殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

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第二章

第三十六話 魔を堕とす

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 とりあえず必要な人員は揃ったし、とアニスは今度はデザートを注文しようと給仕に声をかけているリンシャウッドに待ったをかけた。

「それ以上、食べないで! 利子付けるわよ?」
「ひいっ。やっぱり高利貸しみたいにして、私を売る気なんですね!」
「誰もそんなこと考えてないから……でもそれだけ空腹になるって何日食べてなかったの?」

 ふと、そんな疑問を抱く。
 だいたい、二週間くらい、と黒狼の少女は真顔で答えた。
 アニスとエリオットの目が点になる。
 リンシャウッドが獣人というものはそれほど体力に余裕があるのです、と付け加えるとなるほど、と納得するしかなかった。

「以前は食事を作ってくれる知人がいたのですが、ある理由からコンビを解消しまして。ここに至るまでにお金を使い果たした、と」
「最後に残っていた銀貨一枚を魔猟師協会に罰金として徴収されたからか」

 エリオットが先ほどの男らしくない、というリンシャウッドの発言をやり返すように嫌味を言う。
 まだほんの数日の付き合いだが、彼らしくない発言にアニスはあれ? と首をかしげた。

「そうですよ! お陰でこんなにも良い食卓に招かれました」
「……嫌味が効いてないな」
「これから一緒にやっていこうというのに、大人気ない言い争いもどうかと思いまして」

 それまで見せなかった大人びた片鱗をリンシャウッドは醸し出していた。
 落ち着いたその雰囲気に、アニスもエリオットも今まで見ていた彼女とは別人を見たような気になってしまう。

 おバカで計画性がまるでなく、子供のように食欲が旺盛な彼女と、品性方向な良識ある令嬢を演じる彼女には器用さを感じ得なかった。

 しかし、結局、注文を許したデザートの豪華さに目を輝かせているリンシャウッドを見て、やっぱり一時的な演技かと二人は呆れて駄目だね、これはと視線を交わす。 

「食事をしながらでいいわ。エリオットがこれから魔猟師協会にクランの申請をしてもらうから」
「クラン?」
「国によって名称が違うかもしれません、アニス様。冒険者パーティとか。そういう意味合いですよ。ギルドが会社の集まりだとしたら、個人の集まりの称号のようなものです」

 へえ、とリンシャウッドは肯いた。それを申請することで一つのチームと社会的に見なされることになるのだ。そう思うとなるほど、とコクコク首を前後させる。

「覚えやすくて通りの良い名称が欲しいのだけど」

 何か思いつかないか、とアニスは残る二人に問いかけた。
 アニスの考えた名称はパルシェスト王国の神話や伝説に出てくる神や英雄の名前ばかりで、戦いのなかに生きてきた彼女の半生を何となく伝えていた。
 
 エリオットが考えたものは冒険や魔猟には相応しくない、職人めいた内容でどれもパッとしない。
 それならば、と黒狼の少女はこの王国のかつてもっていた名前を挙げた。

「メイブリース。というのはどうでしょうか?」
「メイブリース? かつてこの南の大陸全土を支配したっていう、あの大国の名前を使う気?」
「何か問題でも?」
「地名にもなっているし、家名にしている貴族も多いわ」
「あー……」

 その名称はいろいろとまずい。戦女神ラフィネを信奉し、その聖女が建国した一大国家は大陸の隅から隅までいろんな形で名前を残している。その名称通りの都市まであるほどだ。さすがにどこかから文句が出そうだった。

「魔を狩る。そんな意味合いがいいのだけれど」
「それなら【妖撃】ギャップイヤーとか。どうですか?」

 いきなりの提案にアニスはへえ、とリンシャウッドの言い換えの上手さに感心した。
 ギャップイヤーとは、一般的に学校や組織に所属して一年目の人間に与えられる夏の休暇期間の指す。同時にその期間は普段の緊張から解放されて陽気になる新人に、休み明けには怠惰な気を引き締めて復帰するようにという暗喩も込められていた。
 怠惰な感情を魔物を言い表す妖、それを打ち滅ぼす撃と言い換えるとはなかなか言い得て妙だった。

「いいわね、それ。採用してあげる」
「じゃあ、ここのお勘定はそれを考えたお代ということで」
「それは駄目!」
「まあまあ、ではこれは僕が用紙に記入して申請しておきますから……」

 褒めらえた勢いで調子に乗って、アニスにはたき落されるという光景がこれから日常的になっていくのかな? とエリオットは笑顔を作りつつ、将来に一縷の不安を感じるのだった。

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