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異世界へ
0025話
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イオの説明で、周囲で沈黙していた者たちはようやく動き出す。
明らかに鍛えていないイオが黎明の覇者に所属しているというのは納得出来なかったが、何らかのトラブルに巻き込まれたイオを黎明の覇者が助けて、その縁で一緒に行動している……ということなら、納得出来たのだろう。
しかし、イオはそんな周囲の様子を見ても緊張が解けていない。
何故なら、周囲にいた者たちはともかく、ウルフィだけは未だにイオの言葉を完全に信じ切っている様子ではなかったからだ。
「イオ、面白い話を聞かせて貰ったし、一杯奢らせてもらえないかい?」
奢らせて欲しいと言ってはいるが、ウルフィの表情を見る限り、それは半ば強制であるというのはイオにも理解出来た。
「えっと、その……分かりました。ただ、酒じゃなくて果実水か何かであれば」
本当に嫌なら、イオもウルフィのその誘いを断ることが出来ただろう。
だが、今のイオにとってウルフィからの誘いは断らない方がいいと、そのように思えた。
そのため、イオはウルフィと共にギルドに併設されている酒場に向かう。
酒場では傭兵や冒険者と思しき者たちがそれなりに多く食事をしていたり、酒を飲んでいたりしている。
とはいえ、ただ騒いでいるだけという者もいれば、酒を飲んで口の軽くなった相手から少しでも情報を聞き出そうとしているような者もおり、そういう意味ではかなり混沌としていた。
それでも現在はゴブリンの軍勢の一件があるので、酒場で飲んでいる者の数は少ないのだが。
当然だろう。もし今この状況でゴブリンの軍勢がドレミナの近くに姿を現したら、どうなるのか。
場合によっては、酔っ払ったままゴブリンの軍勢と戦うといったことになる可能性も高かった。
中には酔っ払っても実力が変わらない者や、ゴブリン程度は酔っ払っていても平気だと主張する者、さらには特殊なスキルや習得した戦い方の影響で酔っ払った方が強くなるといったような者すらいるのだが、当然ながらそのような者たちは少数だ。
だからこそ、ウルフィがイオを酒場に連れて来たときも、店員に頼んだのは酒ではなく果実水。
他には軽く摘まめるような適当な料理だけとなる。
「さて」
店員に料理を頼むと、ウルフィは改めてイオを見る。
その視線は先程まで会話をしていたときとは違い、真剣な色があった。
「う……」
ウルフィの視線を向けられたイオは、その視線に何も言えなくなる。
だが、それでも何とか気を取り直して口を開く。
「えっと、何が不味いことでもありましたか?」
「不味いというよりは疑問だね。イオ、君は黎明の覇者という名前の持つ力を侮っている」
「それは……さっきの様子を見れば、否定出来ませんね」
周囲にいた傭兵や冒険者たちは、イオが黎明の覇者という言葉を口にした瞬間、周囲にいる者たちも言葉も出せないくらいに驚き、黙り込んだのだ。
それを見れば、イオが黎明の覇者という傭兵団についてその名声を甘く見ていたのは間違いなかった。
「だろう? それでも黎明の覇者に所属しているんじゃなくて、助けて貰ったという風に言ったから、そこまで注目を向けられないのは間違いないだろう」
「そうですか。よかった」
ウルフィの言葉だからということもあってか、安堵した様子でイオは呟く。
そんなイオに対し、ウルフィは真剣な表情を向けたままで口を開く。
「しかし、不思議なこともあるね。黎明の覇者に君のような男がいるという話は聞いたことがない。それはつまり、ここ最近の出来事だったからということかな?」
