お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 ジョブスが勤務するここには、さまざまな行政機関の出先機関が一堂に集まった場所になっていた。
 四階建ての本館、左右にそれぞれ鳥が翼を広げたような別館があり、最奥に領主の自宅と、来賓用の別館が用意されている。

 周りの建物が赤や白に彩られているのに、この館は真っ蒼な空に溶け込むように見える青と、壮麗な白のデコレーションが見事な建築物。
 領主のベネルズ伯爵は海に詳しく、彼自身も商船を何隻も持つ、船主だという。

 王都とはまた違う、富と権力を握った野心家。
 五十代、陛下よりも一回りほど年齢がいった、壮年の男性。

 この国の民族特有の褐色の肌に、黒髪は短く刈り込まれ、艶やかな黒真珠のような瞳には、どす黒い出世欲に満ちているように思えた。

「よくお越しくださいました。王都からは遠い旅路だったでしょう。この館も一週間とおかずに新しい主を迎えて、さらにそれが王族の方々とも来れば、喜びもひとしおというものです」
「それはありがとうございます、伯爵。陛下もここにお泊りになられたのね」
「ええ……。あちらの寝室に」

 伯爵はすこしだけ言葉を濁した。
 わたしは意地悪く質問する。

「この地方の華でも飾りましたか?」

 華。つまり、美人を陛下の夜の側につかせたか、という意味だ。
 伯爵はうっと言葉を詰まらせる。どうやら、存外、正直な性格らしい。感情が表に出やすいようだ。

「陛下は、華はすでに両手にあると、はい」
「そう。それを聞いて安心したわ。あなたのことは陛下によろしく伝えておきます。今回の竜の一件、うまくいったらあなたの手柄になさい」
「は? いえ、それは! しかし……王妃様のものになさったほうが、宜しいのでは?」
「まだ未来は何も決まっていませんし、それにわたしの物にしたところで、陛下のご寵愛がます程度。それはこの港地や領主のあなたにとって、喜ばしいことかしら?」
「王妃様の覚えが宜しくなれば、それはベネルズの民もまた喜ぶことでしょう」

 本当にそうかしら?
 だって、あなたの商売相手、帝国でしょう? ちゃんと調べはついているだから。

 この伯爵の持つ商船はすべて、わたしの祖国と大きく商いをしている。
 扱っているのが、半島の鉱山から採掘し、加工した魔鉱石がほとんどで、それは帝国でも大事な資源の一つだ。

 何よりも、彼の船を使い、あることが行われようとしているのだから、こちらとしても安易に手を組みたくない。

「聞きましたよ。帝国から王国に竜を使う指南役としてきている、帝国竜騎士たちが、この港から祖国に戻ろうとしているとか。国王陛下は許可を与えてみたいだけど、誰の船を使うつもりかしら?」
「それは……」
「こちらとしては誰の船でも別に構わないのですよ、伯爵。でも、竜騎士たちを乗せた船の船主と、王妃が仲良くしていたら、陛下は良くは思わないと思うの。どう?」
「ではどうすれば王妃様の御心に叶いますでしょうか」

 わたしの答えがない問いかけに対して、困惑したように伯爵は顔をしかめた。
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