63 / 71
第五章
第六十二話 黒狼の暗躍
しおりを挟む
三人が駆けだしたその瞬間を狙ったように、ローズ・ローズの足。ぶっとい根っこが、炎の巨人の左わき腹をめがけて繰り出される。
それは見る見る間に伸びていき、伸びた先でさらに幾本もの根が巻き付いてゆき、鋼鉄のワイヤーを束ねたものよりも強靭で、破壊力があり、更にちょっとした炎程度では焼き切れないほどの、耐火性に優れていた。
ブォンッと鞭のようにしなる一撃をまともにうけ、炎の巨人はその勢いを受け止められず、側に流れている河へと片手片足をついてしまう。
すると凄まじい熱を帯びた蒸気があたり一面を覆い、水辺でどうにか炎をしのいでいた木々は敢え無く、燃え尽きて倒されてしまう。
その様を悲しんだのか、ローズ・ローズはさらに数本の足を生やすと、その半数を使って炎の巨人に向かい、足を鞭代わりにして猛威を奮った。
巨木を中心として、触れただけで骨を砕き肉を抉るそれをローズ・ローズは回転を加えることで、さながら木製の回転するチェーンソーのようにガリガリガリガリ、と炎の巨人の側面を頭を、足を、下腹部を削っていく。
回復が追いつかず、またアニスたちとの闘争によって幾分か削がれていた炎の巨人の魔力が、いよいよ凄まじい勢いで低下していくのが、はた目にも分かった。
ぐぅいいいいんっ、と上に伸びた回転する刃が、ずんっ、と巨人の首と本体を切断してしまう。
まるで回るギロチンだ、と思いながらリンシャウッドは上から落ちて来る溶岩だの、巨木だのをうまく避け、時には闇の炎を吹かして安全地帯へと逃げ延びていた。
他の二人、オネゲルとアルテューレもまた、優れた身のこなしをもって、落ちてきたり、襲ってくる熱波や肉を切り裂く、鞭の一撃からうまく身を躱してリンシャウッドの後に続く。
数分かけて安全地帯にたどり着いたとき、そこには大勢の人々が待っていた。
魔猟師協会や冒険者協会の人々だった。彼らは協力して、自分たちの周りに防御結界を張り巡らし、巨人たちの猛攻の余波を受けても死なない程度に、安全な場所を確保していたのだった。
「早く、こちらに!」
入り口に誘導されて、オネゲルとアルテューレはその中に真っ先に逃げ込んだ。
どうにか生き延びた……と、息も絶え絶えに全力で疾走してきた二人がようやく息を整えてみると、見える範囲にあの黒狼がいない。
結界の中で治療を受けているのかとも思ったが、探しても見当たらないでいた。
どうやら、偉そうなことを言うだけ言って、さっさと他の場所に逃げてしまったらしい。
二人はそう決めつけると、これからどうしたものかと頭を付け合わせて、今後の予定を決めた。
ローズ・ローズと炎の巨人はそんな二人をほっといたまま、すさまじい大魔獣決戦ともいえるべき一大戦闘の真っ最中で、魔石をその身に宿しているローズ・ローズの方が、どうやら炎の巨人よりも有利の様だった。
魂が宿っていればまた話は別だったのだろうが、肉体だけでは本能的な動きしか出来なくなる。
攻撃も防御も、ローズ・ローズの方がいろいろと有利だった。
四百年間貯めて来た魔力をここぞとばかりに使用して、巨人が放つ灼熱の魔弾だの攻撃だのをうまく反らしていくのだ。
その分、周囲の被害は甚大なものとなるが、燃えた焦土すらもローズ・ローズの養分となった。
根がそこかしこに向かって伸びて行き、それは王都の外壁とその前を流れる運河の支流にまで達していた。
ローズ・ローズは支流から大量の水を根で吸い上げると、凄まじい水圧をかけて鉄砲水のようにして、それを炎の巨人にぶちかましたのだ。
炎、水、溶岩、炎、水、溶岩、ときどき咆哮、緑の鞭、飛んでいく巨人の腕。炎、水、熱波が夜空を白く染め上げ、その中で巨人の口から噴き出された炎が、闇夜をオレンジ色に染め上げる。
