才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0075話

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 メテオによって戦場にいた多くの者が沈黙した。
 隕石が落ちてくる何らかの攻撃方法があるというのは多くの者が知っていたのだが、それでも間近で見たことがなかった以上、それを初めて間近で見た者にしてみれば、イオの放ったメテオは圧倒的な迫力だったのだ。
 それでいながら、メテオによって降らされた隕石が命中した場所から一定の距離があれば衝撃波の類がなかったことが、見ている者にこれが自然現象ではなく魔法的な効果であるということを教えていた。
 あるいは魔法ではなくマジックアイテムの効果であったのかもしれないが、それでも見ている者にしてみれば圧倒的な何かを感じるには十分だったのだろう。
 そんな中で真っ先に我に返ったのは、当然ながら黎明の覇者の傭兵たち。
 イオの使う流星魔法を知っているのが大きい。
 ソフィアを始めとして援軍としてやって来た者たちは、ゴブリンの軍勢に流星魔法を使ったのをその場で見ている。
 餓狼の牙という盗賊の討伐するためにイオと一緒に行動していた者は、それこそ目の前でベヒモスに使っているのを自分の目で見ていた。
 そんな状況であったので、この戦場で真っ先に黎明の覇者の傭兵たちが我に返るのは当然だったのだろう。

「呆然としている敵はいい的よ! 攻撃しなさい!」

 氷の魔槍を使って近くにいた暗黒のサソリの傭兵を貫きながら、ソフィアが叫ぶ。
 黎明の覇者の傭兵たちにしてみれば、団長であるソフィアの命令に従わない訳がない。
 そして……その一撃が、暗黒のサソリにとって致命的な攻撃となった。
 元々暗黒のサソリは黎明の覇者に圧倒的に押されまくっていた。
 ここまでやって来たのは黎明の覇者もそうだが、暗黒のサソリの傭兵もまた精鋭だ。
 精鋭対精鋭といった形になったものの、戦いの結果は黎明の覇者が圧倒的な優勢で事態は進む。
 次から次と暗黒のサソリの傭兵が倒されていく。
 中には死んでいないものの、それでも大きな怪我をしている者も多い。

「く……退け! 撤退だ、撤退しろ!」

 暗黒のサソリの団長であるガーランドの声が周囲に響き渡る。
 本来ならそんなガーランドの言葉を傭兵たちは聞くことはしない。
 暗黒のサソリの傭兵たちは気が短く、攻撃的な性格をしている。
 そうである以上、ガーランドのその言葉を無視して敵と戦ってもおかしくはない。
 だがそんな暗黒のサソリの傭兵にとっても、イオの使った流星魔法は度肝を抜くには十分だったのだろう。
 撤退するように叫んだガーランドの言葉に、まだ戦場に残っていた暗黒のサソリの傭兵たちは大人しくその場から撤退する。

「え?」

 そんな傭兵たちの様子を見て、ガーランドの口からそんな間の抜けた声が漏れる。
 この展開は、ガーランドにとっても驚きだったのだろう。

「ソフィア様、敵は逃げ出していますが、これからどうしますか? 追撃を……」
「いえ、この辺で止めておきましょう。敵が暗黒のサソリだけならそれでもいいけど、見た感じでは他の勢力もかなり動いているわ。そんな報告もあったでしょう?」

 ソフィアのその言葉に、追撃をするのかと聞いた傭兵は素直に頷く。
 ここで暗黒のサソリを追撃するような真似をしたら、その隙に他の勢力が動き出すのは間違いない。
 もちろん、黎明の覇者の戦力を思えば複数の勢力を同時に相手にしても問題はないのだろうが、それでもどうせなら戦う勢力は少ない方がいい。
 ましてや、暗黒のサソリは逃げ出しているのだから、ここで追撃をする必要がないと言われれば、素直に納得出来た。

「まずはイオたちと合流しましょう。これからどうするにしろ、イオの身柄を守るのが最優先よ」
「分かりました。すぐ他の者たちに命令を出します」

 そう言うと、ソフィアと話していた傭兵は他の傭兵たちに命令を出すために早速行動に移る。
 そんな部下を見送ると、ソフィアはさきほど隕石が落ちた方角……南に視線を向ける。
 ソフィアもまた、当然ながら流星魔法を間近で見たのはこれが初めてだ。
 そうである以上、今まで色々な光景を見てきたソフィアにとっても、メテオというのは完全に目を奪われるには十分な光景だった。

「分かってはいたけど、これでまたイオを欲しがる者は増えるでしょうね。もっとも、ベヒモスを流星魔法で倒した以上、遅かれ早かれこうなることは分かっていたけど」

 そもそもの計算違いは、ベヒモスなどという高ランクモンスターがいたことだろう。
 もしベヒモスなどではなく、当初の目標であった餓狼の牙がいれば、イオたちが行ったのは普通の盗賊退治で終わるはずだった。
 であれば、当然ながら流星魔法を使うといったような真似をする必要もなく、このような有象無象が集まってくるようなこともなかっただろう。

「いえ、もうこうなってしまった以上、その件について考えても仕方がないわね。今はまず、この状況をどうにかすることを考えないと。……イオをどう匿うのかという詳しい件は、今の状況をどうにかしてから考えるべきだもの」

