お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 テレンス様、と後ろからイリヤが小さく声を掛けてくる。
 か細いその声は不安で包まれていた。
 あら、私はこの程度でおしかりを受けるとは思ってないんだけどな。
 だって、陛下は困ったという感じにかおをちょっとだけしかめただけだもの。
 未成年の側妃が我がままを言っている。
 そう受け止めて貰えるようにこちらは語っているだから、相手の反応は予測できたものだ。

「どうしてそんな嫌味を思いつく」
「別に嫌味などではありません」

 つまり、この王国には、彼の条件に見合う竜騎士はいないわけで。
 答えを導き出すには時間がかからなかった。
 では、と国王陛下は思案していた。
 私の興味が、単に竜に向けられている幼い憧れのそれなのか、もっと別の思惑があるのかを計っているようだった。
 私より色の深い赤毛を片手で掻きあげると、私より深い青の瞳の片方を閉じ、ちらちらとこちらと周囲の反応を気にしている。
 どうやら、騎士たちの体面があるからこれ以上は口を慎むように、そんな指示のように思えた。


「騎士たちは帝国の竜騎士のように、竜に慣れていない。この王国には竜そのものの数が少ないからな‥‥‥王国の騎士団から指南係を招いてはいるが、さて」
「指南係? そんなものがいるのですね」
「いるんだよ、これが。しかし、海竜をうまく手なずける前に帰国を考えておられるようでな」
「帝国から派遣されているというのに、勝手にそんなことができるはずが」
「ない、と思うだろう? しかし、人は何でもかんでも、王の命令に従うということはないのだよ。何か理由をつけて待遇を変えさせたり、自分から都合よくなるように動く人間もいる。戻ると言うものを無理に引きとめても仕方あるまい」
「だけど、それでは帝国の‥‥‥皇后陛下の面目が保てないことに」
「そうだな?」

 と、陛下はにんまりとほほ笑んで私を見た。
 どうにかしてみろ、できたら竜と遊んでもいい。
 そう言っているように聞こえる。
 いやいや、それは私の仕事ではないでしょう? それこそ国王陛下の采配が――いえ、待って。
 たかだか一指南役の帰国に、王国の最高責任者、自らが動くというのも変な話じゃない?
 戻ったなら、任務放棄を帝国に訴えて、新たな指南役を派遣して貰えばいいわけだし。
 そうなるとそこにこそ、私の助言が活かされてくるわけだから‥‥‥。

「陛下、どうして内々の視察に赴かれたのですか」

 自然とそんな質問が私の口を突いて出た。
 陛下は「さてな」と会話の主導権を握ったように片頬を上げる。
 どうやら、王国内で帝国の人間が何やら悪さをしているようだった。
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