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第二章
第三十七話 忘れ路のバラ(ローズ・ローズ)
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「忘却のバラの案件を受けてきました」
灰褐色の髪に晩夏の暑さに誘われたのか、王都の中心部にある魔猟師協会が入居しているビルまで往復してくれたエリオットが、額に薄く汗を浮かび上がらせる。
宿無し、資金なし、このままでは路上生活決定か、王都の近郊で野営しながら時給自活の生活に突入です、と悲しく訴えるリンシャウッドを、アニスはスイートルームの客間を与えることで問題の解決をはかっていた、そんな折。
彼はあれからすぐにクラン申請を行ってくれたようだ。
「仕事が早い男は大好きですよ」と、今で来客用の長椅子にどうどうと寝そべりながらそう言うリンシャウッドを睨みながら、アニスは尾を掴んでその場に座らせた。
頭に狼の顔でも描いた仮面でも被らせたら、毛並みの良いそれが寝そべっているようにも見えなくはない。
さぞかし、高級な品物になるでしょうね、とアニスが惨い言葉をうそぶくと、リンシャウッドは顔を青くしてソファーの上に正座した。
「ローズ・ローズってあの?」
「ええ、そのローズ・ローズ。忘れ路の薔薇とも呼ばれる、あのローズ・ローズです」
そう言うと、二人の女性と対面する形で座るエリオットが、間にあるテーブルの上に、数枚の書類を置いた。
色鮮やかなインクで印刷されている魔獣を模したそのイラストは、真っ赤な華の花弁に美しい少女の顔が収まっている。それ以外は普通の棘をもつ薔薇の茎が描かれていた。
「なにですか、その珍しい名前は?」
「知らないの? 魔猟歴十年の凄腕が?」
からかうようにアニスが言ってやると、黒狼の少女は「自分、西の大陸は疎いので」とさっと言葉の矢を交わしてしまう。身軽な子ね、とアニスはなんだか仲良くできそうでそうできない微妙な距離感を彼女に感じた。
「この地方原産の、他の土地では咲かない魔法植物のようですから、知らなくてもそれは仕方ないかと」
「まあ、そうね」
「けれど魔獣辞典では人を捕食する危険害獣としても指定されているので、そこは経験豊富な魔猟師なら知っておいて欲しかったかとも思うかな?」
「まあ、そうですね」
エリオットが、二人の微妙な雰囲気を和らげるようにサポートする。
もちろん彼はアニスの味方で、さりげなくリンシャウッドを牽制するのを忘れない。
アニスはリーダーとしての尊厳を取り戻した気がして、そっと留飲を下げた。
「王都の北側から続くテイルズウィーバーという土地があります。雑木林と麦の畑が多くを占める土地ですが、その一角にローズ・ローズの群生地がある。この魔法植物は根を共有しているだけで、花本体には意思はありません。しかし、美しい少女の顔と声真似、それまで捕食した人が口にした会話を記憶していて、この花の口を通じて話しかけてきます。会話にはなりませんけどね、知性がないので」
「……寝ているときに襲われたら、夢かと思ってついていきそうですねー」
「そうなんだ。ローズ・ローズは夏の終わりから冬の始まりにかけて活発に活動する。花粉を飛ばし、それを吸い込んだ生物は意識が朦朧となって幻覚を見ている状況に陥るらしい」
「花粉を飛ばせるのだったら生息地域もどんどん拡大していくのでは?」
リンシャウッドに訊かれて、エリオットはそれはないよ、と否定する。
かつてとある聖女がこの地を訪れ、ローズ・ローズに呪いをかけたからだ。
灰褐色の髪に晩夏の暑さに誘われたのか、王都の中心部にある魔猟師協会が入居しているビルまで往復してくれたエリオットが、額に薄く汗を浮かび上がらせる。
宿無し、資金なし、このままでは路上生活決定か、王都の近郊で野営しながら時給自活の生活に突入です、と悲しく訴えるリンシャウッドを、アニスはスイートルームの客間を与えることで問題の解決をはかっていた、そんな折。
彼はあれからすぐにクラン申請を行ってくれたようだ。
「仕事が早い男は大好きですよ」と、今で来客用の長椅子にどうどうと寝そべりながらそう言うリンシャウッドを睨みながら、アニスは尾を掴んでその場に座らせた。
頭に狼の顔でも描いた仮面でも被らせたら、毛並みの良いそれが寝そべっているようにも見えなくはない。
さぞかし、高級な品物になるでしょうね、とアニスが惨い言葉をうそぶくと、リンシャウッドは顔を青くしてソファーの上に正座した。
「ローズ・ローズってあの?」
「ええ、そのローズ・ローズ。忘れ路の薔薇とも呼ばれる、あのローズ・ローズです」
そう言うと、二人の女性と対面する形で座るエリオットが、間にあるテーブルの上に、数枚の書類を置いた。
色鮮やかなインクで印刷されている魔獣を模したそのイラストは、真っ赤な華の花弁に美しい少女の顔が収まっている。それ以外は普通の棘をもつ薔薇の茎が描かれていた。
「なにですか、その珍しい名前は?」
「知らないの? 魔猟歴十年の凄腕が?」
からかうようにアニスが言ってやると、黒狼の少女は「自分、西の大陸は疎いので」とさっと言葉の矢を交わしてしまう。身軽な子ね、とアニスはなんだか仲良くできそうでそうできない微妙な距離感を彼女に感じた。
「この地方原産の、他の土地では咲かない魔法植物のようですから、知らなくてもそれは仕方ないかと」
「まあ、そうね」
「けれど魔獣辞典では人を捕食する危険害獣としても指定されているので、そこは経験豊富な魔猟師なら知っておいて欲しかったかとも思うかな?」
「まあ、そうですね」
エリオットが、二人の微妙な雰囲気を和らげるようにサポートする。
もちろん彼はアニスの味方で、さりげなくリンシャウッドを牽制するのを忘れない。
アニスはリーダーとしての尊厳を取り戻した気がして、そっと留飲を下げた。
「王都の北側から続くテイルズウィーバーという土地があります。雑木林と麦の畑が多くを占める土地ですが、その一角にローズ・ローズの群生地がある。この魔法植物は根を共有しているだけで、花本体には意思はありません。しかし、美しい少女の顔と声真似、それまで捕食した人が口にした会話を記憶していて、この花の口を通じて話しかけてきます。会話にはなりませんけどね、知性がないので」
「……寝ているときに襲われたら、夢かと思ってついていきそうですねー」
「そうなんだ。ローズ・ローズは夏の終わりから冬の始まりにかけて活発に活動する。花粉を飛ばし、それを吸い込んだ生物は意識が朦朧となって幻覚を見ている状況に陥るらしい」
「花粉を飛ばせるのだったら生息地域もどんどん拡大していくのでは?」
リンシャウッドに訊かれて、エリオットはそれはないよ、と否定する。
かつてとある聖女がこの地を訪れ、ローズ・ローズに呪いをかけたからだ。
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