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第二章
第三十四話 獣人と餌
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わっ、私達はそんな関係じゃ……と言い募るアニス。
そうだよ、と誤解を解くように、両手を前にして左右に振って否定するエリオット。
もぐもぐと四皿目のパエリエを前にして、それを頬張りながら、へえ……と無関心を装いつつ、いやそんなはずないでしょ、とうなづくリンシャウッド。
空いた皿を適当に回収しつつ、常に彼女が空けるコップに水を補充していく、できた給仕係。
彼らを遠巻きにして、面白そうに食事の供にして料理を楽しむ、その他の客たち。
「そういう仲でないなら、別に気遣いはしなくてよいということで、いいでしょうか?」
「どういう意味よ。気遣いしてもらう必要すらないわ」
「そのままの意味ですが。魔石と言っても、大きさから質によって魔獣の棲息地も遠方だったり、近距離に変わったりもしますから」
「ああ、日数がかかるかどうかということね」
「そうです。こう見えても、このリンシャウッド。少しばかり、魔猟には自信がありまして」
そうだ、とばかりに勢いよく彼女の尾が、立ち上がる。
持ち主のセリフが、言葉だけではないことをではないことを、示そうとしているようだった。
「どんな自身があるのか具体的に教えて貰いたいものだわ」
「そうですね。私の場合、人生の六割は魔猟に捧げてきたと言っても過言ではないのです」
えっへん、と相変わらず口の中をもごもごとしながら、リンシャウッドは胸を張る。
意外にも立派な胸元に、元婚約者からはまるで少年のような細い腰だ、と評価されてきたアニスは思わず目を見張る。
自分よりも身長が低く、体格だって幼いそんな少女が、かつて王太子妃になろうとした自分よりも優れたものを備えていたのだから。
リンシャウッドの豊かな胸は、自分から婚約者を奪って処罰されたあの女。
元海運王の娘を連想させ、アニスは思わず意地悪を口にしてしまった。
「どこからどう見たって子供にしか見えないのに、人生の半分以上を魔猟に捧げたなんて、あまりにも大げさな意見だわ」
「失礼な」
リンシャウッドはこの時ばかりは、旺盛な食欲を忘れたらしい。
手を止めると、アニスに獰猛な獣の眼差しで、キラリと光る鋭い目つきを送った。
「……幼く見えるのは獣人だからです! こう見えても、あなたと同じ年齢ですよ、侯爵令嬢様!」
「は? 二十歳だっていうの? その外見で?」
「そうですよ! 獣人は十二歳から六十前後までは年齢が固定されるんです」
「あーじゃあ、あれね。逆にいえば十二歳かもしれないし、六十のおばあちゃんがそこにいるかもしれない」
揶揄するようにそう言ったが、アニスは言葉選びに失敗したと発言した後で後悔する。
ここでは自分が一番、身分が上だ。
幼い相手には庇護を与えなければならないし、年長者に対してはそれ相応の礼儀が必要とされる。
リンシャウッドがもし、おばあちゃんですが何か? と言い出したら、一気に劣勢に立たされるのはアニスの方だった。
「年齢なんて、この際どうでもいいのでは? 魔猟師の資格を三人は取得できたし、これからはパーティの仲間になるのですから。アニス様ももう少し、言葉を選んでいただかなければ」
「ごめんなさい。ついあることを思い出してしまって」
あること? と訊くのは野暮だと感じてエリオットは無言で優しい微笑みを残す。
それからまだまだ食べたりないとぼやくリンシャウッドに「本当に十年以上の経験が?」と改めて確認する。
「生まれ故郷の公国ではあまり言えない身分に身をやつしたこともありまして。そこで主人から魔物の餌代わりになり巣からおびき出すという役割を与えられたこともあるのですよ」
「それは酷いな」
「魔猟に人を使うなんてあんまりだわ」
思わず口にしようとしていた肉をぽろり、と取り落とし、エリオットとアニスはそれぞれ、非道な行いに対する怒りを口にしていた。
彼らの反応が思ったよりも良いものだったのだろう。
