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第一章
第二十四話 軽薄な男
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係員は思わず、身分証明書を二度見する。
アニスとそれを交互に見比べてから、ぽかんと小さく口を開けて、驚きを隠せないようだった。
何よ、心証悪いわね。
自分が世間でどう騒がれているのかは知っている。
国を私物化した王の息子の嫁。いや、嫁にはまだなっていないけれど、嫁候補だった女。
嫁候補も好き勝手やって、さぞや私腹を肥やしたに違いない。世間様からは、そう思われている。
父親は前国王の悪事を、現国王と共に暴いた救国の英雄だ。
その手前もあって声高に責める連中はいないが、誰もが同じことを感じていてもおかしくはない。
逆に父親が、スパイとして娘を前王子の元に送り込んだとか。
下手をすれば、内部告発したのはあの娘ではないか、とか。
貴族社会のみならず、王国では婚約すれば女は相手の家のものになる。
あちらの社会へと組み込まれる存在だ。
その婚約者であるアニスがサフランから訊きだした前国王のいろいろな悪い情報を、父親や現国王フリオに売ったのだとしたら、それはとんでもない悪女が誕生したといってもいいことになる。
本当のところ、サフランは未来の妻の部屋に他の女をそっと招き入れて、いかがわしいことをしようとしていたのだけど……。
など一瞬のうちに、嫌な感情がアニスの脳裏を駆け巡る。
目の前の係官も、世間と同じように冷たい不躾な視線を向けてくるのだろうか。
それはとても冷たいものだ。
決して何度も何度も、真正面から受け止めることができるものではないし、いくら気丈だといえ、アニスも女性だ。
一度にたくさんの人々から同じようなものを向けられたら受け止めきれる自信がなかった。
今この係員が大きな声を上げて叫んだりしない限り、その最悪の事態は逃れられるのだけれども……。
「ようこそ、魔猟師資格試験へ」
「はい……? え、あれ?」
「何か? あちらで詳細な説明を行いますので、席に座ってお待ちいただけますか」
そう言って彼が丁寧に示した方向には、簡易式の折りたたみ椅子がいくつも並べられていた。
設営するの大変だっただろうなと思いつつ、係員から必要な書類一式と身分証明書を返してもらう。
「頑張ってくださいね。うちは実力主義ですから」
「え、もちろん。頑張りたいと思います」
実力主義。
なんていい響きなんだろう。
頑張ってやろうじゃない。
これまで考えてもみなかったけれど、魔猟師って仕事も案外悪くないかもしれない。
激高家でもあり、楽天家でもあるアニスは気分の切り替えが早い。
案内された場所へと向かうと、それまでの四人がめいめい思う場所に腰かけていた。
黒いフード付きコートをすっぽりとかぶった身長がアニスよりも低い少女。
多分、獣人だろう。犬のように長くてふんわりとした白黒の尾が、フード付きコートの下から覗いている。
こんな夏場にそんな暑そうな格好して、熱中症にでもならないのかと心配が過ぎる。
二人目、これは見知った顔。
アニスよりも背の高い、灰色の髪と青い瞳の少年がそこにいる。エリオットだ。どうやら、彼が参加しないと私も参加しない、と昨夜、ボブにごねたのが功を奏したらしい。
三人目、アニスと同じほどの年恰好の少女。
きつく猫のように吊り上がった青いめと、肩口まで伸ばした真紅の髪、その下には高価そうな薄い胸当て鎧がにぶい灰色に輝いている。腰には細い剣が一つ。どこか薄幸そうな少女だった。
四人目、どうやらその真紅の髪をした少女の相方らしい。
黒髪、中肉中背の優男。目元が軽薄そう。こちらを見て意味ありげな微笑みをした時点で、本能が拒絶した。