 ソフィアの中にイオを手放すという考えは全くない。
 普通に考えれば、イオは強力な攻撃魔法……それこそ単独で一軍を倒し、戦闘で不利になっている状況からでも戦局を引っ繰り返すといったような真似も出来るという時点で、非常に有能な魔法使いだ。
 だがそれでも、イオを狙ってくる者たち全てを相手にするということを考えれば、最終的な収支はマイナスになる可能性が高い。
 それならイオを手放した方が有利になるだろう。
 元々黎明の覇者には多くの腕利きが揃っており、だからこそ傭兵団として活動する上ではイオの存在は必須ではない。
 事実、今までイオがいない状況で活動して、それでランクA傭兵団にまでなったのだから。
 しかし……その辺りの事情を理解した上でも、ソフィアにはイオを手放すつもりは一切ないのだ。

「ソフィア様、イオのいる部隊がこちらに向かって来ているとのことです! そちらに合流しますか? それとも、ここで待っていますか?」

 先程命令を出しに行った傭兵が、ソフィアに向かってそう報告してくる。
 その方向を聞き、ソフィアの口元には笑みが浮かぶ。
 この状況で自分のいる場所に合流するというのは、決して間違いではないと思ったのだ。
 むしろ正しい判断だと褒めるべきだろう。

「ギュンター、迎えに行ってくれるかしら?」

 少し離れた位置で周囲の状況を警戒していたギュンターは、ソフィアのその言葉に少し疑問を浮かべ……だが、頷く。

「分かった。そうしよう。イオのことだから、何かがあってもおかしくはないからな」

 そう言うと、近くにいた自分の部下数人を引き連れて、イオのいる方に向かう。
 ギュンターはイオとそれなりに親しい。
 だからこそ、イオが何らかのトラブルに巻き込まれやすいというのは理解出来た。
 何しろ、ドレミナで自由に動き回っていた一日だけで、幾つものトラブルに巻き込まれ……あるいは自分からそのトラブルに突っ込んでいるのだから。
 そのおかげでレックスという将来有望な傭兵を手に入れることが出来たのだから、そんなイオの行動は決して咎められるべきことではない。
 この場合問題なのは、イオが弱すぎるということだろう。
 もちろん流星魔法を使えば強いのだが、逆に言えば流星魔法を使わなければ弱い。
 山の中で多数のゴブリンを相手に生き延びたということから、全くの素人よりは随分とマシなのは事実だ。
 だが、それはあくまでも素人と比べての話で、戦いを専門にしている者と戦って勝てるとは思わない。
 ……実際には、今のイオはミニメテオという対個人用の流星魔法も使えるようになっているのだが、それも発動するまでは少し時間がかかるし、何より呪文を詠唱しているときに攻撃をされれば回避のしようがないという弱点がある。

「まぁ、そのためにレックスをつけてあるんだがな。……行くぞ」

 何人かの傭兵を引き連れ、ギュンターはイオのいる方に向かう。
 イオの使ったメテオのおかげで、暗黒のサソリの傭兵たちはもういない。
 とはいえ、その戦いに紛れ込むように他の勢力がちょっかいを出してきているというのは予想出来ていたし、報告も入っている。
 そのような他の勢力の者たちの狙いは当然のようにイオだし、あるいは隕石を落としたのがイオだと知らなくても、黎明の覇者を率いるソフィアの前に顔を出すといったことはない。
 ギュンターはそんなソフィアと戦っていたので、そのような相手と遭遇するようなことはなかったが、今こうして活動している中では、もしかしたらそんな相手と遭遇するかもしれないと考え……だが、結局そんな相手と遭遇することはないまま、視線の先にイオたちを見つける。

「これも流星魔法の効果が」

 現在がどのような状況になっているのかを理解しながら、ギュンターは乗っている馬を進める。
 ギュンターに率いられた他の傭兵たちも、視線の先に存在するイオたちを見て安堵した様子を見せていた。
 当然ながらギュンターがイオたちの姿を見つけたとなると、イオたちの方からもギュンターの姿を見つけることに成功している。
 イオたちは、最初こそ自分たちの前に現れたギュンターが敵ではないのかと警戒したものの、近付けばそこにいるのは見覚えのある者たちばかりだ。
 仲間であると知り、安堵した様子を見せる。

「ギュンターさん、ここで会ったってことは迎えに来てくれたんですか?」

 ゾブンが普段の口調とは違い、丁寧な口調でギュンターに尋ねる。
 ゾブンが黎明の覇者の精鋭であるのは間違いないが、そんなゾブンから見てもギュンターは格上の存在ということなのだろう。
 いや、ただ格上であるのならゾブンもギュンターに対してここまで丁寧な言葉遣いをしたりはしなかった筈だ。
 それでも今のような状況になったのは、ゾブンがギュンターをただ自分より格上の存在であると認識しているだけではなく、その人柄を尊敬していたからというのが大きいのだろう。

「ああ、団長からの命令でな。もっとも……さっきのメテオのおかげで、特に戦闘らしい戦闘をするようなことがないまま、ここに来ることが出来たがな」

 そう言い、ギュンターは笑みを浮かべるのだった。
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