モラハラ王子の真実を知った時

こことっと

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「わ、私は……ずっと……お兄様の妻に相応しくあるように、学んできました!! なぜ……なぜですか!! 皆さん頑張っていると、良く出来た方だと、将来は立派な王妃になるだろうと褒めて下さっております!!」

 動揺を明らかにする私に、マルクル兄様は私を見下ろし、顔を顰め不快を露わにしながらも、単調に冷ややかに告げるのです。

「貴方の甲高い声は、私にとって不快なのだと言いましたよね? あなたは、そんな事も記憶出来ないのですか?」

「そんな事より!! 今は!!」

「そう言うところが、私の妻に相応しくないと言われるのですよ」

「で!! っすから……そんな事言われたこと等ありませんわ……」

「父上、母上の寵愛を受けている貴方に、誰が真実を言う事ができますか。 貴方は彼等の言葉を真実だと思っていたのですか? だから、あなたは子供なのですよ。 成人とされる年齢なのに未だ妻としてのお披露目も出来ないのですよ。 そんな子供相手に誰が真実を語ると思いますか?」

「……」

 呆然とする私に、マルクル兄様が追い打ちをかける。

「誰も貴方に真実を語りたがりません……だから、私がこうやって嫌な役目を引き受ける事になるのです。 えぇ、私だって……嫌なのですよ?」

 マルクル兄様の声が甘く優しくなり、涙を浮かべる私の頬にマルクル兄様の両手が挟み込むように触れました。 いつもなら……いえ、最近はめっきり忙しくて滅多にお会いできませんが、少し前までなら嬉しくて甘えていたものです。

 でも、今日は……私はビクッと身を引きました。

「勘違いしては困ります。 貴方が正室に相応しくないと言ったのは、周囲の者達であって私ではないのですから」

「ぇ……では、兄様は……今までと変わらず……」

「えぇ、今までと変わらず貴方を思っておりますよ」

「そう……ですか……」

 単純かもしれませんが、私はマルクル兄様の愛情が変わらないのであればソレ以上は望むのは贅沢だと……、兄様の愛があるならソレでいいと、救われた気になりました。 ですがそれも一瞬のこと、次の瞬間には嫌な事を想像してしまったのです。

「ですが……なぜ、突然に側室にと言う意見があがったのですか? 私が側室にならなければいけない……意味が……」

 聞きたいのに、聞きたくない。

 だって、ただ私だけを側室にすると言う事は無いでしょう?

「どうかしたのですか?」

「あの……私が側室になると言うのなら……マルクル兄様の正室は……どうなるのでしょうか……」

 私は俯き、問いかける声はドンドン小さくなっていく……。

「最近、隣国との間で貿易トラブルが発生している事を知っていますか?」

「ぇ、はい。 存じております」

 隣国が日照り続きのため、この国の食料を奪おうと戦になりかけた事。 そして、ソレを避けるために、各領主達に呼びかけ食料調整を行ったのは私なのですから。 それらの取引は、決して我が国にとって優位なものではなく、あくまでも援助と言う体裁をとっていたはずです。

 ソレをマルクル兄様に告げれば

「大人には、大人の理由があるのですよ。 ソレを理解しきれないから貴方では足りないと言われるのです」

「……」

「他国の姫君を迎えるためには、体裁と言うものが大切だと言う事です。 相手は親の居ない、伯爵家の血筋を持つ貴方とは違うのですから。 それに、隣国の姫君は貴方と違い大人なのですから」

「そ……そうですね」

 私は子供のように駄々っ子のように訴えた事が急に恥ずかしく思えてきたのです。

「ごめんなさい」

「いえ、貴方なら分かってくれると信じていましたよ。 くれぐれも、今日の話は他の方々にお話しにならないように。 情を優先して隣国の姫君を蔑ろにする等あってはなりません。 ソレはこの国の国力を疑われる事に繋がるのですから。 貴方の未熟さを指摘出来ない甘さに付け込み我侭を言わないように、そして気を遣わせないように、この話は一切口にしてはいけません。 彼等も仕事なのですから。 分かりますね?」

「はい……」

 私は静かになる心で冷静に考えます。

 私の夫であるマルクル兄様は、自分の感情を抑えて最も大切な判断を下せる方なのです。 それでも彼は、伯爵家の血統である私を一度は正室に迎えてくれたのですから。

 この国の方々は……私を育て愛情を与えて下さった方々は、皆誠実で優しい方、そんな方々が側室こそが正しいと言うのなら、それが正しいのでしょう。

「マルクル兄様……」

 私は何時の間にか俯いていた。

「レーネ、もし、あなたが唯一の妻に、王妃を望んでいたのなら……すみません。 大切な存在なのにこんな事を告げなければならなくなるなんて……」

 私は愛情深い言葉に、目頭が熱くなってきました。 だけど、先ほどの絶望一色だった時とは違います。 今は……兄様と私は切ない気持ちを共有しているのですから。

「マルクル兄様」

 私は、随分と久しく話をした兄様とのこの逢瀬の時間を無駄にしたくないと、その胸元にそっと手を触れようとしました。

「ぇ?」

 なぜか……私が触れた兄様の身体は、ふわりと風に舞う羽根のように揺れ動き、私は池に落ちてしまったのです。

「きゃぁああああああ!! に、にいさま!!」

 ギリギリ顔が出る深さの池で溺れる事はないかもしれません。 ですが、今日の私は王妃様とのお茶会に張り切ったドレスを身に着けており、水を擦ったソレは鎧を着たらこんな感じなのかしら? と思うほどに重く。 なにより足元はぬるりとした感触に沈みこみ自由になりません。

「にいさま、たす、けて……」

 バタバタと水を必死にかき、私は兄様に必死に手を伸ばしていました。 兄様は私に何かを言っていますが、その声を聞きとる事はできず、そして私を助けるために、その手を伸ばしてくれる事もありませんでした。

 結局、私は遠くで私が池に落ちた事に気付いたフェルザーに助けられたのです。

 私の顔をノーラがエプロンで拭い、それでも変なにおいが口の中に広がり咳き込む私の背をノーラはさすります。

「なぜ、レーネ様を池に落とした!!」

「幾ら従兄弟と言えど言葉遣いはわきまえて下さい。 それに、貴方は護衛でありながら彼女から目を離していたのですか? あぁ、そちらの侍女と話をするのが忙しかったのですね。 可哀そうなレーネ。 上辺ばかりの愛情を語られ、ソレを信じているなんて」

「オマエは!!」

 怒りにフェルザーはマルクルの胸倉をつかもうとすれば、するりとマルクルは避けました。

「私は事実を申したまでです。 彼女は勝手に池に落ちました。 私は数日前から風邪をひいているため、溺れる事の無い深さなら貴方が助けにくるまで待とうと判断したに過ぎません。 私を責め、自分の潔白を証明しようとするより、貴方にはするべき事があるのではありませんか? このままでは私の可愛い妻が風邪をひいてしまいますよ?」

「そうです、グダグダ言っていないでレーネ様を早くお風呂に入れたいので、早く運んで下さい!!」

 ノーラにまで責められたフェルザーは、薄ら笑いを浮かべるマルクルを背にレーネを抱き上げその場を後にするのだった。
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