笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

はみ出し者と道化師(中編)

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 「それはそうと、あなたは何故泣いていたのですか~?」



 「な、泣いてなんかいません……!!」



 嘘だ。本当は、自分自身のあまりの不甲斐なさに泣いていた。だけど、それを他の誰かに見られたく無かった。見られたら、また虐められると思ったから。



 「そうですか~?それなら、笑って見て下さい」



 「えっ…………?」



 「どうしましたか?泣いていないと言うのなら、今すぐ笑う事が出来る筈ですよ?」



 「そ、そんな……急に言われて……笑える訳が…………」



 突然、何故泣いているのかと聞かれたかと思えば、今度は笑って見ろと言う。私は、エジタス様の言葉を理解する事が出来なかった。



 「…………ですよね~!!こんな見ず知らずの道化師に、いきなり笑って見て欲しいと言われても、笑う事なんて出来る訳が……おっと!?おとと!?」



 するとこちらに近づこうとしたのか、足の踏み場を誤り、エジタス様は川の中へと落ちてしまった。



 「あぶっ!!おぼ、溺れ!!…………あれ、足が着きますね……」



 「…………ぷっ、あははは!!!」



 私はそんなエジタス様の姿を見て、思わず笑ってしまいました。



 「あははは……は……はは…………」



 だけどそれと同時に、こうでもしないと笑う事すら出来ない、情けない自分に涙が溢れ出て来た。



 「…………どうして、泣いているのですか?」



 「…………」



 「よろしければ、私に話して頂けませんか?辛い事や苦しい事も、誰かに話す事で少しは和らぐと思いますよ?」



 その時のエジタス様の言葉は、今でも忘れられない。傷ついた私の心に染み渡る優しく暖かな言葉、この人に私の全てを話したい。そう思えた。



 「…………では、よろしくお願いします…………」



 「あ~っと、その前に服を着ていただけますか~?その、目のやり場に困ってしまいまして…………」



 「えっ…………きゃ!!」



 自然に会話をしていたが、私は体を洗う為に服を脱いで、生まれたままの姿になっていた。私は慌てて、脱いだ服を着ようとする。



 「ん~、ちょっと待って下さ~い」



 「えっ?」



 「そんな泥だらけの服よりも、もっと良い服を着た方が良いですよ?」



 そう言うとエジタス様は、指をパチンと鳴らし、瞬く間に洗練された綺麗な服を取り出した。



 「さぁ、こちらを着て下さい」



 「そ、そんな……そんな綺麗な服を着るだなんて……私如きには勿体ないです…………」



 「そんな事はありませんよ。人が服を選ぶ様に、服もまた人を選びます。この服はあなたの様な、心の純粋な方こそが着るべきなのです」



 「で、でも…………」



 「それに、もうこの服以外着る物は無さそうですよ~?」



 「えっ!?」



 私が振り向くと、そこにあった筈の泥だらけの服は、いつの間にか無くなっていた。



 「さぁ、この服を着て下さ~い」



 「…………わ、分かりました……」



 拒むのを諦め、私はエジタス様から頂いた綺麗な服を着る事にした。







***







 「…………それで、あなたはどうして泣いていたのですか?」



 綺麗な服に着替え終わると、私とエジタス様は近くの木陰に腰を下ろした。心地よい風が頬を撫でる中、エジタス様は私が何故泣いていたのか、問い掛けて来た。



 「……私は…………」



 私は、エジタス様に自分の身の上を全て話した。両親の死、叔母さんによる不当な扱い。移住によって起こる里の差別。そして……エルフなのに魔法が扱えない事を…………。



 「成る程……愛する者の死に、身内からの不当な扱い。助けを求め、別のエルフの里を訪れるも煙たがわれてしまう。そして、魔法に長けているエルフの筈なのに、魔法を扱う事が出来ない…………壮絶な人生を歩まれているのですね~。あっとすみません、まだお名前をお聞きしていませんでしたね?」



