笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

はみ出し者と道化師(前編)

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 私は、人間も魔族も決して寄り付かない森の奥深く、エルフ達が住まう里で生まれた。



 「エピロ……あなたはきっと、立派なエルフになるわ」



 「……心の優しい、皆に愛される様なエルフになる筈だ」



 両親も、私が生まれた事を心の底から喜んでいた。



 「ほらエピロ、こっちだ。歩いて来てごらん?」



 「エピロ、ママの所に来れるかな?」



 まだ物心が付く前、私が一人で歩ける様になると両親の元に、自発的に歩いて行った。



 「あうぅ、えへぇ………」



 「「!!」」



 「あぁ、なんて可愛いんでしょう……」



 「本当に……まるで天使の様だ……」



 両親は、私を溺愛してくれていた。やる事成す事、全てに対して褒めてくれていた。そんな毎日に、私は物心が付く前から幸せを感じていた。だけど……そんな幸せも、私が十五歳を迎えた時に消えて無くなってしまった。



 「エルフだ!!エルフがいたぞ!!」



 「生け捕りにしろ!!奴隷として、高く売り付けてやるんだ!!」



 「「「いぇええええい!!!」」」



 人間達が私達の里を見つけ、攻め込んで来たのよ。戦う事の出来るエルフの戦士達は、人間達に戦いを挑んだけど、瞬く間に殺されてしまったわ。



 「あなただけでも、生き残るのよ!!」



 「お前は、俺達の宝だ!!お前が無事なら、俺達はそれで満足だ!!」



 「パパ!!ママ!!」



 多くのエルフが殺されたり、奴隷として捕まった。その中で両親は、私を逃がす為に犠牲となった。



 「…………手酷く殺られたな……誰か生き残っている者はいないか!?」



 「う……うぅ……」



 「!!おい、誰かいるぞ!!?早く助け出すんだ!!」



 里は、攻め込んで来た人間達によって、たった一日で壊滅させられてしまった。次第に場は落ち着きを取り戻し、生き残ったエルフ達は、他の仲間達が生きているかどうか捜索を開始した。幼く背も今より小さかった事が幸いし、崩れた民家の物陰に隠れていた私は、そのまま生き残ったエルフ達に保護された。



 「いいかい?今日からあたしが、あんたの保護者だよ。分かった?」



 「…………」



 「返事は!!?」



 「…………はい」



 「チッ、何であたしがこんなガキの面倒を見ないといけないのよ…………」



 保護された後、私は叔母さんに育てられる事になった。だけど、叔母さんは子供が嫌いだった。



 「いい?姉さんが死んで身寄りが無いあんたを、こうして引き取ってあげているんだから、あたしの命令には必ず従う事、それと我が儘は絶対に言わない事、分かった!!?」



 「…………はい」



 「…………チッ、愛想の無いガキ…………」



 両親の死を切っ掛けに、私は心を閉ざしてしまった。両親の死に、子供嫌いの叔母さん、不幸の連鎖は留まる事を知らなかった。







***







 両親が死んで、叔母さんに預けられてから約百年。私は百二十歳になった。人間の歳で言うと、約十二歳。その当時の私は…………。



 「おらっ!!」



 「気持ち悪いんだよ!!」



 「うっ!!あぁ…………!!」



 同い年のエルフに殴られ、蹴られる等の虐めを受けていた。里が人間達に襲撃された後、私達は他のエルフの里に避難する事になった。しかし、他所から来た私達を他のエルフ達が良く思う筈も無く、殆どのエルフが煙たがわれていた。だが、私が虐められているのにはもう一つ理由があった。



 「お前、エルフの癖に“魔法”が扱えないんだってな!!」



 「このエルフのはみ出し者が!!」



 「うっ……うぅ……痛い……痛い…………」



 私は魔法が扱えなかった。古来より、エルフは魔法に長けている種族だと言われて来た。だけど、そんなエルフの中で私は唯一魔法を扱う事が出来なかった。



 「何勝手に痛がってんだよ!?あぁ!?」



 「痛いなら、回復魔法でも掛ければいいじゃねぇか?あっ、魔法が扱えないんだったな!!あっはははは!!!」



 「お前、それ最高のギャグだな!!あっははははは!!!」



 「…………」



 何も言い返せなかった。だって全て事実だから、それを否定する事は出来なかった。



 「おい、せっかく俺達が面白い事を言っているんだから、お前も笑えよ…………な?」



 「…………」



 「笑えって言ってんだよ!!」



 「うぐっ…………あ、あはは…………ははは…………」



 頭を足で踏まれながらも、私は只笑うしか出来なかった。



 「うえっ、こいつ踏まれながら笑ってやがるぜ」



 「気色悪!!行こうぜ!!これ以上一緒にいたら、俺達まで魔法が扱え無くなっちまう!!」



 「そうだな、あっははははは!!!」



 そう言いながら、同い年のエルフは遠くへと離れて行った。







***







 私は、傷だらけになった体で叔母さんのいる家へと帰った。玄関の扉を叩き、叔母さんが出て来るのを待った。以前、勝手に家に入ったら殴られたからだ。そして玄関の扉が開き、叔母さんが出て来た。



 「あっ、えっと……た、ただいま…………」



 「何、あんた帰って来たの?そんな泥だらけの体で、家に入らないでよ」



 「わ、分かった……近くの川で洗って来る…………」



 「あぁ、それとね?」



 私が、近くの川で体を洗おうと歩き出したら、叔母さんが扉を閉める直前に声を掛けて来た。



 「今日から一年程、彼氏と同棲する事になったから、あんた一年程帰って来なくていいよ」



 「えっ…………?」



 「じゃ、そう言う事だから…………お待たせー、それじゃあさっきの続き……しよ?」



 扉を閉められ、叔母さんの黄色い声を聞きながら、私は近くの川で体を洗おうと歩き出した。







***







 「…………っ!!」



 冷たい。私は、里の近くにある川で泥だらけになった体を洗っていた。しかし、その水は冷たく傷口に非常に染みた。



 「…………どうして……私には魔法が扱えないのかな…………うっ、うぅ…………ママ……パパ……」



 自分だけ、魔法が扱えない事への劣等感。未だに、両親の死を受け入れられない心の弱い自分に、涙が溢れ出て来た。



 「うぅ……うぅ……」



 涙が止まらない。腕で拭っても、顔に水を掛けても、涙が溢れ出て来た。人前で感情を表せない分、こうして一人で泣く事が多かった。



 「おや~、お嬢さん。こんな所で何をしているのですか~?」



 「誰!!?」



 突然声が聞こえて、私は慌てて声のする方向へと顔を向けた。



 「おっと、これはすみませ~ん。こんな所で何をしているのか、とても気になってしまいましてね~」



 「!!?」



 そこに立っていたのは、仮面を被った道化師だった。見るからに怪しい格好だったが、私は不思議と恐怖は感じていなかった。



 「これはこれは~、自己紹介が遅れてしまい申し訳ありませ~ん!!」



 そう言うと道化師は、両手を拡げ顔の横にやり、小刻みに振った。



 「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」



 これが、私とエジタス様との初めての出会いだった。
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