「え? あ、そうですね。はい。ここ最近の話です」
今日の出来事である以上、ここ最近という範囲に収まるだろうと判断したイオの言葉に、ウルフィは一つ頷いてから言葉を続ける。
「では……今日、ゴブリンの軍勢に天から降った隕石は何だったと思う?」
「……え?」
何故いきなり自分にそのようなことを聞いてくるのか。
そう思ったイオは、後ろ暗いところがあるだけに一瞬反応が遅れてしまう。
「あれがもし自然現象によるものでないとすれば、可能性として一番高いのは魔法となる。……そう言えばイオ、君も魔法使いのように見えるが」
「えっと、それは……」
何と答えればいいのか迷ったイオは、言葉に詰まる。
そんなイオをウルフィは真剣な様子で見ていた。
周囲では多くの傭兵や冒険者たちが騒いでいるのだが、イオとウルフィが座っているテーブルにはそんな周囲の様子とは裏腹に沈黙だけが存在し……そんな沈黙を破ったのは、酒場の店員だった。
「お待たせ」
そう言い、料理と果実水をテーブルの上に置いていく女の店員。
酒場の店員特有の軽い態度のおかげと、テーブルの上に並べられた料理の数々の力によってイオとウルフィの間にあった重い雰囲気は霧散した。
「せっかくの料理なんだ。温かいうちに食べないとね。イオも、何か話すにも空腹の状態では難しいだろう?」
「そうですね。では、ウルフィさんの言葉に甘えさせて貰います」
ギルドに来るまでに屋台で軽く食べたりしてきたので、イオもそこまで空腹という訳ではない。
しかし、この世界にきてからずっと山の中で活動していたのだから、上手い料理を欲していたのもまた事実。
それに屋台で食べたのは、あくまでも軽く摘まむ程度でしかないので、こうしたしっかりとした料理はイオにとっても歓迎すべきものだった。
イオがまず手を伸ばしたのは、魚。
山でサバイバル生活をしていたときは、川を泳いでいる魚を見つけても獲るような真似は出来なかった。
釣り竿や銛のような物を持っていないのだから当然だろう。
水中にある岩に手で持った岩をぶつけて、その衝撃で魚を獲るといったような方法は知っていたが、川魚は寄生虫が怖いという話を以前聞いたことがあり、火を点ける手段がな以上は諦めていたのだ。
……本当に空腹がどうしようもなくなっていれば、もしかしたら寄生虫の心配があっても川魚に手を出した可能性もあったが、幸いなことに山には何とか生き延びられるだけの食べ物はあった。
もっとも、イオが食べていたような果実の類も、本来なら見知らぬ物である以上、何らかの毒を持っていた可能性もあるのだが。
そんな食生活をしていたイオだけに、魚料理は十分楽しむことが出来た。
蒸し焼きにした白身の魚に、トロリとした餡……中華餡に近いような餡がかかっている料理。
餡の中には細切りにされた根菜の類が多数入っており、それがまた白身と一緒に食べると美味い。
(これはパンじゃなくてご飯だろ。……そう言えば、この世界に米ってあるのか? パンは普通に食べられてるけど、米は……どうなんだろうな)
日本人として出来ればご飯を食べたいと思うイオだったが、その辺がどうなっているのかは、調べてみないとなんとも言えない。
(日本人として……日本人として? まぁ、取り合えず日本人という認識でいいよな?)
水晶によって精神を強化され、流星魔法の才能を引き出され、さらにはどういう理由か分からないものの、髪の毛が青く染まってしまっている。
そんな今の自分を日本人と呼んでもいいのかどうか、正直なところ微妙だったのだが、イオは半ば無理矢理自分は日本人だろうと考える。
(俺がこの世界にやって来て何をするという理由もなかったんだから、もしかしたら米を探すといいうのを目的にするのもありか?)
