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プロローグ
第八話 優しい老紳士
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誰だ、とサフランは視線を扉に送る。
キャンベルもシャンパンのグラスを傾けながら、肩越しにそちらを覗いた。
アニスは立ち上がると、自ら玄関に向かい、来客を迎えた。
やって来たのは、サフランも見覚えのあるゲストアテンダントと他数名。
中には、銃を腰にした警備員も混じっていた。
「遅くなり申し訳ございません。フランメル伯爵令嬢様。警備員を手配していたものですから」
壮年のゲストアテンダントは息を荒くしてそう言った。
アニスが鳴らしたベルの回数は、あらかじめ、宿泊客とゲストアテンダントの間で取り決めていた物だった。
一回なら清掃。二回なら食事。四回なら……緊急性の高い問題が発生した。
彼はそれをきちんと覚えていてくれて、人手を集め、いまここに駆けつけてくれたのだ。
深く感謝を述べたいところだった。
「いいの気にしないで。間に合ったから」
「は! 光栄でございます……しかし何か問題が」
初老の男性は玄関脇の棚の上に目を寄せた。
床には彼の見覚えのあるものが散乱している。
伯爵令嬢はこのフロアに戻ってくる時、腕に大きな紙袋を抱えていた。
その中身がなにかなどと検索するような野暮な真似はしなかったが、跳ねるような足取りで嬉しそうに部屋に戻っていくアニスを見て、彼もまた嬉しくなったものだ。
だからその紙袋が破れ中身が床に巻散っているのを確認したら、どうも虚しい気持ちで一杯になってしまう。
「これはどうしましたか」
「気にしないで。ああ、そうだわ。ごめんなさい、部屋の椅子に、これを突き刺してしまったの」
「はあ?」
アニスが彼の前に差し出したのは先ほど指の中でへし折った数本の編み棒だった。
彼女は、サフランたちが座る席へとゲストアテンダントを案内する。
王太子に深く一礼した彼が次に目にしたのは驚きの光景だった。
琥珀色に磨き上げられた高級家具の木の部分に、編み棒の残骸が深々とその半分近くを埋めている。
三本ほど、そこに突き刺さっている。
いや、こんな細いもののどうすればこんな深くまで突き刺すことができるのか。
これはもはや冗談としか受け取れないと彼は困ったように顔を左右に振った。
「……ありえない角度で突き刺さっておりますが」
「それについては後からお話をさせて欲しいの」
「いえいえ、どうせ買い換える予定の家具でございますから。それよりも、殿下ならびに伯爵令嬢様にお怪我は……
?」
「ないわ、それ私が突き立ててたものだから」
老人は絶句した。
これは女性がその力に可能なものではなかった。
恐ろしいほどの能力を持った暗殺者でもここにこなければ、こんな出来事は起こりえないだろうと思った。
キャンベルもシャンパンのグラスを傾けながら、肩越しにそちらを覗いた。
アニスは立ち上がると、自ら玄関に向かい、来客を迎えた。
やって来たのは、サフランも見覚えのあるゲストアテンダントと他数名。
中には、銃を腰にした警備員も混じっていた。
「遅くなり申し訳ございません。フランメル伯爵令嬢様。警備員を手配していたものですから」
壮年のゲストアテンダントは息を荒くしてそう言った。
アニスが鳴らしたベルの回数は、あらかじめ、宿泊客とゲストアテンダントの間で取り決めていた物だった。
一回なら清掃。二回なら食事。四回なら……緊急性の高い問題が発生した。
彼はそれをきちんと覚えていてくれて、人手を集め、いまここに駆けつけてくれたのだ。
深く感謝を述べたいところだった。
「いいの気にしないで。間に合ったから」
「は! 光栄でございます……しかし何か問題が」
初老の男性は玄関脇の棚の上に目を寄せた。
床には彼の見覚えのあるものが散乱している。
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その中身がなにかなどと検索するような野暮な真似はしなかったが、跳ねるような足取りで嬉しそうに部屋に戻っていくアニスを見て、彼もまた嬉しくなったものだ。
だからその紙袋が破れ中身が床に巻散っているのを確認したら、どうも虚しい気持ちで一杯になってしまう。
「これはどうしましたか」
「気にしないで。ああ、そうだわ。ごめんなさい、部屋の椅子に、これを突き刺してしまったの」
「はあ?」
アニスが彼の前に差し出したのは先ほど指の中でへし折った数本の編み棒だった。
彼女は、サフランたちが座る席へとゲストアテンダントを案内する。
王太子に深く一礼した彼が次に目にしたのは驚きの光景だった。
琥珀色に磨き上げられた高級家具の木の部分に、編み棒の残骸が深々とその半分近くを埋めている。
三本ほど、そこに突き刺さっている。
いや、こんな細いもののどうすればこんな深くまで突き刺すことができるのか。
これはもはや冗談としか受け取れないと彼は困ったように顔を左右に振った。
「……ありえない角度で突き刺さっておりますが」
「それについては後からお話をさせて欲しいの」
「いえいえ、どうせ買い換える予定の家具でございますから。それよりも、殿下ならびに伯爵令嬢様にお怪我は……
?」
「ないわ、それ私が突き立ててたものだから」
老人は絶句した。
これは女性がその力に可能なものではなかった。
恐ろしいほどの能力を持った暗殺者でもここにこなければ、こんな出来事は起こりえないだろうと思った。
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