29 / 71
第一章
第二十八話 違法行為
しおりを挟む
すると少女は、自分の悪行を棚に上げて、アニスを射殺すような視線で睨みつけて来る。
それは地獄の悪魔もかくや、というほどに呪いのこもった視線だった。
「魔猟師になれば、うちの村の裏手に住む魔獣退治を引き受けることができたのに! あんたのせいだよ!」
「えー……ちょっと待って。その魔獣は、どれくらいのランクなの?」
を? とリンシャウッドはえーと、と記憶を探り始める。
もしそれがSランクとかだったら、はっきり言って、数年先の話になる。
リンシャウッドが資格を得て、ランクSに成り上がるまで、どれくらいかかるかも分からないのだ。
取らぬ魔獣の皮算用にもほどがある。
「魔猟師になっても、いきなりハイランクの魔獣には立ち向かえないよ? 違法になる」
「……確か、ランクB」
「それだと良くて二年はかかるね。ランクC以上の魔獣を相手にする場合、個人では危険だ。二人がかりでパーティを組んで、それから挑戦することになる。どちらにしてもえーと」
と、話の途中に割り込んできた協会のお偉いさんが、眉根に皺を寄せてどうしたものか、と数人がかりで話をしていた。
どうやら、黒狼の少女の試験結果は悪くないらしい。
もう一度隠し持っていた銃以外の、正規の銃器を使って、正しい計測をやってみてはどうかと結論づいたようだ。
ふてぶてしくも、地面にあぐらをかくリンシャウッドに向かい、お偉いさんは威厳をもって優しく声を掛ける。
「総合得点が四百点満点。そのうち実技が三百満点だ。リンシャウッドさん、あなたの場合、初心者には珍しく実技で二百八十を獲得している。もう一度実技テストをやって、これに近い数値かこれ以上の数値を出せれば合格ということにしよう」
「本当に!」
フードの下でうなだれていた獣耳が、勢いよくちょこんと立ち上がった!
小さく丸まってしまった尻尾が、大きくふくれブンブンと喜びの大きさを激しく示していた。
「その前にちゃんと聞かせて欲しい。どうしてこんなものを持ち込んだ?」
「あ……う。それは――」
「うん?」
「私、王都にやってくるのは初めてで。その、都会に来ることが初めてで……このホテルにくるために乗ったはずのタクシーに荷物をほとんど持っていかれてしまって……」
「それはかわいそうに。被害届は出したのかね?」
「それは、はい。ホテルのフロントから、警察を通じて被害届を出したので、調べてもらったら分かると思います……。だから最後に本当に大事な、この銃だけは手放したくなくて。服もずっとこれだけだし。お金は別にしてたからまだいいんだけど……」
そこまで話すと逆に安心をしてしまったのか、彼女はエグっ、エグっ、と年相応? に涙ぐんで泣き出してしまった。
これで同い年と思われるのは辛いものがある、自分はこんなに泣き虫じゃないし、考え無しでもない。
リンシャウッドを見て、そう思ったアニスは、同様の視線を送るエリオットに気づいた。
そういえば、エリオットはアニスたちよりも四歳若い、十六歳だった。
「あのね、身の上話とかは後でいいから、さっさとやってもらえないかしら? この後まだ、どうやって仕事をもらいに行ったり、どうやって仕事完了の報告をしたりっていうジムに関する説明がまだあるのよね」
「ひぐっ、ごめんなさい」
「ああ、そう言われればそうですな。では皆さんは一足先にホテルの中の方へどうぞ。部屋の一つを借り切ってありますのでそちらで説明いたします。リンシャウッドさんは、この場所でもう一度試験をやりましょう」
そう言われたら、特にこちらに文句はない。
しかし、何か釈然としないものを感じて、アニスは去り際にそれとなく、再試験を受け始めたリンシャウッドを観察していた。
すると、この魔猟師資格試験の会場で気になった、黒髪の青年が、彼女のことを心配そうにちらちらと横目に気にしながら、最後に説明会場に入ってくる。
彼の態度や素振りから二人の間になにがしか特別な関係があるのは見て取れた。
とはいえ、中肉中背のいかにも戦士、といった外見の彼と、辺境から王都へとやってきたあの獣人とどうにもイメージが噛み合わない。
それは地獄の悪魔もかくや、というほどに呪いのこもった視線だった。