料理の美味さにそんなことを考えてしまうイオだったが、すぐにその首を横に振る。
そんな簡単に自分の目的を決めるのはよくないだろう、と。
ただし、自分がこの世界において活動する理由の一つということにしておくのは、悪い話ではないように思えた。
そんな料理の美味さに意識を向け、今この瞬間、イオの頭の中からはウルフィの存在がすっかり消え、そんなイオの様子を見たウルフィは何気なく尋ねる。
「それで、ゴブリンの軍勢を倒したあの流星……イオはあれについても知ってるんだよね?」
「はい、そうですね。まさか流星魔法を使ったら杖が壊れるとは思って……なかっ……た……っ!?」
喋っている途中で、イオは自分が何を言ってるのか理解したのだろう。
その言葉を止め、恐る恐るといった様子でテーブルの上の料理から向かいに座っているウルフィに視線を向ける。
そのウルフィは、驚きの視線をイオに向けていた。
ウルフィにしてみれば、イオから何らかの情報を引き出せればいいと思って、かまをかけたにすぎなない。
そんな中でイオの口から出たのは、ウルフィにとっても予想外の言葉だった。
「イオ……まさか、君が……?」
「っ!?」
ウルフィに自分のことを知られた。
そう判断したイオは、これ以上ここにいるのは不味いと半ば反射的に判断し、その場から走り出す。
幸いことに……あるいはウルフィも事情を完全に飲み込めなかったのか、酒場から、そしてギルドから逃げ出したイオを追ってくる様子はなかった。
純粋な身体能力という点では決して優れている訳でもないイオだけに、もしウルフィが本気で追ってきていればあっさりと捕まっただろう。
ギルドにいた者たちは、そんなイオの様子を少しだけ不思議そうに、もしくは面白そうに見送ると、特に気にした様子もなくゴブリンの軍勢の情報集めに戻る。
ギルドやそこに併設されている酒場から、何らかの理由で走って逃げ出すような者というのは実はそこまで珍しい話ではない。
他の傭兵や冒険者に絡まれて逃げるしかなかったり、依頼を失敗して自分の力不足を恥じて逃げ出したり、他にも多くの理由でギルドにいるのがいたたまれなくなってギルドから逃げ出すというのは、新人の傭兵や冒険者にしてみれば経験したことがある者も多い。
イオもまた、そんな新人の一人であると判断されたのだろう。
……実際、イオは傭兵や冒険者になることも一つの可能性として考えているので、そう間違っている話でもないのだが。
「しまったな。少し突っ込みすぎたか?」
イオがいなくなったテーブルの上で ウルフィは今のやり取りを思い出しながら、そう呟く。
とはいえ、ウルフィとしてはまさかこうもあっさりとイオが口を滑らせるとは思っていなかったし、それ以前にイオがゴブリンの軍勢を滅ぼした人物であるとは思わなかったのだが。
イオとどうやって接触するべきかと考え、取りあえずウルフィはテーブルの上にある料理に手を伸ばすのだった。
明らかに鍛えていないイオが黎明の覇者に所属しているというのは納得出来なかったが、何らかのトラブルに巻き込まれたイオを黎明の覇者が助けて、その縁で一緒に行動している……ということなら、納得出来たのだろう。
しかし、イオはそんな周囲の様子を見ても緊張が解けていない。
何故なら、周囲にいた者たちはともかく、ウルフィだけは未だにイオの言葉を完全に信じ切っている様子ではなかったからだ。
「イオ、面白い話を聞かせて貰ったし、一杯奢らせてもらえないかい?」
奢らせて欲しいと言ってはいるが、ウルフィの表情を見る限り、それは半ば強制であるというのはイオにも理解出来た。
「えっと、その……分かりました。ただ、酒じゃなくて果実水か何かであれば」
本当に嫌なら、イオもウルフィのその誘いを断ることが出来ただろう。
だが、今のイオにとってウルフィからの誘いは断らない方がいいと、そのように思えた。
そのため、イオはウルフィと共にギルドに併設されている酒場に向かう。
酒場では傭兵や冒険者と思しき者たちがそれなりに多く食事をしていたり、酒を飲んでいたりしている。
とはいえ、ただ騒いでいるだけという者もいれば、酒を飲んで口の軽くなった相手から少しでも情報を聞き出そうとしているような者もおり、そういう意味ではかなり混沌としていた。
それでも現在はゴブリンの軍勢の一件があるので、酒場で飲んでいる者の数は少ないのだが。
当然だろう。もし今この状況でゴブリンの軍勢がドレミナの近くに姿を現したら、どうなるのか。
場合によっては、酔っ払ったままゴブリンの軍勢と戦うといったことになる可能性も高かった。
中には酔っ払っても実力が変わらない者や、ゴブリン程度は酔っ払っていても平気だと主張する者、さらには特殊なスキルや習得した戦い方の影響で酔っ払った方が強くなるといったような者すらいるのだが、当然ながらそのような者たちは少数だ。