しかし、雄たけびと共に放出された轟炎で覆われたローズ・ローズの本体は、頭上から運河から吸い上げた水を放射してシャワーのように浴びせかけ、あえなく鎮火してしまう。
そんな状況がさらに十数分続き、いよいよ、炎の巨人の魔力は底を尽きかけて、片足を地面に堕とした。
リンシャウッドはその隙を見計らい、自身の全身を闇の炎で防御して、あのポシェットを回収すると、四つ足で闇の空を駆け抜けてローズ・ローズの本体へと殺到する。
本物の黒い狼のようにローズ・ローズにたどり着いた彼女は、ローズ・ローズの肉体にできたいくつもの裂け目からその中へと身を滑り込ませた。
魔石まで行き着くと、自身の命である魔石を守ろうとするローズ・ローズのツタや根っこなどを闇の炎で焼きながら、一抱えほどもある魔石を、ローズ・ローズの本体から強引に引っぺがそうとする。
だが、木面と魔石が癒着しているのを見て取ると、闇の炎をまるで鋭い切っ先の刃のようにして、木の部分から無理やり引きはがしてしまった。
暴れ狂うローズ・ローズの本体から振り落とされまいと、体内で四肢を必死に広げがら、あのポシェットへとローズ・ローズの本体から引きはがした魔石を滑り込ませる。
ひぎゃうううっ、とローズ・ローズの断末魔が世界に響きわたるのと同時に、炎の巨人が魔獣に抱き着き、最後は両者ともに全長十メートルほどの移動する火柱となり……それは、膨大な水流が流れ込む運河の支流にまでたどり着いたところで、水中に没した。
吹き上がる水蒸気が王都そのものを真っ白なもやで覆ってしまう。
王都でも比較的高い建物で知られるホテルギャザリックの最上階から、これから戦場に向かおうとしていたアニスやエリオット、聖女たちは呆然として神話で語られるような魔獣と精霊の大決戦の終幕を見届けたのだった。
それは見る見る間に伸びていき、伸びた先でさらに幾本もの根が巻き付いてゆき、鋼鉄のワイヤーを束ねたものよりも強靭で、破壊力があり、更にちょっとした炎程度では焼き切れないほどの、耐火性に優れていた。
ブォンッと鞭のようにしなる一撃をまともにうけ、炎の巨人はその勢いを受け止められず、側に流れている河へと片手片足をついてしまう。
すると凄まじい熱を帯びた蒸気があたり一面を覆い、水辺でどうにか炎をしのいでいた木々は敢え無く、燃え尽きて倒されてしまう。
その様を悲しんだのか、ローズ・ローズはさらに数本の足を生やすと、その半数を使って炎の巨人に向かい、足を鞭代わりにして猛威を奮った。
巨木を中心として、触れただけで骨を砕き肉を抉るそれをローズ・ローズは回転を加えることで、さながら木製の回転するチェーンソーのようにガリガリガリガリ、と炎の巨人の側面を頭を、足を、下腹部を削っていく。
回復が追いつかず、またアニスたちとの闘争によって幾分か削がれていた炎の巨人の魔力が、いよいよ凄まじい勢いで低下していくのが、はた目にも分かった。
ぐぅいいいいんっ、と上に伸びた回転する刃が、ずんっ、と巨人の首と本体を切断してしまう。
まるで回るギロチンだ、と思いながらリンシャウッドは上から落ちて来る溶岩だの、巨木だのをうまく避け、時には闇の炎を吹かして安全地帯へと逃げ延びていた。
他の二人、オネゲルとアルテューレもまた、優れた身のこなしをもって、落ちてきたり、襲ってくる熱波や肉を切り裂く、鞭の一撃からうまく身を躱してリンシャウッドの後に続く。
数分かけて安全地帯にたどり着いたとき、そこには大勢の人々が待っていた。
魔猟師協会や冒険者協会の人々だった。彼らは協力して、自分たちの周りに防御結界を張り巡らし、巨人たちの猛攻の余波を受けても死なない程度に、安全な場所を確保していたのだった。
