才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
133 / 178
異世界へ

0133話

しおりを挟む
「ここで待っていて欲しい」

 グラストがそう言ったのは、領主の館にある客室。
 それも複数あるだろう客室の中でも最上級と思しき客室だった。
 そんな客室の中で、イオはソフィアたちと共にソファに座ると周囲の様子を見る。
 何かあったらすぐに対処出来るようにという思いからの行動だったのだが、ソフィアや他にも黎明の覇者の傭兵が一緒にいる以上、もしここで待ち伏せをされている……ということがあれば、それこそイオよりも先に気が付くだろう。
 本来なら領主の館に入るときは武器を預けるのが普通だろう。
 しかし、イオたちの立場は今回ドレミナ側よりも強い。
 また、グラストもイオたちを害するつもりはないということで、全員が武器を手にしたままここにいる。
 ……イオが手にしている杖は、当然のようにゴブリンの軍勢から入手した杖だ。
 今までの経験から考えると、ミニメテオは普通に使えるものの、メテオを使った場合はほぼ間違いなく壊れるだろう。
 もっともここで使うようなことになった場合、領主の館だけではなく自分もまた隕石が落下した衝撃に巻き込まれるだろうが。

「いい部屋ね。随分と私たちに気を遣ってるみたいだけど……これはグラストの判断かしら? それとも、ドレミナの上層部の判断?」
「もちろん、上層部の判断に決まっている」

 そう言うグラストだったが、一瞬動揺したのがソフィアには分かった。
 この客室を用意されたことや、他にも自分を迎えたのはグラストだけだったことを考えると、恐らくグラストは嘘を吐いているのだろうと予想するのは難しい話ではない。
 とはいえ、だからといってここで本当にどうなったのかといったようなことを聞くつもりもソフィアにはなかったが。
 グラストが自分たちと交渉をした件について、上層部の方で納得してないというのも理解は出来るのだ。

「それで、具体的にはいつくらいになったら私たちはグラストの上司と面会出来るのかしら? それとも、ダーロット殿が来るまでここで待ってるとか?」

 自分に言い寄ってくるダーロットのことは決して好んでいないソフィアだが、それでもまさかグラストの前でダーロットの名前を呼び捨てには出来ない。
 本心では呼び捨てどころか、もっと酷い呼び名を口にしたいと考えているのだが。
 しかし、ソフィアがその思いを表情に出すような真似はしない。
 ソフィアも黎明の覇者という傭兵団を率いる人物だ。
 何よりその美貌で今まで多くの者たちからちょっかいを出されてきたこともある。
 だからこそ、今のこの状況で自分の素直な感情を表に出すような真似はせず、数匹の猫を被って取り澄ましたように尋ねることが出来た。

「いや、ダーロット様はともかく、私の上司の件はそう時間はかからない。恐らくもうすぐ……」

 そうグラストが口にしたとき、タイミングよく扉がノックされる音が部屋の中に響く。

「どうやら来たようだな。少し待っていてくれ。話を聞いてくる」

 グラストはソフィア達にその場で待つように告げると、扉を開く。
 そこにいたのは、同僚の騎士の一人。
 扉でソフィアたちにはその騎士の顔は見えなかったが、もし見えていればその騎士の顔に見覚えがあっただろう。
 グラストと共に和平交渉に来た騎士の一人だったのだから。
 和平交渉に行って、その結果としてマジックバッグを渡すことになってしまったことで、上司からはグラストと一纏めにして邪魔者的な扱いになっているのだろう。
 そんな騎士と少し話すと、グラストはすぐ部屋の中に戻ってくる

「どうやら準備が出来たらしい。これからすぐ面会に向かうことになるが、構わないか?」
「ええ、問題ないわよ。私の方も面会が終われば色々とやることがあるから、こういうのは早く終わった助かるし」
「分かった。なら行こう」

 そう言い、グラストはソフィアたちを目的の場所に案内するのだった。





「ようこそ、黎明の覇者の団長ソフィア殿。今回は色々と誤解が重なってお互いに不幸なことになったが、その誤解は今回の件で解けたようなので、嬉しく思うよ。私は騎士団長のサーゼス。こっちは副騎士団長のドルトンとガスタークだ」

 そう言ってきたのは、見るからに鍛えられた身体をしている男。
 その横にはこちらも同様に二人の男たちの姿があった。
 騎士団長……サーゼスの言葉に合わせて、副騎士団長のドルトンとガスタークが頭を下げる。

「あら? ……いえ、当然かしら。もう知ってるようだけど、私は黎明の覇者を率いるソフィアよ。こっちはイオ。他は……護衛だから、気にしないでちょうだい」

 部屋の中にいた三人を見て、ソフィアは少しだけ驚きつつも自己紹介をする。
 ……だが、むしろソフィアよりも驚いていたのはグラストの方だった。
 本来なら、ここには騎士団長や副騎士団長たちだけではなく、役人もいるということになっていたのだ。
 だというのに、この部屋の中にいるのは三人だけ。
 一体何がどうなってこうなったのかと疑問に思ってもおかしくはないだろう。
 ソフィアも当然グラストの様子に気が付いてはいたが、それを表情には出さない。
 副騎士団長の一人、ドルトンがグラストに視線を向けて、それによって具体的に何がどうなってこうなったのか……視線だけでそれを示す。
 ドルトンのそんな視線に、グラストも少しだけ落ち着いた様子を見せる。
 そして何故このようなことになったのか……その意味を理解した。