だからこそ、ウルフィがイオを酒場に連れて来たときも、店員に頼んだのは酒ではなく果実水。
他には軽く摘まめるような適当な料理だけとなる。
「さて」
店員に料理を頼むと、ウルフィは改めてイオを見る。
その視線は先程まで会話をしていたときとは違い、真剣な色があった。
「う……」
ウルフィの視線を向けられたイオは、その視線に何も言えなくなる。
だが、それでも何とか気を取り直して口を開く。
「えっと、何が不味いことでもありましたか?」
「不味いというよりは疑問だね。イオ、君は黎明の覇者という名前の持つ力を侮っている」
「それは……さっきの様子を見れば、否定出来ませんね」
周囲にいた傭兵や冒険者たちは、イオが黎明の覇者という言葉を口にした瞬間、周囲にいる者たちも言葉も出せないくらいに驚き、黙り込んだのだ。
それを見れば、イオが黎明の覇者という傭兵団についてその名声を甘く見ていたのは間違いなかった。
「だろう? それでも黎明の覇者に所属しているんじゃなくて、助けて貰ったという風に言ったから、そこまで注目を向けられないのは間違いないだろう」
「そうですか。よかった」
ウルフィの言葉だからということもあってか、安堵した様子でイオは呟く。
そんなイオに対し、ウルフィは真剣な表情を向けたままで口を開く。
「しかし、不思議なこともあるね。黎明の覇者に君のような男がいるという話は聞いたことがない。それはつまり、ここ最近の出来事だったからということかな?」
「え? あ、そうですね。はい。ここ最近の話です」
今日の出来事である以上、ここ最近という範囲に収まるだろうと判断したイオの言葉に、ウルフィは一つ頷いてから言葉を続ける。
「では……今日、ゴブリンの軍勢に天から降った隕石は何だったと思う?」
「……え?」
何故いきなり自分にそのようなことを聞いてくるのか。
そう思ったイオは、後ろ暗いところがあるだけに一瞬反応が遅れてしまう。
「あれがもし自然現象によるものでないとすれば、可能性として一番高いのは魔法となる。……そう言えばイオ、君も魔法使いのように見えるが」
「えっと、それは……」
何と答えればいいのか迷ったイオは、言葉に詰まる。
そんなイオをウルフィは真剣な様子で見ていた。
周囲では多くの傭兵や冒険者たちが騒いでいるのだが、イオとウルフィが座っているテーブルにはそんな周囲の様子とは裏腹に沈黙だけが存在し……そんな沈黙を破ったのは、酒場の店員だった。
「お待たせ」
そう言い、料理と果実水をテーブルの上に置いていく女の店員。
酒場の店員特有の軽い態度のおかげと、テーブルの上に並べられた料理の数々の力によってイオとウルフィの間にあった重い雰囲気は霧散した。
「せっかくの料理なんだ。温かいうちに食べないとね。イオも、何か話すにも空腹の状態では難しいだろう?」
「そうですね。では、ウルフィさんの言葉に甘えさせて貰います」
ギルドに来るまでに屋台で軽く食べたりしてきたので、イオもそこまで空腹という訳ではない。
しかし、この世界にきてからずっと山の中で活動していたのだから、上手い料理を欲していたのもまた事実。
それに屋台で食べたのは、あくまでも軽く摘まむ程度でしかないので、こうしたしっかりとした料理はイオにとっても歓迎すべきものだった。
イオがまず手を伸ばしたのは、魚。
山でサバイバル生活をしていたときは、川を泳いでいる魚を見つけても獲るような真似は出来なかった。
釣り竿や銛のような物を持っていないのだから当然だろう。
水中にある岩に手で持った岩をぶつけて、その衝撃で魚を獲るといったような方法は知っていたが、川魚は寄生虫が怖いという話を以前聞いたことがあり、火を点ける手段がな以上は諦めていたのだ。
……本当に空腹がどうしようもなくなっていれば、もしかしたら寄生虫の心配があっても川魚に手を出した可能性もあったが、幸いなことに山には何とか生き延びられるだけの食べ物はあった。
もっとも、イオが食べていたような果実の類も、本来なら見知らぬ物である以上、何らかの毒を持っていた可能性もあるのだが。
そんな食生活をしていたイオだけに、魚料理は十分楽しむことが出来た。
蒸し焼きにした白身の魚に、トロリとした餡……中華餡に近いような餡がかかっている料理。
餡の中には細切りにされた根菜の類が多数入っており、それがまた白身と一緒に食べると美味い。
(これはパンじゃなくてご飯だろ。……そう言えば、この世界に米ってあるのか? パンは普通に食べられてるけど、米は……どうなんだろうな)
日本人として出来ればご飯を食べたいと思うイオだったが、その辺がどうなっているのかは、調べてみないとなんとも言えない。
(日本人として……日本人として? まぁ、取り合えず日本人という認識でいいよな?)
