殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

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第四章

第五十九話 エリオットの告白?

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 今回のことは、時系列にしてみると分かりやすかった。
 ホテルに戻ってくる転移魔法が作動した瞬間、女神は本物のアニスと女神が作った偽物の死んだアニスそっくりの遺体を、エリオットの手に持たせたのだ。

 そして、闇の呪いまでそっくりに再現して見せた。
 というよりは、リンシャウッドがアニスに闇の呪いをかけた瞬間、女神はそれを直前で受け止めて保有していたのだという。まったく、器用な女神もいたものだ、と、それを聞いて一同は呆れてしまった。

「面倒くさいな。帝国の魔石を海運王が持っていた、神殿はそれを秘密裏に購入する予定だったがこの王国に内乱が起き、魔石は辺境伯の手に渡った。たまたま、魔石の中身を知った辺境伯は国内で、新国王が手を出せない土地へと魔石を送り込んだ。それがこのホテルに滞在する娘の元だった。つまり、アニス様がそれだ」
「アニスでいいわよ。様なんて……」

 先ほどの告白まがいの言葉を耳にしてからか、異様にアニスの耳が赤い。
 それとなく手で顔を扇いでいるのが、彼女の動揺を表していて、エリオットには面白かった。

 さんざん振り回されたのだ。
 もうすこし、意地悪をしたくなる気分だと言っても、誰も彼を責めない気がした。

「では、アニス。ボブが持ち込まれた魔石を見て確信した。帝国から失われていたものだ、と。そして、女神の神殿は魔石を取り戻すために炎の精霊を鎮めるという言い訳で近づいてきた」
「そうですね。概ね、その解釈であっています」
「魔王はローズ・ローズを守るためにリンシャウッドを送り込み、そして、魔石の秘密に気づいた」
「……多分、それであっていると思う。本人がいないから、確認のしようがないけれど」
「じゃあ、どうしてアニスは殺された? あいつらは伯爵家の名誉のためだ、と言ったぞ? リンシャウッドは伯爵に雇われているとも言った」

 それは――と、アニスは三方向からの視線を受けて、言い淀む。
 自分が死んだ婚約者である前王太子サフランに婚約破棄された、不名誉な娘だからだ。

 新国王は旧い勢力がアニスを擁して、国内で新たなる内乱を起こすことを恐れていた。もしくは、アニス自らが魔弾スキルを用いて、婚約者の仇になる自分を殺しに来るのを恐れていた。

 そこで辺境伯は考えたのだった。海運王と神殿との秘密取引の実態を報告し、これだけの価値がある魔石にアニスに預ければ、彼女が寝返ることはない、と言い含めたのだ。

 高価な物品や新しい身分と引き換えに、これまで敵だったものを味方にする方法は、古来から用いられてきた。
 魔石に眠る秘密を、辺境伯が新国王に報告しなかったのは簡単な理由だった。魔石の力をつかえば、新国王は辺境伯を倒せるからだ。

 それほどに、辺境伯の力は国内で大きいものとなっていたのだった。
 ついでに辺境伯は考えた。そんなに使える力なら、自分が利用してやろうと。だから、部下を三人も送り込んできたのだ。その中にはリンシャウッドという魔族のスパイが紛れ込んでいたが……。

「ところが辺境伯様は気づいてしまったのですね。自分の力では魔石も、炎の巨人もどうすることもできないのだ、と。だから盗み出した魔石も意味を持たなくなってしまったのです。そこでわざわざ新国王様を言い含めたり、とした手間暇をかけたにも関わらず、全ての責任を娘に押し付けて――」
「聖女様! 辺境伯の家のためですから……そんなこと言わないでください」

 途中までアニスが語り、最後の所をどうしても口にできないでいると、聖女が助け舟を出してくれた。
 家のために娘を裏切ることにした父親とはいえ、自分の父親なのだ。娘としては悪くは言いたくないという想いが言葉を途切れさせたとしても、なにも不思議はなかった。

「呪いまでかけたのは、あの場所に魔猟師協会や冒険者協会の神官たちもいたから、万が一、再生なんかされないように、という理由か」
「たぶんね。リンシャウッドって、とっても恐ろしい殺し屋よ。それだけは実感した」
「もうその話はいい。アニスは生き返る事が出来たんだから、もう二度と昔に戻る必要はないと俺は思う」
「どういう意味?」
「古い世界を捨てろと言ってるんだ。君が死んだ時、俺は初めて実感した。あなたのいない世界など、俺にとってなんの価値もないと」
「まるっきり告白じゃない……」
「ちょっと意味は違う。このホテルの中でいてくれとお願いしているんだ。せめてこの事件が終わるまで……俺が、帝国の人間としてあの魔石と、炎の精霊を回収するまで。俺が死んだら、後は好きにしてくれていい」

 告白に告ぐ告白。
 しかしその裏にあるものは、エリオットの殿下としての義務感だった。

 そうだと知り、アニスの顔には落胆の色が差す。
 酷い人ね、と聖女に真顔で言われて、今度は羞恥心に顔が染まっていく。

「私は――私は私なの! あなたにどんな事情があるか知らないけれど、私は今も、アニス・フランメル! とはいっても……フランメル辺境伯を捨てるって話にはなっていたの」
「どういうことだ?」
「このホテルを一歩でも出たら、縁を切るってお父様に言われていたから。だから私は今ただのアニスなの。魔猟師クラン、妖撃(ギャップイヤー)の魔猟師アニス。ただそれだけよ。仲間が、魔猟をするというなら、私だって参加する。ついでに……あの黒狼を後ろから狙撃してやるわ!」
「懲りない人だな、アニス。俺はあなたに死んでほしくない」
「なら守ってよ! 最後までちゃんと守ってよ! 私はあなたのパトロンでしょう? あなたは私に雇われてるのよ、そんなことまで忘れてしまったの? 雇われ人ならちゃんと雇い主を守りなさいよ!」
「あ……いや、それは。しかし……おい」

 そういえばそんな契約だった。この契約を持ち込んだのは誰でもない、エリオットの隣に座るボブだ。
 ボブを見て、エリオとは助けてくれと、目で相槌を求める。

 ゲストアテンダントは困りきった顔で、幾度か視線を空中に彷徨わせると「それでは、こうしてはいかがでしょう?」と提案した。

「エリオットとアニス様の契約はまだ生きております。アニス様が死んだとはいえ、今こうしてここに生きていらっしゃるということは、契約もまだ生きていると考えていいでしょう。さらに、契約を打ち切られたはずなのに、それをさせてくれなかった女神様にもある程度の責任は及ぶと私は考えます」
「は? ええ? うちの女神様に?」

 これは面白い見ものだわ、と成り行きを見守っていた聖女が、驚いた声を上げる。
 まさか自分が舞台に立たされるとは思っていなかったらしい。思わず、彼女の素が出てしまっていた。

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