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プロローグ
第七話 第三の男
しおりを挟むしかしそれはアニスの誕生日を祝うためであったり、フリオの妻になる予定の女性、テイラーがアニスと語りたいと言い、それに付いてくる形になっただけ。
個人的に二人きりで秘密の関係になったことは一度もなかった。
「身に覚えがありませんね。第二王子様がどんなことを仰れましたの」
「兄上は、辺境伯を賜るそうだ」
「は? どこの辺境伯を?」
「お前の実家だよ」
これもまた、初耳だった。
そうなると実家はまた別の領地へと封じられることになる。
これまでは王都からはるかに遠い東の果てだったが、今度はどこになるのか。
多分、南東に位置する半島の尖端だろうと思った。
あそこは海運が盛んな王国にとって重要な土地だ。そこを守り、管理できるのは王国でも数人しかいない。
父親なら適任だと、アニスは思った。
「つまり我が家の移動に伴って第二王子さまが辺境伯になられると。どうしてそこに私が出てくるのです」
「お前が生まれ育った土地だからな。それに正室となるタイラー様はお前と仲が良いと聞く。側妃に欲しいと願うのは、当然のことだ」
「呆れ果てて物が言えないわ。第一、王太子妃補だった女を、いきなり第二王子の側妃にするなんて、降格人事にもほどがある」
「だから降格人事なんだよ。兄上がお前を求めた時点で、お前たちの仲は誰がどう見ても怪しい関係そのままじゃないか」
「え……そんな。だってそれは、第二王子様の勝手なお考えであって、私まで巻き込まれるのっておかしくない?」
「政治はそういうもんだ。お前の父親はすでに半島に入っている。事後報告になるだろうしそうなればどんな文句をつけても陛下は首を縦に振らない。諦めて受け入れろ。これはもう決定事項なんだ」
漠然とした思いだった。
身の奥から震えが湧き出てきて、止まらない。
顔面から血の気が失せていくのが、自分でも理解できた。
たった一人の人間の運命をこうも簡単に操るのね。
そしてそれを言い訳にして――浮気まで堂々とやってのけるあなたはどれほど卑劣なの?
この男を愛してしまった自分がバカだった。
政治の中枢にいながら、実家を巻き込み、父親の立場を危うくしてしまった自分を恥じた。
「……わかりました。婚約破棄を受け入れます。今更何を語っても、あなたの気持ちは変わらないのね……」
「僕はこのキャンベルを愛しているからな。君よりもずっと深い愛情と、ずっと優しい感情を彼女が与えてくれる。それは僕にとってとても心地いいもんなんだ」
「恥知らずな人。ですが条件が一つあります」
「条件? 決定事項だと言っただろう。……まあいい、何を望むんだ。聞くだけは聞いてやろうじゃないか」
人をあざ笑うかのようにサフランはそう言い、鼻を得意げに鳴らした。
自分が戦争の勝利者でもあるかのように。
その様を見て、アニスは口をつぐんだ。
第三者が聞くべき内容だったからだ。
そして、部屋の入り口に用意された来客用のベルが鳴った。
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