30 / 71
第一章
第二十九話 行き倒れ
しおりを挟む
「この銃を使って実技試験とかで悪さをしたんじゃないの?」
「違うそんなことはやってない! これは自分の相棒だから、他人には預けたくなかっただけ! 本当だよ!」
と、銃を大事そうに、自分の恋人のように思い入れを込めて、リンシャウッドはそう弁解する。
もし違法な銃器が用いられたのであれば、少女の成績は嘘だということになる。
この成績は真実だと証明しなければ、彼女は魔猟師資格を剥奪され、二度と資格を得ることはできないだろう。
そんな内容を告知されて、リンシャウッドはあんぐりと驚愕に目を見開いていた。
「だからちがうって言ってるんじゃない! 私は違法な行いはしていないっ! 確かに愛銃を預けなかったことは私が悪いけれど、違法行為なんてやってない」
「いやーそれにしてもなー。試験に挑む時点で自分の銃は全て預けるっていう話になってるから、一人だけ特別扱いっていうことはできないんだよねお嬢ちゃん」
もはや抵抗する気も失せたのか、がっくりと肩を落とす彼女を見て、アニスは協会の人にリンシャウッドを突き出した。
「そんな……」
「馬鹿なことをしたものね、あなたも」
事情を知ればなんでこんなことしたの、と呆れてしまう係員たちの気持ちがよく分かる。
自分から試験を落ちるような結果を招くなんて、愚の骨頂だ。
などと呆れてつつ周りを見渡していたら、エリオットがその意味に気づいたように声をかけてきた
「アニス。今度は何を気にしているんですか」
「うーん……気になるって言うほどのことじゃないんだけど。あの二人何となく怪しいから」
「二人だけですか?」
「え?」
あっち、と隣の席に座ったエリオットが、親指の先で示す方向には10代後半の若い女性が座っていた。
あちらもアニスが最初、なかなか手練れだなーと感心していた四人のうちの一人だと気づく。
「トラブルを起こした黒髪の獣人と、あの男性、それから真紅の髪のあの女性。それぞれ別々の場所に座っていて距離は離れていたけど、実技試験の間とかお互いに意識していたみたいだし……。見知らぬ誰かということはないような気がするんですよね」
「よく見てるのね」
「ええ、彼らはある共通することであなたを見ていたから」
「あることって?」
それはどんなこと? 自分のスキルはなるべく隠して実技を終えたつもりだが、闇属性だということバレた……などなど考えていたら、全く別のことだった。
「かつての、数日前まで王太子妃補だった女性が、今この会場にいるっていう事実です」
「……。もう終わったんだからいいじゃない」
「世間はそう思いませんよ。俺もあなたとこうやってコンビを組ませていただいているから、はっきりと申しますが、面白くないと思っている国民だって世の中にはいるんです」
「エリオットは反対派?」
「新しい国王様に?」
アニスはそう、と肯定する。
青年は少しだけ視線を落とし、それはないですね、と明確に返事をした。
「上に立つ人間は清廉潔白の方がいい。あくまで理想像ですけれど。職人の世界も、騎士の世界も、みんな自分の利権争いでひどいもんでしたから」
「そう……。それは大変」
私も若いころたくさん経験したわ、と言おうとして辞めた。
二十歳の今より若いころっていつよ? と自分で突っ込んでしまったからだ。
それから講習が終わり、二人がようやく資格試験から解放されたときだった。運がいいのか悪いのか、別の入り口からあの少女が出てきたのは。
「あー……最悪な奴に会っちゃった」
「誰が最悪のやつよ。あなたが悪いんでしょ」
「あなたがあんなこと言わなきゃ、私は今頃こんなに苦労してないのに!」
不正をしたのは明らかなのに、自分は悪くないと言い募るリンシャウッドを見て、エリオットは呆れた顔をする。
アニスに至ってはもう関わりたくないという顔をしていた。
「あなたのせいで、罰金として余分に銀貨1枚取られたし! そのおかげで……うううっ」
ぐるるるー、と盛大にリンシャウッドのお腹が鳴った。
フードの中にある獣耳は垂れ下がり、尻尾は所在なさげにくるんっと丸まっている。
それ以上文句を口にする前に、獣人の少女は「もう無理」と目を回して、ぽてんっとその場に倒れこんでしまった。
「違うそんなことはやってない! これは自分の相棒だから、他人には預けたくなかっただけ! 本当だよ!」