(逃げやがったな)

 表情には出さないようにしながら、忌々しげな様子でグラストが内心で呟く。
 そう、ここに役人たちがいない理由は、ソフィアたちと会うのも嫌だといったような思いから、逃げ出したのだとドルトンの視線で理解したのだ。

「それで、貴方たからマジックバッグを貰えばいいのかしら?」
「いや、マジックバッグにかんしては、ダーロット様が直接持ってくる。……そちらが要求した一つだけなら騎士団の所有する物を引き渡せばそれで問題はないが、もう一つはダーロット様が個人で持ってる物だからな」

 騎士団用のマジックバッグだけなら、サーゼスが言うように騎士団が持っているマジックバッグを渡せばいい。
 しかしソフィアたちが欲したのは、あくまでもダーロットが個人的に入手したマジックバッグだった。
 騎士団が使うのではなく、あくまでもダーロットが個人で使うために入手したマジックバッグだからこそ、コスト度外視……とまではいかないが、コストについてはそこまで考えるようなこともなく入手することが出来たのだろう。
 ……もっとも、そうして苦労して入手したマジックバッグをソフィアたちに引き渡すことになるとは、ダーロットも思ってもいなかっただろうが。

「そうなの? なら、この席は何のために用意されたのかしら? マジックバッグを引き渡すまでは、私たちを待たせておいた方がよかったんじゃない? それとも……ダーロット殿の前では何か話にくいようなことでもあるのかしら」
「少し違うな。マジックバッグについての話をするというのもあったが、それとは別に話しておきたいことがあった」
「それは、何かしら?」

 そう尋ねるソフィアだったが、その先の言葉は大体予想出来た。
 具体的にどういう内容なのかまでは分からない。
 だが、街中にる兵士たちの様子や傭兵団を率いる自分にこうしてマジックバッグの件とは別で話を持ちかけてくるのだ。
 その辺りについて想像するのは、そう難しい話ではない。

「うむ。グラストから聞いていると思うが、街中で黎明の覇者を襲ったのはダーロット様の命令ではない。つまり、その命令を出した者がいる。……ダーロット様ではない貴族と繋がっている者がな」
「つまり、その貴族と戦争になるから、私たち黎明の覇者を雇いたいと?」

 単刀直入に、話の要点を口にするソフィア。
 そんなソフィアの様子に少しだけ驚いた様子を見せるサーゼスだったが、すぐに頷く。
 サーゼスとしても、話が進むのは早い方がいい。
 ここでソフィアがこうして直接的に言ってくるのなら、それに乗った方がいいと思ったのだろう。

「そうなる。黎明の覇者は単純に戦力としても非常に頼りになるし、傭兵としては義理堅いと聞いている」

 傭兵の中には、それこそ雇われている方が危なくなった場合はすぐその場から逃げ出すといった者もいる。
 そんな中で、黎明の覇者は……というか、ランクの高い傭兵団はそのような真似はしない。
 そもそも戦闘中に逃げたり、あるいは裏切って敵に味方をしたりといったようなことをする者は、ギルドの方でランクが上げて貰えない。
 そのような義理堅さもまた、傭兵として活動していく上で必須のものなのだ。

「評価してくれて嬉しいわ。けど……もしかして、その戦いの報酬としてマジックバッグを渡すなんてことは言わないわよね?」

 笑みを浮かべつつ、その視線だけは鋭くソフィアが言う。
 ソフィアの視線の鋭さは、騎士団長として多くの経験をしてきたサーゼスにとっても息を呑むほどだった。
 副騎士団長の二人もまた、騎士団長以上にその視線の鋭さに驚く。
 もっとも、驚いた理由のいくつかはソフィアの視線の鋭さもそうだが、当初役人が考えていた考えを見抜いたからというのもある。
 ソフィアにしてみれば、黎明の覇者として今まで多くの依頼を受けて戦場を駆けてきた。
 その中にはいざ報酬を支払うといったときに、それを勿体なく思って色々と企んだ者も少なくない。
 単純に黎明の覇者を殺してしまえばいいと、自分の持つ戦力でどうにかしようとした者。
 パーティに誘い、酒や料理の中に毒を入れて殺そうとした者。
 黎明の覇者に恨みを持っている相手に情報を流し、その者たちに殺させようとした者。
 それ以外にも多数の企みを回避し、あるいは食い破ってきたのがソフィアだ。
 ドレミナの役人が考えるようなことを予想するのは難しい話ではなかった。
 そうしたソフィアの言葉を聞いたグラストは、安堵する。
 もし役人の思い通りになっていたら、間違いなく不味いことになっていたと。
 そう理解したからだ。

「もちろん、そのようなことは考えていない。マジックバッグは今日支払う。グルタス伯爵の一件は、別に報酬を支払うことになるだろう」

 サーゼスのその言葉に、ソフィアは視線の力を緩めるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

処理中です...