殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

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第一章 

第二十話 パトロン

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 エリオットは丁重に魔石を包んだ箱を持ち上げると、礼儀正しく一礼して退室する。
 その様を見て、祖父は孫に満足そうな視線を見送っていた。

 アニスは部屋に残ったボブに意味ありげな顔をして見せる。
 用件はそれだけ? とそんな顔だ。

  老紳士は孫を紹介したいだけで、ここまでしてくれたのだろうか?
 いや、そこにはもっと深い思惑があるような気がした。

「エリオットはまだまだ駆け出しでございましたら、原石を調達することもままなりません」
「え? 原石……ああ、魔獣の体内にある魔石のことね。それなら業者市で買えるのではなくて?」

 なんとなくアニスは投げやりな返事をしてしまう。
 そんな誰が用意しても手に入るようなもののために、力を借りたいというのは、考えが足らないと言わざるを得ない。

 天井に取り付けられて、緩やかに回る大きなファンが運ぶ爽やかな風に頬をくすぐられ、気分を良くした彼女はここまで世話になっているのだから、もう少し話を聞いてみるかという気になった。

「業者市の物は各店ごとに仕入数があらかじめ決まっておりまして」

 うん? ということは、店の中で取り合いになる?
 もちろんその場合、上にいる者から順繰りに良質な魔石を手にできることになる。

 エリオットは新人もド新人だ。
 そんな彼に例えば、SからEまでのランクがあるとして、中間ランクのCほどの輝きと品質をもつ魔石がやってくることは、これから先、数年あるいは十年はないだろう。

 そして、魔石は加工していなければ、一般人は触れることも、所有することも許されない。
 魔石は一種の劇毒物で、金や銀、その他の宝石類と紋章と呼ばれる魔法を刻印することで、その毒素を消滅させることが可能だ。
 
 原石からは瘴気がふんだんに溢れ出てしまい、近寄るだけで人に幻覚や嘔吐などの症状をもたらす。
 死んだ魔獣から瘴気が漂い、辺りが負の世界へと変化するのは、ひとえに魔石が浄化されていないことから起こる現象だった。

「でも、その見習いから始める覚悟でやっているのだから、良質な魔石を手にできないのは、仕方ないのではなくて? そこにボブが手を出したら、彼の職人としてのプライドを踏みにじることになるのではなくて?」
「お嬢様だけがそのように為さるのであればそうなのですが」

 私が?
 私は彼に便宜を図ったりしないわよ。そう言いかけて止めた。

「パトロンになってやって欲しい。そういうこと?」
「噛み砕いて申しますとそういったことになります」

 ボブは意図を察してくれたことに嬉しそうな顔をした。

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