「魔猟師になれば、うちの村の裏手に住む魔獣退治を引き受けることができたのに! あんたのせいだよ!」
「えー……ちょっと待って。その魔獣は、どれくらいのランクなの?」
を? とリンシャウッドはえーと、と記憶を探り始める。
もしそれがSランクとかだったら、はっきり言って、数年先の話になる。
リンシャウッドが資格を得て、ランクSに成り上がるまで、どれくらいかかるかも分からないのだ。
取らぬ魔獣の皮算用にもほどがある。
「魔猟師になっても、いきなりハイランクの魔獣には立ち向かえないよ? 違法になる」
「……確か、ランクB」
「それだと良くて二年はかかるね。ランクC以上の魔獣を相手にする場合、個人では危険だ。二人がかりでパーティを組んで、それから挑戦することになる。どちらにしてもえーと」
と、話の途中に割り込んできた協会のお偉いさんが、眉根に皺を寄せてどうしたものか、と数人がかりで話をしていた。
どうやら、黒狼の少女の試験結果は悪くないらしい。
もう一度隠し持っていた銃以外の、正規の銃器を使って、正しい計測をやってみてはどうかと結論づいたようだ。
ふてぶてしくも、地面にあぐらをかくリンシャウッドに向かい、お偉いさんは威厳をもって優しく声を掛ける。
「総合得点が四百点満点。そのうち実技が三百満点だ。リンシャウッドさん、あなたの場合、初心者には珍しく実技で二百八十を獲得している。もう一度実技テストをやって、これに近い数値かこれ以上の数値を出せれば合格ということにしよう」
「本当に!」
フードの下でうなだれていた獣耳が、勢いよくちょこんと立ち上がった!
小さく丸まってしまった尻尾が、大きくふくれブンブンと喜びの大きさを激しく示していた。
「その前にちゃんと聞かせて欲しい。どうしてこんなものを持ち込んだ?」
「あ……う。それは――」
「うん?」
「私、王都にやってくるのは初めてで。その、都会に来ることが初めてで……このホテルにくるために乗ったはずのタクシーに荷物をほとんど持っていかれてしまって……」
「それはかわいそうに。被害届は出したのかね?」
「それは、はい。ホテルのフロントから、警察を通じて被害届を出したので、調べてもらったら分かると思います……。だから最後に本当に大事な、この銃だけは手放したくなくて。服もずっとこれだけだし。お金は別にしてたからまだいいんだけど……」
そこまで話すと逆に安心をしてしまったのか、彼女はエグっ、エグっ、と年相応? に涙ぐんで泣き出してしまった。
これで同い年と思われるのは辛いものがある、自分はこんなに泣き虫じゃないし、考え無しでもない。
リンシャウッドを見て、そう思ったアニスは、同様の視線を送るエリオットに気づいた。
そういえば、エリオットはアニスたちよりも四歳若い、十六歳だった。
「あのね、身の上話とかは後でいいから、さっさとやってもらえないかしら? この後まだ、どうやって仕事をもらいに行ったり、どうやって仕事完了の報告をしたりっていうジムに関する説明がまだあるのよね」
「ひぐっ、ごめんなさい」
「ああ、そう言われればそうですな。では皆さんは一足先にホテルの中の方へどうぞ。部屋の一つを借り切ってありますのでそちらで説明いたします。リンシャウッドさんは、この場所でもう一度試験をやりましょう」
そう言われたら、特にこちらに文句はない。
しかし、何か釈然としないものを感じて、アニスは去り際にそれとなく、再試験を受け始めたリンシャウッドを観察していた。
すると、この魔猟師資格試験の会場で気になった、黒髪の青年が、彼女のことを心配そうにちらちらと横目に気にしながら、最後に説明会場に入ってくる。
彼の態度や素振りから二人の間になにがしか特別な関係があるのは見て取れた。
とはいえ、中肉中背のいかにも戦士、といった外見の彼と、辺境から王都へとやってきたあの獣人とどうにもイメージが噛み合わない。
1
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません
真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる