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プロローグ
第十一話 孤独のアニス
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東洋の武術で秘技とされる、『指弾』と呼ばれるものだった。
最も、それだけではこれほどの威力を出すには至らない。
「編み棒でこれをやられたとしたらよく折れませんでしたな。私も戦争で銃を撃ったこともありますが、撃ち出す時の威力であんな細いものならへし折れてしまうはず」
「それはね――」
と、アニスの周囲に黑い霧のようなものが渦巻いた。
それは右手に集約されて、小石を包み込む。
また、シュダンっ! と破砕音がした。
今度の一撃は、先程の四発よりも、より深くめり込んでいる気がする。
「……驚きで、ございます。私、六十数年生きてまいりましたが、このような技は見たことがございません」
「あまり言いたくないの。だってこの国では闇属性は嫌われるでしょう?」
「闇属性? お嬢様は、闇属性のスキルをお持ちなのですか。なるほどそれで……いやいや、それは嫌われていたのはもはや百年以上も昔の話でございますから」
「そうなんだ。私が生まれた辺境では今でもまだ忌まわしいスキルとして呼ばれているの。殿下はこんな私でもいいと言ってくださったの。それを信じた自分がバカみたい……」
「お嬢様」
「ごめんなさい。見ないで」
この後、アニスは悲しみのなかで数日を過ごした。
誰かに怒りをぶつけたい気分だった。
故郷で人生の大半を過ごしたあの砦の中なら、騎士たちに命じて剣を振るい、憂さを晴らすこともできただろう。
しかし、ここは遠く離れた王都なのだ。
おまけに普段なら軍隊を率いる父親とは、魔導具を使い、秘匿回線で素早く通じることができた。
だが、いまは半島の先にいて忙しくしているのだろう。
まったく連絡はつかず、シャンパンやワインを飲み、着替えもせずに自堕落に過ごした。
お付きとして与えられていた侍女たちは、すべて宮廷に戻してしまったから、自分一人でドレスを着るにもことかいた。
「……誰にも見せる相手がいないじゃない」
ある朝ふと、自分のだらしなさに嫌気が差して、アニスは起き上がる。
ルームサービスを通じて美容師や、肌の手入れをするためにスイートルームに専属として付いている女性たちの手を借りた。
香料が混ざった湯を、白い浴槽のなかで何度も使い、痛んだ肌を手入れした。
良い香りのする名前を知らない珍しいハーブを使ったオイルマッサージを全身に受け、酒と不眠と暴食で荒れ果てていた肌がよみがえった。
戦いで指先にできたたこすらも、彼は愛おしいと言ってくれていたのに、それは嘘だったと思うと、いまでも泣けてくる。
それほど、あの恋愛はアニスにとって人生の一大事だったし、他に知ることのない愛を分かち合った大事な存在が彼だった。
半年も前からよその女に取られていたことも、アニスの悲しみを深くした理由の一つだった。
どれもこれを思い出してもやはり腹立たしくなり同時に涙が溢れそうになる。
美容師や、ネイルケアを施してくれたアーティストや、マッサージで心を解きほぐそうと努力してくれた女性たちには、感謝が絶えなかったが、いざ、ドレスを身に纏い、どこかにでかけようとした時だった。
自分にはもはやデートの際に左腕を絡める相手もいなければ、社交界のパーティーで踊ってくれるパートナーもいないのだ。
そのことに気づき愕然とし、そして、虚しさへと心は一気に染まっていた。
最も、それだけではこれほどの威力を出すには至らない。
「編み棒でこれをやられたとしたらよく折れませんでしたな。私も戦争で銃を撃ったこともありますが、撃ち出す時の威力であんな細いものならへし折れてしまうはず」
「それはね――」
と、アニスの周囲に黑い霧のようなものが渦巻いた。
それは右手に集約されて、小石を包み込む。
また、シュダンっ! と破砕音がした。
今度の一撃は、先程の四発よりも、より深くめり込んでいる気がする。
「……驚きで、ございます。私、六十数年生きてまいりましたが、このような技は見たことがございません」
「あまり言いたくないの。だってこの国では闇属性は嫌われるでしょう?」
「闇属性? お嬢様は、闇属性のスキルをお持ちなのですか。なるほどそれで……いやいや、それは嫌われていたのはもはや百年以上も昔の話でございますから」
「そうなんだ。私が生まれた辺境では今でもまだ忌まわしいスキルとして呼ばれているの。殿下はこんな私でもいいと言ってくださったの。それを信じた自分がバカみたい……」
「お嬢様」
「ごめんなさい。見ないで」
この後、アニスは悲しみのなかで数日を過ごした。
誰かに怒りをぶつけたい気分だった。
故郷で人生の大半を過ごしたあの砦の中なら、騎士たちに命じて剣を振るい、憂さを晴らすこともできただろう。
しかし、ここは遠く離れた王都なのだ。
おまけに普段なら軍隊を率いる父親とは、魔導具を使い、秘匿回線で素早く通じることができた。
だが、いまは半島の先にいて忙しくしているのだろう。
まったく連絡はつかず、シャンパンやワインを飲み、着替えもせずに自堕落に過ごした。
お付きとして与えられていた侍女たちは、すべて宮廷に戻してしまったから、自分一人でドレスを着るにもことかいた。
「……誰にも見せる相手がいないじゃない」
ある朝ふと、自分のだらしなさに嫌気が差して、アニスは起き上がる。
ルームサービスを通じて美容師や、肌の手入れをするためにスイートルームに専属として付いている女性たちの手を借りた。
香料が混ざった湯を、白い浴槽のなかで何度も使い、痛んだ肌を手入れした。
良い香りのする名前を知らない珍しいハーブを使ったオイルマッサージを全身に受け、酒と不眠と暴食で荒れ果てていた肌がよみがえった。
戦いで指先にできたたこすらも、彼は愛おしいと言ってくれていたのに、それは嘘だったと思うと、いまでも泣けてくる。
それほど、あの恋愛はアニスにとって人生の一大事だったし、他に知ることのない愛を分かち合った大事な存在が彼だった。
半年も前からよその女に取られていたことも、アニスの悲しみを深くした理由の一つだった。
どれもこれを思い出してもやはり腹立たしくなり同時に涙が溢れそうになる。
美容師や、ネイルケアを施してくれたアーティストや、マッサージで心を解きほぐそうと努力してくれた女性たちには、感謝が絶えなかったが、いざ、ドレスを身に纏い、どこかにでかけようとした時だった。
自分にはもはやデートの際に左腕を絡める相手もいなければ、社交界のパーティーで踊ってくれるパートナーもいないのだ。
そのことに気づき愕然とし、そして、虚しさへと心は一気に染まっていた。
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