才能は流星魔法

神無月 紅

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グルタス伯爵との戦い

0163話

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「見えたわ」

 森の中を進むイオたちだったが、先頭の女がそう言ったのは最初の罠を解除してから二十分ほどが経過してからだった。
 イオにとっては予想外なことに……そして女にとっては特に意外ではなかったが、最初に見つけた茂みの罠以降は特に罠はなかった。
 イオやレックスは他にも何らかの罠があるのかと思っていたのだが、そのような罠は結局見つけることが出来なかったのだ。
 必死になって探していたのだが、そこには結局罠の類がなかったのは、イオやレックスたちにとって、幸運だったのか不幸だったのか。
 もっとも、利便性を考えればそれも当然なのかもしれなかったが。
 何しろ、罠というのは敵味方を識別して発動したりはしない。
 魔法を使った罠だったり、マジックアイテムを使った罠であれば、もしかしたら違ったのかもしれないが。
 しかし、森にあった罠はそのような高度な罠ではなく、一般的な罠だ。
 そうである以上、盗賊や兵士たちがどこかに行くとき、多数の罠があれば毎回それを解除して、罠を設置し直す必要がある。
 本当に緊張した状態……敵がすぐ側にいると分かっているような状態であれば、もしかしたらそういう真似をしてもいいのかもしれないが、ここは違う。
 実際には領土の境界線の近くにあるという意味では、そう違いはないのだが。
 そのような場所だけに、兵士や盗賊たちも罠を設置し直すのを面倒に思ったというのが今回の原因だろう。
 少なくても、先頭を進む女はそう考えていた。
 それでも何かあったときのために備えて周囲の様子を警戒して進んでいたのだが、結局特に新たな罠はないまま、洞窟が見えてきたのだ。

「あれが……」

 女の言葉に木々の向こうを見たイオは、そこに洞窟があるのを確認してそう呟く。
 洞窟の周囲に何人かの見張り……盗賊がいるようだったが、まだそれなりに距離があるためか、イオたちの存在に気が付いた様子はない。
 あるいは本来なら盗賊たちがイオの存在に気が付いている可能性もあったが、兵士たちに力で従わされている身としては、ここでわざわざ知らせる必要もないと考えたのかもしれない。

「盗賊たちは取りあえず向かってくる相手だけを倒すということで構いませんよね?」
「ええ、逃げるのならわざわざ追わなくてもいいわ」

 女の言葉にソフィアがそう返す。
 ソフィアにしてみれば盗賊よりも兵士を優先するのは当然のことだ。
 もしここに案内役の男がいれば、村が近いのにといった不満を抱いたかもしれない。
 もっとも、偵察に来たときにその辺りの事情についてはすでに女や他の面々が説明していたので、そこまで強く気にするようなことはなかったかもしれないが。

「いいんですか?」

 偵察隊に参加していなかったイオは、今のソフィアの言葉にそんな疑問を口にする。
 しかし、そんなイオの言葉にソフィアは頷く。

「これからこの辺りで戦闘が起きる可能性が高いのは、盗賊たちも理解しているはずよ。そうである以上、その戦いに巻き込まれるのはごめんだと判断して、兵士たちから解放されたらここから逃げ出すのは間違いないわ」
「……それだと、俺たちが行った村はともかく、他の村が盗賊たちに襲撃される可能性もあると思うんですけど」
「そうかもしれないわね。けど、今回の件で最も重要なのは、洞窟にいる兵士たちを倒すことよ」

 最初に行われた命令を破棄したり、後回しにしてまで盗賊を倒すつもりはない。
 そう告げるソフィアに、イオは若干納得出来ないものがあったが……それが傭兵であると言われれば、納得するしかないのも事実。
 元々イオも決して善人……助けられる相手は全員助けなければならないといったような性格ではない。
 たとえば自分を殺しに来た相手がそれに失敗して命乞いをしてくる……といったような真似をした場合、よほどの理由でもない限りイオがその相手を助けるといったことはないだろう。
 この世界に来るときに接触した水晶により、その辺りについては変えられている。
 だからこそ『俺が、人を殺した……?』といったようなことで悩んだりすることはない。

「分かりました。じゃあ、行きましょう」

 ソフィアの説明に完全に納得した様子もなかったイオだったが、今の自分はあくまでも黎明の覇者の客人なのだ。
 そうである以上、ここでソフィアの言葉に反対をするような真似をしても、それはただの我が儘……いや、それどころか子供の駄々でしかない。
 もし本当に全てを助けるようなことをしたいのなら、それこそ黎明の覇者の客人という立場に甘んじるのではなく、イオが自分でそのような集団を作ればいい。
 生憎とイオにはそこまでして正義の味方をするようなつもりはなかったが。

「レックス、準備はいいよな?」
「はい。イオさんは守りますから、安心して下さい」
「一応魔剣があるから、それなりに有利に戦えるとは思うけど……それでも何があるのか分からない以上、注意しておく必要がある」

 風の刃を放つ魔剣と、雷を放つ魔剣。
 双方共に強力な魔剣ではあるが、回数制限がある以上は気楽に使う訳にもいかない。
 もし何度も気楽に使って、その結果必要なときにはもう魔剣を使えなくなっている……といったようなことになったら、イオにとっては洒落にならない。

(出来るなら、魔剣を使わないで流星魔法で何とかしたいところだけど……それはそれで難しいだろうな)

 イオは自分が戦いについて素人に近い実力だと知っている。
 相手が戦いについて全く何も知らない一般人なら、杖を使った近接戦闘でどうにか出来るだろう。
 しかし、きちんと鍛えられた兵士……それも盗賊を力で従えるだけの強さを持った者たちだ。
 正面から戦うどころか、相手の強さによっては魔剣を使っても倒せるかどうか分からない。
 そうなると、イオの使える最高の攻撃手段は流星魔法となる。
 それも実際に発動するまで結構な時間が必要となり、着弾した周囲にも大きな被害を与えるようなメテオではなく、あくまで対人用のミニメテオ。
 しかし、ミニメテオもまた流星魔法の一種である以上、天から隕石が振ってくるというのは間違いない。
 そうなると、当然だが洞窟の中で使う訳にはいかない。
 もし洞窟の中でミニメテオを使えば、洞窟を破壊してしまうのだから。
 そうなれば、兵士だけではなくイオもまた洞窟の破壊によって死んでしまいかねなかった。

「安心しなさい。別にイオたちだけで戦わせるといったことをするつもりはないから。イオとレックスが危険になったら私や他の傭兵たちも出るわ。ただ、それは本当にイオたちが危なくなったらの話よ」

 本当にと付け加えてある辺りそれは少し危なくなった程度では手を出すような真似はしないということなのだろう。
 イオとレックスも当然のようにその言葉には気が付いており、敵を倒すのは自分達の仕事だと、そう認識していた。

「分かりました。お願いします」
「頑張ります」

 イオとレックスはそれぞれそう答え、武器を手に洞窟に向かう。
 ソフィアを始めとした他の面々も、そんなイオやレックスを追うように洞窟に向かう。
 先頭は当然のようにレックス。
 イオの護衛を任されているのだから、そのようになるのは当然の話だろう。
 ……本来なら、イオは魔法使いだ
 護衛のレックスと共に最後尾にいてもおかしくはない。
 しかし、今回は自分たちがメインで行動すると理解している以上、ここで前に出ないという選択肢は存在しない。
 そのようにして進むと、やがて洞窟の周囲にいる盗賊たちもイオやレックスたちの存在に気が付く。
 しかし、その盗賊たちが浮かべたのは戸惑い。
 本来なら、黎明の覇者が……さきほど偵察にやって来た者たちがやって来たら、すぐに逃げ出すつもりだった。
 だというのに、やって来た人数は多くなく、ましてや先頭を進んでいるのは装備こそ相応に強力そうに見えるものの、身のこなしから明らかに素人と思しき二人だ。
 実際にやって来たのはその二人だけではなく、二人の後ろには何人もの傭兵がいる。
 ただし、その中で一番目立っているのがソフィアという極上の女で、それもまた盗賊たちにとっては予想外だった。
 ソフィアの美貌に目が眩んでいる者も少なくない。
 本来であれば、先程の偵察していた者たちがやって来たらすぐに逃げようかと思っていた。
 こちらの事情をそれとなく知らせ、それでも構わずにやって来るのだから。
 そうである以上、自分たちを相手に勝てると判断してやって来るのは間違いない。
 そのような相手と戦っても、決して勝つことは出来ないだろう。
 そう判断したからこそ、撤退するつもりだったのだが……ソフィアの美貌を見れば、そんな考えが正しいのか? と思ってしまう。
 それこそ、自分たちでやって来た者たちを倒し、何とかしてソフィアを手に入れたいと。
 そんな盗賊たちの中で、一人だけ他とは違う反応をする者もいる。
 具体的には、偵察隊を真っ先に発見して洞窟の中にいる兵士たちの情報を口にした男だ。
 盗賊としては勘が鋭く……あるいは勘が鋭いからかこそ盗賊をやっているのかもしれないが、とにかく勘の鋭さが自慢の男の目からは、近付いてくる者たちは危険だという風にしか認識出来ない。
 槍や短剣、長剣、杖、盾……色々な物を手にしている者たちがいるのだが、そのような相手は全員が危険な存在であると認識出来た。
 正確には杖と盾を持っている二人はそこまで危険なようには思えなかったのだが。
 しかし、それ以外の全員は全てが凶悪な力を持っていると認識出来てしまう。
 正面から戦った場合、間違いなく自分たちが負けるだろうと、そんな確信があった。

「おい、逃げるぞ。あの連中と戦ったら駄目だ」
「……え?」

 男の言葉に、周囲にいた者たちは一体何を言ってるのかといった視線を向ける。
 当然だろう。まさかここでそのようなことを言われるとは思っていなかったのだから。

「信じろ。俺の勘は連中を危険だと言ってる」

 そこまで断言されると、男の周囲にいる者たちも真剣な表情となる。
 男の勘はこの盗賊たちが生き残るのに大きな役目を果たしてきた。
 実際、自分たちを襲ってきた兵士たちに降伏したのも、そのまま戦っていれば全滅していたという男の勘によるものだ。
 そうである以上、男の勘を疑うといった選択肢はそこにはなかった。
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