36 / 71
第二章
第三十五話 役割
しおりを挟む
それはそれは、と黒狼はよろこんでいた。
リンシャウッドの尻尾が二人を歓待するかのように、おいでおいでと手招きしているようだ。
「お二人の考えには嬉しい限りです。ここに来るまでの間、ずっと獣人は格下だの、無能だの、と蔑まれてばかりで」
主人の悲し気な物言いに、尾がしゅんっとしなだれた。それから元気になって、アニスとエリオットが仲間になるのを歓迎するような素振りを見せる。
もしかしてあの尾の方が本体で、この人の形をした少女は偽りの肉体かなんかかもしれないと、アニスは眉をひそめる。
それほどに黒狼の尾は雄弁にものを語った。主に仕草で。
まるで彼女と尾が主人公であるように、アニスの目には映った。
仲間になるのならば、誰がリーダーで誰が脇役かをはっきりとしなければ。
戦争もそうだし、魔猟もそう。
一頭で街一つを壊滅させるような魔獣相手に、人間やいかに精霊を身に宿しているといっても、獣人なんて非力なものだ。
その意味では、この三名のなかでもっとも実戦経験が豊富なのはアニスだった。
人生における辛い目に関してはそうでないかもしれないけれど、リンシャウッドがリーダーになれる素養に恵まれているとは、はっきりいって断言しにくい。
それはエリオットも同じ意見だったようで、青い澄んだ瞳にどうしますか、と問いかけの表情が浮かんでいた。
チームになるなら、どんな役割にしますか、そんな問いかけだった。
「あなたはあくまで後方支援」
「えっ!」
アニスの命じた役割分担に対して、途端にリンシャウッドは嫌そうな声を上げた。尾もまたピンと立ち膨れて抗議していた。
「私の魔弾スキルはよくて数十メートル。それを越えると距離が伸びるごとに威力が落ちていくの。対して魔獣の大きさは数メートルから十メートルが基本。攻撃が失敗した場合、安全地帯に逃げ延びる前に、敵に追いつかれてしまうわ。そう思わない?」
「俺は賛成です。騎士団にいたころに、前衛職を務めていたから移動式の防御結界や、簡易的な転移魔法を多用してアニス様の補助に回れます」
「そうなると、あなた」
と、アニスはそろそろ食べるペースの落ちてきたリンシャウッドに目を向ける。
もぐ、と返事が返ってきた。
「最低でも五百メートル後方から狙撃できないなら、用無しね」
「むぐぐっ! それくらいならできますよ! ほらっ!」
心外だ、いうばかりにリンシャウッドは取得したばかりの魔猟師の身分証を見せてくる。
そこにはほんの少し前に終了した実技試験の結果が、一覧表となって添付されていた。
総合射撃力の項目で、一キロ範囲内の標的に関しては、Bランクまでの魔獣の装甲を貫通することを可能だと示す、星三つがついている。
これには魔獣が保有する特殊な結界や防御障壁なども含まれるから、リンシャウッドはやはり腕のいい遠隔狙撃手ということになるのだろう。
アニスとエリオットはそれぞれ、自分たちの成績表を出してみた。
総合的なランクは、誰もが初心者のEランク。
それに対して、リンシャウッドの狙撃力の範囲は一キロ。アニスの効果範囲はよくて百メートル。エリオットに至っては十メートルもない。
代わりにアニスの効果範囲内でのそれはSランクだった。つまり、上から三番目までの魔獣を倒せるということになる。
エリオットの直接攻撃ランクはEと低いが、回避能力や転移魔法のレベルはBで、効果範囲はリンシャウッドと変わらない。
リンシャウッドが船や馬車、もしくは大型の転移魔道具を設置した拠点を守りつつ、アニスが中距離戦で敵を叩き、その後ろに防御と緊急脱出用の魔導具を扱える移動要員としてエリオットがサポートに入る。
これはこれで理想的な陣形だと思われた。
リンシャウッドの尻尾が二人を歓待するかのように、おいでおいでと手招きしているようだ。
「お二人の考えには嬉しい限りです。ここに来るまでの間、ずっと獣人は格下だの、無能だの、と蔑まれてばかりで」
主人の悲し気な物言いに、尾がしゅんっとしなだれた。それから元気になって、アニスとエリオットが仲間になるのを歓迎するような素振りを見せる。
もしかしてあの尾の方が本体で、この人の形をした少女は偽りの肉体かなんかかもしれないと、アニスは眉をひそめる。
それほどに黒狼の尾は雄弁にものを語った。主に仕草で。
まるで彼女と尾が主人公であるように、アニスの目には映った。
仲間になるのならば、誰がリーダーで誰が脇役かをはっきりとしなければ。
戦争もそうだし、魔猟もそう。
一頭で街一つを壊滅させるような魔獣相手に、人間やいかに精霊を身に宿しているといっても、獣人なんて非力なものだ。
その意味では、この三名のなかでもっとも実戦経験が豊富なのはアニスだった。
人生における辛い目に関してはそうでないかもしれないけれど、リンシャウッドがリーダーになれる素養に恵まれているとは、はっきりいって断言しにくい。
それはエリオットも同じ意見だったようで、青い澄んだ瞳にどうしますか、と問いかけの表情が浮かんでいた。
チームになるなら、どんな役割にしますか、そんな問いかけだった。
「あなたはあくまで後方支援」
「えっ!」
アニスの命じた役割分担に対して、途端にリンシャウッドは嫌そうな声を上げた。尾もまたピンと立ち膨れて抗議していた。
「私の魔弾スキルはよくて数十メートル。それを越えると距離が伸びるごとに威力が落ちていくの。対して魔獣の大きさは数メートルから十メートルが基本。攻撃が失敗した場合、安全地帯に逃げ延びる前に、敵に追いつかれてしまうわ。そう思わない?」
「俺は賛成です。騎士団にいたころに、前衛職を務めていたから移動式の防御結界や、簡易的な転移魔法を多用してアニス様の補助に回れます」
「そうなると、あなた」
と、アニスはそろそろ食べるペースの落ちてきたリンシャウッドに目を向ける。
もぐ、と返事が返ってきた。
「最低でも五百メートル後方から狙撃できないなら、用無しね」
「むぐぐっ! それくらいならできますよ! ほらっ!」
心外だ、いうばかりにリンシャウッドは取得したばかりの魔猟師の身分証を見せてくる。
そこにはほんの少し前に終了した実技試験の結果が、一覧表となって添付されていた。
総合射撃力の項目で、一キロ範囲内の標的に関しては、Bランクまでの魔獣の装甲を貫通することを可能だと示す、星三つがついている。
これには魔獣が保有する特殊な結界や防御障壁なども含まれるから、リンシャウッドはやはり腕のいい遠隔狙撃手ということになるのだろう。
アニスとエリオットはそれぞれ、自分たちの成績表を出してみた。
総合的なランクは、誰もが初心者のEランク。
それに対して、リンシャウッドの狙撃力の範囲は一キロ。アニスの効果範囲はよくて百メートル。エリオットに至っては十メートルもない。
代わりにアニスの効果範囲内でのそれはSランクだった。つまり、上から三番目までの魔獣を倒せるということになる。
エリオットの直接攻撃ランクはEと低いが、回避能力や転移魔法のレベルはBで、効果範囲はリンシャウッドと変わらない。
リンシャウッドが船や馬車、もしくは大型の転移魔道具を設置した拠点を守りつつ、アニスが中距離戦で敵を叩き、その後ろに防御と緊急脱出用の魔導具を扱える移動要員としてエリオットがサポートに入る。
これはこれで理想的な陣形だと思われた。
1
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません
真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる