殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

文字の大きさ
28 / 71
第一章 

第二十七話 リンシャウッド

しおりを挟む

 アニスがそんな物騒な話をしていたときだ、同じように証明書を天に高く掲げた少女が近場で「おっととっ」と声を上げた。

 とててっ、バランスを崩した黒い小さな人影が、アニスの背後から背中に向かってぶつかってくる。
 アニスはどんっと押されて前にたたらを踏むかとエリオットは思ったが、そうはならず、彼女はくるっと振り向くとその胸に、小さな人影を受け止めていた。

 正確にはその両腕で、相手の掲げた両手を万歳させたまま、その場所で勢いを相殺させた。
 そう表現したほうが正しいようだ。
 
 会場は中庭にあるものだから、自然の段差に足元を取られてしまったらしい。
 相手は、身長がアニスの肩ほどまでしかない、黒いフード付きコートを被った例の獣人族の少女だった。

「……すいません、嬉しさあのあまり、つい」
「いえ、気をつけて下さいね」

 大人の女性が諭すようにそう言い、しかし、アニスは少女の両腕を離さない。
 あ、えっと。離して? と願う彼女の手首を軽くひねった。

「あ、痛い。痛いですー、痛いー」
「あ、アニス様!」
 
 何やっているのですか、とアニスの暴行に慌ててエリオットは制止の声をかけた。
 周囲で彼ら同様に、魔猟資格者証を手にして、それを太陽にすがしつつ眺めていた人々も、アニスの振る舞いが気になったらしい。

「そんな小さな子供に、そこまですることはないだろう!」

 と、大柄なハンターの男性が止めに入る。
 すると、アニスは目を丸くして言った。

「何言ってらっしゃるのですか、詐欺の現行犯なのに!」
「詐欺? 何を騙されたっていうんだ。あんた、いまここで会ったばかりじゃないのか、その子供と」
「子供じゃない、リンシャウッド! ちゃんとした二十歳……痛いから放して! 逃げないから……あいいいっ」
「逃がしたら、現行犯逮捕できなくなるでしょーが!」

 万歳の体勢からリンシャウッドと名乗った少女の細腕は、首の後ろでアニスの腕一本によって絡められている。
 どうしてこれが詐欺の現行犯なのか、アニス以外に理解できないらしい。

 こんなに簡単な事なのに、みんな分からないの?
 魔猟師の質も堕ちたものだわ、とかつて凄腕の魔猟師たちに貴族の趣味としての魔猟の手ほどきをうけたことのあるアニスは呆れを隠せない。

「試験会場に、指定された以外の、銃器の持ち込み禁止! ……この子の場合、仕込み杖って言うのかしら?」
「あ、やめっ、変なとこ触って、それだめええ」

 バサッとフードの下が暴かれた。
 リンシャウッドは黒狼族と呼ばれる黒い狼の獣人だ。
 
 白黒まだら模様の尾と頭頂部の獣耳が特徴的だが、彼女もその特徴のままだった。
 唯一、違うところと言えば、内耳の毛色は普通は真っ白なのに、この子の場合、真っ青だという点だ。
 
 さしずめ、黒狼と蒼狼のハーフかもしれない。
 そして、アニスがコートの背中を首元から手を入れてごそごそやると、そこからは150センチほどしかないはずのリンシャウッドがどこに隠していたのか、杖のような長ぼそい黒い棒が姿を現す。

「確かめてみて、武器だから」
「これが……? どうやってそのちびっこのどこにこんな」
「ちびっこ言うな!」

 自分はまだ幼いだけだ、と主張するリンシャウッドのことはさておき、黒い棒の根元を回すと、内側から黒い細筒と銃把がでてきた。

 だが、そこには引き金がない。距離計測器もなく、ただの筒のように思えないこともない。
 しかし関係者が見ればそれは一目瞭然で。

「ほう……よく作ってある仕込み銃だ。魔力を込めて弾丸にし、意志の力を引き金にすることで、隠し持っていても相手を狙撃することのできる。暗殺者のもつ武器の一つだな」
「ぐっ……」

 魔猟師協会のお偉いさんは、さすが一目見ただけでそれを判別してみせた。
 バレてしまった、とリンシャウッドはがっくしと肩を落とす。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

処理中です...