「早く、こちらに!」
入り口に誘導されて、オネゲルとアルテューレはその中に真っ先に逃げ込んだ。
どうにか生き延びた……と、息も絶え絶えに全力で疾走してきた二人がようやく息を整えてみると、見える範囲にあの黒狼がいない。
結界の中で治療を受けているのかとも思ったが、探しても見当たらないでいた。
どうやら、偉そうなことを言うだけ言って、さっさと他の場所に逃げてしまったらしい。
二人はそう決めつけると、これからどうしたものかと頭を付け合わせて、今後の予定を決めた。
ローズ・ローズと炎の巨人はそんな二人をほっといたまま、すさまじい大魔獣決戦ともいえるべき一大戦闘の真っ最中で、魔石をその身に宿しているローズ・ローズの方が、どうやら炎の巨人よりも有利の様だった。
魂が宿っていればまた話は別だったのだろうが、肉体だけでは本能的な動きしか出来なくなる。
攻撃も防御も、ローズ・ローズの方がいろいろと有利だった。
四百年間貯めて来た魔力をここぞとばかりに使用して、巨人が放つ灼熱の魔弾だの攻撃だのをうまく反らしていくのだ。
その分、周囲の被害は甚大なものとなるが、燃えた焦土すらもローズ・ローズの養分となった。
根がそこかしこに向かって伸びて行き、それは王都の外壁とその前を流れる運河の支流にまで達していた。
ローズ・ローズは支流から大量の水を根で吸い上げると、凄まじい水圧をかけて鉄砲水のようにして、それを炎の巨人にぶちかましたのだ。
炎、水、溶岩、炎、水、溶岩、ときどき咆哮、緑の鞭、飛んでいく巨人の腕。炎、水、熱波が夜空を白く染め上げ、その中で巨人の口から噴き出された炎が、闇夜をオレンジ色に染め上げる。
しかし、雄たけびと共に放出された轟炎で覆われたローズ・ローズの本体は、頭上から運河から吸い上げた水を放射してシャワーのように浴びせかけ、あえなく鎮火してしまう。
そんな状況がさらに十数分続き、いよいよ、炎の巨人の魔力は底を尽きかけて、片足を地面に堕とした。
リンシャウッドはその隙を見計らい、自身の全身を闇の炎で防御して、あのポシェットを回収すると、四つ足で闇の空を駆け抜けてローズ・ローズの本体へと殺到する。
本物の黒い狼のようにローズ・ローズにたどり着いた彼女は、ローズ・ローズの肉体にできたいくつもの裂け目からその中へと身を滑り込ませた。
魔石まで行き着くと、自身の命である魔石を守ろうとするローズ・ローズのツタや根っこなどを闇の炎で焼きながら、一抱えほどもある魔石を、ローズ・ローズの本体から強引に引っぺがそうとする。
だが、木面と魔石が癒着しているのを見て取ると、闇の炎をまるで鋭い切っ先の刃のようにして、木の部分から無理やり引きはがしてしまった。
暴れ狂うローズ・ローズの本体から振り落とされまいと、体内で四肢を必死に広げがら、あのポシェットへとローズ・ローズの本体から引きはがした魔石を滑り込ませる。
ひぎゃうううっ、とローズ・ローズの断末魔が世界に響きわたるのと同時に、炎の巨人が魔獣に抱き着き、最後は両者ともに全長十メートルほどの移動する火柱となり……それは、膨大な水流が流れ込む運河の支流にまでたどり着いたところで、水中に没した。
吹き上がる水蒸気が王都そのものを真っ白なもやで覆ってしまう。
王都でも比較的高い建物で知られるホテルギャザリックの最上階から、これから戦場に向かおうとしていたアニスやエリオット、聖女たちは呆然として神話で語られるような魔獣と精霊の大決戦の終幕を見届けたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません
真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる