モラハラ王子の真実を知った時

こことっと

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 王妃様とのお茶会を終え、温室から執務室へと向かう途中だったレーネ(16)は、夫でありこの国の王太子である男マルクルからの伝言が書かれた紙の切れ端を侍女から受け取った。

【時間を作って欲しい】

 夫からの言葉にしてはよそよそしいが、レーネは全く気にした様子なく嬉しそうに笑みを浮かべる。

「お兄様にお会いできるわ!! 今日はなんて良い日なのでしょう!!」

 ハシャギながらくるくると回ろうとするレーネを護衛騎士フェルザー・バルテンが制止した。

「レーネ様、今日は少々背伸びをした靴を履いておられるのですから、自重なさるべきでしょう」

 夫である人に女性として見て欲しい。
 早く大人になりたい。
 マルクル兄様に似合う女性になりたい。

 8歳の頃からの私の願い。

 レーネは大人になりたいと言う背伸びする心を、15センチヒールで物理的に背伸びをし表現したのだ。 レーネが何をしても褒める王妃様は、

『素敵よぉ~。 とても大人っぽいわ。 そう言うのも似合う年になったのね』

 そう嬉しそうに言うだけで、危険な足元を注意する事は無く、その負担の多くは彼女の護衛騎士フェルザーに任せられるのだった。

「ノーラ、レーネ様に歩きやすい靴を取ってきてくれ」

「わかりましたバルテン様」

「この靴で大丈夫よ。 王妃様も褒めて下さったのだから、お兄様にも是非見て頂きたいの」

「転ぶ姿を見られては恥ずかしいだけですよ」

「でも……」

 レーネは夫との関係に疑問を持った事はないけれど、それでもやっぱり良く見られたい、早く大人として見て欲しいと思い続け……そして……美しく大人っぽい靴を嬉しそうに眺める。



 マルクル王太子とレーネが結婚したのは8年前、レーネの両親が事故で死亡した年の事。 レーネの両親と国王夫婦は学生の頃から仲が良く、そして命の恩人だったことからレーネを自らの子のように愛すると誓った。 その結果……

『将来的に妻になるのだから少し早く妻にしても問題無いわ』

 と、国王夫婦はマルクル王太子(16)と、レーネ(8)との婚姻を本人達の意志に関係なく強行する事となった。

 両親を亡くしたレーネにとっては、優しくも厳しい国王夫婦の元で可愛がられたのは幸福でしかなかったが、思春期の最中であった王太子にとっては違う事に気付いていた者は少ない。



 歩きにくいヒールのままレーネは、護衛騎士フェルザーの手を借り待ち合わせの場所へと急いだ。

 そこはテラスでも、応接室でも、マルクル王太子の執務室でも私室でも何でもない、中庭に続く通路の1つでしかない場所。

「お兄様!! お待たせして申し訳ありません。 お時間があるのでしたらお母様とのお茶会にお誘いいたしましたのに!!」

 レーネは満面の笑みを浮かべたまま、夫マルクル王太子殿下の元に駆け寄ろうとしたのだけど、中庭の僅かな凹凸に躓いたレーネはバランスを崩し転倒しそうになった。 混乱し慌てる中、護衛騎士フェルザーが慌ててレーネの腰に腕をふわりと回し受け止め、ストンと慣れた様子で立たせた。

「お気を付けください、レーネ様」

「ありがとうフェルザー」

「やはりレーネ様に、その靴は早かったのではありませんか? 背伸びをする事を靴に任せると言う時点でから回っておりますよ」

「酷いわ。 フェルザー、お兄様の前でそうやって子供扱いするなんて!!」

 レーネ、フェルザー、そして僅か3歩の距離に立つマルクルを、レーネの靴を部屋に取りに行っていた侍女は見ていた。

 転倒するレーネを前に半歩後ろに下がったマルクルを。 だけれどノーラには発言をする事が出来るはずがなく……何も無かったかのように、静かに淡々とした様子で3人の元へと向かうのだった。

 護衛騎士はジッと……守るべき女性の夫……この国の王太子をジッと見つめれば、王太子はスッと視線をそらした。 

「レーネ様、靴をお持ちしました」

「でも……」

 レーネはチラチラとマルクルを見たが、マルクルはフェルザーと睨み合っておりレーネを気に掛ける様子は無く、渋々靴を履き替えた。

 王太子と睨み合う護衛騎士等本来ならあり得ないのだが、護衛騎士であるフェルザー・バルテンは王太子マルクルの従兄弟であり、次期公爵の地位でありながら直々にレーネの護衛騎士を勤めているのだ。



 靴を履き替え、トントンと小さくジャンプをしマルクルへと向かう。 まるでマルクルとフェルザーとの睨み合いが無かったかのように、レーネは笑顔で声をかけるのだ。

「それで、お兄様。 どのようなご用件かしら?」

 何かを期待する視線に、まるで気づかないかのようにマルクルは視線を背けながら言う。

「悪いが二人だけで話がしたい」

「レーネ様をおひとりにする訳にはいきません」

 睨み合うマルクルとフェルザー。
 慌てて間に入るレーネ。

「フェルザー、大丈夫だから。 と、言うか……私達は夫婦なんですよ!!」

 当たり前のことを心配される事を不服だと訴えながら、レーネはスタスタと歩き出しマルクルの横を背筋を伸ばし、少しでも背が高く、大人っぽく見えるように歩きだし……そして、そして……レーネはマルクルの腕を見ていた。

 社交界で手と手を重ねたエスコートや、その腕を組んで……微笑みあう男女を想像して……チラリとマルクルを見てしまう。

 決してオカシイ事ではないわ……。 だって、私達は夫婦だもの。

「あ、あの……」

 掠れた声は気づかれないまま、先を歩き出す。

 小川の水が流れ込む広い池の中にある小さな小島を中継するように橋がかかっている。 その中央に向かって歩くマルクル様を私は小走りに追いかけていく。

「兄様、ちょ、ちょっと待ってください!!」

 追いつけない……。
 何もかも。
 届かない。

 もう……大人なのに!!

 歩く程に距離が遠くなる。

 コンプレックスが……爆発しそう……。

 泣きそうになる寸前マルクル様はようやく振り返ってくれました。

「どうかしましたか?」

 ようやく……私のために足を止めてくれた。
 そんな事すら嬉しいのに、嬉しいのに!!

 なのに、目頭が熱くて……瞳から水が零れおちそうになっていて……、

「足の長さが違うのですから、そんなスタスタと歩かれては私は……追いつけません!!」

 ヤバイ……。

「何を、興奮しているんですか?」

「走っていたのだから仕方がないでしょう!!」

「もう少し静かに話せませんか? キャンキャンと子犬のようで耳障りです」

「ご……めんなさい……」



 沈黙



「それで、話ですが……」

「はい」

 私は大人。
 冷静で、落ち着きがあって……なんでしたっけ?

「実は、何時までも子供のように幼稚で愚かな貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話が皆からあがっています。 理解……できますよね?」

「へっ?」

 私は目の前が真っ暗になった。
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