才能は流星魔法

神無月 紅

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グルタス伯爵との戦い

0140話

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「あら、その様子だとマジックバッグの受け取りは問題なく終わったようね」

 ベヒモスの骨のある野営地まで戻ってきたイオたちを、ローザはそう言って迎えた。
 遅いとも早いとも言われないその様子は、特に問題なく野営地まで戻ってきたということを意味していた。
 ソフィアを含め、全員が安堵する。
 実際にはドレミナから出て野営をする際に少し無理をして普段よりも早く出発したことによって時間の調整が出来たのだが。
 当然だがその件については実際にそれを行った者たちだけの秘密となっている。

「それにしても、随分と眠そうだけど……今朝は早かったの?」

 何気なく呟かれたローザの言葉に、皆が一瞬動きを止める。
 しかしそんな中で真っ先に動いたのは、当然のようにソフィア。

「あら、そう? まぁ、昨夜はマジックバッグを貰った件でちょっと興奮していたし、それで眠るのが少し遅くなったからかもしれないわね」

 咄嗟に出た言葉だったが、実際にそれが嘘という訳ではない。
 ドレミナの騎士団に狙われたのは不運としか言いようがなかったものの、それでもマジックバッグを入手できたというのは、非常に大きな意味を持つ。
 たとえ、そのマジックバッグのうちの一つがイオの物となり、黎明の覇者が所有するマジックバッグは一個だけだったとしても。
 ……そう、普通ならそのように思ってもおかしくはないのだ。あくまでも普通なら、だが。
 ソフィアの言葉にローザの視線が少しだけ鋭くなる。
 しかし、ローザがここで何かを言うよりも前にソフィアが再び口を開く。

「それよりも、仕事よ」
「……仕事? 戦争でもあるの?」
「ええ。マジックバッグを入手する原因となった、騎士団の襲撃。あれはグルタス伯爵という人物と繋がっている者が起こした一件だったらしいわよ。それでグルタス伯爵と戦争になるから、私たちを雇いたいそうよ」
「あら」

 戦争が起きる……つまり自分たちのしごとがあるということに、ローザは笑みを浮かべる。
 ソフィアたちが何かを隠しているというのを忘れた訳ではないのだが、今の様子からすると道草をしたといったようなことだろうと、取りあえず忘れておくことにする。

「詳しい話を聞かせてちょうだい」
「ええ。こちらも私がいなかった間に何があったのか聞く必要があるし」

 そう言い、二人は少し離れたテントに向かう。
 これから話す内容はそう簡単に他人に聞かせてもいいような話ではない。
 イオたちはマジックバッグの受け取りで一緒にいたので話の内容は知っているが、それもそう簡単に他人に話していいようなものではなかった。

「じゃあ……俺たちはどうします?」

 この場に残された者の中で一番偉い人物……ソフィアの護衛の女にそう尋ねると、少し考えて辛口を開く。

「今は特に何か急いでやることもないし、休憩していてもいいわよ。ただ……レックスは残ってちょうだい。馬の世話をして貰うから」

 イオは休んでいてもいいのに、レックスは馬の世話をする。
 この違いは、レックスが黎明の覇者に所属する傭兵であるのに対し、イオはまだ黎明の覇者の客人という立場からのものだ。
 もしイオが正式に黎明の覇者の傭兵であれば、レックスと一緒に馬の世話を任されていただろう。
 あるいはここがどこか危険な場所であれば、レックスをイオの護衛として残したかもしれないが。
 ただ、ここは命の危険という意味では特に危ない場所ではない。
 だからといって、危険がないかと言えばそういう訳でもなかった。

「イオさん、少しよろしいでしょうか? 隕石の件についてお話をしたいのですが……」

 レックスが馬の世話をするためにその場に残り、イオはこれからどうしようかと野営地を適当に歩いていると、不意にそんな風に声をかけられる。
 声をかけてきたのは、四十代ほどの恰幅のいい男。
 人好きのする笑みを浮かべているその男の顔は、イオも見覚えがあった。
 ベヒモスの素材にかんしてローザと交渉をしていた商人の一人。
 ローザとの交渉がどうなったのかはイオにも分からなかったが、こうして自分に声をかけてくるということは、交渉が成功してさらに利益を追求するために流星魔法を使う自分に声をかけてきたのか、あるいはローザとの交渉が失敗したからそれを挽回するために声をかけてきたのか。
 どちらの理由……あるいはそれ以外の理由で声をかけてきたのかは分からないものの、取りあえず今はやることがないイオとしては話を聞くことにする。
 この野営地で自分にみょうなちょっかいをかけてくるとは思えなかったというのも、ここでこうしてイオが話を聞くつもりになった理由の一つだったが。

「いいですよ。ただ、隕石を譲るのはそう簡単には出来ませんけど」

 実際にはイオが流星魔法を使えば、それこそ一日に十個程度の隕石は余裕で確保出来る。
 しかし需要と供給のバランスが崩れると、隕石は安く買い叩かれてしまいかねない。
 実際には、珍しい物を集めている相手にならともかく、鍛冶師や学者といった者たちに対してはそれなりに売れ続けるだろうと予想していたが。

