を吹いたり、すぐ側のテーブルに腰を落ち着けていた相手チームのファンたちに、指を折り曲げてヘヴィメタ風の形にした手を向けて挑発したりしている。
そんな街の人々は、みんな、スーツやタキシードやドレスを着ていた。
加えて、ステッキを持ったり、立派な帽子を被っていたり、蝶ネクタイをつけたり。
彼らの話す言語はロシア人が無理矢理イギリス訛りの英語を話そうとしているようなイントネーションで、聞き取ること及び解読は困難を極めた。
「なんじゃこりゃ……」ぼくは言った。
『な、ブリタニアかぶれどもの集まりだろ?』
「ヤバいね」
『さっさとこんな街出ようぜ」
「なんで、楽しそうじゃん」
『は?』
「え?」
『冗談だろ?』
キョトンとして、ジェロームくんを見ると、彼は、半笑いだった。『おにーさん、ソラちゃんのここが心配になってきちゃった……』と、ジェロームくんは、自分の頭を、その前足で指し示した。
「ムー」ぼくは、ほっぺを膨らませた。「美味しそうなご飯買ってあげなーい」
『えぇっ、そんなぁ~。ごめんってば~』
ぼくは、情けない声を出すジェロームくんを見て笑いながら、屋台を見て周った。
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