才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0077話

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 イオはソフィアたちと共に、ベヒモスの骨のある場所に向かう。
 するとベヒモスの骨のある辺りには、すでに何人かの傭兵と思しき者たちの姿があった。
 当然ながらイオたち……正確にはソフィアたちの姿を見ると、即座にその場から逃げ出す。

「追いますか?」

 傭兵の一人がソフィアに向かって尋ねるが、ソフィアはそんな言葉に首を横に振る。

「止めておきましょう。今の状況を思えば、余計な行動はしない方がいいわ。それに……見たところ、そんなに多くの素材を奪えた様子ではないし」

 なるほど、と。
 そんなソフィアの言葉に頷いたのは、イオと共に盗賊の討伐に来た者たち……もっと具体的に言えば、ベヒモスの解体をした者たちだ。
 自分たちで解体をしたからこそ、ベヒモスの骨がどれだけ硬いのかは理解出来る。
 その骨を奪うような真似をするとなると、それこそ数人で……それも短時間でどうにかなる訳ではない。
 もちろん、中には解体の技量が高い者がいて、ベヒモスの骨をどうにか出来る者がいる可能性もあるかもしれないが、生憎と逃げた者たちの中にはそのようなことが出来る者はいなかったらしい。

「それで、これからどうするかだけど。……ギュンター、敵の動きはどんな様子?」
「暗黒のサソリは撤退した。他に騎士団もイオにちょっかいを出してきたようだが、こちらもまた撤退した様子だ。暗黒のサソリの代わりに前に出て来る者は今のところいない」
「そう。敵にとってはここで出て来てもおかしくはないと思うのだけれど……こちらにしてみれば、好都合なのは間違いないわね」

 ここでまた表立って黎明の覇者に攻撃を仕掛けてくる相手がいれば、それは非常に厄介なのは間違いない。
 そうなれば、また表立った攻撃はその勢力に任せて裏で動こうとする者がいるだろう。
 そうならないためには、やはりそのような相手が出てこないのが最善なのは間違いのない事実だった。

「ですが、ソフィア様。この周辺に集まってきた勢力の中には、誰が次に俺たちに攻撃をしかけるのかを決めるために相談している……という可能性はありませんか?」

 ゾブンのその言葉に、ソフィアは少し考えてから口を開く。

「その可能性がないと言えば嘘になると思うわ。けど、そんな簡単に話が纏まると思う?」
「それは……」

 ゾブンは改めてここにいる面々と、そして何よりもイオに視線を向ける。
 表立って黎明の覇者と戦うとなると、当然ながら被害は大きくなる。
 実際、暗黒のサソリが受けた被害を知れば、多くの者が黎明の覇者と戦うのは拒否するだろう。
 暗黒のサソリの傭兵は半分近くが殺されているし、腕や足を失うといった怪我をした者も多い。
 無傷の者となると、それは一体どれくらいいるのか……あるいは一人か二人程度といった可能性も高いだろう。
 それに比べて、黎明の覇者側に死者はいない。
 怪我をした者はそれなりにいるが、そのような者たちの中にも腕や足を失うといった者はいない。
 重傷であっても、斬り傷や骨折といった程度だろう。
 防御はともかくとして、攻撃を得意としている暗黒のサソリと戦ってもその程度の怪我でしかなかったのだ。
 ましてや、黎明の覇者は精鋭だったが、暗黒のサソリ側もまた当然のように精鋭だった。
 その辺の状況を考えれば、黎明の覇者と正面から戦いたいと思う者はいない。
 何よりも大きいのは、正面から黎明の覇者と戦った者たちは被害を受けるものの、イオやベヒモスの素材を奪うといった真似は出来ないことだろう。
 完全に使い捨てとして使われるのは、誰であっても避けたい。

「とはいえ、この周辺に集まった中で一番弱い者……勢力的や戦力的にも弱い相手に他の勢力が手を組んで私たちの相手を押し付けるといった可能性があるのは否定出来ないけどね」

 ソフィアの口から出た言葉に、何か心当たりのある者もいるのだろう。頷いている者も少なくない。

「敵がどんな風に動くのかは、今のところ分からないわ。けど、私たちを相手にして何らかの手を打ってくるとなれば、それは何か勝ち目があると判断したからになるはずよ。さっきの言葉と少し矛盾があるようだけど」

 誰であっても、勝ち目がないのに相手に攻撃をするような真似はしない。
 ましてや、攻撃をする相手は黎明の覇者という、明らかにこの場にいる中では最大の勢力なのだ。
 そして最大の勢力であるだけではなく、流星魔法を使うイオを手元に置いている。
 なお、イオの手にはすでに新しい杖が握られていた。
 ソフィアたちと一緒に行動をしていた馬車の中から、予備として持ってきてもらった杖を手にしたのだ。
 おかげで、再び何かあったら流星魔法を使えるようになった。
 ……流星魔法の威力を考えると、そう簡単に使う機会はない方がいいのだが。
 しかし、何かあったときには即座に流星魔法を使えるようにしておいた方がいいのも事実。
 実際に今の状況を思えば、攻撃の手段はあればあっただけいいのだから。
 ましてや、その攻撃が一軍ですら消滅させるような威力を持つ流星魔法ともなれば、尚更だろう。
 普通なら、そんな攻撃方法を持っている相手と正面から戦いたいといったようにはまず思わない。
 ……それでも普通ではない状況になるのが、今のイオたちなのだが。

「それにしても……こうして改めて近くで見ると、かなり立派な骨ね。この骨が一体どんな素材になるのかはちょっと分からないけど。いっそこれだけ立派な骨なら骨格標本にも……いえ、上半身しかないんだから、無理ね」
「団長、今はそういうことを考えている場味じゃないと思うんだが」

 ソフィアの口から出て来た言葉に、ギュンターは呆れたように言う。
 ソフィアに心酔している者が大半の傭兵たちだったが、今の状況に限ってはギュンターの意見に賛成する者が多かったのは間違いない。
 いつ敵が姿を現すか分からないのだから、骨の立派さに目を奪われるよりも、今はまずするべきことがあるだろうと。
 ……そもそも、今のベヒモスの骨を見て骨格標本という言葉が出て来ることが、多くの者にしてみれば疑問だったのだが。

「あら、そうね。少し急ぎすぎたかしら。……とにかく、こうして一番目立つベヒモスの骨の前に私たちがいて、素材が積み込まれた馬車も近くまで持ってきた。戦力が集まった以上……さて、この周辺にいる戦力は一体どういう手段に出るのかしらね」

 笑みを浮かべながらそう告げるソフィアは、非常に魅力的だった。
 その場にいる多くの者が……それこそ男女問わずに目を奪われているのを見れば、それは明らかだろう。
 とはいえ、ここは戦場だ。
 正確にはイオの流星魔法のおかげで一時的に混乱した状態になっているので、少し前までは戦場だったというのが正しいのかもしれないが。
 そんな戦場だけに、ここにいる者の多くはソフィアの美貌に見惚れたいた状態からすぐに復活する。
 しかし、ソフィアとの付き合いの短いイオとレックスの二人だけは我に返るのが遅くなる。
 それでも近くにいた傭兵達に軽く叩かれ、我に返ったが。

「とにかく、今のこの状況は向こうにとっても予想外のはず。……とはいえ、あまり時間に余裕がないのはこちらも同じだけど」

 このままここにいれば、敵が身動き出来ないのは間違いない。
 だが同時に、イオたちもこのままの状況ではろくに身動きが出来ないのは間違いないのだ。
 ある程度の食料は持ってきているものの、だからといってその食料もいつまでも保つ訳ではない。
 下手に時間が経過すれば、やがてドレミナに残してきた戦力もこちらにやって来るのは間違いないだろう。
 だが同時に、それは黎明の覇者の戦力だけではなく、この周辺にいる他の勢力にも援軍が来るということを意味していた。
 それだけではなく、今はまだここにいない全く別の勢力が姿を現すといった可能性も否定は出来ない。
 であれば、やはりここで無駄に時間を使うというのは自殺行為に等しいということを意味していた。

「いっそ、私が単独……もしくは何人か引き連れて、他の勢力を潰してくるのもいいかもしれないわね」
「ちょっと待って下さい!」

 ソフィアの口から出たその言葉に、話を聞いていた傭兵の一人が即座にそう声をかける。
 今の状況でソフィアが出るような真似をすれば、間違いなく多くの勝利を得られるだろう。
 しかし、当然ながらそのようなことをすれば多くの者がソフィアを狙うだろう。
 黎明の覇者を率いるのがソフィアだというのに、そのソフィアが単独、あるいは少数で攻撃をしてくるのだ。
 もしソフィアを倒すことが出来れば。
 そんなことを考える者は多いのだから当然だろう。
 ……あるいは、ソフィアと戦っていれば、そこには隕石が降ってこないという期待があってのことでもあるのだろう。
 イオもそちらには当然ながらその場所に流星魔法を使う訳にはいかないので、そういう意味ではソフィアを狙うというのは流星魔法を避けるという意味では間違っていない。

「あら、言っておくけどいつまでも敵と戦おうなどとは思っていないわよ。今だからこそ、そういう風に言ってるの。今ならイオの流星魔法のおかげで敵は動きが鈍いわ。その隙を突くという意味では、決して間違っていないはずよ。……違う?」
「それは……」

 流星魔法の威力によって多くの者が動揺しているのは間違っていない以上、ソフィアに対して反論は出来ない。
 それは間違いのない事実だったが、しかし黎明の覇者を率いる人物に万が一のことがあるのは困るのも事実。
 今の状況を考え……その中で最善を考えた場合、出来ることが多くないのも間違いはない。
 そんな中、ギュンターが口を開く。

「俺が団長の代わりに出よう。精鋭を数人連れていけば、問題はないはずだ」

 ギュンターの言葉に、多くの者が歓迎の様子を見せる。
 ギュンターは黎明の覇者の中でも最高峰の腕利きの一人であるのは間違いないし、そのような人物ならソフィアほどではないにしろ、この辺にいる勢力に対して圧倒的なまでの力を発揮するのは、間違いのない事実だったからだ。
 ソフィアはギュンターの言葉に何かを言おうとしたものの、ギュンターの顔を見ればそれ以上は何も言えなくなるのだった。
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