私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと

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 ミリヤム・リービヒ公爵令嬢は思う。
 なぜ、私は不幸なのでしょう。
 公爵家と言う血統に生まれながら……なぜ私は不幸なのかしら?

 父が愚かだから……そんな風には考えたくはなかった。
 母が死んだ後、母を思い再婚もしなかった父。
 その父は私を大切にしてくれたから。

 それでも私は不幸だった。



 ミリヤム・リービヒが部屋に戻ると綺麗に掃除がなされた部屋でヴァロリー・ストロープ伯爵令嬢が待ち構えていた。

「何処にいらしたのですか?」

 三日前から町に出ては夕刻まで戻ってこないヴァロリーが戻ってきていた事に驚きながらもニッコリと笑みを浮かべてみた……ですが、きっと、引きつっている……。

「部屋が汚れたから掃除してもらっていましたの」

 言いたい事は色々あるけれど……ストロープ伯爵家の者達は馬鹿との婚姻を望む者達と思えば、何故あの馬鹿がいる都市に連れて来たのよ!!と、文句を言いたいけれども言えない。

「そうですか……あら、またお太りになったのではありませんか?」

 そっと伸ばす手が頬に触れる。

「王都に戻るまでには痩せるわよ。 折角実家から離れたのだから自由にさせて頂戴」

「ソレではバルトルト殿下でなくとも、婚姻拒否されますわよ」

「あら、男性は少しふくよかな方が好きだと聞きましたわ」

 クスッと笑ったヴァロリーは、両手で胸を誇張し女性らしさを意識して見せた。

「それは部分的なものではなくて?」

「下品な人ね……」

「それでも、貴方よりは男性に求められますわ」

「私は、貴方のように誰でもいいなんて思えませんもの」

「それで、バルトルト殿下とはうまく話を勧める事ができましたの?」

 ピクッとこめかみがひくついた。

「知っていたの……」

「えぇ、私が向かうように言いましたの。 それで……ちゃんと婚姻を勧めるよう説得しましたの?」

「私は!! 彼との婚姻は望んでいないの本当止めてよ!! そんなにあの馬鹿が気になるなら、貴方が馬鹿の愛人にでもなればいいでしょう!!」

「それでもよろしいのよ。 でも、そうなれば、貴方は借金を返済できないわ。 どうやって返すつもりですの? リービヒ公爵家は分家を使ってキルシュ商会からも金を借りているのでしょう。 貴方に残されたのは殿下と結婚する事だけですのよ」

 静かにねっとりと絡みつくような声で語るヴァロリーだった。





 本当は嫌だった。
 不本意だった。
 屈辱だと思っていた。

 あの馬鹿の世話になる?
 あの馬鹿と一つ屋根の下で生活する?

 あり得ないわ!!

 そう思っていたけれど……借金を盾にヴァロリーに脅されれば拒否権は無くて、私はサーシャが言っていた通りに従業員にキルシュ家に世話になりたいのだと伝えた。

 サーシャが、私とヴァロリーを出迎える。

「よく来てくださいました。 ご都合がつくまでユックリなさってくださいね」

 礼儀よくサーシャが言えばミリヤムがボソリと呟くしか出来なかった。

「ありがとうございます。 しばらくの間、お世話になりますわ」

 上手く笑えない。

「世話になりますわ。 お互い商家同士、協力しあえる事もあると思いますの。 仲良くいたしまそう」

「我が家はしばらくの間休業する事になりましたの。 商売的に協力できるような事はございませんし、我が家の都合にストロープ伯爵家を巻き込む訳にはいきませんでしょう? 休暇を堪能された後には、ミリヤム様をこちらに任せて王都にお戻りください」

 ニッコリと微笑みヴァロリーにはり合う様子に、実績ある強さを、羨ましいと思ってしまった。 だけれど、それは羨ましいと思う気持ちの始まりでしかなかった……。

「どうぞ、コチラに御客人用の棟がございますの。 今は、他に客人もおりませんので、気を休める事が出来ると思いますわ」

 冬も近いと言うのに、庭の木々は美しく整備されていた。 屋敷は新しく重厚さはなく、室内は快適な気温が保たれていた。 どれほどの魔道具と魔石が使われているかと思えば、キルシュ商会の財力を目の当たりにするようで嫉妬を覚えた。

「とても、素敵な屋敷ね」

「必要なものがあれば侍女に申し出下さいませ」

「ありがとう」

 ヴァロリーと部屋が違うと言うだけでも感謝したいと思ったのだけど……。

「ミリヤム様とは同じ部屋にしていただけませんか? 公爵様にお世話をするよう命じられておりますの」

「心配はいりませんわ。 我が家の侍女は優秀ですから。 ですが……キルシュ家の当主家の者として、侍女に不当な対応をする事があれば、放り出させて頂きますわ」

 そうサーシャが言えば、私とヴァロリーを別の部屋に決めてしまい、私は心から安堵する事が出来た。

 一人な事にホッとした。
 侍女はいるけれど、余計な事は何も言わない。
 振り返れば、穏やかな微笑みが向けられる。

「お茶でも如何ですか? お嬢様はミリヤム様が来訪されると張り切ってお部屋の準備をされていたのですよ」

 嘘だ……私を心から迎えられるはずがない。 そう分かっていても、心地よい香りと、広がる視界、座り心地の良いソファ、それだけで心から安堵した。

 お金に苦労しないってこういう事なのね……。

 穏やかになる反面、ふつふつと嫉妬の炎がくすぶり始めた。

 それが燃え始めたのは数日後の事。



 怠惰で贅沢な日。
 珍しい魚介料理。
 海藻から作られたデザートは、ヘルシーだった。
 面倒な接待を必要しない環境。
 解放された書庫には、異国の書物もある。

 快適な日々だった。

 自然に鼻歌が零れ出る。

 遠くに庭を散歩する馬鹿とサーシャさんの姿を見てしまった。

 馬鹿は幼い頃から将来夫になるのだと言われ育ち、嫌悪しかなかった。 どうせなら他の王族の方が良いのだと泣きながら願ったのだけど、年齢が合わないとか、他の貴族と競いあうだけの余裕がないと言われた。

 視界にかすめるだけで、叫びたいほど馬鹿の事は嫌いだった。

 なのに……サーシャさんと一緒の姿を見たら、何時もと違ういら立ちを覚えてしまう。



 これは何?



 穏やかに微笑み、優しい瞳でサーシャさんを見る。
 見つめあいはにかむように笑いあう。
 愛おしそうにそっと抱き寄せ、髪に口付ける。

 好き。

 そう言っているのが見ているだけで分かった。

 踊るように二人は散歩し、抱き上げ、額を寄せ合い口づける。

 甘い、甘い、二人だけの空間。

 胸が痛い。



 私は初めて思った。

 あそこにいたのは、私だったはずなのに……。
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