しかし、魔猟師としての腕なのか、それとも戦士としての腕前なのか。彼が続々と会場の椅子に座る人々の中で、最上位の部類に入るのは、間違いがないようだった。
アニスとそれを交互に見比べてから、ぽかんと小さく口を開けて、驚きを隠せないようだった。
何よ、心証悪いわね。
自分が世間でどう騒がれているのかは知っている。
国を私物化した王の息子の嫁。いや、嫁にはまだなっていないけれど、嫁候補だった女。
嫁候補も好き勝手やって、さぞや私腹を肥やしたに違いない。世間様からは、そう思われている。
父親は前国王の悪事を、現国王と共に暴いた救国の英雄だ。
その手前もあって声高に責める連中はいないが、誰もが同じことを感じていてもおかしくはない。
逆に父親が、スパイとして娘を前王子の元に送り込んだとか。
下手をすれば、内部告発したのはあの娘ではないか、とか。
貴族社会のみならず、王国では婚約すれば女は相手の家のものになる。
あちらの社会へと組み込まれる存在だ。
その婚約者であるアニスがサフランから訊きだした前国王のいろいろな悪い情報を、父親や現国王フリオに売ったのだとしたら、それはとんでもない悪女が誕生したといってもいいことになる。
本当のところ、サフランは未来の妻の部屋に他の女をそっと招き入れて、いかがわしいことをしようとしていたのだけど……。
など一瞬のうちに、嫌な感情がアニスの脳裏を駆け巡る。
目の前の係官も、世間と同じように冷たい不躾な視線を向けてくるのだろうか。
それはとても冷たいものだ。
決して何度も何度も、真正面から受け止めることができるものではないし、いくら気丈だといえ、アニスも女性だ。
一度にたくさんの人々から同じようなものを向けられたら受け止めきれる自信がなかった。
今この係員が大きな声を上げて叫んだりしない限り、その最悪の事態は逃れられるのだけれども……。
「ようこそ、魔猟師資格試験へ」
「はい……? え、あれ?」
「何か? あちらで詳細な説明を行いますので、席に座ってお待ちいただけますか」
そう言って彼が丁寧に示した方向には、簡易式の折りたたみ椅子がいくつも並べられていた。
設営するの大変だっただろうなと思いつつ、係員から必要な書類一式と身分証明書を返してもらう。
「頑張ってくださいね。うちは実力主義ですから」
「え、もちろん。頑張りたいと思います」
実力主義。
なんていい響きなんだろう。
頑張ってやろうじゃない。
これまで考えてもみなかったけれど、魔猟師って仕事も案外悪くないかもしれない。
激高家でもあり、楽天家でもあるアニスは気分の切り替えが早い。
案内された場所へと向かうと、それまでの四人がめいめい思う場所に腰かけていた。
黒いフード付きコートをすっぽりとかぶった身長がアニスよりも低い少女。
多分、獣人だろう。犬のように長くてふんわりとした白黒の尾が、フード付きコートの下から覗いている。
こんな夏場にそんな暑そうな格好して、熱中症にでもならないのかと心配が過ぎる。
二人目、これは見知った顔。
アニスよりも背の高い、灰色の髪と青い瞳の少年がそこにいる。エリオットだ。どうやら、彼が参加しないと私も参加しない、と昨夜、ボブにごねたのが功を奏したらしい。
三人目、アニスと同じほどの年恰好の少女。
きつく猫のように吊り上がった青いめと、肩口まで伸ばした真紅の髪、その下には高価そうな薄い胸当て鎧がにぶい灰色に輝いている。腰には細い剣が一つ。どこか薄幸そうな少女だった。
四人目、どうやらその真紅の髪をした少女の相方らしい。
黒髪、中肉中背の優男。目元が軽薄そう。こちらを見て意味ありげな微笑みをした時点で、本能が拒絶した。
しかし、魔猟師としての腕なのか、それとも戦士としての腕前なのか。彼が続々と会場の椅子に座る人々の中で、最上位の部類に入るのは、間違いがないようだった。
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