リンシャウッドの耳と尾がぴんっと立ち上がり、尾はゆらゆらと嬉しさに揺れていた。
そうだよ、と誤解を解くように、両手を前にして左右に振って否定するエリオット。
もぐもぐと四皿目のパエリエを前にして、それを頬張りながら、へえ……と無関心を装いつつ、いやそんなはずないでしょ、とうなづくリンシャウッド。
空いた皿を適当に回収しつつ、常に彼女が空けるコップに水を補充していく、できた給仕係。
彼らを遠巻きにして、面白そうに食事の供にして料理を楽しむ、その他の客たち。
「そういう仲でないなら、別に気遣いはしなくてよいということで、いいでしょうか?」
「どういう意味よ。気遣いしてもらう必要すらないわ」
「そのままの意味ですが。魔石と言っても、大きさから質によって魔獣の棲息地も遠方だったり、近距離に変わったりもしますから」
「ああ、日数がかかるかどうかということね」
「そうです。こう見えても、このリンシャウッド。少しばかり、魔猟には自信がありまして」
そうだ、とばかりに勢いよく彼女の尾が、立ち上がる。
持ち主のセリフが、言葉だけではないことをではないことを、示そうとしているようだった。
「どんな自身があるのか具体的に教えて貰いたいものだわ」
「そうですね。私の場合、人生の六割は魔猟に捧げてきたと言っても過言ではないのです」
えっへん、と相変わらず口の中をもごもごとしながら、リンシャウッドは胸を張る。
意外にも立派な胸元に、元婚約者からはまるで少年のような細い腰だ、と評価されてきたアニスは思わず目を見張る。
自分よりも身長が低く、体格だって幼いそんな少女が、かつて王太子妃になろうとした自分よりも優れたものを備えていたのだから。
リンシャウッドの豊かな胸は、自分から婚約者を奪って処罰されたあの女。
元海運王の娘を連想させ、アニスは思わず意地悪を口にしてしまった。
「どこからどう見たって子供にしか見えないのに、人生の半分以上を魔猟に捧げたなんて、あまりにも大げさな意見だわ」
「失礼な」
リンシャウッドはこの時ばかりは、旺盛な食欲を忘れたらしい。
手を止めると、アニスに獰猛な獣の眼差しで、キラリと光る鋭い目つきを送った。
「……幼く見えるのは獣人だからです! こう見えても、あなたと同じ年齢ですよ、侯爵令嬢様!」
「は? 二十歳だっていうの? その外見で?」
「そうですよ! 獣人は十二歳から六十前後までは年齢が固定されるんです」
「あーじゃあ、あれね。逆にいえば十二歳かもしれないし、六十のおばあちゃんがそこにいるかもしれない」
揶揄するようにそう言ったが、アニスは言葉選びに失敗したと発言した後で後悔する。
ここでは自分が一番、身分が上だ。
幼い相手には庇護を与えなければならないし、年長者に対してはそれ相応の礼儀が必要とされる。
リンシャウッドがもし、おばあちゃんですが何か? と言い出したら、一気に劣勢に立たされるのはアニスの方だった。
「年齢なんて、この際どうでもいいのでは? 魔猟師の資格を三人は取得できたし、これからはパーティの仲間になるのですから。アニス様ももう少し、言葉を選んでいただかなければ」
「ごめんなさい。ついあることを思い出してしまって」
あること? と訊くのは野暮だと感じてエリオットは無言で優しい微笑みを残す。
それからまだまだ食べたりないとぼやくリンシャウッドに「本当に十年以上の経験が?」と改めて確認する。
「生まれ故郷の公国ではあまり言えない身分に身をやつしたこともありまして。そこで主人から魔物の餌代わりになり巣からおびき出すという役割を与えられたこともあるのですよ」
「それは酷いな」
「魔猟に人を使うなんてあんまりだわ」
思わず口にしようとしていた肉をぽろり、と取り落とし、エリオットとアニスはそれぞれ、非道な行いに対する怒りを口にしていた。
彼らの反応が思ったよりも良いものだったのだろう。
リンシャウッドの耳と尾がぴんっと立ち上がり、尾はゆらゆらと嬉しさに揺れていた。
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