殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

文字の大きさ
4 / 71
プロローグ

第三話 口の軽い男

しおりを挟む

 そんなキャンベルは自分は悪くないと声を上げる。
 それは泥棒猫の論法だった。

「だって、いずれわたしの物になる部屋だって、サフラン殿下が! そう言って……下さったから。なら、そこでお互いを深く知り合うのもいいかなって。まさか、まだアニス様がいらっしゃるなんて……」
「私はまだ彼と婚約を破棄してもいませんしここから出ていくいわれもありません!」
「おいやめろ! キャンベルが怖がっているじゃないか!
「あなたはどっちの味方なの?」
「決まっているだろう、キャンベルだ」
「ああ……もうっ!」

 他人の婚約者を略奪し、相手の部屋にはりこんで二人でイチャイチャとしようと、彼女から言い出したと聞いた時には、腕に力がこもったけれど、それは許すことにした。
 だって、女性からでなく男性が、秘密を暴露するなんて最低ではないか。
 口の軽い男は死滅すべきなのだ。
 サフランのように。
 アニスは睨まれてしょんぼりとうなだれているキャンベルを、傍からみても可愛いと思った。

「サフラン殿下は、好きな女ができたらすぐに次の女に行くようだ軽い方だけど。あなたはそれでもいいの?」
「いえ。殿下はそのようなことはなさいません。私たちの仲も、半年以上前からのことですし」
「へえ、そうなのね。殿下」

 それに対して自分はどうだろう?
 入り口横の壁には鏡がはめ込まれている。
 それを二人に気づかれないように、横目でじっと見つめた。

 腰まである母親譲りの黒髪は、量が豊かだとよく言われる。
 その髪を片方にまとめ三つ編みにして流しているが、彼は形の良い額を出してみてはどうかと言ってくれた。

 普通ならヒールを履いて隣に立つと、男性は長身の女を嫌う。
 目線が被るからだと。

 だが、自分よりもさらに頭一つ高いサフランは、笑顔で気にするな、と言ってくれた。
 君ほど、美しい容姿端麗な美女を他に知らない、とも言ってくれた。

 まるで吟遊詩人が歌う美女のような容姿だ――ちょっと待て。
 その意味の本意を知り、編み棒が指の中でべしりっと音を立てて折れる。

「ひいいっ、待て、なんだ? 今度はなにを怒っている!」
「助けて、サフラン様、殿下! 私、こんなとこで死にたくないー!」

 被害者面した不法侵入者たちは、口をそろえてそう言った。
 吟遊詩人の語る美女?
 それは……金髪碧眼で華奢な幼い少年のようなスタイルの女性のことだ。
 つまり、胸がなくお尻もなく、色気なんてどこにもない、外観だけが綺麗だと上辺の誉め言葉であり。
 事実、自分にそれが――キャンベルのような豊かな胸もお尻もないことを思い知らされて、アニスはもう一本もっていた編み棒をへし折った。
 今度は、バキンっと虚しい音が赤いベルベットのふわふわした弾力性がある床に吸い込まれていく。
 それを上からヒールのそこで踏みつけて、アニスは二人に向き直った。

「……サフラン様。あなたがどのような女性を好みかよくわかりました。それならそうともっと早くに言ってくださればよかった……」
「あ、え……? いや、済まない……正直言えば、君は僕のタイプではない」
 
 死刑宣告にも似た彼の告白に、いまやアニスが泣きだしそうだ。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

処理中です...