殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

文字の大きさ
22 / 71
第一章 

第二十一話 魔猟への誘い

しおりを挟む
 しかし、とアニスは半信半疑のままだ。
 どうしていまパトロンの話をするのか、今一つ理解できない。

「いいのかしら? あなたには恩があるし、二つ返事で引き受けてもいいと思う。私の財力と権力が続く限りなら。でも今はその状態にふさわしくないような気がする。だって彼……あなたのお孫さんはまだ働き始めて一年も経ってないのでしょう? 他の同僚や先輩たちがいい顔するかしら?」
「パトロンとはいずれ、お嬢様の状態が落ち着いてからで結構でございます」
「……何かしら? 前振り? いいえ、違う。予約というやつなの?」

 いえいえ、とボブは首を左右に振る。
 もうちょっと簡単な理由がありそうだった。

「近年、魔族との戦争も増えております」
「まあ……そうね」

 数年前。
 あの砦を守りぬいた敵は、魔族に加担した国家の軍勢だった。

 サフランの面影がちらりと胸を打つ。
 この部屋の中に一週間以内に彼はいたのに……そんなことを思い出すと心臓が掴まれそうに痛かった。

「そのせいかこの王都の周辺……と申しましても、半径二百キロ圏内ですが。これまで眠っていたはずの魔獣たちが目覚めているという報告がいろいろと寄せられておりまして」
「へえ、そう‥‥‥」

 アニスの心の痛みをボブが察することはない。
 感情を表に出さないようにと、アニスは務めた。
 
 サフランの死亡時ならばともかく、落ち着きを取り戻している今ならば、動揺を隠す程度は問題ない。
 結論を早く述べてくれない老紳士に、少しばかり苛立ちもしたが、その間は却ってアニスの心の揺れを外に出さずに収めるのに役立ってくれた。

「そこで王国と致しましては戦える能力のある個人が、ある一定の試験を受けることにより、合格となれば魔猟を行ってもよいという、緩和令を出すことになりました。つい、先週のことです」
「ちょっと待って。それってもしかして――」

 眉根を寄せて訝しむアニスに、ボブはニッコリと微笑んで見せた。

「はい。お嬢様は新しい事業を始められたいとおっしゃっておりましたし、魔猟でございましたら法律に触れることもなく、合法的にお嬢様の能力を活かすことができるかと」
「そのついでに、あなたの孫に良質な魔石を与えてやってほしい。そういうこと? 今回の仲介はそのための言ってみれば賄賂みたいなもの‥‥‥」
「賄賂などとそんな大層なことは思っておりません。孫も助かりますしお嬢様も新しく仕事を手にすることができます。双方丸く収まり、よろしいかと思われます」

 大した名演説だわ。
 老紳士の老獪さに、アニスは舌を巻いた。

 でもそれだけでは魔猟はこなせない。
 相手は一体に完全武装した兵士が数人がかりで立ち向かい、どうにか倒せるような脅威なのだ。

 アニスは自分の闇属性とそのスキル『魔弾』には絶大な信頼を置いてきた。
 しかし、それは対人としてだ。魔獣相手では話が違う。

「まあいいけど。でも私の闇属性のスキルは対人で効果を発揮するの。対魔獣ともなれば、それは保証できない。それに人手もいるし」
「ご心配には及びません。私も若い頃、魔族を相手に戦ったこともございます。お嬢様のスキルであれば、十分に魔獣と渡り合えるものかと」
「買いかぶりもいいところね。そうなると魔猟師の資格を受けて……人手もいるわ。最低でも一人、サポーターがいないと魔猟はできない」

 そこの抜かりもございません、とボブは言った。
 なんだか嫌な予感がしてまさか、と尋ねてみる。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

処理中です...