 「エピロ……です。エジタスさん、ありがとうございます。エジタスさんに聞いて貰ったら、何だか少し気が楽になりました」



 ずっと、私の胸を締め付けていた何かが少し緩んだ気がした。だけど、まだ心の奥底がモヤモヤとしていた。



 「でも……全部私が悪いんです。エルフなのに魔法が扱えないから…………」



 「…………エピロさん、それは違いますよ」



 「…………えっ?」



 エジタス様の言葉に、私は驚きを隠せなかった。



 「魔法が扱えるか、扱えないかは言わば個性です。魔法を扱える者もいれば、扱えない者もいます」



 「で、でも私はエルフだから魔法を扱えるのは当たり前じゃないと…………」



 「そもそも、その当たり前というのがおかしい話なのです」



 「どう言う意味ですか……?」



 その時の私は、エジタス様の言っている事がまるで理解出来ていなかった。



 「エルフだから魔法を扱えないと駄目、魔法を扱えない者はエルフじゃない…………そう言うエルフだから、という固定概念に縛れるのが私には理解出来ないのですよ」



 「エジタスさん…………」



 「魔法が扱えない……だから何ですか!?それであなたは、他のエルフの人達に何か迷惑を掛けましたか!?掛けていないでしょう!?同じ種族でありながら助ける事もせず、自分と少し違う個性を認めようともしない…………ほんと、毎度この世界には嫌気が差しますね……」



 「!!!」



 その時のエジタス様は、とても恐ろしいものだった。幼かった私を怖がらせない様に、なるべく抑えていたみたいだけど声の端々に含まれる殺意は、幼かった私でも充分に感じ取れた。



 「……あぁ、すみません。少し興奮してしまいました。そうそうエピロさん、もしかしたらあなたも、魔法を扱える様になるかもしれませんよ?」



 「えっ!?本当ですか!?」



 信じられなかった。魔法を扱えないと嘆いていたら、扱える様になるかもしれないと、希望の光が差し込んで来た。



 「はい、聞いてみるとエピロさんが魔法を扱えないのは、心のストレスが原因かもしれません」



 「心のストレス……?」



 「魔法に必要なのは、豊かな想像力と長く続けられる集中力、エピロさんは生まれて間もない頃に両親を亡くしてしまった事で、心に深い傷を負ってしまった。更に叔母さんによる不当な扱いが重なり合って、豊かな想像力と集中力を押し潰してしまっているかと思われます」



 「…………」



 エジタス様から告げられた、私が魔法を扱えない真実。嘘か誠か、だが話の筋は通っていた。



 「なので、その心のストレスを取り除く事が出来れば…………」



 「私も魔法を扱う事が出来る…………」



 「そう言う事で~す」



 嬉しかった。上手く行けば、自分も皆みたいに魔法を扱う事が、出来るかもしれないのだ。







***







 「エジタスさん、今日はありがとうございました。私の話を聞くだけで無く、解決方法まで考えて頂いて…………」



 「いえいえ、そんな大した事はしていませんよ~。私は只、自分のやりたい様にやっただけです。いざとなったら、あなたもそうすると良いですよ」



 「はい!!!」



 私は明るく元気良く返事をすると、エジタスさまと別れを告げて、その場を去った。エジタス様は、私が見えなくなるまで手を振ってくれた。

































































 エピロと別れを告げ、一人残ったエジタスは振っていた手を下ろした。



 「…………ラクウン」



 「はい」



 エジタスが声を掛けると、ラクウンが物陰から現れた。



 「あの子を、こちらに引き入れます」



 「…………よろしいのですか?」



 「えぇ、あの子は相当強い魔力を秘めていますよ……きっと私達の計画に大きな貢献をもたらしてくれる…………」



 「畏まりました…………ところで、こちらの服はどういたしましょうか?」



 そう言いながらラクウンは、懐からエピロが着ていた泥だらけの服を取り出して、エジタスに見せた。



 「燃やして、灰にでもしておいて下さい。あの子に、そんなみすぼらしい服は似合わない。それよりも、私達はあの子を引き入れる準備に取り掛かりましょう」



 「畏まりました」



 すると、ラクウンの手から炎が生成され、あっという間に泥だらけの服を燃やした。後に残ったのは、僅かな灰だけだった。その灰も心地良い風に吹かれて、空彼方へと飛ばされるのだった。
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