殿下、貴方が婚約破棄を望まれたのです~指弾令嬢は闇スキル【魔弾】で困難を弾く~

秋津冴

文字の大きさ
61 / 71
第四章

第六十話 アニスの報復

しおりを挟む
「左様でございます。どちらにせよ、炎の巨人とやらを魔石に封じ込めるためには、聖女様のお力が必要です。そのために、大陸の東からこんな南の果てにまで来られたのですから、お力添えを願っても悪くないと思います」
「それはそうですけど……えええ?」
「そこで私が提案いたしますのは、帝国の誇ります魔導具のかずかずを、このエリオット殿下にすでに渡しております。それらを使いまして、まずは炎の巨人を足止めしている辺境伯の部下どもを、黒狼を含めて……捕縛し魔石を奪還しましょう。
 さらに、炎の巨人を聖女様の手によって魔石に封印していただきます。最後に、アニス様の【魔弾】により、ローズ・ローズの本体がある魔石を打ち砕く。これで全ては、問題なく滞りなく進むはずです」
「そんなにうまくことが進かしら?」

 とアニスは及び腰だ。帝国の思惑に付き合わされるというのが、面白くないのかもしれない。
 ボブはどうかお願いしますよ、と腰を腰をかがめて、依頼する。

「補足として、このホテルに炎の巨人を封印した魔石をお持ち帰りください。聖女様ご自身の手で。そうすれば、我々として手出しはできません。聖女様にはそのまま、一度帝国本土にある、女神リシェスの分神殿にでも転送魔法によって移動していただきます。その後、魔石がどうなろうが、私どもは何も知りません。一切関知いたしません」
「……私はそれでも良いですよ」
「聖女様! それじゃ利用されるままじゃないですか! 面白くないわ」
「では、アニス様。あなたはどうなれば、納得するというの?」

 聖女にたしなめるように言われ、エリオットと自分の顔を交互に見比べられて、アニスは赤味が薄くなっていた顔を、更に赤く染めていく。

 かつての元婚約者からもあれほど情熱的な一言を言われたことがない、恋愛貧乏のアニスは「彼の誠実さが足りないから嫌!」と首をそっぽ向けた。

「待ってくださいアニス。これは俺の帝国臣民としてしなければならないことで……」
「それは好きにすればいいじゃない。そうじゃなくて! 仲間のなんでしょう? それなら仲間らしくちゃんと頼んでよ」
「……アニス。お願いだ、どうか君の力を貸して欲しい。今だけでなく、俺のために対して力を貸してくれないか」
「なんか一言余計なのよね……?」

 告白か? 告白なのか? それとも、無自覚にやっているのか? もしかして、たくさんの女性をこうやって手玉に取ってきたんだろうか……。ついでにさっきからずっと気になっていたけど、殿下って何? 私はそんな彼の隠れた身分を知ったからといって、なびくほど安い女じゃないんだけど!

 なんだか無性に腹が立つなあ……と、弄ばれているようで、面白くない。
 だからからかうように言い返してやった。もし後から違うと否定されても、それならそれできっちりと慰謝料を請求してやるつもりで。

「いーいわよ? そこまで言うなら、そこまで言ってくださるならお手伝いしないこともありませんわよ、殿下。でもあなたのために力を貸すのですから、私の人生もきちんと助けていただかないと困ります。今だけでなくこれからずっと」
「アニス様、それはちょっと」
「聖女様、いいから黙っててください。これは私たちの問題なので」
「でも、だけど。それはちょっと」

 売り言葉に買い言葉。
 いやいやそれだけじゃない、片方が告白をしたら片方は喧嘩を売る勢いで告白しかえしている。
 
 もしかしたらそれぞれに気づいていないかもしれないし、アニスの場合はエリオットが気づいていなかったと後から言い訳しても、今更遅い、と謝罪とそれ以上の何かを彼に要求するだろう。

 女性って怖いな。同性ながら、聖女シオンライナはそう感じていた。
 アニスの思惑を察知したのは、シオンライナだけではなく、ボブも同様だった。

 エリオットがわかりましたと言ってしまえば、下手をすれば彼女の実家の問題に、帝国が巻き込まれる可能性がある。
 そうなるとエリオットの帝国本土への帰還すら――と、泡を喰っていたら、アニスが機先を制した。

「伯爵家との縁は切れておりますからご心配なく!」
「それでしたら……このボブに言うべきことは」
「あるでしょ? たくさんありますよね? 散々私を騙して来て、今から言うことが何もないなんて言わせませんからね? 後からちゃんと謝っていただきますから!」
「はい、それはもう」
「それと、エリオット!」
「なっ、なに……かな? 隠しておいたことについてはもちろん、謝罪もするよ。これは……すまなかった」
「そんな謝罪とかどうでもいいの!」
「はっ、はい。アニス……様」

 それまで怒り心頭だった殿下が、今度は騙していたことをアニスに叱られて顔色を失うさまは、どこか滑稽だ。
 まるで熟年夫婦の喧嘩を見ているようで面白くなり、聖女はクスクスと顔を手で覆って笑ってしまった。

「あの魔石の所有者は辺境伯家だから、私にはもう関係ないわ。好きにすればいいじゃない。だから、あなたがどこの誰とあれを使ってしようと、私は知りません!」
「じゃあ、もう関係したくない、と?」
「そうじゃないの。私には私なりのケジメの付け方があるって言ってるの。その邪魔しないで欲しいだけ」
「つまりどうすればいい?」

 アニスは不敵に微笑んで言った。
 辺境伯家の鼻を明かすのよ、と。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

処理中です...