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第二章
第三十三話 勘違い
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アニスのそのあくどい笑みを目の当たりにして、彼女よりはまだ純真な黒狼の少女は、恐怖に震えた。
未来が真っ暗闇に覆われたような気になってしまった。
もっともそれはリンシャウッドの勘違いで、自分の長すぎる尻尾が、パタンっと主人の目の前を塞いだのだ。
邪悪な魔女の視線から、主人を守るように。
「馬車馬にはならないけれど! でも、食べた分のお礼はちゃんとお礼はします!」
「別にそれでもいいけれど。あなたは、どういう人なの?」
問いかけに、リンシャウッドは尻尾をテーブルの下に収めると、食事を再開しつつ自分の生い立ちを語り始めた。
食べ収めとばかりにもくもく、がぶがぶとその食欲は留まるところを知らない。食べながら言葉を発するのはどうかともアニスは思ったが、腹話術的に精霊が大気を震わせることで代用しているらしい。
なんとも便利なものだと思いながら、彼女の生い立ちを知る。
「生まれはオルブレイト公国、もぐ。魔族の属国みたいなもんだからいつも戦争ばかりで、はぐ。なもんで、安全というか普通に働ける大陸の南側に出て来たというか。んぐっ」
喋りながら食事をすれば、喉が詰まるのは当たり前の光景だ。
誰でも予測がつく。それをさも当然のようにやるこのリンシャウッドに、なんだか付いていけないアニスたちだった。
「魔猟の腕は悪くないよ。学舎でも、いつも一番だったし。ブレア校長先生には、もっと落ち着いてやりなさいっていっつも怒られたけれど。ああ、中等学院の校長先生ね、ブレア先生」
「そんなこと誰も聞いてないから。とりあえずあなたの手を借りて、私はスキルを活かして、彼のために魔石を用意するの」
「は? どうして彼のため? こう言うのは失礼ですけど侯爵令嬢様、随分と威力の高いスキルを授かってるような気がするんですけど?」
「それは関係ないから。私は魔猟師で、彼は魔石彫金師の……」
「卵、だね」
困ったように頭を掻きながらエリオットが述べた。
魔石彫金師? 男が細い細工物をやるの? 普通逆じゃない? と、リンシャウッドは二人を交互に見比べる。
しかし何を思ったか、「まあそれがいいかも」と一言残して食事に戻った。
「あなた今、私がそんなに器用じゃないとかって思ったでしょ。見比べたでしょ?」
「いやそんなことは……。男性でも出来る仕事ならそれはいいんじゃないですか。つまり彼は……自分で魔石の調達ができない、半人前ってことですよね」
「そんなにはっきり言わなくてもいいだろ」
どことなく落ち込んでしまうエリオットは、本当のことを言われて心を痛めていた。
そんな彼を、あなたは才能があるから大丈夫! なんてまだ見たこともない彼の才能を褒めながら、アニスはリンシャウッドに口を慎みなさい、と警告する。
「だってそんな風に思ったんです。女に魔石を調達される魔石彫金技師なんて聞いたことないし」
「うっ……」
さらにとどめの一撃が、エリオットの胸を直撃した。
崩れ落ちそうになる彼を支えながら、アニスは「食費代返さなかったら、奴隷商人に叩き売るわよ!」と本気とも脅しともつかない言葉を口走る。
「そんなにいい雰囲気なのに、私なんかが入って大丈夫なんですか?」
「は?」
「ええ?」
「いやだからそのー……。お二人そういう仲でしょ?」
少し前まで婚約者がいた身で、盛んだなあと黒狼の少女は元王太子妃をじっと下から見つめる。
無言のなかに批難が混じっている気がして、意味ありげな視線がとても痛いアニスだった。
未来が真っ暗闇に覆われたような気になってしまった。
もっともそれはリンシャウッドの勘違いで、自分の長すぎる尻尾が、パタンっと主人の目の前を塞いだのだ。
邪悪な魔女の視線から、主人を守るように。
「馬車馬にはならないけれど! でも、食べた分のお礼はちゃんとお礼はします!」
「別にそれでもいいけれど。あなたは、どういう人なの?」
問いかけに、リンシャウッドは尻尾をテーブルの下に収めると、食事を再開しつつ自分の生い立ちを語り始めた。
食べ収めとばかりにもくもく、がぶがぶとその食欲は留まるところを知らない。食べながら言葉を発するのはどうかともアニスは思ったが、腹話術的に精霊が大気を震わせることで代用しているらしい。
なんとも便利なものだと思いながら、彼女の生い立ちを知る。
「生まれはオルブレイト公国、もぐ。魔族の属国みたいなもんだからいつも戦争ばかりで、はぐ。なもんで、安全というか普通に働ける大陸の南側に出て来たというか。んぐっ」
喋りながら食事をすれば、喉が詰まるのは当たり前の光景だ。
誰でも予測がつく。それをさも当然のようにやるこのリンシャウッドに、なんだか付いていけないアニスたちだった。
「魔猟の腕は悪くないよ。学舎でも、いつも一番だったし。ブレア校長先生には、もっと落ち着いてやりなさいっていっつも怒られたけれど。ああ、中等学院の校長先生ね、ブレア先生」
「そんなこと誰も聞いてないから。とりあえずあなたの手を借りて、私はスキルを活かして、彼のために魔石を用意するの」
「は? どうして彼のため? こう言うのは失礼ですけど侯爵令嬢様、随分と威力の高いスキルを授かってるような気がするんですけど?」
「それは関係ないから。私は魔猟師で、彼は魔石彫金師の……」
「卵、だね」
困ったように頭を掻きながらエリオットが述べた。
魔石彫金師? 男が細い細工物をやるの? 普通逆じゃない? と、リンシャウッドは二人を交互に見比べる。
しかし何を思ったか、「まあそれがいいかも」と一言残して食事に戻った。
「あなた今、私がそんなに器用じゃないとかって思ったでしょ。見比べたでしょ?」
「いやそんなことは……。男性でも出来る仕事ならそれはいいんじゃないですか。つまり彼は……自分で魔石の調達ができない、半人前ってことですよね」
「そんなにはっきり言わなくてもいいだろ」
どことなく落ち込んでしまうエリオットは、本当のことを言われて心を痛めていた。
そんな彼を、あなたは才能があるから大丈夫! なんてまだ見たこともない彼の才能を褒めながら、アニスはリンシャウッドに口を慎みなさい、と警告する。
「だってそんな風に思ったんです。女に魔石を調達される魔石彫金技師なんて聞いたことないし」
「うっ……」
さらにとどめの一撃が、エリオットの胸を直撃した。
崩れ落ちそうになる彼を支えながら、アニスは「食費代返さなかったら、奴隷商人に叩き売るわよ!」と本気とも脅しともつかない言葉を口走る。
「そんなにいい雰囲気なのに、私なんかが入って大丈夫なんですか?」
「は?」
「ええ?」
「いやだからそのー……。お二人そういう仲でしょ?」
少し前まで婚約者がいた身で、盛んだなあと黒狼の少女は元王太子妃をじっと下から見つめる。
無言のなかに批難が混じっている気がして、意味ありげな視線がとても痛いアニスだった。
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