と、銃を大事そうに、自分の恋人のように思い入れを込めて、リンシャウッドはそう弁解する。
もし違法な銃器が用いられたのであれば、少女の成績は嘘だということになる。
この成績は真実だと証明しなければ、彼女は魔猟師資格を剥奪され、二度と資格を得ることはできないだろう。
そんな内容を告知されて、リンシャウッドはあんぐりと驚愕に目を見開いていた。
「だからちがうって言ってるんじゃない! 私は違法な行いはしていないっ! 確かに愛銃を預けなかったことは私が悪いけれど、違法行為なんてやってない」
「いやーそれにしてもなー。試験に挑む時点で自分の銃は全て預けるっていう話になってるから、一人だけ特別扱いっていうことはできないんだよねお嬢ちゃん」
もはや抵抗する気も失せたのか、がっくりと肩を落とす彼女を見て、アニスは協会の人にリンシャウッドを突き出した。
「そんな……」
「馬鹿なことをしたものね、あなたも」
事情を知ればなんでこんなことしたの、と呆れてしまう係員たちの気持ちがよく分かる。
自分から試験を落ちるような結果を招くなんて、愚の骨頂だ。
などと呆れてつつ周りを見渡していたら、エリオットがその意味に気づいたように声をかけてきた
「アニス。今度は何を気にしているんですか」
「うーん……気になるって言うほどのことじゃないんだけど。あの二人何となく怪しいから」
「二人だけですか?」
「え?」
あっち、と隣の席に座ったエリオットが、親指の先で示す方向には10代後半の若い女性が座っていた。
あちらもアニスが最初、なかなか手練れだなーと感心していた四人のうちの一人だと気づく。
「トラブルを起こした黒髪の獣人と、あの男性、それから真紅の髪のあの女性。それぞれ別々の場所に座っていて距離は離れていたけど、実技試験の間とかお互いに意識していたみたいだし……。見知らぬ誰かということはないような気がするんですよね」
「よく見てるのね」
「ええ、彼らはある共通することであなたを見ていたから」
「あることって?」
それはどんなこと? 自分のスキルはなるべく隠して実技を終えたつもりだが、闇属性だということバレた……などなど考えていたら、全く別のことだった。
「かつての、数日前まで王太子妃補だった女性が、今この会場にいるっていう事実です」
「……。もう終わったんだからいいじゃない」
「世間はそう思いませんよ。俺もあなたとこうやってコンビを組ませていただいているから、はっきりと申しますが、面白くないと思っている国民だって世の中にはいるんです」
「エリオットは反対派?」
「新しい国王様に?」
アニスはそう、と肯定する。
青年は少しだけ視線を落とし、それはないですね、と明確に返事をした。
「上に立つ人間は清廉潔白の方がいい。あくまで理想像ですけれど。職人の世界も、騎士の世界も、みんな自分の利権争いでひどいもんでしたから」
「そう……。それは大変」
私も若いころたくさん経験したわ、と言おうとして辞めた。
二十歳の今より若いころっていつよ? と自分で突っ込んでしまったからだ。
それから講習が終わり、二人がようやく資格試験から解放されたときだった。運がいいのか悪いのか、別の入り口からあの少女が出てきたのは。
「あー……最悪な奴に会っちゃった」
「誰が最悪のやつよ。あなたが悪いんでしょ」
「あなたがあんなこと言わなきゃ、私は今頃こんなに苦労してないのに!」
不正をしたのは明らかなのに、自分は悪くないと言い募るリンシャウッドを見て、エリオットは呆れた顔をする。
アニスに至ってはもう関わりたくないという顔をしていた。
「あなたのせいで、罰金として余分に銀貨1枚取られたし! そのおかげで……うううっ」
ぐるるるー、と盛大にリンシャウッドのお腹が鳴った。
フードの中にある獣耳は垂れ下がり、尻尾は所在なさげにくるんっと丸まっている。
それ以上文句を口にする前に、獣人の少女は「もう無理」と目を回して、ぽてんっとその場に倒れこんでしまった。
1
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません
真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる