全てを奪っていた妹と、奪われていた私の末路

こことっと

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 私達姉妹は、王都から遠く離れた何も無い田舎で生まれた。

 国の豊かさを左右する河川の側にある私達の村は、隣国との争いに何時も巻き込まれ、畑は何時だって踏み荒らされる。 それでも村自体が貧しくならないのは、村の女達が貴族相手に身体を売っていたから。

 特に美しいとされた母の稼ぎは小さな村を貴族様のようにさせていた。 そんな母の子である私は色んな意味で将来を期待され、何時だって身綺麗な衣類が与えられ、豪華な食事が十分に与えられ、礼儀作法の教師だって特別につけられた。

 妹が生まれるまでは……。

 妹は赤ん坊の頃から美しかったが、村人はソレを喜びはしなかった。

「どうする……。 エリナは上の子と同じように父親を語ろうとはしないが、昨年の戦で出来た子なら下賤の子と考えるべきだろう」

「だろうな……カテリーナを産んでからのエリナは急激にその美貌が衰えたからなぁ……。 幾らこの子が綺麗な子だと言っても父親の地位は期待できないだろう」

「だが、赤ん坊ながら凄い美貌だと言う噂じゃないか」

「赤ん坊の時等、成長と共に変化するに決まっている」

「そうだ、赤子等どの子も変わらず可愛らしいものだからな」

 そんな言葉に私は苛立った。
 当時の私は、何処までも美しい赤ん坊だった妹を愛していたから。

 そう……誰にも愛されないのなら、私が可愛がって、守って上げようと思っていたのに……。 あの子は私を裏切った。

 彼女が生まれた年。
 村が戦争に巻き込まれる事は無くなった。

 だからと言って食べていけない訳ではなかったけれど、それでも今までは貴族のような日々だったのが、土にまみれた農夫の日々に変わったのだから失墜と言えるでしょう。

 戦争が無くなった理由を妹のせいにするなんて可笑しいと言われるかもしれないけれど、だってあの子は神に愛された聖女なのだから、それくらい出来ても当然でしょう? 私が娼婦の子と笑い者にされ、同じ母を持つのに妹だけがありがたい聖女様と感謝すら皿始めたのだ。

 彼女は、畑仕事で荒れる私の手を綺麗にしてくれた。

「ねえちゃ、痛いのないないねぇ~」

 その時は、なんて愛おしい私の宝物だと思った。 私はその宝物を大切にした。 何しろ母は肉体労働に向くような人ではなかったし、妹は幼過ぎた。 だから、私が土を耕し、種を植え、芋を育てていた。

 まだ子供だった私の働きだけで生きていけたのは、私の父から毎月お金が送られてきたから。 清潔な生活、満足な食事が出来た。

「カティ、メアリの母さんがケガをしたんだ。 何とか出来ないだろうか?」

「マティ、お姉ちゃんと痛いの無い無いしにいこうか?」

「ぁい!!」

 その頃の妹は、私に逆らう事は無かった。
 母は子育てをするような人ではなく、私が彼女の母兼姉だったと言えるでしょう。

 昔は可愛かったのよね。 従順で……。

 妹が聖女と認められ、神殿に仕えるようになるまでは……。 その頃には、私がどんなに治癒を頼んでも安易にその力を振るう事は無かった。

「もう、私の事はどうでもいいのね」

「違います。 この力はそれほど都合の良い力ではないんです。 少しの傷であれば自己修復力に任せた方が良いのです。 手の荒れや傷なら、神殿で作ったコチラのクリームで十分治ります。 コチラを利用下さい」

 小さな幼い甘えた言葉が、丁寧に語れれば突き放された気分になった。

 私は、妹の特別ではなくなった。

 それでも、私は妹を年相応の幼さと共に扱おうとした。 年の近い子供達を集め、遊ばせたり、歌を歌わせたり。 



 マティは私の特別だった。
 マティを愛していた。

 私が死の病に倒れ、それを癒し、聖女の力を失った時まで。



 命は助かったけれど、私の人生はそこで転落した。
 誰もが私の敵となった。

「お姉ちゃん、これからは一緒に畑を作ろうね」

 敵意を向けられる私に微笑む妹が憎たらしかった。

 お前のせいで聖女を失ったと言う視線が、どれほどつらいか妹には分かっていなかったのだろう。 どこまでも無邪気に笑う。

 妹の力は失われ、私は責められ……。
 それでも、妹は美しく育つ。



 憎い……。



【お父様、助けて下さい!!】



 村に留まる事が辛く、手紙を出した。



 父は……伯爵は、美貌を取り戻していた母を愛人に、私を庶子として伯爵邸の離れに迎え入れた。 全くの他人である妹と共に。

 庶子であっても女子なら政治的に役立てる事が出来るだろう。 そう言われ貴族の娘としての教育が与えられた。 全く関係の無い妹も共に、それでも妹は勉強は分からないと庭を耕し畑を作っていた。

 いつの間にか、妹は浮気の子とは違うのだと……父の妻子たちに気に入られた。

 本当の娘である私よりも、良い服を着て、良い物を食べる。

 人形遊びのようだと……思い込もうとする中で、それでも……。



 嫉妬した。



 そして社交会デビューへと望んだのだ。

 王都で年2回開かれるお披露目の場。
私は公子様に一目で恋をした。

 だけど私に与えられたのは……商売を成功させた伯爵家の愛人。 父の妻の……勝ち誇った顔を思い出せば腹立たしい。

 私なんて最初から、歯牙にもかけられない。
 だから、妹にお願いしたのだ。

「ねぇ、マティ。 お願いがあるの」

「なぁに、お姉ちゃん」

「子供のような言い方は止めた方が良いわ お姉さまと呼びなさい」

「えっと……お姉さま、どうなさいましたか?」

「掃除の手を止めなさい。 正妻に可愛がられている貴方はそんな事をする必要等ないでしょう。 ただ、媚びを売り、微笑めば、人形のように愛玩されるのですから」

「……」

「ごめんなさいイライラして……その、私、叶わぬ恋をしたの」

「えっと……おめでとうございます」

「何よ、全然めでたくなんて無いわ!! 馬鹿にしているの?!」

「決してそう言う訳では……。 ただ、お姉さまほどの方なら、その方の心を掴まれたと思っていました」

「貴族社会はそれほど甘くはないのよ。 だから、貴方のその無駄に綺麗な顔でアンドレアス・ゲーテル公子様を手に入れてよ」

「む、無理ですよ!!」

「何よ、私から何もかも奪い、私のオコボレで贅沢している癖に、お願いの1つも効けない訳!!」

「無理なものは無理です……私にはお姉さまのような学がありませんから」

「そんなもの必要無いわ。 綺麗なドレスに身を包んで、ただ微笑めばいいのよ」



 公爵家主催の夜会が近く、私は、妹を連れて夜会に参加した。 案の定、美しい妹は公爵の心を手に入れた。

「その姿を一目見た時から心を奪われました。 どうか、私の妻になって欲しい」

 妹には拒否権は無く、妹は妻になるには幼いが、公爵家の妻に相応しい教育を与えるためにと引き取られた。 彼女の世話役である私と共に……。

 アンドレアス様は色々と勢力的な方で、妹をお求めになられた。

「妹は、まだ幼く……何より病弱です。 公子様との関係に耐える事は出来ないでしょう」

「ならば、私に妻以外の女と不貞を働けと言うのか!!」

「では、妹の準備が出来るまで、私がお相手いたしましょう」

 そして……公子は妹ではなく、私に愛を囁くようになったのです。



 あの子は、公爵家には似合わなかった。
 公爵家の主義とは考え方が違った。
 恋をしていない妹は、公爵家のやり方に反発した。

 積み重なる損害。
 向けられる民に対する慈悲、施し。

 格差を理解できない馬鹿な妹。

 公爵家の方々はそんな事を望んでいないのに……。



 私こそが、公子様に相応しい。
 私は初めて獲得した勝利に、胸が震えた。
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