水晶によって精神を強化され、流星魔法の才能を引き出され、さらにはどういう理由か分からないものの、髪の毛が青く染まってしまっている。
そんな今の自分を日本人と呼んでもいいのかどうか、正直なところ微妙だったのだが、イオは半ば無理矢理自分は日本人だろうと考える。
(俺がこの世界にやって来て何をするという理由もなかったんだから、もしかしたら米を探すといいうのを目的にするのもありか?)
料理の美味さにそんなことを考えてしまうイオだったが、すぐにその首を横に振る。
そんな簡単に自分の目的を決めるのはよくないだろう、と。
ただし、自分がこの世界において活動する理由の一つということにしておくのは、悪い話ではないように思えた。
そんな料理の美味さに意識を向け、今この瞬間、イオの頭の中からはウルフィの存在がすっかり消え、そんなイオの様子を見たウルフィは何気なく尋ねる。
「それで、ゴブリンの軍勢を倒したあの流星……イオはあれについても知ってるんだよね?」
「はい、そうですね。まさか流星魔法を使ったら杖が壊れるとは思って……なかっ……た……っ!?」
喋っている途中で、イオは自分が何を言ってるのか理解したのだろう。
その言葉を止め、恐る恐るといった様子でテーブルの上の料理から向かいに座っているウルフィに視線を向ける。
そのウルフィは、驚きの視線をイオに向けていた。
ウルフィにしてみれば、イオから何らかの情報を引き出せればいいと思って、かまをかけたにすぎなない。
そんな中でイオの口から出たのは、ウルフィにとっても予想外の言葉だった。
「イオ……まさか、君が……?」
「っ!?」
ウルフィに自分のことを知られた。
そう判断したイオは、これ以上ここにいるのは不味いと半ば反射的に判断し、その場から走り出す。
幸いことに……あるいはウルフィも事情を完全に飲み込めなかったのか、酒場から、そしてギルドから逃げ出したイオを追ってくる様子はなかった。
純粋な身体能力という点では決して優れている訳でもないイオだけに、もしウルフィが本気で追ってきていればあっさりと捕まっただろう。
ギルドにいた者たちは、そんなイオの様子を少しだけ不思議そうに、もしくは面白そうに見送ると、特に気にした様子もなくゴブリンの軍勢の情報集めに戻る。
ギルドやそこに併設されている酒場から、何らかの理由で走って逃げ出すような者というのは実はそこまで珍しい話ではない。
他の傭兵や冒険者に絡まれて逃げるしかなかったり、依頼を失敗して自分の力不足を恥じて逃げ出したり、他にも多くの理由でギルドにいるのがいたたまれなくなってギルドから逃げ出すというのは、新人の傭兵や冒険者にしてみれば経験したことがある者も多い。
イオもまた、そんな新人の一人であると判断されたのだろう。
……実際、イオは傭兵や冒険者になることも一つの可能性として考えているので、そう間違っている話でもないのだが。
「しまったな。少し突っ込みすぎたか?」
イオがいなくなったテーブルの上で ウルフィは今のやり取りを思い出しながら、そう呟く。
とはいえ、ウルフィとしてはまさかこうもあっさりとイオが口を滑らせるとは思っていなかったし、それ以前にイオがゴブリンの軍勢を滅ぼした人物であるとは思わなかったのだが。
イオとどうやって接触するべきかと考え、取りあえずウルフィはテーブルの上にある料理に手を伸ばすのだった。
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