【魔法使いの世界を旅する一年 2010/12〜】

Zezilia Hastler

文字の大きさ
38 / 40
ラシア編 Side 空

10日目 ニホニアを知らないマダム

しおりを挟む
 グレイシャーの人々の話す言葉は、訛りがキツすぎたが、人々の所作を観察していれば、なんとなく単語のボキャブラリーも増えていくもので、そうすれば、フレーズなんかも理解出来るようになり、そうなってしまえば、おのずと意志の疎通もスムーズになっていくもの。

 会話が出来るようになるまで、さほど時間はかからなかった。

 ぼくは、拙いグレイシャー語を駆使して、串焼き肉やらフィッシュアンドチップスやらハンバーガーやタコスやらを調達し、それらを手に、ようやく見つけた席に腰掛けた。

 ジェロームくんも、なんだかんだでエンジョイしているようで、彼は頭に幽霊のお面をかぶっていた。

 この街のものは、どれもこれも安かった。

 物価は、ハバネロフスクやニホニアの4分の1くらいだろうか。

 ぼくは、ビールを啜りながら、空に浮かんでいる、蜃気楼のように半透明なモニターを見上げた。

 グレート・ブリタニア対ウズべキスタニアで、ウズべキスタニアが一歩リードしていた。

『いただきぃっ』その声に振り返ると、ジェロームくんが焼き鳥にかぶりついたところだった。

「あっ、こらっ!」

『いやー、久々の肉は美味いなー、にゃーにゃー』

「もー」ぼくは、ビールを啜り、フィッシュアンドチップスのフィッシュにかぶりついて、そのフライを、ビールで流し込んだ。「くーっ、たまんねーっ!」

『たまんねーにゃーっ!』

「ねーっ」

「お嬢ちゃん、良い飲みっぷりですわね」

 その声に、そちらを見れば、ドレスに身を包んだ女性がいた。顔立ちはスラブ系。手に持っている扇子には羽がついていて、なんか、前に見た19世紀のイギリスを舞台にした映画に出て来そうな格好をしていた。「観光かしら?」

 ぼくは、背筋を伸ばして頷いた。「左様でございます。ニホニアから来ましたですわ」

「あらあら、これまた随分と遠いところから……」女性は首を傾げて、「(ニホニアって……、どこだ……?)」と、呟いた。彼女は隣に座っているタキシード姿の男性を扇子でちょんちょんと叩いた。「あんた、ねぇ、あんた」

「なんだ?」
「ニホニアって知っとる?」
「知らん」
「んだねー」

 ぼくはビールを啜った。

 マダムは、再びこちらを見てきた。「お嬢さん、失礼ですが、ニホニアとはどこかしら」

「海の向こうにある島国です」

 マダムは首を傾げた。「海?」

「失礼ですが、森の向こうに出たことは?」

 マダムは暗い顔をした。「ありません。この街の人々は、森には入りませんよ。魔物がいるので」

「魔物ですか……、そんなものは見ませんでしたけれど……」

「運が良かったですね……。先日は、街にやってきた商人の方が、バジリスクという、恐ろしい大蛇を見たとおっしゃっておりました……」

「あ……」ぼくは、ジェロームくんを見たが、ジェロームくんは素知らぬ顔で焼き鳥を頬張っていた。久々のお肉にすっかり夢中になっている。

「そんなことを聞いてしまったら、街の外に出るのが恐ろしくて恐ろしくて……」

「なるほど……」ぼくは頷いた。「あの、宿屋を探しているんですけれど、見当たらなくて」

「この街には、宿屋はありませんよ。役所に、仮眠室があるので、そこに泊めてもらってはいかがかしら。たまにこの街にやってくる旅人はみんなそうしますわ」

「なるほど……」ぼくは頷いた。しょうがない、今夜もまた森の中でキャンプだな。シャワーはサンクト・トルーツクまで我慢しよう。

『ってことだな』ジェロームくんは言った。『さっさと出ようぜ。こんな街』

「そだねー」ぼくは美味しい屋台の料理を食べながら相槌をした。「そうだ」ぼくはマダムを見た。「この街に、時計を取り扱っているお店などはありませんか?」

 マダムは暖かく微笑んだ。「ありますわ。この街はハンドメイド製品の輸出で成り立っているので、それなりに上等なものだと自負しておりますわよ。商人の方々も喜んで買い取ってくださっております」マダムはお店のある通りを教えてくれた。

 グレイシャーは、広場を中心に12の通りが伸びた作りとなっている。
 時計や衣類などを扱っている店は、西へ伸びる通りにあるらしい。
 ぼくは、料理を食べ終えると、その通りへ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...