「そうですね。この前の交渉を見せて貰いましたが、そのときのやり取りを見ていた限りではそのような感じでした」
「……少し意外ですね」
「そうですか? 事実を認めて交渉するのは、当然のことですから。もちろん、イオさんが安く隕石を売ってくれるのなら、それは大歓迎ですが」

 そう言って笑みを浮かべる男。
 商人としては、当然だが隕石を買うにも出来るだけ安く購入したいと考えているのだろう。
 イオにしてみれば、その隕石を誰に売るのか少し気になるところだが。

「申し訳ないですけど、今はそういうことをする予定はないので。そう時間が経たないうちに、ここを出発する必要がありますし」
「おや、そうですか。それは残念ですな。では、また機会がありましたら隕石を売ってもらえることを期待していますよ」

 そう言い、商人はイオの前から立ち去る。
 予想以上にあっさりと立ち去ったその様子は、イオにとって少し驚きだった。
 商人というだけに、もっとこの場で交渉を粘るものかと思っていたのだ。
 しかし、実際にはそのようなことをせず、あっさりとイオの前から立ち去っている。
 イオにしてみれば、まさに予想外だった。

(隕石か。売ろうと思えば売れるんだけどな)

 そう遠くないうちにここを出るという話をしたが、実際にはドレミナからベヒモスの骨を守る兵士たちがやって来るまで待つ必要がある。
 具体的にいつ到着するのかは分からないが、それでも今すぐという訳ではない。
 そして流星魔法を使うのは、それこそ数分程度。
 それこそイオが本気になれば、今ここでミニメテオを使い、隕石を降らせるような真似も出来る。
 商人もイオが流星魔法を使う光景は交渉のときに見ているはずなので、それを知ってるはずだった。
 それでも無理強いをしてこないのは、イオとの関係を良好なものにしておきたいからだろう。
 ここでイオに無理強いをするような真似をすればイオから嫌な相手として認識される。
 そしてここが黎明の覇者の野営地である以上、そんな光景を見られれば……それこそ野営地を追い出されるといった結果になりかねない。
 最悪の場合は、イオの使うミニメテオの標的とされるか。
 ミニメテオは威力という点ではメテオに大きく劣るものの、それでも降っている隕石の速度は同等で、しかも人を殺すには十分な威力がある。
 そのような魔法を使いこなすイオに敵意を持たれるのは、商人としても絶対に遠慮したいだろう。

「取りあえず面倒がなかったと思えばいいか」

 呟き、再び野営地を歩き回る。
 遠くにベヒモスの骨があるのが見えるが、その周囲には護衛をするために何人もが立っている。
 流星魔法を使うイオを――当初はマジックアイテムか何かと勘違いしていたのだが――入手しようと、あるいはベヒモスの素材を手に入れようとした者たちの中でも、黎明の覇者の実力や流星魔法の効果を間近で見て自分たちに勝ち目はないと判断して降伏してきた者たちだ。
 そのような者たちだけに、団長のソフィアたちがいなかったととはいえ、他に大勢の傭兵たちがいる以上は不真面目な真似は出来なかった。
 もしそのような真似をした場合、それこそ必要ないと斬られる――比喩的な意味ではなく物理的に――可能性もあるのだから。
 また、ここで真面目に仕事をしておけばベヒモスの素材を多少なりとも分けて貰えるということになっているのも大きいだろう。
 事実、山を越えて野営地にやって来ている商人、研究者、傭兵といった者たちの中にはベヒモスの骨を削ってでも入手しようとし、それが見つかって野営地から追い出された者も何人かいるのだから。
 そのような者たちは、それこそ自分の迂闊な行動を後悔していることだろう。

「あ、イオか。一人でどうしたんだ?」

 そう声をかけてきたのは、黎明の覇者の傭兵の一人。
 盗賊討伐でイオと一緒にベヒモスに挑んだ……一種の戦友と呼ぶべき相手だった。

「ちょっとやることがなくて。暇潰しもかねて周辺を見て回ってます」
「この周辺だと、特に遊ぶとか、そういう場所もないしな。けど、イオはドレミナに行ってたんだ。そのときは何か面白いものはなかったのか?」
「面白いものですか? ……あったような、なかったような……正直、微妙なところです」

 ソフィアたちと服を売ってる店に行ったのは、面白いものだったのかどうか。
 イオにとってはそんなに面白いとは思わなかったが、人によっては違うだろう。
 もちろん、ソフィアのような絶世の美人と一緒にそういう店にいったのはいい経験であったのは間違いないのだろうが。
 とはいえ、黎明の覇者に所属している者達の多くはソフィアに心酔しているために、もしソフィアと一緒に服屋に行ったというのが知られると面倒なことになりそうなのは事実。
 別にイオとソフィアの二人だけ服屋にいった訳ではないのだが、それでも嫉妬されるのは嫌なので、イオは取りあえずその辺については黙っているのだった。
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