モラハラ王子の真実を知った時

こことっと

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 季節は秋から冬へと向かい、北風が木の葉を払う時期。
 池で水遊びをするには不適切でした。

 重く水を吸ったドレスを脱ぎ捨てれば、きっと負担になる事も無いのでしょうが、王太子の妻が男性に肌を見せると言うのは問題だと考えたのでしょうね。 だからと言ってゴテゴテと見た目重視の騎士服を脱ぎ捨て私を助けに来たフェルザーも寒そうで……。

「フェルザー、ゴメンなさい……」

「いえ、俺こそ御側を離れたばかりに、こんな目に合わせてしまって」

「マルクル兄様に時間を取っていただけて舞い上がった私のせいです……」

「それは……その通りかもしれません」

 苦笑いをされてしまった。

「ですが、レーネ様を守りお助けするのが俺の仕事ですから。 そこのオマエ!! 上着を脱げ!!」

 王宮を守る騎士を見つけたフェルザーが叫び、若い騎士の上着を強奪し私に羽織らせた。

「騎士の服など汗臭いばかりでしょうが、ご容赦下さい。 無いよりはマシでしょうから」

「それは服を貸してくれた騎士様に失礼では……あの、ありがとうございます」

 私はボンヤリとし始めた頭の中で、後日改めてお礼をしようと服を貸してくれた騎士の顔を覚えた。

 私達が濡れた身体で移動している中、ノーラは先行し私に与えられた小さな宮へと向かっていた。 宮の前では私を待つ侍女達の姿が見え、子供の用に安堵してしまう。

「貴方様がついておりながら、レーネ様をこのような目に合わせるなんて!!」

 悲鳴に近い女官と筆頭侍女の悲鳴のような声が響いた。

 タオルを持つ者。
 風呂の準備をする者。
 医者を呼びに行く者。

 人々が慌ただしく動き回っている。
 そんな音を聞きながら、私は震えながらウトウトしていた。

 あぁ……マルクルお兄様。 私は不出来な子かもしれませんが、大切にされている、愛されている、そう思わせてくれるこの方々が大好きなのです。





 大勢の方々の世話になり、身体を温めてもらいましたが、結局、私は風邪をひいてしまったのです。 なんとも不甲斐ない事です。

 その日、陛下と王妃様は時間を作り見舞いに来てくださいました。

「可哀そうにお熱が出たのね。 食事は食べられそう? 医者はなんていっておりました? あぁ……こんなに赤い顔をして大きくなってようやくツライ思いをしなくて済むほどに健康になれたというのに。 そうだ……水分と栄養はキチンと取らせるのよ。 あぁ、可哀そうにツライでしょう?」

 王妃様は、王宮に来たばかりの頃を思い出しているのでしょうか……懐かしい景色そのままに、私を案じる姿がそこにありました。

「気晴らしになるかと花を持ってきたよ。 頭痛がないなら演者も呼び心地よく眠れるよう音楽を奏でさせよう」

 国王陛下は、相変わらず過保護が過ぎます。

 私は、心の中でマルクル兄様の声を反復していました。

『貴方の未熟さを指摘出来ない甘さに付け込み我侭を言わないように、そして気を遣わせないように』

 子供のようにお二方に甘えるなんてもってのほかです!! そう思いながらも心配そうにのぞき込む王妃様と陛下を見て……私は懐かしさに身を委ねてしまうのです。

「……パパ、ママ、大好き」

「あぁ!! 私も大好きだとも!!」
「えぇ、ママはここに居ましてよ!!」

 その後、お二人を仕事に戻すのがとても大変だっと聞かされ、やはり……不用意な発言は良く無いのだと実感したのでした。



 やはりお兄様は正しいのですね。



「どうして……フェルザーは元気なの?」

「鍛え方が違いますから」

「沢山心配させてしまいましたし……私も鍛えた方が良いのかしら……」

 ベッドの周りには、大量の花束とヌイグルミ、そして何故か当たらしいドレス、テーブルには風邪に良いと言われる飲み物や食べ物が沢山置かれています。

「いえ、池に落ちなければいいだけです。 とにかく、変な病気にかからなくて良かった」

 私を守り切れなかったと言う理由から、熱で寝込んでいた間フェルザーは謹慎処分を受けていたと言う話でした。 私のせいで給料が減らされる等と言う事が無いと良いのですが……。



 マルクル兄様も忙しい中、見舞いに来てくださいました。

 丁度フェルザーは呼び出しを受けていて良かったです。 二人は顔を合わせれば喧嘩をしますから……。

「熱は下がったようですね」

「いえ……下がる時も」

「状態が落ち着いて安堵しましたよ」

「は、はい」

「全く……貴方の不用意な行動でどれほど大勢の方々が迷惑を受けたか、自分の立場を考えて不用意な行動は避けて下さいね。 私も風邪をひいていると言うのに業務を行う事が出来ない貴方の仕事まで押し付けられたのですから。 今、この瞬間にも仕事が溜まっているのですよ。 幾ら子供だと言っても自分の不用意な行動が、どれほどの人々に影響を与え迷惑をかけたか理解していますよね?」

「は……はい……ごめんなさい」

 マルクル兄様はベッドに共に眠るヌイグルミの1つを手に取り、ムニムニとしながら無知で不用意な私に注意を続けました。

「見舞いに来た者達の時間、見舞いの品。 それがどれほど負担なのか……貴方の両親が生きていたならこのような見舞いの品が集まる等と言う事は無かったはずです。 これは、貴方への見舞いの品でなく、貴方を大切にする父上、母上に向ける忠誠アピールに過ぎない事を忘れないように。 自分の立場をわきまえず、尊大になってはいけませんよ」

「は、はい……」

「では、明日から業務に戻る事が出来ますよね?」

「お待ちください殿下!! レーネ様は幼い頃から身体が弱く、今この瞬間、熱が下がっていたとしても、何時熱がぶり返すか分からないのですよ。 食事も満足に取れずフラフラな状態なのは」

「……貴方は、誰にそのような口を聞いているのか、理解出来ているのですか?」

「……ぁ、」

「マルクル兄様、申し訳ございません。 私が不甲斐ないばかりに!!」

「えぇ、その通りです。 貴方が具合が悪いとアピールするから、この者は余計な言葉を発して私の怒りをかうことになるのですから」

「ごめんなさい、マルクル兄様。 許してください!! 彼女は、私のためを思って」

「えぇ、貴方の体調を案じる。 その気持ちは良く分かりますよ? 私だって貴方の事が心配なのです」

 汗に濡れた私の頬や髪に、マルクル兄様は手を伸ばしてきました。 私は枕でソレをガードし……そして、また謝るのです。

「あの、汗をかいていて汚いから……」

「そう、そうですか。 わかりました。 私は貴方を理解し貴方に理解を示しましょう。 ですから、貴方も同じようにしてください。 私だってこのような厳しい事を貴方に言いたい訳ではないのですよ。 私だって貴方をただ無責任に甘やかす事ができればどれほど楽でしょう。 ですが、それでは貴方のためにはなりません。 わかりますね。 子供のように甘え、我儘を通す事が周囲に与える影響を、貴方が自分を王族の一員だと言うなら甘え、驕ることなくその役割を遂行しなければいけません」

「は、はい」

 マルクル兄様は汗に濡れ、数日、お風呂にも入っていない私に顔を寄せ、汗にジットリとした髪に触れかきあげ、耳元に囁きます。

「人の心には裏と表があります。 どれほど優しくされても、甘い言葉をかけられても、贈り物をされても……貴方のような人間は、未熟で迷惑な子供だとしか思われていないのです。 貴方の本当の味方は、厳しい真実を貴方に伝える私だけなのですよ」

「では……アレをここに」

 そして……テーブルの上にあった珍しい食べ物や飲み物は撤収され、大量の仕事が山積みにされるのでした。



 マルクル兄様は正しい……。



 だけど、私は……床にバラバラにされ散らばるヌイグルミを見てとても悲しかったのです。
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